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古本屋の日和雨
不思議な訪問者
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「俺の嫁に触るな。」
そういうと男はそれを握りつぶしてしまった。跡形もなく消えた霊とおもしきそれは千桜に傷をつけるほどの強い念があった。
その男を見上げたまま見つめていると男は不意に千桜に視線を向ける。
思わず見つめていると金色の髪を風に揺らせながら同じ金色の瞳は千桜を見つめる。
「あなたは、、、」
「俺以外の言葉に耳を傾けるな。」
かけられた言葉は頭の中までに染み渡っていく。低く心地よい声、、、どこかで聞いたことのあるような。
男の言葉に困惑していると男はその場から離れた。
「千桜どうしたの?」
不思議そうに顔を覗き込む茜に気が付く千桜。
「どうしたの?ぼーっとして。帰ろ?写真も撮れたし、、、ちょっと!その手首どうしたの?」
茜に手を掴まれると先程の霊に付けられた爪の後があり血が滲んでいた。
「ちょっと、引っ掻いちゃって。」
手を庇いながら男が去っていた方に目をやると、そこに姿はなかった。
「とりあえず早く帰ろう!ただでさえ君は体が弱いんだ!その傷を手当しないと!」
茜が声を張り上げながら千桜の背中を押し歩く。
「いや、そんな大した傷じゃないし。落ち着いてよ茜。」
「君の店に行けば薬草もあるしちゃんとした手当ができるよ!さぁ!早く!」
千桜の話しを聞こえていないのか聞いていないのか構わず背中を押し続ける茜。
古い通りをぬけ、住宅街を過ぎていき、しばらく歩いて行くと
少し先に大きな門が見えてきた。
ここが古本屋「日和雨」であり、千桜が住んでいるところでもある。
門をくぐり抜けると石畳の床が大きな円窓障子まで長く続いており千桜はポケットから古い鍵を取りだし障子を開ける。
中に入るとそこは石畳の床のままで広い空間の手前に文机がありその背後に大きな本棚に無数の本が並んでいる。少し離れたところに本棚と同じ大きさの薬棚があり茜は一番下の引き出しを引く。
「き、傷の薬草ってこれだよね!」
「落ち着いて茜、ありがとう心配してくれて。大丈夫だから、少し薬塗って包帯巻くよ。」
そう言うと千桜はテキパキと手当てをしていく。
素早く包帯を巻くと茜に「ほら」と腕を差し出して見せた。
「まったく、引っ掻いて血を出すとか体が弱いという自覚ないんじゃないか?君。」
「ハハっ大袈裟だよ~。さ、開店開店。表に火を入れるついでに送るから。」
「つ、ついでとは、、、明日は一限からだからあまり遅くまで店を開かないことだね!」
「わかったわかったほら早くしないとお客さん来ちゃうよ。」
千桜は私服の洋服から薄い青に桜の花びらが描かれている着物に着替えると茜を玄関まで送り、門の両側にある行灯に火を入れる。
これが「日和雨」の開店の合図である。
店の入口までの石畳の道にも火を入れた行灯を置く。
千桜は文机に正座で座ると帳簿を取りだし筆で書き始める。
客が来るまで事務作業をこの文机でこなす。
暫く作業をしていると円窓障子がスーッと開き誰かが入店をした。
「いらっしゃいま、、、せ。」
表を上げて客に目をやると千桜は動きを止める。
そこには綺麗な金髪の切れ長の目をした男性が立っていた。
千桜には彼が夕方ビルで幽霊から助けて貰った人であるとすぐに思い出す。
「あ、あの、、、」
男は店を見渡すと口の端を上げる。
「ここが噂の古本屋か。なるほど、悪しき妖や悪霊などから守るにはいい結界だ。」
髪の色とおなじ蜂蜜のように輝く瞳を千桜に向けるとゆっくりと近づいて頬に手を伸ばすが千桜は思わず避けてしまう。
「あ、あの!ビルで助けてくださった方ですよね?あの時はありがとうございます。」
丁寧に頭を下げると男は少し不満気に「フンっ」と鼻を鳴らす。
