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第1章 魔導学校入学

1-2 入学試験

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 少年だったマルクはすっかり大人になっているだろう。
 たぶん彼も魔導士になっただろうし、同じ職種なら、会える確率が高い。関係者からも情報を得られやすい。

 そんなことを考えながら魔導学校の試験会場で時間になるまで待っていたら、入学試験には私しかいなかった。
 どうしてなのか試験官に尋ねたら、中途の入学だからと説明があった。

 まずは筆記試験がいくつかあり、そのあとは実技と面接だった。

 合格基準は分からないけど、筆記は八割くらい解ければ問題ないよね?
 本当は全問分かったけど、そんな感じで目立たず合格することを狙った。

 実技は魔導を使って的に攻撃する単純なものだったけど、初心者っぽく控えめに振る舞ったつもりだ。

 過去みたいに何も考えずに魔導を極めて有名人になりたいわけではなかった。

 今の私の目的はあくまで弟子探しだから。
 初等部を卒業して試験に受かれば下級魔導士になれる。
 一番下の資格だけど、これがあれば魔導士として就職できる。
 適当に第二の人生を大人しく楽に過ごそうと思っていた。それなら両親も安心だよね。

 魔導士は上の資格になるほど国の脅威とみなされて誓約が課せられる。
 前世のときは知識と引き換えに条件を呑んだけど、そのせいで国の命令に逆らえなくなった。
 その結果、ろくでもない命令を下されて、あまりの腹立たしさに正気を保てなくて、やけ酒をあおって泥酔したら、うっかり転倒して頭を打ち付けて死んじゃったのよね。

 もうこりごりだから、前世のように二度と目立ちたくなかった。

 そのはずだったのに、なんか雲行きが怪しくなりはじめていた。

「私の名は、ヘブンス・サクスヘル。この学校の校長です。率直に尋ねましょう。君は何者ですか?」

 無事に入学の許可証が実家に届き、私の家族だけではなく近所の人からも歓声が沸いたあと、許可証を持ってきた人から改めて話があると言われたんだよね。

 指定された日に学校にのほほんと行って校長室に案内されて、応接セットに座ってお茶を振る舞われ、無防備だった私にいきなり校長から鋭い目つきで尋問された気持ちを二百字以内で答えてみなさいよ。

 入試を受けたばかりなせいか、こんな突っ込みを自分に入れたくなるくらい動揺してしまった。

「ミ、ミーナですよ。十六歳のただの女の子ですヨ?」

 最後に声が裏返ったのは、仕方がないよね。

 だって、相手が怖い顔をしているんだもの。
 作り物めいた美貌の青年が、冷え切った青い目で私をじっと見据えているから。
 魔導で周囲に結界を張って私を完全に隔離し、威圧まで放っている。
 たぶん、私が泣き叫んで助けを求めても外には聞こえない徹底ぶり。
 一体、何するつもりよ。

 庶民の私でも分かるような明らかに質の良さそうなスーツで身を包み、長い銀髪を一つに束ねて肩から垂らす様子はとてもセクシーだけど、こんな状態で真正面から凄まれてみなさいよ。

 超ビビるって。
 私が普通の人だったら絶対泣いているわよ。

 彼の見た目は二十代前半くらいに見えて若いけど、魔導士は魔力で自然界に存在するマナを認知して扱えるから、優れている人ほど体の老化が一般人よりもすごく遅い。
 だから、見た目で魔導士としての熟練度は全然測れない。そもそも校長の肩書があるくらいだから、逆らったらヤバいのは明白だ。

 ほんと十六歳の女の子に対する態度とは思えないわ。

 いくらなんでも大人気ないんじゃない。これが学校のトップなら、学校の先生もさぞかし厳しいんじゃないのかしら。
 私、この先やっていけるのか不安になった。

「では、ただのミーナさん」

 向かいにいた校長は鼻で笑い、さらに目元の険しさを増やして私を睨むように見つめた。

「魔導の家系でもない庶民の女の子があの試験でいきなり八割もとりません。あれには高等部の卒業試験にも相当する問題も含まれていたんですよ。中途入学だから、君の成績でどの学年に入学させるのか検討するものですから」
「あう」

 どうやら私は入学試験の内容を完全に勘違いしていたようだ。そういう試験なら、高得点を決してとってはいけない系だった。

「それに実技も、初等部入学程度ならマナを魔力で操れれば上出来な試験だったのに、熟練者のような素早い動きで魔導を展開し、立ち会った担当者ですら君の魔導を目視できなかったと言ってましたよ」
「あう」

 実技っていうから、魔導を実際に使うのかなって勘違いしていた。
 会場に的まであるから、あれを狙って撃てって普通思うじゃない?
 終わったあとに微妙な空気が漂っていた気がしたけど、気のせいじゃなかったんだ……。

 しかも慣れって怖いよねー。抑え気味に魔導を放ったけど、速度までは考慮してなかったわ。自然界に存在するマナを自分の魔力で操って魔導を展開するんだけど、慣れている人ほど速いんだよね。
 うっかりしていたわ。

「しかも最近商人ギルドの方から学校に問い合わせがあったんですよ。魔導士と思わしき少女に街の外で魔物から助けてもらったがお礼をする前に少女は名乗らず消えてしまったと。その子はフードをかぶっていて顔は分からなかったそうですが、何か心当たりがあるんじゃないですか?」

「いえ、全然! 私以外の誰かですよ! ドラゴンなんて倒せるわけないじゃないですか」

 心当たりがありすぎて、話を聞いていて全身冷や汗だらけだった。
 魔導を使うのは久しぶりだから、練習がてら街の外に行ったのよね。
 そのときに手強そうな魔物に襲われていた一行を目撃したんだけど、見捨てるわけにもいかず助けて速攻で消えたことがあった。
 まさか礼を言うために相手がわざわざ私を探すとは思わなかった。

 私の言葉を聞くや否や、彼はニヤリと腹黒っぽくほくそ笑んだ。

「そうそう、魔物は亜種とはいえ小型のドラゴンだったそうです。私は魔物としか言っていませんでしたけど、よくご存じでしたね」

 ヤバイ。語るに落ちたとはこのことだ。うっかりしていたわ。

「入学前で、それを一撃で倒せる人はいません。もしかして、君は生まれ変わりですか?」
「え?」

 まさか言い当てられるとは思わず、目が点になって目の前にいる校長を見返した。

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