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第6章 大魔導士ウィスターナ

6-10 事の顛末

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 いやー、本当にびっくりしたよね。
 マルクがあの知の大魔導士と言われたカイハーンの生まれ変わりだったなんて!

 私、ずっと彼の名前をマーク・カイハーンだと覚えていたのよ。
 ところが、同じ綴りでマルク・カイハーンと読むと知ったときの衝撃は、私の乏しい語彙力では表現できないわ。

 前世の記憶をいつ取り戻したのって聞いたら、前世の私と出会う前だって言うのよ。
 あの初対面で威圧をかけたときから、中身はあのカイハーンだったの?
 相手はまだ幼い子どもだと思って、すっぽんぽんで鱗を取りに行ったときも?
 パンツを買いに行かせたときも?
 それに気づいたときのショックと言ったら!
 憧れの大魔導士に私ったらなんてことを!

「痴女ですいませんでした!」

 気づいたら頭を下げて必死に謝っていたわよ。そうしたら彼ったら、すごく残念そうな顔をしてこう言ったの。「違う、そうではありません」って。

 謝罪が足りないのかと思って、今度は床の絨毯の上に額をこすりつけるような勢いで頭を下げたら、なぜか彼は崩れ落ちるし、しまいにはさめざめと泣かれてしまった。

 どうしたらいいのか分からなくて、彼の体にしがみつきながら必死に謝るしかなかった。

 まぁでも、彼は私の愚行について全然気にしてないみたいで良かった。
 そもそも恨んでいたら、偽装とはいえ結婚を申し込まないよね。
 私ったら、うっかりだったわ。

 もう早く教えてくれれば良かったのに。
 どうりでカイハーンの理論について本人みたいな回答が返ってくるはずよね。
 言われてすぐに納得してしまったわ。
 そう彼に伝えたら、また心が無のような顔をされたけど。



 数日後、厄災の犠牲者となった魔導士たちの国葬が行われた。
 私はそこで大魔導士として参列することになった。
 ラクシル王子から紹介されて、再び国の救世主となった。

 魔導学校は、みんなで校外学習に行ったあとに辞めた。
 友人たちは私の事情を理解してくれて同情的だった。
 でも、クラスでドジっ子として認定されていたから半信半疑の子もいたけど、魔物のせいで荒れた土地を私の魔導で元どおりに戻したら、やっと大魔導士だと分かってくれたみたい。

 マルクの屋敷で居候していたカーズ先生は、「やっと大魔導士様の身の安全が確保できたな」と嬉しそうに笑い、自分の家に戻っていった。
 彼にも養子の件で随分お世話になったのでお礼を言うと、照れくさそうだった。

 ラクシル王子の国王即位の儀のときに私とマルクの婚約も発表されて、集まっていた民衆から大きな歓声が上がった。

 私が大魔導士として披露されたあと、どうやらマルクの手記の内容が普段本を読まない民衆にも「引き裂かれた運命の恋人たちが、生まれ変わってやっと結ばれた物語」として噂話で面白おかしく広まっていたみたい。
 みんなに大々的に祝福されるようになっていた。

 元々私とマルクの結婚を了承していた両親ももちろんお祝いしてくれた。
 まさか自分たちの娘が有名人の生まれ変わりだったなんてびっくりしていたけどね。
 それでも実の娘として変わらず大事にしてくれるから、すごくありがたい。

 即位儀式で恒例になっているお祝いの花輪を花好きのマルクに贈ったら、涙ぐみながら喜んでくれたから、下手くそだけど作った甲斐があったわ。

 マルクの手記は結局読んでいなかった。
 彼の気持ちを勝手に覗き込むような真似みたいで、なんとなく気が進まなかったから。
 私について書かれていると知っているなら、なおのこと。
 今、目の前にいるマルクと向き合う方が大事かなって思ったし。

 あの男は、隠居後に体調を崩したみたいで、もう表舞台には出なくなった。
 マルクの話によると、愛妾と庶子が結構いるので、規則に従い国費ではなく彼の私財から彼女たちに財産を分配されることになり、人数が多すぎて本人にはほとんど残らないようだ。
 前王妃には愛想を尽かされて頼れないし、無計画すぎて痛い目をみたみたい。

 金目当てで彼に近づいた愛妾たちは、次のパトロンを探すために、さっさと見切りをつけて彼の元を去っていったらしかった。
 結果、財産がないあの男の元に誰も残らず、寂しい余生を過ごす羽目になったようだ。

 一方で、彼によって無理やり愛妾にさせられた人は、ようやく自由を得ることができ、特にあの男のお気に入りだったヘイゼルっていう女性は、すぐに引き裂かれた恋人の元へ戻ったらしい。

 陛下のせいで可哀想だと思っていたら、「腕の立つ魔導士ほど、相手にとって都合のよい幻を見せられるんです」とマルクが急に意味深なことを言ってきた。

「王宮の広間でミーナが威圧をかけたときに私以外に立っていた人がいたでしょう? あの人が前陛下の庶子で、彼女の子どもだったんですよ」

 言われて、あのとき見かけた黒髪の若い男性を思い出した。

「偶然、彼女の恋人も彼女と同じ黒髪黒目。彼も優秀な魔導士だったらしいですよ。二人に子がいれば、さぞかし優秀でしょうね」

 身代わりを用立て、幻視系の魔導で見かけを誤魔化せば、あの男を騙すことは不可能ではない。
 でも、それは王宮内に協力者が必要だ。

 何が事実なのか彼女本人しか分からないけど、自分の予想が当たっていたらと祈らずにいられなかった。




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