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37 幸せな時間 ※
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九の月に入ると神殿からマルリカの実をもらいに来る人が少しずつ増えてきているという報告がきた。浸透してきたというか、サマーバカンスの中で誰かと話をしたのかもしれないし、発売から少し時間が経って、決心をしたのかもしれない。
ともあれ、実を手にする人が増えてきたのは嬉しい。頭の中に幸せそうなシャマル様達の顔が浮かんで、実を手にした人たちが皆そんな風になれたらいいなって思った。
仕事の方は相変わらずで、この月の半ば過ぎくらいには町の視察を再開する予定。栽培目的で領外に持ち出せないという事が薬草で確認を出来たので、来年の春には僕の温室で育ったもの以外の白いイチゴが販売される。こちらは従来の物よりも値段は落とすけど、きちんとグリーンベリーで育てられたものとしての出荷用のマークがつけられて万が一の事を防ぐようになっている。
あとは来年度に向けの採用かな。官吏も自領騎士団ももう少し増やして育てていかないとね。でも平民の雇用も結構いい感じになってきているって聞いたよ。やりたい事や手が足りていない所は沢山あるけど、きちんとした人たちでないと困るからね。
本当はお祖父様の所に行って加護でしばりっていうか、こちらが思う事を付与するが可能かっていう実験もしたいんだけど、それは兄様に止められた。
とりあえず、今年の状況を見て考えようって。
きっと今年はまだ様子を見る様な人達が多そうだから、その人たちの状況を見て、後は昨年起きてしまった事件についてもきっとその後がどうだったのかっていう報告が挙がって来るだろうからそれを踏まえてまた考える事もあるものね。
「エディ、屋敷に戻ってきたら、よほど緊急なものでない限り仕事の事を考えるのは無しだよ」
「……すみません」
夕食の後にリビングでお茶を飲んでいて、ちょっとだけイチゴの話をしていたら、何だかどんどん浮かんできてしまった。せっかく兄様が早く帰ってきて夕食を一緒に取れたんだから駄目だよね。
「頭を休める事も大切だよ」
「はい」
「何かイチゴの事以外でそんなに気になる事があるなら話を聞くよ?」
「……だ、大丈夫です。麦も見てきたし。視察の準備もブライアン君がしっかりやってくれているし。他も、別に……」
どんどん小さくなっていく声に兄様がクスリと笑って向かい側から隣に座った。
「じゃあ、もうおしまい。この後の時間は私がもらおう」
「え?」
こつんとおでことおでこがぶつかって、ものすごく近くなった空の青の瞳にドキドキとしているとフワッと抱き寄せられて、耳元で声がした。
「一緒にお風呂に入ろうか」
えええええ!
声にならない声を上げながら僕は、次の瞬間兄様に抱き上げられていた。
◇ ◇ ◇
チャプンとお湯が揺れる音がする。
実は兄様と一緒にお風呂に入るのは初めてじゃない。何度か一緒に入った事はあるんだよ。うん。ちょっとのぼせちゃった事もね。
「エディ」
「はい」
「本当に心配しているような事はない? 少しでもあるなら今のうちに話しておいて?」
向かい合わせで湯舟に浸かりながらそう言われて僕は首を横に振った。
「イチゴの事を考えていたら、これからも事もついでに考えちゃっただけで、何か心配をしている事はないないです。えっと、出荷マークの事とか、そう言えば視察も始まるなとか、来年度の採用の事とか、付与についてもお祖父様とお話をしないとなとか、あとは去年の事件の今年の状況はどうなのかなとか」
「ふふふ、随分と色々考えちゃったんだね」
「すみません。でも心配はしていないんです。」
「うん。分かった。とりあえずはこれから答えが出てくることもあるし、早急に手を打たなければならないことはないかな」
「はい」
「じゃあ、おいで」
そう言われて僕は広げられた手の中に近づいた。兄様はクスリと笑って僕を腕の中に引き寄せてしまった。
「……っ……ぅ」
重なるというよりは奪われるような口づけに小さな声が漏れ落ちたけれど、そのまま背中を滑る手がゆっくりと下がっていくのにゾクリと身体が震えた。
結婚したその日からもう何度も愛し合ってはきたけれど、やっぱり恥ずかしいような気持ちが出てきちゃうんだよね。でも兄様は隠さないでって言うんだ。声も、表情も、思いも。
「あぁ! さわ……だ……やぁん」
「大丈夫、香油もないし、ここではしないよ。でも一度位は吐き出していこうか」
「んん、ん、あ……」
兄様の足の上に乗り上げるようにして、抱えられたまま、中心を握りこんでいる長い指が見えて顔が熱くなるのが分かった。
「は……ぁ……」
「気持ちいい?」
「……きもちい……んん……」
明るい浴室の、しかも湯舟の中で自分だけが乱れているのはやっぱり恥ずかしいと思う。
「あつい……よぉ」
「ああ、またのぼせちゃったら困るか。う~ん。じゃあこうして……こうしようか」
「ひゃぁぁぁ!」
いきなりザバッと抱え上げられて驚いたけど、驚きは更なる驚きで上書きされた。だって、お風呂の縁にそのまま座らせられたと思ったら、にっこりって物凄く綺麗な微笑みを浮かべた兄様があろう事か僕のそれをぱくりって咥えちゃったんだもん!
