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第1章 魔導学校入学
1-8 非常事態
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途中、校長は他の先生に通信の魔導を使って的確に指示を出していた。
学校は初等部から高等部まであるので、何棟も敷地内にある。校長室がある事務棟から離れた場所にある高等部で火事は起きていた。
現場近くの建物の側では、学校に残っていた生徒が野次馬で集まっていた。他の先生たちもいる。不快な燃焼の臭いが辺りに漂っている。
「建物内には生徒は残っていませんか!?」
「います! 先生助けて! 火が回って逃げられなかった人がいるんです!」
校長の問いに生徒が泣きそうな顔で叫んできた。
見上げる現場はひどい有様だ。建物は四階建てだが、その三階部分で火が物凄い勢いで広まっている。何か誤って火がついたというレベルではなかった。
集まった先生たちが外から水の魔導を使って必死に消火に当たっているが、焼け石に水といった感じだ。
「くそっ、火の勢いが酷すぎる! これじゃあ、助けにも行けない!」
「一体、何が起きたんだ!?」
他の先生たちが困惑気味に叫んでいる。
「では、私が中に助けに行きます」
校長が迷いなく決断して動き出したので、私はびっくりして彼の腕を掴んで制止した。
「火の回りが速すぎるわ。暴れ火龍系の魔導をうっかり使ってしまった生徒でもいたんじゃない? それなら普通の消火では対応できないわよ」
マナを自動的に消費して火炎が動き続ける厄介な攻撃系の魔導である。水をかけても無駄である。
校長は話を聞いて顔色を変えた。
「まさか、生徒がそんな高度な魔導を!?」
「素人ほど意外な魔導を展開してしまうことがあるでしょ。あなたも転移の魔導に失敗して壁に体がめり込んだことがあったじゃない」
私がそう言うと、彼は驚いたように目を見張ったが、反論はしてこなかった。
むしろ恥ずかしかったのか目を逸らして顔を赤らめていた。
「そのあなたの説が正しいなら、マナを除去した方が早いですね」
「そうよ。今の消火が効かないなら、結界で範囲を狭めて、マナを集めるの。火龍に使われる前に」
魔導はマナがなければ使えない。
「わかりました。では、先生方に手伝ってもらいましょう」
校長の指示により、水を使って消火していた先生たちは各々の魔力でマナを操って除去作業に取り掛かる。
すると、目に見えて火の勢いが減少した。
「建物内に残っている火は、普通に消火できるはずよ。校長先生、行きましょう」
私が校長についていこうとすると、「君は残っていなさい」と他の先生が制止してきた。
「いや、彼女はいいんだ。私についてきなさい」
校長が躊躇なく私の手をつかみ、ぐいぐいと力強く引率していく。
先生たちも焦げ臭い建物内に入り、生徒たちを探し始める。
残った火を消しつつ、生徒を見つけ次第、選別を行い、治療の優先度を決めていく。
この場にあるマナは限られている。だから、残念ながら使える量にも限界がある。
煙を吸って倒れた人がほとんどなので、有害な煙を吸って意識がない容体が重い生徒から順に魔導で新鮮な空気を体内に素早く送り込み、同時に毒を除去していく。
先生たちも手分けして迅速に救助していくので、状況は次第に良くなって行く。
ところが血相を変えた先生の一人が駆け込んできた。
「来てください! 重傷者がいました!」
「行きますよ」
校長の掛け声と共に彼に手を握られる。
強引に一緒に連れられて向かった先には体の大部分が焼けてしまった男子生徒がいた。
顔すら判別がつかない。まだ辛うじて生きているが、すでに虫の息だ。
「これはひどい。早く治療しないと」
顔色を変えた先生たちが慌てて治療を開始するが、みんなの顔色が突然変わった。
「マナが足りない……!」
悔しげな声が響き渡った。
