姉に弱味を握られて隣国への密偵(スパイ)を押し付けられましたけど、全然向いてないので気に入られました。

藤谷 要

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20、フィルトの反省

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 その後、予定どおりフィリアンクは会議に義務として参加していた。
 王子らしく身なりを整えて、高官たちと顔を並べている。長いテーブルに高官たちと向かい合うように着席している。研究に没頭したいところだが、王子として国の内情を知らないのは問題なので、陛下に参加を命じられ、いつも嫌々出席している。

 議長の司会により、議題が提示され、議論が交わされる。結論が出る場合もあれば、調査が必要となり、次の会議に話題が持ち越される場合もある。

 興味がない話題が多いので、フィリアンクはいつも黙って聞いているだけだ。話しかけられたこともない。

「次は軍事問題です。終戦後も警戒のために北東部国境付近に常駐していた第三部隊ですが、状況が安定してきたと報告があるため、現地から撤退は可能だと報告が上がっています」

 軍司令官より報告がなされ、最終確認が行われている。

「だが、軍が駐在しているからこそ威圧となり、抑えられているのではないか?」
「そうだ。まだ撤退は早いのではないか?」
「ですが、徴兵により、農地を離れた者が多くおります。働き手が減っているので、考慮しなくてはなりません」

 次々と他の高官から懸念事項が出てくるが、最善な解決案が出てこないので、話は決まる気配はない。

 早く終わって欲しい。軍隊が撤退しようが、滞在しようが、特にフィリアンクは関係ない。戦争になったら再び駆り出されるだけだ。そう思っていた。
 最後の選考会がもうすぐあるから、その前にリナ嬢にまた会えたらと願っていた。
 慰めるためとはいえ、彼女を抱きしめたとき、良い匂いと感触がして、手を離すのが名残惜しかった。
 いつもなら魔法具で魔力を測定してデータをとることを最優先するのに。
 それよりも彼女との会話が楽しいと思ってしまった。デートを優先したのも、お礼の約束をなによりも果たしたかったから。
 研究のデータとして記録が残せる絶好の機会を逃してまで。
 今まで研究をなによりも優先してきたフィリアンクにとって、ありえない行動の選択だった。

「陛下、このまま現状維持で、軍隊を駐在させますか?」

 最終確認でフィリアンクはふと思い出した。ちょうど選考会でリナ嬢が同じ話題を出していたことを。

 彼女は撤退させた方がいいと言っていた。聞いたとき、なるほどと感心した記憶がある。せっかくなので、試しに彼女の意見を試してみることにした。

「他国も我が国と同じように農業に専念したいと考えるはずです。もし、他国が軍隊を維持するなら、不足分の食料をどこからか調達する必要があります。輸入や輸送などのやりとりがなければ警戒する必要はないのでは?」

 フィリアンクがほんの好奇心から発言すると、一同が一斉に彼のほうを振り向いた。

「今、フィリアンク殿下が発言されたのですか?」

 高官の一人が、珍しいものを見るような目をしながら尋ねてくる。

「そうですが、何か?」
「いえ、殿下は撤退したほうが良いとお考えだったんですね」
「ええ、監視は必要ですが」
「なるほど。他国の注目すべき点が明瞭なら、縮小の選択肢も可能になります。どうなさいますか陛下」

 意見が出そろったあとは、女王陛下の決定を待つばかりだ。
 上座にいる陛下は、ゆっくりと口を開いた。

「軍は一部を残し、縮小しましょう」

 会議が終わり、陛下が退室する際にフィリアンクに声を掛ける。

「フィル、今日は珍しいわね。あなたが発言するなんて。いつもつまらなそうに座っているだけなのに」

 母である陛下が面白そうに笑っている。

「いえ、たまたま妃候補の一人が、そう申していただけです。一理あったので、参考までに話してみました」
「まぁ、なかなか見込みのある子が選考会で残っているみたいね。建国祭までには決まりそうなの?」
「ええ、その予定で選考会を進めております」

 フィリアンクがそう答えると、陛下は満足そうにうなずき、去っていった。それを見送りながら、今さらになって発言の重大さに気づく。

 リナ嬢の意見があっさりと通ってしまった。高官たちだけではなく、陛下までも一瞬で納得させるだけの提案だったということだ。

 もしかして、小麦の価格下落についても、彼女の意見を伝えれば良かっただろうか。

 どうしてリナ嬢のような聡明な女性をアグニス国は手放したのか、フィリアンクは本当に理解できなかった。

 こうしてウィンリーナの知らないところで、彼女が考えた悪女的な謀略が、実際にはスーリア国内の問題解決に貢献し、勝手に彼女の評価が上がる結果となっていた。
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