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69 お布令と事件と
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ルシルの所に行って、知恵熱を出して、ミッチェル君と凄かったねって仕事の合間に話をしたりしながら、それでもやっぱり何かしらの手引き書やシェルバーネのような教える場も必要だねって思ったけど、具体的にどんな風に動いたらいいのかは浮かばないまま夏が来て、秋の気配が感じられるようになって来た九の月。
「なんていうかさ、仕方がないのかもしれないけど遅いなーって感じ」
ミッチェル君が書類の束をトントンってしながらムッとしたように声を出した。
王室からマルリカの実についてのお布令が出されたんだけど、その前に事件が起きちゃったんだよね。
元々差別が出てきているのはとっくに分かっていた事だし、それに対してきちんとお布令を出す事もとっくに決まっていたんだけど、実際はこのタイミングだ。
「まるで事件が起きるのを待っていたみたいじゃない」
「ミッチェル」
同じ執務室にいたブライアン君が注意をするようにミッチェル君の名前を呼んだ。
「分かってるよ。でも何だかモヤモヤするんだもん!」
「それでも王家の批判になるような事を無闇に口にしてはダメだ。ここは大丈夫だと思うけど、それが油断になる。どういう事で足元を掬われるか分からないからね、普段から気をつけた方がいい」
「…………うん」
「でも、子供も母親も無事で良かった」
そうなんだ。マルリカの実を使って生まれた子への差別から、母親である伯爵夫人が子供に手をかけて自分も死のうとする事件があって、その噂を広げた子爵家に父親である伯爵が制裁を加えたのだ。
幸い母子は発見が早くて助かったんだけど、精神的に追い詰められてしまうというのはこの差別が酷くなればなるほど増えていく可能性はあるし、今回は下位の爵位の家が上の爵位の家に対して行ったけど、その反対だと言われた方はただ耐えるしかない状況にもなってしまうからね。
「お布令が出て、噂を流された人が届け出る所も出来るようだし、ただそれがどこまで効力を発揮出来るかだよね」
「うん。でももしも届出の所に問題がある人がいると、届け出た事を悪用する可能性もあるでしょう?」
僕の言葉にミッチェル君がそう繋げた。
「公平な立場の人が役目につく必要性があるね」
「うん。あと、男性が子を産むって事にもね」
「ああ、それはこれからの方が色々出てきそうだね。今までは嫡男は跡取りの為に女性と婚姻を結ぶのが当たり前で、反対に家を継がない子息たちは子が出来ないって事を前提に一緒になったところもあるからね。実際女性がピリピリしているって話を聞いた事があるよ」
ブライアン君が珍しく苦い笑いを浮かべながらそう言った。
「あ~、そうだよね。子を産むのは女性だけではなくなったんだもの。輿入れ先は選びたい放題って訳には」
「ミッチェル」
「ミッチェル君」
僕とブライアン君の両方から名前を呼ばれてミッチェル君は自分の口を手で塞いでコクコクと頷いた。
そうなんだよね。そういう問題は考えていたけれど、女性の立場っていうものは僕は考えてはいなかった。中々難しい問題だなって思うけど、貴族だとますます家同士の結びっていうのが大きくなってくるんじゃないかなって思った。
◇ ◇ ◇
「あははは! さすがレイモンドの三男坊だ。ふふふ、マーティより少し口が軽いがよく似ているね」
「アル、そういう事じゃないんですよ。今回の事件以外にもきっと起きている事は多くて、お布令は出たけどその後の事や起こりうる事もきちんと考えていかないとって」
僕の言葉に兄様はニコニコ笑いながら再び口を開いた。
「うん。その辺の事は父上達も気にしておられたよ。多分ニールデン公やメイソン卿も引き続き情報は集めていると思う。勿論父上もね。でもそれでも小さなものは漏れるだろう。そういった芽になるものを領主のところで摘んでいかれれば尚良しという感じかな。エディ達が思った事や感じた事は声を上げきれない若い世代が感じる事だろう。国としてお布令を出した。ではそれを受けてどんな事が起きて、どんな事が抑制されて、どんな者達がどう動いたのか。ちゃんと見極めていかないとね」
「はい。それを見ながら領として出来る事はなんなのかという話ですね」
「うん。でもね、エディ」
兄様はそっと僕の顔を覗き込んできた。
「急いでは駄目だよ」
「え?」
「お布令については遅いと感じたかもしれないが、どの辺りでお布令が出たのかというのも大事な事なんだ。それに前にもこんな話をしたけれど、これは命の話だ」
「……はい」
「考える事はいいけれど、急いで決めて窮屈な状況を作ると、それがまた次の問題を生み出す可能性がある。じっくり見極めながら、押さえる所を押さえて行く。難しいけれど細かい部分は領ごとに任さられる事になるかもしれないね」
「……難しいですね。でも命の事ですものね」
「そうだね。後手にならず、けれど急ぎ過ぎて見誤る事がないように。難しいけれど一緒に考えて行こう」
「はい」
僕はコクリと頷いてやっぱり兄様がいてくれて良かったって思った。