空間に占めるマナの量には限りがある。
火炎系の魔導で消費し、さらに消火や救助でこの建物内で使いすぎていた。
時間の経過と共にマナは回復するが、それまで生徒が保つとは思えなかった。
生徒を連れて移動しても、手遅れになる恐れがあった。
でも、私なら彼を助けられる。
私はマナ認知範囲が人よりも遥かに多いから、普通の人よりも多くのマナを扱える。それが大魔導士と立派な称号で呼ばれるようになった所以だ。
大魔導士だとばれるとか、そんなこと迷っている暇はなかった。
人の命がかかっているんだから。
私は慌ててマナを集めて、隣にいた校長にこっそり渡す。
彼は一瞬だけ「え?」みたいな驚きの顔をしたけど、すぐに私の事情を察してくれたのか何食わぬ顔でマナを私から受け取ると、さっそく生徒の治療を開始してくれた。
「おお! さすが校長先生!」
校長がマナを集めて助けたと、周囲がうまく誤解してくれたようだ。
隠れて胸をなでおろす。
咄嗟の苦し紛れの機転だったけど、校長も協力してくれたおかげで、なんとか私が目立たずに済んだわ。
重症だった生徒もかなり皮膚が治ってきている。
良かった。無事に危機を脱したみたいだわ。
それから建物内の確認が全て終わり、生徒全員の救出と手当てが完了した。
幸いなことに死亡者はいなかった。
救急隊が到着したあとは、負傷者を担架に乗せて運んでいく。
何人かの先生が付き添いでついていく。
マナを散々扱って魔力も消費したのだろう。残った先生たちの疲労の色は濃かった。
「今日はご協力感謝いたします。ご両親も心配するでしょうし、あなたはもう帰りなさい」
校長も疲れた顔で私に帰宅を促してきた。
「えっ、でもまだ話は終わってないわよ」
彼の口止めがまだ途中だった。
でも、校長はなぜか優しげに私に向かって微笑んだ。
今までの冷たい態度が嘘のように。
もしかして救助を手伝ったから、彼の中で私の株が上がったのかしら。
「大丈夫です。あなたにとって悪いようにしませんから。また後日に会いましょう」
「そ、そう? それなら分かったわ。絶対に約束は守ってもらうわよ。よろしくね」
学校は初等部から高等部まであるので、何棟も敷地内にある。校長室がある事務棟から離れた場所にある高等部で火事は起きていた。
現場近くの建物の側では、学校に残っていた生徒が野次馬で集まっていた。他の先生たちもいる。不快な燃焼の臭いが辺りに漂っている。
「建物内には生徒は残っていませんか!?」
「います! 先生助けて! 火が回って逃げられなかった人がいるんです!」
校長の問いに生徒が泣きそうな顔で叫んできた。
見上げる現場はひどい有様だ。建物は四階建てだが、その三階部分で火が物凄い勢いで広まっている。何か誤って火がついたというレベルではなかった。
集まった先生たちが外から水の魔導を使って必死に消火に当たっているが、焼け石に水といった感じだ。
「くそっ、火の勢いが酷すぎる! これじゃあ、助けにも行けない!」
「一体、何が起きたんだ!?」
他の先生たちが困惑気味に叫んでいる。
「では、私が中に助けに行きます」
校長が迷いなく決断して動き出したので、私はびっくりして彼の腕を掴んで制止した。
「火の回りが速すぎるわ。暴れ火龍系の魔導をうっかり使ってしまった生徒でもいたんじゃない? それなら普通の消火では対応できないわよ」
マナを自動的に消費して火炎が動き続ける厄介な攻撃系の魔導である。水をかけても無駄である。
校長は話を聞いて顔色を変えた。
「まさか、生徒がそんな高度な魔導を!?」
「素人ほど意外な魔導を展開してしまうことがあるでしょ。あなたも転移の魔導に失敗して壁に体がめり込んだことがあったじゃない」
私がそう言うと、彼は驚いたように目を見張ったが、反論はしてこなかった。
むしろ恥ずかしかったのか目を逸らして顔を赤らめていた。
「そのあなたの説が正しいなら、マナを除去した方が早いですね」
