世に万葉の花が咲くなり

赤城ロカ

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第6章

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 翌朝、頭が痛くて目が覚めた。そしてものすごく気持ちが悪い。起き上がろうとすると胃液がこみ上げてきて俺はうっと呻いた。やばいと俺はなんとか起き上がり便所まで行き便器に顔を突っ込んでゲロを吐いた。
 ひとしきりゲロを吐くといくぶん楽になった。歯磨きをして顔を洗った。それでようやく落ち着いた。
 昨日の晩どうやって帰ってきたのかは覚えていなかった。しかしあの老人――目羅博士――と話したことは覚えている。
「『絶望の果てに見えるものを掴め』」
 目羅博士の言葉をつぶやいてみた。俺には意味がわからなかった。
 そういえばと俺は時計を見た。正午過ぎだった。午後から講義がありいまから行けば少し遅れるくらいの時間だったが俺は休むことにした。
 ギターを手にとった。さてなにをやろうか。いろいろと曲を思い巡らせたが、いまひとつピンとくるものはなかった。仕方なく俺は適当に、気の向くままに弦を爪弾いた。
 静かな、粛々としたメロディだった。それは弾いている俺自身としても意外だった。でもそれも面白い。思い切ってちょっと違うコードを弾いてみる。これはあまりうまくない。最初のコードに戻って、そこから思うままに続けていく……。
 歌詞を乗せたくなった。パッとなにかしら思いつけばいいのだが、そうはいかない。いい感じのメロディライン。目を閉じて再びギターに集中する。
「絶望の果てに――」思わずそう口ずさんでいた。「――見えるものを掴め」
 アルペジオからバッキングに切り替えた。
 
 愛する者が――死んだ時には――
 ――自殺しなきゃあ――なりません
 愛する――者が――死んだ時には
 それより他に――方法は――ない

 そこまで歌うと俺は手を止めた。
 楽しい。いいじゃないか。とてもいいじゃないか。
 今度はさっきとは違うコードで弾いてみた。さっきよりも技巧的に運指をした。これもこれで我ながらいい感じだった。いつの間にか俺は笑っていた。
 いい。とてもいい。手を止めるとギターのネックを撫でた。無性に愛おしかった。
 携帯に着信が入った。ハルからだった。
「どこにいんの?」
「家だけど」
「自主休講か」
 電話越しでハルが笑うのが聞こえた。
「……ってことは暇なんだな」
「まあね」
「なんか合コンに誘われてさ、男一人足りないんだよ。来ないか?」
 合コンか。あまりそういう気分ではなかったが、行くとハルに伝えた。時間と集合場所を指定されて、電話は切れた。
 時計を見るとまだ時間があった。俺はまたギターを手に取り、思うままに弾き始めた。
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