古本屋の日和雨

ナナスケ

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古本屋の日和雨

この世ならざるモノ

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小さいころよく変なものみてきた。

それは他の人には見えないようで、見える私はオカシイのだと小さいながらにも察した。

そしてこれを口にしてはいけないのだと。

俗に言うそれは「この世ならざるもの」で、人々は「幽霊」「お化け」「妖怪」と呼んでいる。

都会ではあまり「妖怪」は見ない。「幽霊」の方が断然多く、それに付け入れられると兎角面倒だ。
私が「見えてる」とわかった瞬間付いてきたり、イタズラされたりと大変だ。
だから見えない振りを私はする。

この力は昔からの家系だと母は言った。

そういう母も視える人・・・・ではあったが私のように妖怪までは見えなかった。

高校に上がる時、体の弱かった母は病気で亡くなった。
これも家系だそうだ。
祖父はそんな私を案じて古本屋を私に託した。
今は大学に通いながらそこで働いている。

そのため古本屋が営業しているのは夕方からだ。


それなりに、、、それなりに平和に暮らしてきたつもりだ。

が来るまでは。









【古本屋の日和雨】


「ね!また出たらしいよ、あの廃ビルに!」

彼女は大学1年生の19歳 山本茜。ショートの茶髪で机に手を付き乗り出しながら席に大人しく座っている腰までの黒髪を伸ばしている色白の女生徒に話しかける。

「また茜変な雑誌やらテレビやら観てたでしょう。居ないよそんなもの。」

「またとはなんだい!この世ならざるもの、普段目に見えない存在に夢を見て何が悪いんだい?オカルト部、部長として見過ごせないではないか!」

女生徒は茜の言葉を聞きながら本をペラペラとめくる。

「オカルト部はあらゆるスポットに足を運び噂の真相を確かめるのが活動内容だ。体の弱い千桜には少し過激だな!」

千桜と呼ばれた女生徒、彼女が古本屋、『日和雨』の店長であり桜花大学の生徒である 雨原千桜。
彼女の祖父から譲られた古本屋は、元々祖父母の家を祖父が古本屋として改築したものでとても大きい。
本屋というより日本家屋、屋敷にしか見えず、千桜はその古本屋に住んでいる。

その街では有名な古本屋でもあり千桜も美人店長として彼女目当てに訪れる客も少なくない。

「せっかくあのお爺様から譲られた古本屋で働いているというのに、、、オカルト部ピッタリなのになぁ。まぁ、君が情報屋で私が足となって現場に出向く!これもとても素敵なペアだとは思わんかね?」

茜は大袈裟な手振り身振りで千桜に語りかけるが、お構い無しに本を読む千桜。

「茜、そんなことよりその廃ビル。入っちゃいけないんじゃなかった?」

その言葉と共に茜の動きが止まる。

「あれ?」

「オカルト部、調べが足りないみたいだね。」

「ち~お~」

「いくらなんでもビルに侵入する方法がウチの本屋にあるわけないでしょう?今回は諦めることね。」

千桜はちらりと茜を見ると溜息をつきながら

「それに、あのビル崩れかかってて危ないって聞くよ?」

へこたれながら千桜の隣の席に座ろうとすると1人の男子生徒がそこに座る。

「あっ、、、」

「おはよう、雨原。」

「おはよう、、、神田君。」

黒髪の好青年、こちらも大学の女生徒から人気を誇る 神田玲。

「ちょっと神田くん?私から千桜取らないでくれる?」

茜はそう言いながら千桜の逆隣りに座る。

「ごめんよ山本、つい、、、ね?」

「神田くんいいの?周りの女子が騒いでるよ?」

「それが嫌だからここに来たんだよ。静かだしね?」

頬杖をつきながら千桜を見つめるが、千桜は「そっか」と再び本を読み始める。

「ガードが硬いなぁ」

神田がそう呟いたのを千桜は聞き取れずにいた。


放課後、

「ねぇ、どうにかして入れないかなぁ千桜~」

「まだ言ってるの?無理だよ。」

「じゃあ目の前!目の前通るだけでいいからさぁ!」

茜は両手を合わせながら千桜に頼み込む、そんな茜に再び溜息をつきながら千桜は了承した。

「通るだけね、見たらすぐ帰るよ?本屋も開かないといけないし。」

「やった!」

商店街を抜け、今はあまり使われていない古い通りにそのビルはあった。
もう何十年も前に廃ビルになってから今までそのまま放置されている。
市では倒壊の恐れがあるため近日中に取り壊しを行う予定らしい。

「おぉ、噂通り雰囲気はあるねぇ。」

「何感心してるの、ほら見たでしょ?もう行くよ。」

「まってまって!写真だけ!」

そう言って茜は持っていた一眼レフカメラでビルを撮り始める。
すると千桜は自分の後ろを何かが通った気がした。

「、、、、」

(振り向いては行けないものだ。)

『ねぇ、入る?入るの?入ろうよ、、、』

千桜の耳元で得体の知れない何かが囁く。

千桜は昔からこういうものを見てきてはいるが慣れている訳では無い。

恐ろしく、怖いのだ。

『ねぇねぇ、入ろうよ。楽しいよ?トモダチ喜ぶよ?』

顔のすぐ横でそれ・・はニチャアと音を立てながら笑う。

(ダメだ、反応してはダメっ!私は視えるだけで祓えるわけじゃない!)

「あ、茜。そろそろ行こう。」

茜に向けて手を伸ばそうとするとその手をそれ・・が掴む。

『ねぇねぇ、ねぇねぇねぇ、入らないの?入ろうよ。ボクと一緒にはいろうよ』

それ・・は千桜の手首を強く握り爪のようなものがくい込み血が滲む。

「つっ!」

『おいで、おいで、来て、来て、、来い、、、来い!』

強く腕を引かれた瞬間千桜の脳裏にある光景が浮かぶ。



霧深くに並ぶ千本鳥居。

私の腕を掴もうとする幾億の白い手は優しい声で語りかけてくる。

『おいで、、、おいで。こっちにおいで』

その声に導かれるように私の体は声の方へと動いていく。手を伸ばして身を任せようとすると真っ白で百合の花が描かれた綺麗な着物を着た人が私と声の間に入る。

その人が一声何かを言うと幾億の白い手はたちまち引っ込んでいく。
その人は振り返り、私を見て何かを言う。

いつの記憶なのか。私の記憶なのかも分からない。

ただ、私の手を引く手が酷く冷たかったのを今でも、、、それだけは覚えている。

今になって思い出すのは何故だろう。

あの人は誰なのだろう。



「俺の嫁に触れるな。」



ふと上から降ってくる男の声に見上げると驚くほど美しい男が険しい顔をして私の手を掴むそれ・・の腕を掴んでいた。

「消え失せろ。」





【続く】
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