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第1章 魔導学校入学
1-3 校長の正体
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「稀にいるんです。強い魂を持つ者が、記憶をそのままに生まれ変わることが」
「そうなんですか。それなら驚かないで聞いてくれると思うんですが、私は前世で魔導士だったんです。あっ、もちろん無名だったんですけどね。アハハー」
誤魔化して笑みを浮かべると、校長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
何かまた私は失言をしたらしい。
なんかさっきより彼の威圧が増した気がする。猛吹雪が肌に突き刺さるような感覚に襲われている。
「君は私の話をきちんと聞いていましたか? 生まれ変わる条件は、強い魂を持つ者だと言ったでしょう。転生した時点で、無名なんてありえません」
「あう」
血の気がどんどん引いていく。
「前世の名前を教えてくれませんか?」
ここまでバレたら正直に白状するしかなかった。
「あのっ、みんなに黙っていてくれますか? その、知られたら困るんです」
「ええ、個人的な情報は本人に許可なく大っぴらにはしません。安心なさい」
校長はにっこりと愛想よく笑みを浮かべる。それまでの態度が嘘のように。
一瞬で威圧が消えたわ。
本当は前世の名前なんて言いたくない。
でも、生まれ変わりだってバレているから、もう誤魔化すのは無理そうだ。
そもそも、私には弟子マルクを探すという目的がある。
協力者は必要だろう。
校長を味方に引き込めたほうがいいかもしれない。
そう思って正直に伝えることにした。
「——前世のときの名前は、ウィスターナ・オボゲデスといいます」
私が恐る恐る告げると、殺意が目の前の男から速攻で飛んできた。ひぃ!
「はっ、冗談はいい加減にしなさい」
どうやら信じてくれなかったようだ。
すぐに冷笑されてしまった。
「よりによって大魔導士を騙るとは笑わせますね。知ってますか? 私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
前の二十四人のせいで、私まで疑われてしまったじゃない!
しかも偽物が多すぎよ!
「で、でも、私は本物ですよ!」
「はっ、この世界の中で大魔導士の称号を得たのは今までで三人ですが、その中でも彼女だけですよ、世界を厄災から救うことができた人は。そんな彼女を騙るくらいなら、最低でも試験で満点くらい取りなさい」
ゴミ虫を見るような目を彼は向けてくる。
地面に転がっていたら、躊躇いもせず踏み潰されそうな雰囲気だった。
「そ、それは……!」
ただ単に目立ちたくなかったから得点を操作しただけなのに……!
「それに君は師匠と中身が全然違います。師匠と見た目はよく似て可愛らしいですが、弟子である私の目を誤魔化せませんよ。師匠の魔導に対する知識欲は誰よりも貪欲でした。他に類を見ないくらいに。寝食すら忘れるから、弟子の私は放って置けなかったんですよ。それなのにこんなテストで間違えるはずはないでしょう!」
「え? 弟子?」
校長の発言に驚いて思わず彼を凝視する。
この人が私が探していた弟子本人だったの!?
全然気づかなかったので、記憶の中の弟子をよくよく思い出してみることにした。
可愛い顔だったのはよく覚えていたけど、他の特徴はなんだったかしら?
脳裏に浮かんだのは、珍しい銀糸のような美しい髪。そして、青空を彷彿とさせる鮮やかな碧眼。
弟子からカラスと称された黒髪黒目の私と違って綺麗な色だった。
目の前の校長の髪と瞳の色を見れば、たしかに記憶の中の弟子と同じだ。
印象は全然違うけど。
改名したのか教えてもらった名前が違ったし、まさかいきなり会うとは思わなかった。
そもそも、美少女と見まがうばかりの美少年が、こんな美青年になっているなんて全然思いもよらないでしょ?
