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18 シャマル様が語ったシェルバーネの事
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シェルバーネとルフェリットの話し合いは結局一週間ほどを要したけれど、納得を行く形で終わったらしいと兄様から聞いた。
そしてその日の夕方「明日の朝、国に帰ります」とシャマル様とダリウス叔父様がグリーンベリーを訪ねてきた。
シャマル様って結構急に来る事が多いなって思って、ちょっとおかしくなった。兄様にそう言ったら「確かにそうだね」って笑っていたよ。
でもね、今日はシャマル様たちだけでなく父様とハワード先生も一緒に来たんだ。だから到着する少し前には一応書簡が来たんだよ。これから行くよって。
みんなはグリーンベリーで夕食を取っていく事になってシェフには悪かったけれど、急ぎで対応をしてもらった。作ろうと思っていたタルトタタンもだ。
「急ですまないけれど、マルリカの実を見せてもらえるかな」
そう言われて僕は夕食の準備が出来るまでの間に皆を温室に案内をした。
シャマル様は収穫を待つマルリカの実を愛おしそうに見つめていた。
「今年は、ルフェリットと分け合う事になりました。でもエドワード様がこうして苗木を増やしてくれたので、量はきっと昨年と変わらないくらいになりそうですね」
シャマル様は実を見つめながら静かに話し出した。
「この実は昔からシェルバーネにありました。元々シェルバーネは緑豊かな国だったと聞きます。珍しい植物も沢山あって、マルリカもその一つだった。この木の実は子宝の実として、魔力を持つことが多い貴族たちが後継を作る為に使っていたのだと聞きました。ですが、先々王の時代を経て、シェルバーネの土地は多くが砂と変わっていき、人の数もどんどん減って行きました。その為、貴族だけでなく平民たちの中にもマルリカの実を試す者も増えて行きました。そして運よく子を授かる者もいれば、魔力が馴染まず命を落とす者も居たと聞きます。それでも子を授けてくれるマルリカの実は私たちの支えだったのです」
シャマル様は一度言葉を切って、再び言葉を続けた。
「ですが、年を追うごとにマルリカは実を付けなくなっていきました。私が子供の頃には神殿のあちこちに生えていた木が枯れ落ちたり、あるいは木があっても実が生らなかったり、使用する前に実が落ちるようになりました。私はそんな話を聞く度にシェルバーネはマルリカに見捨てられたのだと思うようになりました。けれど、エドワード様たちのお陰で『厄災』の事が分かり、『首』をきちんと封じると、生らなくなっていた木に花が咲き、実が生りました。更に、貴重な実をエドワード様に託すと、こんなにも実を結んでくれた。ここから先私たちがやる事は、もう一度機会を与えてくれたマルリカを裏切らない事です。それだけは分かります。いえ、分かっていなければならない。売られてきた者達は出来る限り本人たちが望む形になるようにしたいと思います。二度とこのような事が起きないよう法を整えますし、ルフェリットとの情報も共有していきます」
シャマル様はそう言って深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。僕も、何が出来るかを考えます。本当に子供が欲しいと思う人達の為に。生まれてきた子供たちが幸せになれるように、考えていきたいと思います」
僕の言葉にシャマル様はニッコリと笑って「はい」と返事をしてくれた。
僕たちのそんなやりとりを聞いていたマルリカの実が、何だか嬉しそうにしている、そんな気がした。
◇ ◇ ◇
夕食はシェフたちが張り切ってくれて皆が喜んでくれた。
特に、リンゴのタルトタタンはシャマル様がとても気に入って、これを食べにグリーンベリーに来たいって言って皆で笑ってしまったよ。
こうして、2度目の収穫の前にルフェリットとシェルバーネは大きな山を乗り越えた。
「今度は収穫の時に来ます」
シャマル様達はそう言って砂漠の国へ帰って行った。
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そしてその日の夕方「明日の朝、国に帰ります」とシャマル様とダリウス叔父様がグリーンベリーを訪ねてきた。
シャマル様って結構急に来る事が多いなって思って、ちょっとおかしくなった。兄様にそう言ったら「確かにそうだね」って笑っていたよ。
でもね、今日はシャマル様たちだけでなく父様とハワード先生も一緒に来たんだ。だから到着する少し前には一応書簡が来たんだよ。これから行くよって。
みんなはグリーンベリーで夕食を取っていく事になってシェフには悪かったけれど、急ぎで対応をしてもらった。作ろうと思っていたタルトタタンもだ。
「急ですまないけれど、マルリカの実を見せてもらえるかな」
そう言われて僕は夕食の準備が出来るまでの間に皆を温室に案内をした。
シャマル様は収穫を待つマルリカの実を愛おしそうに見つめていた。
「今年は、ルフェリットと分け合う事になりました。でもエドワード様がこうして苗木を増やしてくれたので、量はきっと昨年と変わらないくらいになりそうですね」
シャマル様は実を見つめながら静かに話し出した。
「この実は昔からシェルバーネにありました。元々シェルバーネは緑豊かな国だったと聞きます。珍しい植物も沢山あって、マルリカもその一つだった。この木の実は子宝の実として、魔力を持つことが多い貴族たちが後継を作る為に使っていたのだと聞きました。ですが、先々王の時代を経て、シェルバーネの土地は多くが砂と変わっていき、人の数もどんどん減って行きました。その為、貴族だけでなく平民たちの中にもマルリカの実を試す者も増えて行きました。そして運よく子を授かる者もいれば、魔力が馴染まず命を落とす者も居たと聞きます。それでも子を授けてくれるマルリカの実は私たちの支えだったのです」
シャマル様は一度言葉を切って、再び言葉を続けた。
「ですが、年を追うごとにマルリカは実を付けなくなっていきました。私が子供の頃には神殿のあちこちに生えていた木が枯れ落ちたり、あるいは木があっても実が生らなかったり、使用する前に実が落ちるようになりました。私はそんな話を聞く度にシェルバーネはマルリカに見捨てられたのだと思うようになりました。けれど、エドワード様たちのお陰で『厄災』の事が分かり、『首』をきちんと封じると、生らなくなっていた木に花が咲き、実が生りました。更に、貴重な実をエドワード様に託すと、こんなにも実を結んでくれた。ここから先私たちがやる事は、もう一度機会を与えてくれたマルリカを裏切らない事です。それだけは分かります。いえ、分かっていなければならない。売られてきた者達は出来る限り本人たちが望む形になるようにしたいと思います。二度とこのような事が起きないよう法を整えますし、ルフェリットとの情報も共有していきます」
シャマル様はそう言って深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。僕も、何が出来るかを考えます。本当に子供が欲しいと思う人達の為に。生まれてきた子供たちが幸せになれるように、考えていきたいと思います」
僕の言葉にシャマル様はニッコリと笑って「はい」と返事をしてくれた。
僕たちのそんなやりとりを聞いていたマルリカの実が、何だか嬉しそうにしている、そんな気がした。
◇ ◇ ◇
夕食はシェフたちが張り切ってくれて皆が喜んでくれた。
特に、リンゴのタルトタタンはシャマル様がとても気に入って、これを食べにグリーンベリーに来たいって言って皆で笑ってしまったよ。
こうして、2度目の収穫の前にルフェリットとシェルバーネは大きな山を乗り越えた。
「今度は収穫の時に来ます」
シャマル様達はそう言って砂漠の国へ帰って行った。
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