姉に弱味を握られて隣国への密偵(スパイ)を押し付けられましたけど、全然向いてないので気に入られました。

藤谷 要

文字の大きさ
上 下
32 / 53
17、ルヒンキー侯爵家令嬢の抗議

しおりを挟む
 ウィンリーナはパンッと自分の頬を気合を入れるために叩いた。
 今日はいよいよ二回目の選考会だ。
 とうとう人数は五人にまで減っている。選考を通過するためには、さらに難度が上がるだろう。
 一体どんな問題が待っているのか不安だったが、何も対策はできないので、良く食べて良く寝て健康的に過ごした。
 つまり、何もしていない。
 唯一、殿下の論文を読了したくらいだ。
 髪の色が同じ場合、瞳の色が上位色のほうが魔力が強いと書かれていた。
 すると、黒髪碧眼の殿下や金髪碧眼の姉より、黒髪黒目のウィンリーナのほうが魔力が強いことになる。

(でも、そんなこと、すぐに信じられないわ――)

 アグニス国であれほど最上色を崇められていたのは、魔力が強いからである。それゆえに強い結界を自分の領地に張れるので、魔物の脅威は著しく低くなる。それほど貴重な存在なのだ。

 フィルトが魔法具で魔力を測定してくれると言っていたので、きっとそれで確認できるはずである。

「さぁ、リナ様。ついに時間になりましたよ。行きましょうか」
「分かったわ」

 アニスが声を掛けてくれたので、ウィンリーナは椅子から立ち上がり、部屋を出た。

 前回と同じ選考会場に案内されて向かうと、なにやら入り口で騒がしかった。
 金髪の女性が殿下の部下たちに食って掛かっていた。
 以前、ルヒンキー侯爵家と名乗って落選を抗議していた令嬢だ。

(ルヒンキー侯爵家? もしかして、メルシルンが言っていた例の家と同じかしら?)

 メルシルンの姉は、侯爵令嬢に呼ばれて仕事で屋敷に出向き、そこで襲われたのだ。凶悪な行為に手を貸したのは、この令嬢なのだろうか。そう考えただけで背筋が思わず寒くなった。

 入り口に侯爵令嬢が侍女を引き連れて立ち塞がっているので、ウィンリーナは中に入れず廊下で立ち往生だ。つい盗み聞きする気はなくとも、彼女たちの会話が聞こえてくる。

「前回の選考会の結果には納得できません。別の審査で再選考してください」

 令嬢が堂々と要求を口にしている。それを殿下の側近ゼロンが真正面から対応していた。彼の背後にはフィルトもいた。ウィンリーナに気づいたらしく、目線をこちらに向けて一瞬笑顔を浮かべる。

「結果に変更はございません。お帰りいただけますか」
「あなた、なんの権利があって、わたくしの言葉を軽んじるの!」

 ゼロンが全く動じないので、ついに令嬢が切れた。

「私は殿下に今回の選考会の全ての権限を委任されております。つまり、今回の選考会での私の決定は殿下のご意志と同じです。また、殿下も選考の決定に変更はないとおっしゃられておりました。ご理解いただけましたか?」
「殿下ご本人を出してもらえないと、納得できませんわ!」

 話が通じなくてゼロンは困ったのか眉をひそめた。すると、隣にいたフィルトが一歩前に出た。

「お帰りください。衛兵を呼びますよ」
「無礼な! ルヒンキー侯爵家の娘であるわたくしを軽んじるなんて、あとで後悔しても知らないわよ!」

 令嬢はフィルトにも威嚇するように責め立てる。

「殿下の決定をこれ以上無視されるなら、無礼ととりますがよろしいのですね?」

 フィルトにとどめの台詞を吐かれたあと、侯爵令嬢は何も言い返せなくなったようだ。彼女が悔しそうな顔をして側近たちから顔を背けたとき、運悪くウィンリーナは彼女と目が合ってしまった。頭のてっぺんからつま先まで見定めるようにウィンリーナは瞬時に観察された。
 それから射殺すような勢いで睨まれる。

「こんな下級貴族風情が残って、わたくしが帰されるなんて、許されないわ。黒色がまだ不吉と考える人もいる中では、わたしくの実家の援助が必要なのではないかしら?」

 ウィンリーナの身なりから、だいたいの階級が推測できたみたいだ。

「五年前、デビュタントのときに殿下に対して魔力が合わないとおっしゃられて断られたのは、あなたでしょう。私も殿下とご一緒していたので、よく覚えておりますよ」

 ゼロンの言葉に侯爵令嬢は血相を変えて慌て出した。

「あれは、あのとき殿下の黒い髪が、魔力が強い証拠だと知らなかったからですわ。それにわたくしの家では、現在そんな魔力の相性など関係がなくなる魔法具を開発しておりますのよ。けれども、このような心ない対応をされては、王家とのお付き合いについてお父様に考え直していただいた方がいいですわね」

 侯爵令嬢はついに脅しを口にしていた。

「それは、あなたの一存で、王家との取引を止めると?」

 フィルトが不快そうに眉をひそめる。すると、侯爵令嬢は少し怯んだような様子を見せた。もしかして親の威光を利用しただけなのかもしれない。

「お、お父様も同じようにお考えですわ。よくお考えになってくださいませ」

 そう侯爵令嬢は吐き捨てると、フィルトたちから離れていく。
 ウィンリーナの横を通り過ぎるとき、なぜか彼女は立ち止まり、こちらを鋭い眼差しで見つめる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...