三十年も経っていれば成長しているって理解はしていたけど、男の子の成長というか変化は予想がつかないよね。
なんとなく目元に名残があるといえば、そうなんだけど。
それにしても校長だなんて、すごいじゃない。
そっか。私がいなくなったあと、彼はしっかりと魔導士になっていたんだね。
本当によかった。私みたいに性格がひねくれちゃって、万が一でも道を踏み外していたらどうしようって心配していたから。
いきなり師匠だった私が死んで大変だったと思うけど、彼は頑張ったんだね。
非常に名誉ある役職を任せられていて、本当によかった。
こんなに立派になって。
安堵のあまり、目頭が熱くなる。うるうるして溢れそうになり、ゴシゴシと袖で目元を拭う。
「あの、」
改めて弟子に視線を向けたら、マルクじゃなくてサクスヘル校長は、眉間に皺を寄せたまま私の顔をじっと注視していた。
その不機嫌そうな態度を見て、私は本来の目的を思い出した。
あっ、そうだ。彼に会ったら謝りたかったんだ。
すぐには信じてもらえないかもしれないけど、伝えたいことは言わないとね。
「ごめんなさい! 私、その」
「もう結構です」
校長は私に向かって拒絶するように手の平を向けてくる。
彼の吐き捨てるような冷たい声が胸に刺さって次の言葉を失った。
「今回の謝罪は受け取りましょう。ですが、これ以上の弁明は大変不快です。師匠の名を騙るなど、腐った性根は初等部の一年生からやり直して矯正なさい。話は以上です。出て行きなさい」
校長が言い終わった直後、いきなり背後にある扉が勝手に開き、私の体が見えない力で部屋の外に吹っ飛んだ。
丁寧に廊下に着地して怪我はなかったものの、彼の魔導で無理やり追い出されたようだ。
目の前で扉が自動的に閉まった。
あの私の謝罪は、どうやら詐称行為に対するものだと誤解されたみたいね。
考えてみれば、あの謝罪はかなりタイミングが悪かったわ。
それにしても、こんな風に彼から感情的な対応をされるなんて思いもしなかった。
私が知る弟子のマルクは、常に丁寧な言葉遣いで、冷静な態度を崩さなかったのに。
よほど過去二十四人のなんちゃって大魔導士から不快な思いをさせられたみたいね。
はぁ、こんな面倒くさい状況になるなんて思いもしなかったけど、ちゃんと謝りたいから頑張らないとね。
ため息をつくと、気を取り直して何事もなかったかのように家族が待つ自宅へ帰っていった。
「そうなんですか。それなら驚かないで聞いてくれると思うんですが、私は前世で魔導士だったんです。あっ、もちろん無名だったんですけどね。アハハー」
誤魔化して笑みを浮かべると、校長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
何かまた私は失言をしたらしい。
なんかさっきより彼の威圧が増した気がする。猛吹雪が肌に突き刺さるような感覚に襲われている。
「君は私の話をきちんと聞いていましたか? 生まれ変わる条件は、強い魂を持つ者だと言ったでしょう。転生した時点で、無名なんてありえません」
「あう」
血の気がどんどん引いていく。
「前世の名前を教えてくれませんか?」
ここまでバレたら正直に白状するしかなかった。
「あのっ、みんなに黙っていてくれますか? その、知られたら困るんです」
「ええ、個人的な情報は本人に許可なく大っぴらにはしません。安心なさい」
校長はにっこりと愛想よく笑みを浮かべる。それまでの態度が嘘のように。
一瞬で威圧が消えたわ。
本当は前世の名前なんて言いたくない。
でも、生まれ変わりだってバレているから、もう誤魔化すのは無理そうだ。
そもそも、私には弟子マルクを探すという目的がある。
協力者は必要だろう。
校長を味方に引き込めたほうがいいかもしれない。
そう思って正直に伝えることにした。
「——前世のときの名前は、ウィスターナ・オボゲデスといいます」
私が恐る恐る告げると、殺意が目の前の男から速攻で飛んできた。ひぃ!
「はっ、冗談はいい加減にしなさい」
どうやら信じてくれなかったようだ。
すぐに冷笑されてしまった。
「よりによって大魔導士を騙るとは笑わせますね。知ってますか? 私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
前の二十四人のせいで、私まで疑われてしまったじゃない!
しかも偽物が多すぎよ!
