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102 それから……
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「にいたま~~~~! とい、とばってくらたい!」
「ふふふふ、いいよ。青も緑も赤も全部の鳥を飛ばそうか」
「あい!」
返ってきた可愛い返事と同時に庭へと繋がる扉を開けると、フィンレーの小さいサロンを真似た家族皆のお気に入りの部屋の中にキラキラとした光が差し込んだ。
「部屋の中から見ているんだよ? 絶対に外に出ないでね」
「早く飛ばすから危ないからね。約束だよ、ステラ」
「あい!」
「じゃあ、僕は青と緑の鳥を」
「僕は赤い鳥と虹を出す」
そう言って顔を見合わせた二人は口にした通り、木と布で出来た鳥を青空に向かって飛ばし、細かな水が作る虹をくぐらせた。
◆◆◆
「アーニー、サイ、とても綺麗な魔法だったね」
拍手と一緒に声をかけると一斉に振り向いた顔が嬉しそうな笑みに変わった。
「母様!」
「お仕事は終わったのですか?」
「かあたま~~~!」
外から部屋の中に入ってこようとする二人にメイド達が慌ててタオルをかけて「失礼いたします」とクリーンをかける。その間に部屋の中にいた一番小さな子供がとてとてと走り寄ってきて、僕はその身体を抱き上げた。
「ステラ、いい子にしていたかな?」
「あい! つみきしたの」
積木はルシルが考案した子供のおもちゃの一つだ。そんなやり取りをしていると水巻き魔法で濡れた二人が近づいてきた。
「しっかり乾かしてもらった?」
「乾きました!」
「風邪をひかないようにね。二人は午前の授業が終わったところかな?」
「はい。今日は合同の授業でしたから一緒にこちらへきました」
「そう。頑張ったね。昼食は?」
「これからです」
「じゃあ、皆で一緒に食べよう」
「はい!」
「やったー!」
魔法を見せていたのはアーネストとサイラス。二人は昨年六歳の魔法鑑定を終えた。
アーネストは水と火と光属性でエンディーヌ様の加護をいただいていた。そしてサイラスは土と風と闇属性でグランディス様の加護をいただいていた。しかも二人とも『精霊王の祝福』というギフトがあるという。
加護の中にある力ではないので僕の持っているものとは異なるのではないかって聖神殿の大神官様もお祖父様も言っていた。
そう。加護があるって分かって、兄様はすぐに父様達に相談をして二人を聖神殿に連れて行ったんだ。
僕もハロルドも加護持ちだし、後になってから連れて行っても直ぐに行っても同じなんだから、なんの加護なのか分かった方がいいというのが皆の意見だったから。
結果を聞いた兄様は「大盤振る舞いだね」と苦笑しながらそう言った。そしてその報告を聞いて父様は兄様と同じく苦笑しながら「またどんな加護なのかを調べなければいけないね」って言って、お祖父様は「大切にせねばな」と笑っていた。
それから二人にはすぐに魔法の師をつけた。
というかブライトン先生に相談をしたら「私がお受けいたします」って即答してくださったんだよ。僕も教えてくださった先生だって言ったら二人ともすごく喜んでいた。しかも時々ブライトン先生の他にアシュトンさんやマーティン君が一緒にいるからびっくりした。
その報告をしたら兄様は「好きにさせておけばいいよ。でもやりすぎないように釘はさしておくね」ってすごく綺麗な笑みを浮かべたんだよ。兄様はどんどん父様に似てくるなって思ったのは内緒だ。
剣の先生は、なんとクラウス君が名乗りをあげてくれた。
ルークは今も変わらずに僕の護衛をしてくれているから、それを外すわけにはいかないって兄様が言って、じゃあミスリル隊の中から誰かをって話していたんだ。
