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23、恐ろしい腕輪の魔法具

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 男たちの動きが止まり、一同は一斉に入り口側を見つめる。
 外から差し込む光を背景に一人の男が入ってきた。影になって顔まで見えない。

「おい、誰だ! 勝手に入るな!」
「誰か助けて!」

 男たちの仲間ではないみたいなので、ウィンリーナが侵入者に向かって咄嗟に叫んだ。すると、一瞬で男たちの体が壁に向かって吹き飛んだ。

 いや、一人だけ踏みとどまった者がいる。フードをかぶった男だ。彼の周囲に魔法で結界が作られている。無詠唱で魔法を使ったので、かなり腕利きの使い手だ。

「くそっ! 他言したらメイドを殺すといっただろう!」

 フードの男が恨めしそうに怒鳴る。
 侵入者が魔法で次々と攻撃するが、フードの男だけではなく、周囲にも攻撃していた。そのせいで、爆煙が激しく上がり、店の中はあっという間にボロボロだ。壁に大きな穴が開いている。
 フードの男は倒されたのだろうか。部屋中に充満する煙のせいで良く見えない。望遠魔法を使おうにも、まだ腕輪があるせいで魔法が使えなかった。

「リナ嬢、大丈夫か?」

 ウィンリーナに誰かが心配そうに声を掛けてくる。部屋の中が白い煙で充満して姿は見えないが、聞き覚えのある声でそれが誰なのか、すぐに正体が分かった。

「フィル様ですか……?」

 彼が助けてくれたと気づいて、泣きそうなほど嬉しかった。逃げるようにフィルトの前から消えたのに、こうして心配して追ってくれたのだ。

 ウィンリーナは気合を入れて上半身をなんとか必死に起こして、声がしたほうを振り向いた。

「リナ嬢、無事か? すまない、遅くなって」
「いいえ、大丈夫です。フィル様、ありがとうございます」

 近づく足音が聞こえる。壁の空いた穴から強い風が吹き込んだとき、一気に煙が流れて消えて視界が急に開けた。

「フィル様……?」

 ウィンリーナは思わず息をのんだ。彼も同じように驚愕の顔でこちらを食い入るように見ている。

 彼の髪が、黒かった。
 そして、ウィンリーナの髪も、カツラがとれて黒かった。

「あの、フィル様、これは一体、どういうことなのでしょうか!?」

 頭が真っ白になって、ウィンリーナは何も考えられなくなった。
 一方で、フィルトは瞬時に膝をつくと、ウィンリーナの体をぎゅっと抱き寄せてきた。彼の深い安堵の呼吸を体で感じたとき、もう危険はないんだと、安心のあまりに泣きそうになった。
 ところが、彼はすぐに体を引き離すと、真剣な顔で食い入るように見つめてきた。

「すまない、詳しい話はあとだ。今は逃がした犯人を追跡したい。だから、リナ嬢の望遠魔法で是非犯人を追ってほしい」

 彼の懇願を聞いて、すぐに状況を理解した。
 フードの男が逃げたのだ。捕まっているメルシルンのことも思い出し、すぐに緊張感が戻ってきた。

「それなら腕輪を取ってもらえますか? これのせいで魔法が上手く使えないんです」
「そうか」

 フィルトの魔法のおかげか、腕輪は急に緩まり、鈍い音を立てて床に落下した。それをフィルトは素早く拾い上げる。
 ウィンリーナは腕輪がなくなり、体の調子はすっかり良くなった。慌てて立ち上がったあと、フィルトに手を引かれて建物から大急ぎで移動する。ところが、外に出た途端、彼にいきなり抱き上げられた。

「きゃ!」
「すまない。きっとこの方が速いから」

 ウィンリーナの脇と膝の下に手を入れられて持ち上げられている。重くないのだろうか。
 フィルトの顔を見上げていると、彼のそばに魔力持ちの男が数人集まる。彼の仲間だろうか。

 妃候補が三人も一斉に辞退したのだ。何かしら事件性を疑って素早く行動してくれたのかもしれない。

「殿下、こっちです!」
「わかった」

 フィルトは示された方角に向かって走り出す。すごい速さだが、しっかりと彼が抱きしめているので、落下しそうな不安定さはない。

(今、殿下って呼ばれなかった?)

「リナ嬢は、フードをかぶった男を探して下さい」
「は、はい!」

 余計な思考を中断して目を瞑り、すぐに魔法に集中する。この望遠魔法は、目を開けては脳内に情報が多すぎて使いづらい。

 フィルトが進む先を狙って徐々に見える範囲を広げていく。すると、先ほど見かけたフードの男をすぐに捕捉した。周囲ののんびりした様子と比べて、男の様子は明らかにおかしいからだ。死に物狂いで、荒く呼吸をしながら、どこかに走り続けている。

「いました。どこかに走っています」
「目印を言って欲しい」

 見える情報をフィルトに伝えると、彼はさらに加速する。飛ぶような勢いで、明らかに人が走る速度ではない気がする。振動が凄まじく、速すぎて怖いので、ひたすら目と口を閉じていた。

 その間にフードの男は、大きな屋敷の前にたどり着いていた。門の鐘を鳴らし、急いで家人を呼び出している。

「男がどこかの屋敷に入るようです」
「ああ」

 同時にフィルトがピタリと立ち止まる。何があったのかとウィンリーナが目を開くと、眺めの良い高層の建物の上にいて、目の前の豪邸を見下ろしていた。
 ちょうどフードの男を望遠の魔法で追っていたときに見た建物と同じだ。家人によって門が開けられて、フードの男が慌てて敷地の中に入っていく。

「あの男を捕まえてないと! メルシルンがまだ人質として捕まっているんです!」
「そうか。なら、あの建物の中に人質がいるか調べてくれ」
「はい!」

 ウィンリーナは急いで望遠魔法を展開する。早く彼女を見つけないと、フードの男に殺されてしまうかもしれない。

「いました! 地下にいます!」
「じゃあ、行くぞ。突撃する」
「はい!」

 ウィンリーナは気合を入れて返事をする。

「お前たちは、フードの男を確保しろ」
「え?」

 振り向けば、フィルトの後ろに男たちがいた。いつの間にいたのか。ウィンリーナは全然気づいていなかった。

「じゃあ、行くよ」

 信じられないことにフィルトがウィンリーナを抱えたまま高い位置から飛び降りて地面に落下していく。
 もう本当に死ぬかと思った。
 怖すぎて思わずフィルトにぎゅっとしがみつく。彼が変な声を漏らして顔を真っ赤にさせていたが、ウィンリーナは必死過ぎて全く気づかなかった。
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