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7、王都スマルトリコ
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フィルトの怪訝な顔を見て、ウィンリーナは少し焦ってしまう。
魔法具を知っていたのは盗賊の仲間だったからと誤解されたら大変だ。
「えーと、魔法で見たんですよ。望遠魔法とわたくしは勝手に名前をつけたんですが」
フィルトの疑問にウィンリーナが正直に答えると、彼は目を丸くした。
「そんなことができるんですか?」
「はい。それを使って馬車の中でも周囲の様子が見えたんです。でも、望遠と名前をつけましたが、物理的に距離がかなりあるものは、今は無理です」
「じゃあ、私たちが戦っていた様子をその魔法で把握していたんですね? 結界の魔法も望遠魔法を使いながら行ったんですか? もしかして無詠唱で?」
「はい、そうです」
「二つ同時に魔法を……。それはすごいですね」
深い感嘆の声がフィルトから漏れる。予想外な反応だったので、ウィンリーナは少し戸惑う。
「そうなんでゴザイマスカ?」
「はい。無詠唱は熟練度が上がれば魔力量に関係なく習得できますが、元々の魔力量が少ないと必然的に練習量が少なくなるので、習得が難しくなります。しかも強力な魔法ほど魔力を多く消費するので、たくさん数をこなせません。そのため、強力な魔法を無詠唱で複数同時に使える人は、あなた以外には、その、もう一人だけしか私は知りません」
最後の台詞は、何か奥歯に物が挟まったような言い方だった。
「そんなに少ないんですね。わたくし以外では誰でゴザイマスカ?」
フィルトはまっすぐこちらに向けていた碧眼を急に逸らした。
「……殿下です」
「フィリアンク殿下でゴザイマスカ?」
フィルトは視線を外したままうなずく。
二つ同時に魔法を使えるのは珍しいようだ。ウィンリーナは自分が意外な特技を持っていたと気づけた。
不吉な禍つ色なので、せめて知識で国にお役に立てればと勉強に励んだら、姉の反感を買ってしまったことがあり、それから目立たないように行動していた。魔法も比較されるのが嫌で、いつもコソコソ隠れて使用していた。
最上色の金髪碧眼ではないから、自分の魔法なんて大したことないと思っていた。
でも、そうではなかったらしい。
『黒色は不吉ではなくて、魔力が強いからなの』
養母の言葉が脳裏で響く。
「もしかして、わたくしの魔力は強いんでゴザイマスカ?」
「そうですよ。もしかして、自覚されていなかったんですか?」
意外そうに青い綺麗な目を向けられる。
「はい。金髪碧眼が最上色だと聞いていたので」
彼の視線に少し落ち着かない気分で答える。
「では、今度魔力の量を検査してみませんか?」
「検査なんて、できるんでゴザイマスカ?」
「ええ、魔法具で可能になりました。王都にあるんです」
「それは面白そうですね。わたくしの故郷では魔法具はなかったので、興味があります」
「では是非」
「はい」
楽しみなので、王都に着くのが待ち遠しくなる。
「それにしても望遠魔法、気になりますね。どういう仕組みなんですか?」
フィルトはぐっと顔を近づけ、目を輝かせながら興味深々な様子で尋ねてくる。
落胆ではなく、期待されている。そう思うと、今まで感じたことがない気分の高揚と緊張を覚える。
「仕組みと言われると説明が難しいですね。壁の向こうを見透すぞと強い意志で魔力を操っていたら、ある日できるようになったんです」
目の前にある箱の中身を当てることは以前からできていたが、遠くものを見るのは大変だった。
透視や分析の力がなかったら、食事に嫌がらせで入れられた異物や毒物に気づけないので生き残れなかった。
「なるほど。ずいぶん感覚的な魔力の使い方をされるんですね」
「セングレー卿は違うんでゴザイマスカ?」
「ええ、一つずつ段階を踏むように魔法を使います。例えば、火炎系の攻撃魔法ですが、火を起こし、次に圧縮します。それを風を使って標的に当て爆発させるという手順を行なっています」
手順を踏むのは、魔法書の手本どおりの方法だ。
呪文も知っているが、面倒くさいので教師の前以外では手抜きだった。
「わたくしには、それだと逆に難しく感じますね」
やりやすいように自己流でこっそり魔法を使っていたので、それは正式なやり方ではないと理解もしていた。もしかしてスーリアでも自分のは邪道なやり方だったのだろうか。そんな不安がよぎった。
「やり方は人それぞれなので、自分に合った方法が一番ですよ」
フィルトはそう言うと、にっこり微笑んだ。まるで安心させるように優しい笑みだった。彼の気遣いを感じて嬉しくなる。胸がじんわり温かくなった。
彼と話していると楽しい。純粋にそう思った。
そのとき、突然馬車全体が飛び跳ねたみたいに大きく揺れる。
「きゃあ!」
悲鳴をあげたアニスたちは、向かいで手を取り合ってしがみついている。
ウィンリーナは座席から体が浮きそうになったが、こんな不意の出来事は初めてで、魔法でどんな風に対処すればいいのか分からない。向いに倒れそうになって危ないと思ったときには、隣にいたフィルトに体を引っ張られる。ぎゅっと抱きしめられたと思ったら、彼の膝の上にお尻を乗せていた。