そうしたら翌日ミッチェル君が「クラウスでいいじゃない。脳筋だけどきちんと教える事は出来ると思うよ」って。まさかミスリル隊の隊長自らが講師っていうのもどうかしらって思ったんだけど、まぁ二人もクラウス君も時々一緒に来てくれるミスリル隊の人達も楽しそうだからいいかなって続けてもらっている。
「かあたま……すてらもまほうしたいの」
「六歳になったら神様にお願いしに行こう。それまでは兄様や父様に沢山魔法を見せてもらおうね。なんの魔法がいいかなってーよく見ておいて?」
「あい!」
そしてこの小さな女の子はエステル・グリーンベリー。愛称はステラ。
もうすぐ三歳になる。
金色の髪に母様に似たピンクアメジストの瞳。親バカと言われるけれど、とても可愛い。
兄様はアーネスト達が生まれる時、僕のつわりがひどかったのと、双子で出産も大変だったから、もう一度マルリカの実を使う事は反対したんだ。ほら変な噂もあったみたいだし。
でもシャマル様も言っていたけれど、魔力量やえっと、その、マルリカの実の使用時の事は特に関係ないみたいだし、後から説明にいらしたバーシム先生にも確認をしたしね。
マルリカの実はどうしても……その……魔力を注ぐために、えっと……まぁ……こ、行為自体が激しくなる事が多くて、でもそれが反映されるのだとしたら、もっともっと双子やそれ以上の子が生まれてくるのが今までにあっても不思議じゃないとか……。
うん。よく分からないけど、でも双子の事は想定外だったけど二人が生まれてきてくれて嬉しかったし、幸せだなって思うから僕自身はあんまり気にしていない。だから数年経って、二人の弟か妹が欲しいなって思ったんだ。
使いたいって言うのは恥ずかしい気持ちはあったけれど、それ以上にやっぱりフィンレーのように賑やかな家族でありたいってお願いをしたんだよ。
そうしてひと月後、兄様が「分かったよ」って言って、一緒にグリーンベリーの神殿に実を受け取りに行ってくれた。
ちなみに僕がマルリカの実を取りに行ったって知ったミッチェル君が、すぐに取りに行ったというおまけもついたよ。ミッチェル君は本当にいくつになってもブレないね。今は五歳の女の子とステラと同じ歳の男の子のお母さんだ。でもびっくりするくらい変わらないんだ。もっとも「それはエディもでしょう?」って言われちゃうんだけどね。
とにかくそんな感じで二度目のマルリカの実を使った翌年、四の月の終わりにエステルが生まれた。確かに初めての時と比べて随分と楽だったかな。
どうやらフィンレーではものすごく久しぶりの女の子だったみたいで、父様も母様も大喜び。お祖父様やお祖母様もお祝いに来てくださった。
もちろんウィルやハリーも可愛い可愛いって大騒ぎだったよ。
「かあたま、すてらはかあたまといっしょにおんしついきたいです」
昼食をとってからひとやすみさせようと思っているとエステルがいきなりそう言い出した。
「温室? 母様と一緒がいいの? お休みの時では駄目かな?」
「……えっと……おいでっていわれたの」
「! 誰に⁉」
僕は思わず大きな声を出してしまい、エステルがビクリと身体を震わせた。
「ごめんね、大きな声を出して驚いたね。でもおいでって言っているのは母様の知っている人なのかな。知らない人においでって言われても付いて行ってはいけないよ?」
「あい……」
「ステラ? 誰においでって言われたのか母様に言えるかな?」
「おともだち」
「お友達?」
「かあたまもおともだち」
「母様のお友達がおいでってステラを呼んだの?」
「あい……」
えええ? そんな勝手に子供を温室に呼び出すような友達はいないよ。大体僕の友達は皆この時間はそれぞれの領で働いているし、さすがに勝手に訪ねてくるような事は出来ない。転移陣だって書簡が来てから認めて開けているんだもん。もちろんグリーンベリーにいる友達だって呼び出すような事はしないよ。
一緒に食事をしていたアーネストとサイラスは眉根を寄せて考え込んでいた。