「あのような場所に近づくからだ。自分の体質をわかっているのか?」
(うっ、この感じ、、、さっき茜に叱られた時と同じだ、、、、)
「それに、助けてやったんだ。もう少し心を許しても良かろう?」
「へ?」と頭をあげると目の前に男の整った顔がありまたもや後退りをする。
「きゅ、急に近寄らないでください!」
男はさらに不機嫌になると文机を片手で退かし石畳と畳の境目の段に乗り上げ姿勢を崩した千桜をその場に押し倒す。
千桜はなにがなんだかわからないまま畳の匂いが鼻を掠めるのを感じている。
「近寄るなだと?夫に向かってその言葉はいささか過ぎているとは思わないか?」
「は?」
ニヤリと笑う男を押し返そうとしてもビクともしない。
「夫ってなんの事ですか!」
「そのままの意味だろう?雨原千桜、お前はこの俺 風間京の妻になるんだ。」
・・・・・・ 「お断りです」
「、、、、なんだと?」
千桜の言葉にみるみると機嫌が悪くなっていく京は千桜を凄むが千桜もそれに屈しない。
「お断りですと言ったんです!」
「ほぉ、恥ずかしいのか?」
「なぜそうなります?」
「違うのか?」
「違います。」
「では焦らしというやつか?」
「違いますってば!本心でお断りしているんです!どうせまたお爺様の勝手なお約束というやつなんでしょうがもぉ沢山です!」
京は怪訝な表情で「お前の祖父だと?」
「そうです!私の祖父、雨原宗一郎に言われて来たんじゃないんですか?」
京は途端に無表情になるとゆっくりと起き上がり少し思案している。
千桜も起き上がり京の様子を伺うと再び京は千桜に視線を送る。
「俺は誰かに指図されることを酷く嫌悪している。ましてや人間に言われてここに来ただと?」
京は千桜の耳元に顔を近付けると低い声で囁く。
「覚えておけ、俺の言葉は俺の意思から生まれたものであると。決して戯言ではないと。俺はお前を妻に迎える。これは戯言でも覆ることでもない。事実だ。」
そう言うと千桜から離れ店を出ながら
「また明日来る」
と言い残して去っていった。
【続く】
そういうと男はそれを握りつぶしてしまった。跡形もなく消えた霊とおもしきそれは千桜に傷をつけるほどの強い念があった。
その男を見上げたまま見つめていると男は不意に千桜に視線を向ける。
思わず見つめていると金色の髪を風に揺らせながら同じ金色の瞳は千桜を見つめる。
「あなたは、、、」
「俺以外の言葉に耳を傾けるな。」
かけられた言葉は頭の中までに染み渡っていく。低く心地よい声、、、どこかで聞いたことのあるような。
男の言葉に困惑していると男はその場から離れた。
「千桜どうしたの?」
不思議そうに顔を覗き込む茜に気が付く千桜。
「どうしたの?ぼーっとして。帰ろ?写真も撮れたし、、、ちょっと!その手首どうしたの?」
茜に手を掴まれると先程の霊に付けられた爪の後があり血が滲んでいた。
「ちょっと、引っ掻いちゃって。」
手を庇いながら男が去っていた方に目をやると、そこに姿はなかった。
「とりあえず早く帰ろう!ただでさえ君は体が弱いんだ!その傷を手当しないと!」
茜が声を張り上げながら千桜の背中を押し歩く。
「いや、そんな大した傷じゃないし。落ち着いてよ茜。」
「君の店に行けば薬草もあるしちゃんとした手当ができるよ!さぁ!早く!」
千桜の話しを聞こえていないのか聞いていないのか構わず背中を押し続ける茜。
古い通りをぬけ、住宅街を過ぎていき、しばらく歩いて行くと
少し先に大きな門が見えてきた。
ここが古本屋「日和雨」であり、千桜が住んでいるところでもある。
門をくぐり抜けると石畳の床が大きな円窓障子まで長く続いており千桜はポケットから古い鍵を取りだし障子を開ける。
中に入るとそこは石畳の床のままで広い空間の手前に文机がありその背後に大きな本棚に無数の本が並んでいる。少し離れたところに本棚と同じ大きさの薬棚があり茜は一番下の引き出しを引く。
