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第十一話

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 次の日の朝は気怠く、でもスッキリしていてムズムズするな。
「おっはよ!ルシエ!」
「おはよう、リミ。アイラも」
「おはよ」
 ちょっとアイラと顔を合わせずらいな。

「ルシエ」
「ん?なに?」
 アイラに呼ばれるのでついて行くと、
「私は次でいいから」
「ん?なにが?」
「私は汚れてる。だからリミの次でいい」
 あぁ、アイラは前のことを気にしているのか…
「汚れてない。汚れてなんかないよ」
 俺は思わず抱きしめていた。
「…う、うわぁぁぁぁ」
 アイラは我慢していたのだろう。
 自分が汚れてるだとかそう言うのを考えて。
 泣くアイラを強く抱きしめているとリミが笑顔で俺の方を見ていた。

 そうか、これでいいんだな。

「…ごめんなさい」
「いや、いいんだ。アイラの気持ちにも応えるから」
「…」
 顔を赤くしたアイラは頷くとリミの方へ走って行った。

 俺は二人の気持ちに応えていこう。

 一夫一妻なんて地球では当たり前だがここでは一夫多妻が珍しくない。
 男の数が少ないのも原因だろう。
 やはり冒険者や騎士になる男は多い。
 死ぬ確率も男の方が多いからな。
 と言い訳がましいがただ二人を幸せにしたいだけだ。

「よし!迷宮街に向かおう!」
「「おー」」
 馬車に乗り込みブラハムに頑張ってもらう。

 残暑がまだ続いてるが馬車で走っているので風が気持ち良い。

 途中で出てくるモンスターなんかはアイラが魔法で蹴散らしてくれるからな。

 昼前に出て走っていると大きな麦畑を道すがら見る。
「凄い大きな麦畑だな」
「もうすぐ村があるんじゃない?ここを管理してる」
「そうか、ならそこで今夜は休む事にしようか」
 と走ってると大きな村?が見えてくる。

「冒険者だが今夜の宿を取りたいのだが?」
 高い塀があり、門兵がいるので話しかける。
「おお、冒険者か、なら一つ頼まれてくれないか?」
「ん?どんな事だ?」
 リミが後ろから小声で喋りかける。
(どうせ害獣駆除の話よ!)
「お姉ちゃんの言うとおりだ!できれば引き受けてもらいたい!」
 聞こえていたようだな。

「で?どこにでるんだ?」
「村の中の柵を抜けたところだ、入ってくれ」
 と門を開けてくれる。
 中に入り村を見てみるとそれなりに人が多いのだが、これだけ人がいれば倒せるんじゃないのか?
「獲物はファングボアだ。柵を破って村の中の野菜を荒らして行ってしまう」
「対策は何かしないのか?」
「村の男達は麦畑の仕事ができなくなったら生きていけないからな!しかもファングボアに勝てるような強いものはいない」

 そうか、死活問題なんだなぁ。
「分かった、こちらで何とかしよう」
「悪いな!報酬はきちんと払う!」

 柵が壊れている場所に案内される。
 かなり派手に暴れているようだな。畑が一面ダメになっていた。
「ここも大事な畑だったが、これじゃ今年の野菜は厳しい。他の畑にも被害が出る前に何とかしたい」

 俺達は壊れた柵から外に出ると山につながる獣道を進んでいく。
「たのんだぞー!」
 後ろから門兵の声がする。

「はぁ、何でこんな事に」
「まぁ、いいじゃないか。流石に断れないだろ?」
「報酬もある」
「そうだな」
 森の中に入ると『気配探知』でファングボアの気配を探る。
 奥に進んでいくと気配を察知し、隠れる。

「この先にファングボアがいると思う、なるべく傷つけずに倒してみるよ」
「え?一人でやるの?」
「ファングボアなら俺だけで大丈夫だろう。危なくなったら助けを呼ぶよ」
「「わかった」」

 剣を抜き森の開けたところに出ると大型のファングボアが2頭に子供のファングボアが5頭もいた。
『ブモオォォォォ!』
 突進してくるファングボアを避けざまに脚を斬り倒す。
 2頭目を躱して後ろから脚を斬ると転倒する。
 あとは子供のファングボアだな。
 子供といってもそれなりの大きさだ。
 大型のファングボアはもう動けないので容易く子供のファングボアは倒す事に成功した。
 トドメを刺すつもりで親の方に向かうと、もうリミとアイラがトドメを刺していて解体をしていた。

「ルシエはさすがね!脚を狙うなんて考えてなかったわ!」
「うん!凄い」
「いや、脚を止めればいいだけだろ?」
「いや、どうしても牙の方に目が入って普通は正面で戦う事の方が多い、と言うかそれが普通よ?」
 それもどうかと思うがな。

 ファングボアは食用にもってこいだから収納してもと来た道を戻る。
 解体したのは親のファングボア一頭だけであとはそのまま収納に入っている。
「おぉ!帰ってきた!どうだった?」
「ファングボアは倒してきたが、どうする?買うのか?」
「買う!何頭いるんだ?」
「親が2頭に子が5頭だが」
「おぉ、そりゃ凄い!村長のところまで着いてきてくれ」
 村の一番大きな屋敷に入ると、爺さんが出てくる。

「して、ファングボアを討伐したと言うが見当たらぬのぅ」
「ここに出していいか?」
「ほ!収納持ちの冒険者かぃ、こっちの庭に出してくれるか?」
 ついて行くと広めの庭だがこれじゃ親を出したらびっくりするんじゃないか?

「親を1頭出すぞ?」
「あぁ、出してくれるか」
“ドサッ”と出すと、
「こ、こりゃまた大きなファングボアじゃのう!」
「凄いな!」
 と門兵まで驚いている。

「よし、とりあえず討伐金で金貨3枚でいいか?」
「ん?少し安いがいいだろう」
「それとこのファングボアを買い取りたいのじゃが」
 ここでリミが出てくる。
「ファングボアは毛皮も牙も使えて、捨てるところが内蔵くらいだから金貨5枚は欲しいわね?」
「もうちょっと負からんか?」
「そうね、親は1頭、金貨4枚でどう?」
 俺をみかねてリミが交渉している。
「買った!親を1頭と子供もおるんじゃろ?」
 
 結局子供もそれなりの大きさだから金貨2枚で買取という事になり親1頭と子供3頭を買い取った。
 臨時収入だな。
 俺もマーチャント商人のスキルツリーから『交渉術』を取っておけば良かったか?
 …いや、ここはリミに任せた方がいいだろう。
 下手な知識でスキルを使っても上手く行く気がしない。

 宿屋では早速情報が入っていたようで、女将に安く売ってくれないか頼まれた。
「私が話してくる」
 と言って奥にリミと女将が入って行く。

「解体した肉の三分の一を金貨1枚で買い取るそうよ」
 と言って勝利した顔で出てくるが、あいにく相場がわからないから何とも言い難い。
 まぁ、リミもアイラも満足そうだからうまく行ったのだろう。
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