部屋の端に控えているマリーも難しい顔をしているし、誰かが呼んだのか、家令のテオと家令見習いのスティーブ君もやってきた。
「お友達の名前は分かるかな?」
「てぃお」
「…………ティオ? え? ティオ⁇」
「あと、りろい」
「…………それは緑色の髪の子と青い髪の子かな?」
「あい!」
久しぶりの名前にちょっと呆然としてしまった。時々こちらで会う事はあったけど回数は少なくて、やっぱりフィンレーの温室の方がいいのかなって思っていたんだ。まさかそれがステラと友達になっていたなんて。
「……そう。確かに母様のお友達だ。誰かと果物やお花をとりにいった時にお話したのかな?」
「あい! はーちーみーつーっていったの」
うん。確かにティオだ。これはさすがに兄様だけでなく父様やお祖父様にもお知らせしなければいけないな。でもステラはまだ三歳にもならないのに……。それとも子供の方がそう言ったものが見えるのかな。いやいや、ハリーだって見えるようになったのは魔法鑑定の後だよね。
「分かった。じゃあ今日は母様と一緒に温室に行こう。お仕事は少し遅らせるよ」
「母様! 僕も一緒に行ってもいいですか」
「僕も一緒に行きたいです!」
こうして子供たち一緒に温室に行く事になったけれど、勿論アーネストとサイラスには妖精の姿は見えず、僕は久しぶりにティオ達に会った。どうやら契約はしていないけれどステラには姿が見えたらしい。最初に驚いて泣かれて、びっくりして「僕達はエディと友達だよ」って言ったら泣き止んだんだって。
でもまだ会うのは3回目だとか。今日はサロンの方で魔法が使われていて覗きにいったら姿が見えたので「おいで」と呼んでしまったらしい。
僕は呼ぶのはなしにしてほしい事と、また蜂蜜やジャムをあげるから欲しい時は僕に声をかけてほしいってお願いしたよ。
「これはやっぱり報告事案かなぁ……」
父様と兄様の引きつったような顔が浮かんだ。でもあの頃みたいに嫌な感じ怖い感じもしないんだ。だからきっと大丈夫。多分皆は子供たちの授かった力の大きさを気にしていると思うけど、僕にはこれからも頑張りなさいって言うメッセージだって思っている。
グリーンベリーで育っている精霊樹もとても六年しか経っていないなんて思えないほど大きいもの。
見守っているよって、きっと伝えてくださっているんだよね。
「母様、食べごろの果物があったら収穫してもいいですか?」
「勿論。でもアーニー食べ過ぎは駄目だよ」
「はい。でもシェフのパンケーキに果物が載ると美味しいから……」
「すてらもすき!」
「だよね!」
「二枚までね」
「え! さ、三枚はどう?」
「じゃあパンケーキを小さくしてもらおう」
「サイも好きなくせに。意地悪言うなよ」
「次の日はスコーンにしてクリームにフルーツを混ぜてもらえばいいと思わない?」
「! そうか。そうだね」
「すてらもたべゆ!」
「美味しい果物が沢山あるといいね」
「あい!」
わいわいと話をしながら温室に向かう。ああ、やっぱり子供たちがいて良かったな。幸せだなって思うよ。
「あ、とーしゃま!」
「え?」
ステラの声に前を向くと温室の前に兄様の姿が見えた。
もしかしてテオがさっきの事を伝えたのかな。
「アル! おかえりなさい。早いですね」
「ただいま、エディ。仕事を抜け出してきただけだけど、まぁこのまま親子水入らずでもいいかな。アーネスト、サイラス、エステル。父様も一緒に温室巡りをしてもいいかい?」
兄様の言葉に子供たちが揃って嬉しそうな返事をした。
------------
現在、某年三の月の後半として……
兄様35歳、エディ29歳、アーネスト・サイラス6歳、エステル2歳11カ月。
うぉぉぉぉぉ( ・`д・´)
ちなみにきちんと誕生月で計算をしていないけど、父様は59歳位でお祖父様は81歳位らしい∑( ̄□ ̄;)ナント!!