「そうよ。今の消火が効かないなら、結界で範囲を狭めて、マナを集めるの。火龍に使われる前に」
魔導はマナがなければ使えない。
「わかりました。では、先生方に手伝ってもらいましょう」
校長の指示により、水を使って消火していた先生たちは各々の魔力でマナを操って除去作業に取り掛かる。
すると、目に見えて火の勢いが減少した。
「建物内に残っている火は、普通に消火できるはずよ。校長先生、行きましょう」
私が校長についていこうとすると、「君は残っていなさい」と他の先生が制止してきた。
「いや、彼女はいいんだ。私についてきなさい」
校長が躊躇なく私の手をつかみ、ぐいぐいと力強く引率していく。
先生たちも焦げ臭い建物内に入り、生徒たちを探し始める。
残った火を消しつつ、生徒を見つけ次第、選別を行い、治療の優先度を決めていく。
この場にあるマナは限られている。だから、残念ながら使える量にも限界がある。
煙を吸って倒れた人がほとんどなので、有害な煙を吸って意識がない容体が重い生徒から順に魔導で新鮮な空気を体内に素早く送り込み、同時に毒を除去していく。
先生たちも手分けして迅速に救助していくので、状況は次第に良くなって行く。
ところが血相を変えた先生の一人が駆け込んできた。
「来てください! 重傷者がいました!」
「行きますよ」
校長の掛け声と共に彼に手を握られる。
強引に一緒に連れられて向かった先には体の大部分が焼けてしまった男子生徒がいた。
顔すら判別がつかない。まだ辛うじて生きているが、すでに虫の息だ。
「これはひどい。早く治療しないと」
顔色を変えた先生たちが慌てて治療を開始するが、みんなの顔色が突然変わった。
「マナが足りない……!」
悔しげな声が響き渡った。
空間に占めるマナの量には限りがある。
火炎系の魔導で消費し、さらに消火や救助でこの建物内で使いすぎていた。
時間の経過と共にマナは回復するが、それまで生徒が保つとは思えなかった。
生徒を連れて移動しても、手遅れになる恐れがあった。
でも、私なら彼を助けられる。
私はマナ認知範囲が人よりも遥かに多いから、普通の人よりも多くのマナを扱える。それが大魔導士と立派な称号で呼ばれるようになった所以だ。
大魔導士だとばれるとか、そんなこと迷っている暇はなかった。
人の命がかかっているんだから。
私は慌ててマナを集めて、隣にいた校長にこっそり渡す。
彼は一瞬だけ「え?」みたいな驚きの顔をしたけど、すぐに私の事情を察してくれたのか何食わぬ顔でマナを私から受け取ると、さっそく生徒の治療を開始してくれた。
「おお! さすが校長先生!」
校長がマナを集めて助けたと、周囲がうまく誤解してくれたようだ。
隠れて胸をなでおろす。
咄嗟の苦し紛れの機転だったけど、校長も協力してくれたおかげで、なんとか私が目立たずに済んだわ。
重症だった生徒もかなり皮膚が治ってきている。
良かった。無事に危機を脱したみたいだわ。
それから建物内の確認が全て終わり、生徒全員の救出と手当てが完了した。
幸いなことに死亡者はいなかった。
救急隊が到着したあとは、負傷者を担架に乗せて運んでいく。
何人かの先生が付き添いでついていく。
マナを散々扱って魔力も消費したのだろう。残った先生たちの疲労の色は濃かった。
「今日はご協力感謝いたします。ご両親も心配するでしょうし、あなたはもう帰りなさい」
校長も疲れた顔で私に帰宅を促してきた。
「えっ、でもまだ話は終わってないわよ」
彼の口止めがまだ途中だった。
でも、校長はなぜか優しげに私に向かって微笑んだ。
今までの冷たい態度が嘘のように。
もしかして救助を手伝ったから、彼の中で私の株が上がったのかしら。
「大丈夫です。あなたにとって悪いようにしませんから。また後日に会いましょう」
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