---------------------
緩やかな更新ですみません。
ポツポツと更新していく事になりそうです。
水面下、色々頑張ります。
「なんていうかさ、仕方がないのかもしれないけど遅いなーって感じ」
ミッチェル君が書類の束をトントンってしながらムッとしたように声を出した。
王室からマルリカの実についてのお布令が出されたんだけど、その前に事件が起きちゃったんだよね。
元々差別が出てきているのはとっくに分かっていた事だし、それに対してきちんとお布令を出す事もとっくに決まっていたんだけど、実際はこのタイミングだ。
「まるで事件が起きるのを待っていたみたいじゃない」
「ミッチェル」
同じ執務室にいたブライアン君が注意をするようにミッチェル君の名前を呼んだ。
「分かってるよ。でも何だかモヤモヤするんだもん!」
「それでも王家の批判になるような事を無闇に口にしてはダメだ。ここは大丈夫だと思うけど、それが油断になる。どういう事で足元を掬われるか分からないからね、普段から気をつけた方がいい」
「…………うん」
「でも、子供も母親も無事で良かった」
そうなんだ。マルリカの実を使って生まれた子への差別から、母親である伯爵夫人が子供に手をかけて自分も死のうとする事件があって、その噂を広げた子爵家に父親である伯爵が制裁を加えたのだ。
幸い母子は発見が早くて助かったんだけど、精神的に追い詰められてしまうというのはこの差別が酷くなればなるほど増えていく可能性はあるし、今回は下位の爵位の家が上の爵位の家に対して行ったけど、その反対だと言われた方はただ耐えるしかない状況にもなってしまうからね。
「お布令が出て、噂を流された人が届け出る所も出来るようだし、ただそれがどこまで効力を発揮出来るかだよね」
「うん。でももしも届出の所に問題がある人がいると、届け出た事を悪用する可能性もあるでしょう?」
僕の言葉にミッチェル君がそう繋げた。
「公平な立場の人が役目につく必要性があるね」
「うん。あと、男性が子を産むって事にもね」
「ああ、それはこれからの方が色々出てきそうだね。今までは嫡男は跡取りの為に女性と婚姻を結ぶのが当たり前で、反対に家を継がない子息たちは子が出来ないって事を前提に一緒になったところもあるからね。実際女性がピリピリしているって話を聞いた事があるよ」
ブライアン君が珍しく苦い笑いを浮かべながらそう言った。
「あ~、そうだよね。子を産むのは女性だけではなくなったんだもの。輿入れ先は選びたい放題って訳には」
「ミッチェル」
「ミッチェル君」
僕とブライアン君の両方から名前を呼ばれてミッチェル君は自分の口を手で塞いでコクコクと頷いた。
そうなんだよね。そういう問題は考えていたけれど、女性の立場っていうものは僕は考えてはいなかった。中々難しい問題だなって思うけど、貴族だとますます家同士の結びっていうのが大きくなってくるんじゃないかなって思った。
◇ ◇ ◇
「あははは! さすがレイモンドの三男坊だ。ふふふ、マーティより少し口が軽いがよく似ているね」
「アル、そういう事じゃないんですよ。今回の事件以外にもきっと起きている事は多くて、お布令は出たけどその後の事や起こりうる事もきちんと考えていかないとって」
僕の言葉に兄様はニコニコ笑いながら再び口を開いた。
「うん。その辺の事は父上達も気にしておられたよ。多分ニールデン公やメイソン卿も引き続き情報は集めていると思う。勿論父上もね。でもそれでも小さなものは漏れるだろう。そういった芽になるものを領主のところで摘んでいかれれば尚良しという感じかな。エディ達が思った事や感じた事は声を上げきれない若い世代が感じる事だろう。国としてお布令を出した。ではそれを受けてどんな事が起きて、どんな事が抑制されて、どんな者達がどう動いたのか。ちゃんと見極めていかないとね」
「はい。それを見ながら領として出来る事はなんなのかという話ですね」
「うん。でもね、エディ」
兄様はそっと僕の顔を覗き込んできた。
「急いでは駄目だよ」
「え?」
「お布令については遅いと感じたかもしれないが、どの辺りでお布令が出たのかというのも大事な事なんだ。それに前にもこんな話をしたけれど、これは命の話だ」
「……はい」
「考える事はいいけれど、急いで決めて窮屈な状況を作ると、それがまた次の問題を生み出す可能性がある。じっくり見極めながら、押さえる所を押さえて行く。難しいけれど細かい部分は領ごとに任さられる事になるかもしれないね」
「……難しいですね。でも命の事ですものね」
「そうだね。後手にならず、けれど急ぎ過ぎて見誤る事がないように。難しいけれど一緒に考えて行こう」
「はい」
僕はコクリと頷いてやっぱり兄様がいてくれて良かったって思った。
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緩やかな更新ですみません。
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水面下、色々頑張ります。
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