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契約結婚

第五話

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契約結婚のつもりだった。

いや、今もそのつもりだ。

しかし、いつしか彼女を視界に入れないと落ち着かなくなっていた。

陽の光に照らされながら静かに本を読む姿は皇室にいるどの女性よりも知的で、美しかった。

図書室で彼女と話していると、まだ見ぬ世界をまるで見えているかのように遠くを見つめながら話す。
思わず彼女の話しを聴き入ってしまう。

日に日にローズの表情が増えていく。
最初こそ無表情だったが、街に連れていくと新しい発見の驚きと喜びに生き生きとして自分の隣にいる。

婚約式を控え、ヴェルグラ公爵とアグノエル子爵令嬢の婚約発表を舞踏会にて行うことになった。
5年ぶりの社交界にローズは不安を感じていた。

「不安か?」

図書室でいつものように本を読んでいた2人、リアムはローズに問いかける。

「え?」

「婚約発表だ、社交界に出るのは5年ぶりだろ?」

「えぇ、でもヴェルグラ様の婚約者としてしっかりしなければ。」

リアムはローズの背後に立つと優しく首飾りを着けた。

「これを着けて舞踏会に出ろ。」

ローズが首元を指で触ると首飾りにはルビーで作られた小さな赤い薔薇が付いていた。

「これ、」

「白い肌には赤がよく似合う。」

ローズは一瞬悲しそうにするとすぐ笑顔でリアムにお礼を言った。


しばらくしてリアムが帰り、見送りを済ませるとローズは自室とは別の部屋に足を運んだ。
そこは城の最上部に位置する部屋で、ローズの秘密がそこにはあった。

外に出っ張っているバルコニー、そこのテーブルにひとつガラスケースがあった。
その中にはほんのりと輝く赤い薔薇、その下には何枚か花びらが落ちている。
ローズは優しくガラスケースをなぞりながら悲しげな笑みを浮かべる。

「死ぬ前に外の世界を見たい、そんな理由でヴェルグラ様の申し出を受けてしまった。」

ローズは首元の首飾りを触れる。

「3年後の誕生日、私は死ぬ。それでも、それでも私を選んでくださったのかな。」

ローズはここ数日のことを思い出していた。
初めて出会った時は氷のように冷たい表情で話す時も淡々としていた声も、今では柔らかく、優しいものになっている。
週に何回かは街に連れ出してくれるし、今となってはほぼ毎日ローズの城を訪ね図書室で共に過ごしている。

契約結婚なはずなのに、、、

少なくとも2年間は穏やかに過ごせますように、、、



次回をお楽しみに!



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