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小さき呪い

第五十九話

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頭の中に不思議な声が響く。

『おいで   おいで     こちらへおいで』

上手く考えることが出来ない。

まるで霧の中にいるかのようだ。

霧の中で見えるのは1人の黒くずめの男が薔薇を差し出しながら私を導くかのように話しかけてくる。

あぁ、ここから出られるのかな?

ここから出て彼に会うことが出来るのかな?

この手を取って共に行けば彼を救える?

この歌に身を任せれば、、、、


「、、、、、、ズ! ローズっ!!!!!行くなっ!!!!」

でも、、、行かないと。もう自分のことしか考えられない娘でいるのは嫌っ!

「、、むっ!行かないでくれ!頼むっ!!!!!」

「?!」

気付けば涙が溢れていた。

背後から聞こえる愛しい人の声に胸が苦しくなる。

ゆっくりと振り返るとそこには横たわる自分の姿と自分を抱く愛しい彼の姿。

「、、、、リアム?それに、私?」

『やるべき事はある、しかし今ではないんだよローズ。お前は帰るべきところに帰りなさい。』

声のする方に視線を向けるとそこには白いマントを羽織った人がいた。顔はフードのせいで見えずただ優しい声がローズに語り掛けていた。

『さぁ、、、お前の行くべき道はあちらだよ。』

マントの人物は後ろの方を指し示す。

『耳をすましてごらん、お前を待つ者の声が聞こえるはずだ。』

そう言うと暖かい温もりに包まれ微睡んでいく。

「、、、、ない、、、すまない。」

うっすらと目を開けると苦しそうに自分の手を握るリアムの姿。

ひたすら「すまない」と言っているようで握られている手を握り返すとリアムも目を開ける。
その目からは涙がこぼれローズの頬に落ちる。

「り、、、あむ?泣いているのですか?」

「ローズっ、、、、」

力強く抱きしめるリアムに「苦しいです」
と訴えるが「もう少しだけ、、、」と言って暫くローズを離してやらなかった。


暫くするとシエルとテンプス領から急いで
帰ってきたノエルが部屋に飛び込んで来た。

「あなたたち、、、」

ノエルは泣き叫びながらローズに抱きつきシエルはその場で涙をグッと堪えようとそっぽを向きながら拳をにぎりしめる。

「な、みんな?」

「すまなかった。ローズ、、、」

「リアム?もう怒っていませんか?」

「あぁ、、、怒ってないとも。」

リアムはローズの温もりを確認しながら優しく強く抱きしめる。

「だが、、、、約束してくれ。もし、、また俺が我を失うようなことがあれば構わず逃げると。俺が何より辛いのはお前をこの手にかけること。獣の呪いよりも何よりも、お前を失うことが一番耐え難いんだ。」

「、、、分かりました。」






むかしむかし、ある村に狼の呪いを受けた男がいた。その呪いは小さいがとても強力で日に日に理性を保てる時間が短くなっていった。
ある日狼に変身し理性をなくした男は、自分の妻と子供を殺そうとした。
妻は子供を抱き抱えながら雪が降る森の中へと逃げていった。


『素敵なお話でしょ?呪いっていうのは相手を不幸にするための災厄さ。強力な呪いはすぐに相手を殺す力なんかじゃない。ジワジワと相手を苦しめる力を持つのが強い呪いってもんだ。呪いと世界の理というものは実に似ている。どちらも後世に多大な影響を及ぼすだろう?だからね、小さいからと言ってバカにしちゃあいけない。小さいからと侮っちゃあいけない。』





次回に続く!







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