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24 今年の実について
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大応接室の中、緊張に包まれていたのは僕だけなのかもしれない。
テーブルの上にはあの白いイチゴが乗ったタルトと紅茶。そして集まった人たちは何だか嬉しそうにタルトを食べている。
おかしいな。今日はものすごく大事な会議で集まっている筈なのに。タルトは後にして紅茶だけにすればよかったのかな。
そんな事を考えていたら隣に座った兄様がそっと僕の背中をトントンってしてくれた。
部屋に居るのは父様と、ハワード先生と、ニールデン公爵と、そして今年はフードで顔を隠す事なくそのまま堂々といる国王陛下。
そしてシェルバーネ側は筆頭公爵家である宰相の代理としてシャマル様、宰相次官、そして大神殿の神殿長だ。ダリウス叔父様は護衛や書記官などと一緒に後ろに下がったテーブルの方にいる。
ちなみに僕と兄様はルフェリット側の書記官や多分宰相府の人達と一緒にやはり後ろのテーブルの方に座っている。居てもいいのかなって思ったけど、マルリカの実を育てた者として居るべきだと父様が言っていた。
「やはり白いイチゴは美味しいな。しかもこの紅茶もとても美味しい」
シャマル様がそう言って下さって僕はちょっと嬉しくなった。
実はね、紅茶も作ってみたんだ。お茶の木が手に入ったからどうかな~っと思って、温室で育てたらいい感じに育った。それでエリック君に紹介をしてもらった紅茶の職人さんに来てもらって、作ってもらったら何だかすごく美味しかったんだ。
以前、既存の茶葉にドライフルーツをブレンドして色々なフルーツティを作った事はあったけれど、紅茶自体から作るのは初めてだったからちょっとドキドキした。でも職人さんも良い茶葉ですって褒めてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「おや、ではこの紅茶はグリーンベリー産なのかな?」
「試してみました。喜んでいただけて嬉しいです」
僕の返事にシャマル様はニッコリ笑って、父様はちょっと顔を引きつらせて、ハワード先生はなぜか笑いを堪える様な顔をした。
「さて、ではそろそろ話し合いを始めましょう」
口を開いたのはニールデン公爵だった。
「まずはマルリカの実について、今年の収穫量ですが、先日グリーンベリー卿が収穫をして下さり、数は3126個という報告がありました。昨年はルフェリットでは使わないという事で全てをシェルバーネが買い取りをする事になりましたが、今年はルフェリットもマルリカの実について王国内に告知をする事が決定されています。ただ、王国では初めての実という事もあり、どれほどの需要があるのか分かりません。貴重な実ですので、その点を考慮しルフェリットは三分の一の実を買取りたい」
「なるほど。では約2000個がシェルバーネ。約1000個がルフェリットという事ですか?」
「はい、今年の状況を見て、次年度以降はまたご相談をさせていただきたいと思っております。シェルバーネ国としてはどのようにお考えでしたでしょうか?」
ニールデン公爵の問いにシャマル様と宰相次官の人が顔を見合わせてから、宰相次官の人が口を開いた。
「約2000個というのは我が国としても大変有り難い。端数に関しても三分の二という事でもよろしいのでしょうか。それともルフェリットではどの程度の需要があるのか分からないという事を考えると端数の126個は予備としてフィンレー卿にお預かりいただくという事にいたしますか」
ニッコリと笑った宰相次官にニールデン公爵はちらりと国王グレアムに視線を移してから「ルフェリットはそれで構いません」と答えた。
「では必要になった時にはお互いに書状を交わし、同意が得られればフィンレー卿から卸していただくという流れでよろしければ、シェルバーネは覚書に署名をさせていただきます」
「……はい、ルフェリットもそちらの条件で覚え書きに署名をいたします」
「そう致しましたら、卸値につきましてはどのようにお考えですか?」
宰相次官の問いに今度は父様が口を開いた。
「昨年と同じで。願う者が手に出来るようにと。グリーンベリー伯爵からの申し出です。」
「ありがとうございます。けれど、本当にそれでよろしいのでしょうか? グリーンベリー伯爵」
シャマル様の言葉に僕は「はい」と答えた。
「マルリカの実が3000以上も実り、こうして二国で手にする事が出来たのもグリーンベリー卿の功。本当に有難く思っています」
「過分なお言葉をいただきまして光栄です」
「ではその恩に報いるためにも、起きてしまった事に対してきちんとした事を行わねばなりませんね」
「はい。ではそちらの話に移る前に先ほど確認をいたしました割り当てと卸値の額面につきまして、覚書にご署名をお願いいたします」
ニールデン公爵がそう言うと壁際に控えてきた文官が書類を持ってハワード先生の所へやってきた。そしてハワード先生が確認をしてニールデン公爵の所へ。そして公爵が確認をすると国王陛下の元に渡り、陛下は同じように書面を確認してさらさらと署名をして、今度はシェルバーネ側へと運ばれていく。
え? きちんとした事は王城で行うんじゃなかったの? グリーンベリーでいいの?