「き、傷の薬草ってこれだよね!」
「落ち着いて茜、ありがとう心配してくれて。大丈夫だから、少し薬塗って包帯巻くよ。」
そう言うと千桜はテキパキと手当てをしていく。
素早く包帯を巻くと茜に「ほら」と腕を差し出して見せた。
「まったく、引っ掻いて血を出すとか体が弱いという自覚ないんじゃないか?君。」
「ハハっ大袈裟だよ~。さ、開店開店。表に火を入れるついでに送るから。」
「つ、ついでとは、、、明日は一限からだからあまり遅くまで店を開かないことだね!」
「わかったわかったほら早くしないとお客さん来ちゃうよ。」
千桜は私服の洋服から薄い青に桜の花びらが描かれている着物に着替えると茜を玄関まで送り、門の両側にある行灯に火を入れる。
これが「日和雨」の開店の合図である。
店の入口までの石畳の道にも火を入れた行灯を置く。
千桜は文机に正座で座ると帳簿を取りだし筆で書き始める。
客が来るまで事務作業をこの文机でこなす。
暫く作業をしていると円窓障子がスーッと開き誰かが入店をした。
「いらっしゃいま、、、せ。」
表を上げて客に目をやると千桜は動きを止める。
そこには綺麗な金髪の切れ長の目をした男性が立っていた。
千桜には彼が夕方ビルで幽霊から助けて貰った人であるとすぐに思い出す。
「あ、あの、、、」
男は店を見渡すと口の端を上げる。
「ここが噂の古本屋か。なるほど、悪しき妖や悪霊などから守るにはいい結界だ。」
髪の色とおなじ蜂蜜のように輝く瞳を千桜に向けるとゆっくりと近づいて頬に手を伸ばすが千桜は思わず避けてしまう。
「あ、あの!ビルで助けてくださった方ですよね?あの時はありがとうございます。」
丁寧に頭を下げると男は少し不満気に「フンっ」と鼻を鳴らす。
「あのような場所に近づくからだ。自分の体質をわかっているのか?」
(うっ、この感じ、、、さっき茜に叱られた時と同じだ、、、、)
「それに、助けてやったんだ。もう少し心を許しても良かろう?」
「へ?」と頭をあげると目の前に男の整った顔がありまたもや後退りをする。
「きゅ、急に近寄らないでください!」
男はさらに不機嫌になると文机を片手で退かし石畳と畳の境目の段に乗り上げ姿勢を崩した千桜をその場に押し倒す。
千桜はなにがなんだかわからないまま畳の匂いが鼻を掠めるのを感じている。
「近寄るなだと?夫に向かってその言葉はいささか過ぎているとは思わないか?」
「は?」
ニヤリと笑う男を押し返そうとしてもビクともしない。
「夫ってなんの事ですか!」
「そのままの意味だろう?雨原千桜、お前はこの俺 風間京の妻になるんだ。」
・・・・・・ 「お断りです」
「、、、、なんだと?」
千桜の言葉にみるみると機嫌が悪くなっていく京は千桜を凄むが千桜もそれに屈しない。
「お断りですと言ったんです!」
「ほぉ、恥ずかしいのか?」
「なぜそうなります?」
「違うのか?」
「違います。」
「では焦らしというやつか?」
「違いますってば!本心でお断りしているんです!どうせまたお爺様の勝手なお約束というやつなんでしょうがもぉ沢山です!」
京は怪訝な表情で「お前の祖父だと?」
「そうです!私の祖父、雨原宗一郎に言われて来たんじゃないんですか?」
京は途端に無表情になるとゆっくりと起き上がり少し思案している。
千桜も起き上がり京の様子を伺うと再び京は千桜に視線を送る。
「俺は誰かに指図されることを酷く嫌悪している。ましてや人間に言われてここに来ただと?」
京は千桜の耳元に顔を近付けると低い声で囁く。
「覚えておけ、俺の言葉は俺の意思から生まれたものであると。決して戯言ではないと。俺はお前を妻に迎える。これは戯言でも覆ることでもない。事実だ。」
そう言うと千桜から離れ店を出ながら
「また明日来る」
と言い残して去っていった。
【続く】
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