「ふふふふ、いいよ。青も緑も赤も全部の鳥を飛ばそうか」
「あい!」
返ってきた可愛い返事と同時に庭へと繋がる扉を開けると、フィンレーの小さいサロンを真似た家族皆のお気に入りの部屋の中にキラキラとした光が差し込んだ。
「部屋の中から見ているんだよ? 絶対に外に出ないでね」
「早く飛ばすから危ないからね。約束だよ、ステラ」
「あい!」
「じゃあ、僕は青と緑の鳥を」
「僕は赤い鳥と虹を出す」
そう言って顔を見合わせた二人は口にした通り、木と布で出来た鳥を青空に向かって飛ばし、細かな水が作る虹をくぐらせた。
◆◆◆
「アーニー、サイ、とても綺麗な魔法だったね」
拍手と一緒に声をかけると一斉に振り向いた顔が嬉しそうな笑みに変わった。
「母様!」
「お仕事は終わったのですか?」
「かあたま~~~!」
外から部屋の中に入ってこようとする二人にメイド達が慌ててタオルをかけて「失礼いたします」とクリーンをかける。その間に部屋の中にいた一番小さな子供がとてとてと走り寄ってきて、僕はその身体を抱き上げた。
「ステラ、いい子にしていたかな?」
「あい! つみきしたの」
積木はルシルが考案した子供のおもちゃの一つだ。そんなやり取りをしていると水巻き魔法で濡れた二人が近づいてきた。
「しっかり乾かしてもらった?」
「乾きました!」
「風邪をひかないようにね。二人は午前の授業が終わったところかな?」
「はい。今日は合同の授業でしたから一緒にこちらへきました」
「そう。頑張ったね。昼食は?」
「これからです」
「じゃあ、皆で一緒に食べよう」
「はい!」
「やったー!」
魔法を見せていたのはアーネストとサイラス。二人は昨年六歳の魔法鑑定を終えた。
アーネストは水と火と光属性でエンディーヌ様の加護をいただいていた。そしてサイラスは土と風と闇属性でグランディス様の加護をいただいていた。しかも二人とも『精霊王の祝福』というギフトがあるという。
加護の中にある力ではないので僕の持っているものとは異なるのではないかって聖神殿の大神官様もお祖父様も言っていた。
そう。加護があるって分かって、兄様はすぐに父様達に相談をして二人を聖神殿に連れて行ったんだ。
僕もハロルドも加護持ちだし、後になってから連れて行っても直ぐに行っても同じなんだから、なんの加護なのか分かった方がいいというのが皆の意見だったから。
結果を聞いた兄様は「大盤振る舞いだね」と苦笑しながらそう言った。そしてその報告を聞いて父様は兄様と同じく苦笑しながら「またどんな加護なのかを調べなければいけないね」って言って、お祖父様は「大切にせねばな」と笑っていた。
それから二人にはすぐに魔法の師をつけた。
というかブライトン先生に相談をしたら「私がお受けいたします」って即答してくださったんだよ。僕も教えてくださった先生だって言ったら二人ともすごく喜んでいた。しかも時々ブライトン先生の他にアシュトンさんやマーティン君が一緒にいるからびっくりした。
その報告をしたら兄様は「好きにさせておけばいいよ。でもやりすぎないように釘はさしておくね」ってすごく綺麗な笑みを浮かべたんだよ。兄様はどんどん父様に似てくるなって思ったのは内緒だ。
剣の先生は、なんとクラウス君が名乗りをあげてくれた。
ルークは今も変わらずに僕の護衛をしてくれているから、それを外すわけにはいかないって兄様が言って、じゃあミスリル隊の中から誰かをって話していたんだ。
そうしたら翌日ミッチェル君が「クラウスでいいじゃない。脳筋だけどきちんと教える事は出来ると思うよ」って。まさかミスリル隊の隊長自らが講師っていうのもどうかしらって思ったんだけど、まぁ二人もクラウス君も時々一緒に来てくれるミスリル隊の人達も楽しそうだからいいかなって続けてもらっている。
「かあたま……すてらもまほうしたいの」