僕が呆然とする中で、話し合いは更に進んで行く。
「そう致しましたら、事件に関する事に移りますが、グリーンベリー卿はこのまま在籍をされていてよろしいですか?」
「構わん。王国の貴族の一人として知る権利がある。ましてや伯爵は実の生産者だ」
国王陛下の一言で僕はそのまま事件の話も聞く事になった。
-------------
一旦切ります。
テーブルの上にはあの白いイチゴが乗ったタルトと紅茶。そして集まった人たちは何だか嬉しそうにタルトを食べている。
おかしいな。今日はものすごく大事な会議で集まっている筈なのに。タルトは後にして紅茶だけにすればよかったのかな。
そんな事を考えていたら隣に座った兄様がそっと僕の背中をトントンってしてくれた。
部屋に居るのは父様と、ハワード先生と、ニールデン公爵と、そして今年はフードで顔を隠す事なくそのまま堂々といる国王陛下。
そしてシェルバーネ側は筆頭公爵家である宰相の代理としてシャマル様、宰相次官、そして大神殿の神殿長だ。ダリウス叔父様は護衛や書記官などと一緒に後ろに下がったテーブルの方にいる。
ちなみに僕と兄様はルフェリット側の書記官や多分宰相府の人達と一緒にやはり後ろのテーブルの方に座っている。居てもいいのかなって思ったけど、マルリカの実を育てた者として居るべきだと父様が言っていた。
「やはり白いイチゴは美味しいな。しかもこの紅茶もとても美味しい」
シャマル様がそう言って下さって僕はちょっと嬉しくなった。
実はね、紅茶も作ってみたんだ。お茶の木が手に入ったからどうかな~っと思って、温室で育てたらいい感じに育った。それでエリック君に紹介をしてもらった紅茶の職人さんに来てもらって、作ってもらったら何だかすごく美味しかったんだ。
以前、既存の茶葉にドライフルーツをブレンドして色々なフルーツティを作った事はあったけれど、紅茶自体から作るのは初めてだったからちょっとドキドキした。でも職人さんも良い茶葉ですって褒めてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「おや、ではこの紅茶はグリーンベリー産なのかな?」
「試してみました。喜んでいただけて嬉しいです」
僕の返事にシャマル様はニッコリ笑って、父様はちょっと顔を引きつらせて、ハワード先生はなぜか笑いを堪える様な顔をした。
「さて、ではそろそろ話し合いを始めましょう」
口を開いたのはニールデン公爵だった。
「まずはマルリカの実について、今年の収穫量ですが、先日グリーンベリー卿が収穫をして下さり、数は3126個という報告がありました。昨年はルフェリットでは使わないという事で全てをシェルバーネが買い取りをする事になりましたが、今年はルフェリットもマルリカの実について王国内に告知をする事が決定されています。ただ、王国では初めての実という事もあり、どれほどの需要があるのか分かりません。貴重な実ですので、その点を考慮しルフェリットは三分の一の実を買取りたい」
「なるほど。では約2000個がシェルバーネ。約1000個がルフェリットという事ですか?」
「はい、今年の状況を見て、次年度以降はまたご相談をさせていただきたいと思っております。シェルバーネ国としてはどのようにお考えでしたでしょうか?」
ニールデン公爵の問いにシャマル様と宰相次官の人が顔を見合わせてから、宰相次官の人が口を開いた。
「約2000個というのは我が国としても大変有り難い。端数に関しても三分の二という事でもよろしいのでしょうか。それともルフェリットではどの程度の需要があるのか分からないという事を考えると端数の126個は予備としてフィンレー卿にお預かりいただくという事にいたしますか」
ニッコリと笑った宰相次官にニールデン公爵はちらりと国王グレアムに視線を移してから「ルフェリットはそれで構いません」と答えた。
「では必要になった時にはお互いに書状を交わし、同意が得られればフィンレー卿から卸していただくという流れでよろしければ、シェルバーネは覚書に署名をさせていただきます」
「……はい、ルフェリットもそちらの条件で覚え書きに署名をいたします」
「そう致しましたら、卸値につきましてはどのようにお考えですか?」
宰相次官の問いに今度は父様が口を開いた。
「昨年と同じで。願う者が手に出来るようにと。グリーンベリー伯爵からの申し出です。」
「ありがとうございます。けれど、本当にそれでよろしいのでしょうか? グリーンベリー伯爵」
シャマル様の言葉に僕は「はい」と答えた。
「マルリカの実が3000以上も実り、こうして二国で手にする事が出来たのもグリーンベリー卿の功。本当に有難く思っています」
「過分なお言葉をいただきまして光栄です」
「ではその恩に報いるためにも、起きてしまった事に対してきちんとした事を行わねばなりませんね」
「はい。ではそちらの話に移る前に先ほど確認をいたしました割り当てと卸値の額面につきまして、覚書にご署名をお願いいたします」
ニールデン公爵がそう言うと壁際に控えてきた文官が書類を持ってハワード先生の所へやってきた。そしてハワード先生が確認をしてニールデン公爵の所へ。そして公爵が確認をすると国王陛下の元に渡り、陛下は同じように書面を確認してさらさらと署名をして、今度はシェルバーネ側へと運ばれていく。
え? きちんとした事は王城で行うんじゃなかったの? グリーンベリーでいいの?
僕が呆然とする中で、話し合いは更に進んで行く。
「そう致しましたら、事件に関する事に移りますが、グリーンベリー卿はこのまま在籍をされていてよろしいですか?」
「構わん。王国の貴族の一人として知る権利がある。ましてや伯爵は実の生産者だ」
国王陛下の一言で僕はそのまま事件の話も聞く事になった。
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一旦切ります。
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