「で、でも、私は本物ですよ!」
「はっ、この世界の中で大魔導士の称号を得たのは今までで三人ですが、その中でも彼女だけですよ、世界を厄災から救うことができた人は。そんな彼女を騙るくらいなら、最低でも試験で満点くらい取りなさい」
ゴミ虫を見るような目を彼は向けてくる。
地面に転がっていたら、躊躇いもせず踏み潰されそうな雰囲気だった。
「そ、それは……!」
ただ単に目立ちたくなかったから得点を操作しただけなのに……!
「それに君は師匠と中身が全然違います。師匠と見た目はよく似て可愛らしいですが、弟子である私の目を誤魔化せませんよ。師匠の魔導に対する知識欲は誰よりも貪欲でした。他に類を見ないくらいに。寝食すら忘れるから、弟子の私は放って置けなかったんですよ。それなのにこんなテストで間違えるはずはないでしょう!」
「え? 弟子?」
校長の発言に驚いて思わず彼を凝視する。
この人が私が探していた弟子本人だったの!?
全然気づかなかったので、記憶の中の弟子をよくよく思い出してみることにした。
可愛い顔だったのはよく覚えていたけど、他の特徴はなんだったかしら?
脳裏に浮かんだのは、珍しい銀糸のような美しい髪。そして、青空を彷彿とさせる鮮やかな碧眼。
弟子からカラスと称された黒髪黒目の私と違って綺麗な色だった。
目の前の校長の髪と瞳の色を見れば、たしかに記憶の中の弟子と同じだ。
印象は全然違うけど。
改名したのか教えてもらった名前が違ったし、まさかいきなり会うとは思わなかった。
そもそも、美少女と見まがうばかりの美少年が、こんな美青年になっているなんて全然思いもよらないでしょ?
三十年も経っていれば成長しているって理解はしていたけど、男の子の成長というか変化は予想がつかないよね。
なんとなく目元に名残があるといえば、そうなんだけど。
それにしても校長だなんて、すごいじゃない。
そっか。私がいなくなったあと、彼はしっかりと魔導士になっていたんだね。
本当によかった。私みたいに性格がひねくれちゃって、万が一でも道を踏み外していたらどうしようって心配していたから。
いきなり師匠だった私が死んで大変だったと思うけど、彼は頑張ったんだね。
非常に名誉ある役職を任せられていて、本当によかった。
こんなに立派になって。
安堵のあまり、目頭が熱くなる。うるうるして溢れそうになり、ゴシゴシと袖で目元を拭う。
「あの、」
改めて弟子に視線を向けたら、マルクじゃなくてサクスヘル校長は、眉間に皺を寄せたまま私の顔をじっと注視していた。
その不機嫌そうな態度を見て、私は本来の目的を思い出した。
あっ、そうだ。彼に会ったら謝りたかったんだ。
すぐには信じてもらえないかもしれないけど、伝えたいことは言わないとね。
「ごめんなさい! 私、その」
「もう結構です」
校長は私に向かって拒絶するように手の平を向けてくる。
彼の吐き捨てるような冷たい声が胸に刺さって次の言葉を失った。
「今回の謝罪は受け取りましょう。ですが、これ以上の弁明は大変不快です。師匠の名を騙るなど、腐った性根は初等部の一年生からやり直して矯正なさい。話は以上です。出て行きなさい」
校長が言い終わった直後、いきなり背後にある扉が勝手に開き、私の体が見えない力で部屋の外に吹っ飛んだ。
丁寧に廊下に着地して怪我はなかったものの、彼の魔導で無理やり追い出されたようだ。
目の前で扉が自動的に閉まった。
あの私の謝罪は、どうやら詐称行為に対するものだと誤解されたみたいね。
考えてみれば、あの謝罪はかなりタイミングが悪かったわ。
それにしても、こんな風に彼から感情的な対応をされるなんて思いもしなかった。
私が知る弟子のマルクは、常に丁寧な言葉遣いで、冷静な態度を崩さなかったのに。
よほど過去二十四人のなんちゃって大魔導士から不快な思いをさせられたみたいね。
はぁ、こんな面倒くさい状況になるなんて思いもしなかったけど、ちゃんと謝りたいから頑張らないとね。
ため息をつくと、気を取り直して何事もなかったかのように家族が待つ自宅へ帰っていった。
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