「六歳になったら神様にお願いしに行こう。それまでは兄様や父様に沢山魔法を見せてもらおうね。なんの魔法がいいかなってーよく見ておいて?」
「あい!」
そしてこの小さな女の子はエステル・グリーンベリー。愛称はステラ。
もうすぐ三歳になる。
金色の髪に母様に似たピンクアメジストの瞳。親バカと言われるけれど、とても可愛い。
兄様はアーネスト達が生まれる時、僕のつわりがひどかったのと、双子で出産も大変だったから、もう一度マルリカの実を使う事は反対したんだ。ほら変な噂もあったみたいだし。
でもシャマル様も言っていたけれど、魔力量やえっと、その、マルリカの実の使用時の事は特に関係ないみたいだし、後から説明にいらしたバーシム先生にも確認をしたしね。
マルリカの実はどうしても……その……魔力を注ぐために、えっと……まぁ……こ、行為自体が激しくなる事が多くて、でもそれが反映されるのだとしたら、もっともっと双子やそれ以上の子が生まれてくるのが今までにあっても不思議じゃないとか……。
うん。よく分からないけど、でも双子の事は想定外だったけど二人が生まれてきてくれて嬉しかったし、幸せだなって思うから僕自身はあんまり気にしていない。だから数年経って、二人の弟か妹が欲しいなって思ったんだ。
使いたいって言うのは恥ずかしい気持ちはあったけれど、それ以上にやっぱりフィンレーのように賑やかな家族でありたいってお願いをしたんだよ。
そうしてひと月後、兄様が「分かったよ」って言って、一緒にグリーンベリーの神殿に実を受け取りに行ってくれた。
ちなみに僕がマルリカの実を取りに行ったって知ったミッチェル君が、すぐに取りに行ったというおまけもついたよ。ミッチェル君は本当にいくつになってもブレないね。今は五歳の女の子とステラと同じ歳の男の子のお母さんだ。でもびっくりするくらい変わらないんだ。もっとも「それはエディもでしょう?」って言われちゃうんだけどね。
とにかくそんな感じで二度目のマルリカの実を使った翌年、四の月の終わりにエステルが生まれた。確かに初めての時と比べて随分と楽だったかな。
どうやらフィンレーではものすごく久しぶりの女の子だったみたいで、父様も母様も大喜び。お祖父様やお祖母様もお祝いに来てくださった。
もちろんウィルやハリーも可愛い可愛いって大騒ぎだったよ。
「かあたま、すてらはかあたまといっしょにおんしついきたいです」
昼食をとってからひとやすみさせようと思っているとエステルがいきなりそう言い出した。
「温室? 母様と一緒がいいの? お休みの時では駄目かな?」
「……えっと……おいでっていわれたの」
「! 誰に⁉」
僕は思わず大きな声を出してしまい、エステルがビクリと身体を震わせた。
「ごめんね、大きな声を出して驚いたね。でもおいでって言っているのは母様の知っている人なのかな。知らない人においでって言われても付いて行ってはいけないよ?」
「あい……」
「ステラ? 誰においでって言われたのか母様に言えるかな?」
「おともだち」
「お友達?」
「かあたまもおともだち」
「母様のお友達がおいでってステラを呼んだの?」
「あい……」
えええ? そんな勝手に子供を温室に呼び出すような友達はいないよ。大体僕の友達は皆この時間はそれぞれの領で働いているし、さすがに勝手に訪ねてくるような事は出来ない。転移陣だって書簡が来てから認めて開けているんだもん。もちろんグリーンベリーにいる友達だって呼び出すような事はしないよ。
一緒に食事をしていたアーネストとサイラスは眉根を寄せて考え込んでいた。
部屋の端に控えているマリーも難しい顔をしているし、誰かが呼んだのか、家令のテオと家令見習いのスティーブ君もやってきた。
「お友達の名前は分かるかな?」
「てぃお」
「…………ティオ? え? ティオ⁇」