------------------
あらあらあら……
ともあれ、実を手にする人が増えてきたのは嬉しい。頭の中に幸せそうなシャマル様達の顔が浮かんで、実を手にした人たちが皆そんな風になれたらいいなって思った。
仕事の方は相変わらずで、この月の半ば過ぎくらいには町の視察を再開する予定。栽培目的で領外に持ち出せないという事が薬草で確認を出来たので、来年の春には僕の温室で育ったもの以外の白いイチゴが販売される。こちらは従来の物よりも値段は落とすけど、きちんとグリーンベリーで育てられたものとしての出荷用のマークがつけられて万が一の事を防ぐようになっている。
あとは来年度に向けの採用かな。官吏も自領騎士団ももう少し増やして育てていかないとね。でも平民の雇用も結構いい感じになってきているって聞いたよ。やりたい事や手が足りていない所は沢山あるけど、きちんとした人たちでないと困るからね。
本当はお祖父様の所に行って加護でしばりっていうか、こちらが思う事を付与するが可能かっていう実験もしたいんだけど、それは兄様に止められた。
とりあえず、今年の状況を見て考えようって。
きっと今年はまだ様子を見る様な人達が多そうだから、その人たちの状況を見て、後は昨年起きてしまった事件についてもきっとその後がどうだったのかっていう報告が挙がって来るだろうからそれを踏まえてまた考える事もあるものね。
「エディ、屋敷に戻ってきたら、よほど緊急なものでない限り仕事の事を考えるのは無しだよ」
「……すみません」
夕食の後にリビングでお茶を飲んでいて、ちょっとだけイチゴの話をしていたら、何だかどんどん浮かんできてしまった。せっかく兄様が早く帰ってきて夕食を一緒に取れたんだから駄目だよね。
「頭を休める事も大切だよ」
「はい」
「何かイチゴの事以外でそんなに気になる事があるなら話を聞くよ?」
「……だ、大丈夫です。麦も見てきたし。視察の準備もブライアン君がしっかりやってくれているし。他も、別に……」
どんどん小さくなっていく声に兄様がクスリと笑って向かい側から隣に座った。
「じゃあ、もうおしまい。この後の時間は私がもらおう」
「え?」
こつんとおでことおでこがぶつかって、ものすごく近くなった空の青の瞳にドキドキとしているとフワッと抱き寄せられて、耳元で声がした。
「一緒にお風呂に入ろうか」
えええええ!
声にならない声を上げながら僕は、次の瞬間兄様に抱き上げられていた。
◇ ◇ ◇
チャプンとお湯が揺れる音がする。
実は兄様と一緒にお風呂に入るのは初めてじゃない。何度か一緒に入った事はあるんだよ。うん。ちょっとのぼせちゃった事もね。
「エディ」
「はい」
「本当に心配しているような事はない? 少しでもあるなら今のうちに話しておいて?」
向かい合わせで湯舟に浸かりながらそう言われて僕は首を横に振った。
「イチゴの事を考えていたら、これからも事もついでに考えちゃっただけで、何か心配をしている事はないないです。えっと、出荷マークの事とか、そう言えば視察も始まるなとか、来年度の採用の事とか、付与についてもお祖父様とお話をしないとなとか、あとは去年の事件の今年の状況はどうなのかなとか」
「ふふふ、随分と色々考えちゃったんだね」
「すみません。でも心配はしていないんです。」
「うん。分かった。とりあえずはこれから答えが出てくることもあるし、早急に手を打たなければならないことはないかな」
「はい」
「じゃあ、おいで」
そう言われて僕は広げられた手の中に近づいた。兄様はクスリと笑って僕を腕の中に引き寄せてしまった。
「……っ……ぅ」
重なるというよりは奪われるような口づけに小さな声が漏れ落ちたけれど、そのまま背中を滑る手がゆっくりと下がっていくのにゾクリと身体が震えた。
結婚したその日からもう何度も愛し合ってはきたけれど、やっぱり恥ずかしいような気持ちが出てきちゃうんだよね。でも兄様は隠さないでって言うんだ。声も、表情も、思いも。
「あぁ! さわ……だ……やぁん」
「大丈夫、香油もないし、ここではしないよ。でも一度位は吐き出していこうか」
「んん、ん、あ……」
兄様の足の上に乗り上げるようにして、抱えられたまま、中心を握りこんでいる長い指が見えて顔が熱くなるのが分かった。
「は……ぁ……」
「気持ちいい?」
「……きもちい……んん……」
明るい浴室の、しかも湯舟の中で自分だけが乱れているのはやっぱり恥ずかしいと思う。
「あつい……よぉ」
「ああ、またのぼせちゃったら困るか。う~ん。じゃあこうして……こうしようか」
「ひゃぁぁぁ!」
いきなりザバッと抱え上げられて驚いたけど、驚きは更なる驚きで上書きされた。だって、お風呂の縁にそのまま座らせられたと思ったら、にっこりって物凄く綺麗な微笑みを浮かべた兄様があろう事か僕のそれをぱくりって咥えちゃったんだもん!
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あらあらあら……
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