魔法具を知っていたのは盗賊の仲間だったからと誤解されたら大変だ。
「えーと、魔法で見たんですよ。望遠魔法とわたくしは勝手に名前をつけたんですが」
フィルトの疑問にウィンリーナが正直に答えると、彼は目を丸くした。
「そんなことができるんですか?」
「はい。それを使って馬車の中でも周囲の様子が見えたんです。でも、望遠と名前をつけましたが、物理的に距離がかなりあるものは、今は無理です」
「じゃあ、私たちが戦っていた様子をその魔法で把握していたんですね? 結界の魔法も望遠魔法を使いながら行ったんですか? もしかして無詠唱で?」
「はい、そうです」
「二つ同時に魔法を……。それはすごいですね」
深い感嘆の声がフィルトから漏れる。予想外な反応だったので、ウィンリーナは少し戸惑う。
「そうなんでゴザイマスカ?」
「はい。無詠唱は熟練度が上がれば魔力量に関係なく習得できますが、元々の魔力量が少ないと必然的に練習量が少なくなるので、習得が難しくなります。しかも強力な魔法ほど魔力を多く消費するので、たくさん数をこなせません。そのため、強力な魔法を無詠唱で複数同時に使える人は、あなた以外には、その、もう一人だけしか私は知りません」
最後の台詞は、何か奥歯に物が挟まったような言い方だった。
「そんなに少ないんですね。わたくし以外では誰でゴザイマスカ?」
フィルトはまっすぐこちらに向けていた碧眼を急に逸らした。
「……殿下です」
「フィリアンク殿下でゴザイマスカ?」
フィルトは視線を外したままうなずく。
二つ同時に魔法を使えるのは珍しいようだ。ウィンリーナは自分が意外な特技を持っていたと気づけた。
不吉な禍つ色なので、せめて知識で国にお役に立てればと勉強に励んだら、姉の反感を買ってしまったことがあり、それから目立たないように行動していた。魔法も比較されるのが嫌で、いつもコソコソ隠れて使用していた。
最上色の金髪碧眼ではないから、自分の魔法なんて大したことないと思っていた。
でも、そうではなかったらしい。
『黒色は不吉ではなくて、魔力が強いからなの』
養母の言葉が脳裏で響く。
「もしかして、わたくしの魔力は強いんでゴザイマスカ?」
「そうですよ。もしかして、自覚されていなかったんですか?」
意外そうに青い綺麗な目を向けられる。
「はい。金髪碧眼が最上色だと聞いていたので」
彼の視線に少し落ち着かない気分で答える。
「では、今度魔力の量を検査してみませんか?」
「検査なんて、できるんでゴザイマスカ?」
「ええ、魔法具で可能になりました。王都にあるんです」
「それは面白そうですね。わたくしの故郷では魔法具はなかったので、興味があります」
「では是非」
「はい」
楽しみなので、王都に着くのが待ち遠しくなる。
「それにしても望遠魔法、気になりますね。どういう仕組みなんですか?」
フィルトはぐっと顔を近づけ、目を輝かせながら興味深々な様子で尋ねてくる。
落胆ではなく、期待されている。そう思うと、今まで感じたことがない気分の高揚と緊張を覚える。
「仕組みと言われると説明が難しいですね。壁の向こうを見透すぞと強い意志で魔力を操っていたら、ある日できるようになったんです」
目の前にある箱の中身を当てることは以前からできていたが、遠くものを見るのは大変だった。
透視や分析の力がなかったら、食事に嫌がらせで入れられた異物や毒物に気づけないので生き残れなかった。
「なるほど。ずいぶん感覚的な魔力の使い方をされるんですね」
「セングレー卿は違うんでゴザイマスカ?」
「ええ、一つずつ段階を踏むように魔法を使います。例えば、火炎系の攻撃魔法ですが、火を起こし、次に圧縮します。それを風を使って標的に当て爆発させるという手順を行なっています」
手順を踏むのは、魔法書の手本どおりの方法だ。
呪文も知っているが、面倒くさいので教師の前以外では手抜きだった。
「わたくしには、それだと逆に難しく感じますね」
やりやすいように自己流でこっそり魔法を使っていたので、それは正式なやり方ではないと理解もしていた。もしかしてスーリアでも自分のは邪道なやり方だったのだろうか。そんな不安がよぎった。
「やり方は人それぞれなので、自分に合った方法が一番ですよ」
フィルトはそう言うと、にっこり微笑んだ。まるで安心させるように優しい笑みだった。彼の気遣いを感じて嬉しくなる。胸がじんわり温かくなった。
彼と話していると楽しい。純粋にそう思った。
そのとき、突然馬車全体が飛び跳ねたみたいに大きく揺れる。
「きゃあ!」
悲鳴をあげたアニスたちは、向かいで手を取り合ってしがみついている。
ウィンリーナは座席から体が浮きそうになったが、こんな不意の出来事は初めてで、魔法でどんな風に対処すればいいのか分からない。向いに倒れそうになって危ないと思ったときには、隣にいたフィルトに体を引っ張られる。ぎゅっと抱きしめられたと思ったら、彼の膝の上にお尻を乗せていた。
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