「あと、りろい」
「…………それは緑色の髪の子と青い髪の子かな?」
「あい!」
久しぶりの名前にちょっと呆然としてしまった。時々こちらで会う事はあったけど回数は少なくて、やっぱりフィンレーの温室の方がいいのかなって思っていたんだ。まさかそれがステラと友達になっていたなんて。
「……そう。確かに母様のお友達だ。誰かと果物やお花をとりにいった時にお話したのかな?」
「あい! はーちーみーつーっていったの」
うん。確かにティオだ。これはさすがに兄様だけでなく父様やお祖父様にもお知らせしなければいけないな。でもステラはまだ三歳にもならないのに……。それとも子供の方がそう言ったものが見えるのかな。いやいや、ハリーだって見えるようになったのは魔法鑑定の後だよね。
「分かった。じゃあ今日は母様と一緒に温室に行こう。お仕事は少し遅らせるよ」
「母様! 僕も一緒に行ってもいいですか」
「僕も一緒に行きたいです!」
こうして子供たち一緒に温室に行く事になったけれど、勿論アーネストとサイラスには妖精の姿は見えず、僕は久しぶりにティオ達に会った。どうやら契約はしていないけれどステラには姿が見えたらしい。最初に驚いて泣かれて、びっくりして「僕達はエディと友達だよ」って言ったら泣き止んだんだって。
でもまだ会うのは3回目だとか。今日はサロンの方で魔法が使われていて覗きにいったら姿が見えたので「おいで」と呼んでしまったらしい。
僕は呼ぶのはなしにしてほしい事と、また蜂蜜やジャムをあげるから欲しい時は僕に声をかけてほしいってお願いしたよ。
「これはやっぱり報告事案かなぁ……」
父様と兄様の引きつったような顔が浮かんだ。でもあの頃みたいに嫌な感じ怖い感じもしないんだ。だからきっと大丈夫。多分皆は子供たちの授かった力の大きさを気にしていると思うけど、僕にはこれからも頑張りなさいって言うメッセージだって思っている。
グリーンベリーで育っている精霊樹もとても六年しか経っていないなんて思えないほど大きいもの。
見守っているよって、きっと伝えてくださっているんだよね。
「母様、食べごろの果物があったら収穫してもいいですか?」
「勿論。でもアーニー食べ過ぎは駄目だよ」
「はい。でもシェフのパンケーキに果物が載ると美味しいから……」
「すてらもすき!」
「だよね!」
「二枚までね」
「え! さ、三枚はどう?」
「じゃあパンケーキを小さくしてもらおう」
「サイも好きなくせに。意地悪言うなよ」
「次の日はスコーンにしてクリームにフルーツを混ぜてもらえばいいと思わない?」
「! そうか。そうだね」
「すてらもたべゆ!」
「美味しい果物が沢山あるといいね」
「あい!」
わいわいと話をしながら温室に向かう。ああ、やっぱり子供たちがいて良かったな。幸せだなって思うよ。
「あ、とーしゃま!」
「え?」
ステラの声に前を向くと温室の前に兄様の姿が見えた。
もしかしてテオがさっきの事を伝えたのかな。
「アル! おかえりなさい。早いですね」
「ただいま、エディ。仕事を抜け出してきただけだけど、まぁこのまま親子水入らずでもいいかな。アーネスト、サイラス、エステル。父様も一緒に温室巡りをしてもいいかい?」
兄様の言葉に子供たちが揃って嬉しそうな返事をした。
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現在、某年三の月の後半として……
兄様35歳、エディ29歳、アーネスト・サイラス6歳、エステル2歳11カ月。
うぉぉぉぉぉ( ・`д・´)
ちなみにきちんと誕生月で計算をしていないけど、父様は59歳位でお祖父様は81歳位らしい∑( ̄□ ̄;)ナント!!
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