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11 お祖父様と妖精と

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 久しぶりにお祖父様がグリーンベリーを訪ねて来て下さった。
 王宮での会議は相変わらず難航をしているみたいで、父様からの知らせはまだない。三の月に入ったらとりあえず実の状況を見て収穫はしてしまうつもりでいた。木に実らせておいて万が一にでも熟れすぎて落ちてしまったりしたら困るから。
 マジックボックスに入れておけば実が痛んでしまう様な事はないし。
 温室に行ってお祖父様と一緒にマルリカの実の状態を確認してもらっている間に妖精たちが集まって来ていた。

『カルロ、遊ぼう』

 妖精たちには年齢なんていうものは関係ないらしい。お祖父様はすっかり妖精たちの友達だ。最初は五人だった契約も今では七人の妖精がお祖父様と契約をしている。
 僕は今8人の妖精が契約をしてくれている。その内一人は大きい人と呼ばれている「ファラル」だ。ファラルはティオ達と一緒に温室などに現れる事はないけれど、時々あの眠りの樹が不思議な感じで揺れている事があるからもしかしたら見に来てくれているのかもしれないなって思ってそこに小さな祠を作って週に一度必ずお祈りをして何かをお供えするようにしたんだ。

『えでぃ~、ミルクジャムにしよう』
「ふふふ、ティオはミルクジャムが食べたいの? じゃあ一緒にクラッカーも出そうか」
『クラッカーだったらチーズもほしいよ!』
『蜂蜜もね』

 ティオとリロイとセームル、そしてスタンピードが終わって道も塞がった事のお祝いで契約をしたラムとジット、更にグリーンベリーに来てから契約をしたチーズが好きな黄色の髪のシリンとリロイと仲の良い藍色の髪のカイ。勿論契約をしておらず見えない子たちも遊びにきている。

 ひとしきりパズルをしたり、おやつを食べたりして、好き勝手に遊び始めた妖精たちを眺めながら僕とお祖父様は温室の中に作られているテーブルセットの椅子に腰かけた。

「王宮での話は聞いておるか」

 ああ、やっぱりその事で様子を見に来て下さったんだなって思ったよ。

「はい。父様からお話を聞きました。王宮の中の事は僕には出来る事はないので、もし出来るとするなら実に犯罪が起こらないような付与が出来ないかなとは考えました。勿論出来るかどうかは分からないし、どんな付与があればいいのかも今のところ思い浮かびません」
「うむ」

 お祖父様は返事をして頷いた。それを見て僕は再び口を開いた。

「ルシルが……【光の愛し子】が、マルリカの実を探してほしいってやってきたんです。僕はマルリカの実がどういう実なのか知らずに育てていました。それで、その場で初めてどういう実なのかを知りました。でもフィンレーがやりとりをしているし、国同士がその数を決めて取引をしているので、ここで育てているとは言えませんでした」
「うむ、言わずにいたのは良かった」
「はい。でも王国では今マルリカを使うのか使わないのか、かなり揉めています。色々な問題や、考えなければならない事はあるけれど、でも僕は、ルシルのように本当に子供が欲しいと思う人の所に届けばいいなと思います。そして何らかの事で子供が出来なくなってしまった女性たちにも希望になってくれたらいいと思います」
「そうだな。王国の事はデイヴィットたちがどこかに落としどころを決めるだろう。付与については分からんが、考えてみる事は悪い事ではない」
「はい」
「エドワードが望むように、やってみればいい」
「僕が?」
「ああ、それをデイヴィットもアルフレッドも望むだろう。エドワードの望まない事は私たちは皆望まない。今まで通り考えて、自分が納得のいく答えを見つければいい。急がずにな。時間はまだある」

 そう言われて僕は「はい」と答えた。
 そしてもしも、いつか……本当にそうしたいと思ったら兄様に話しをすればいい。

『ねぇ、マルリカの実って赤ちゃんが出来る実でしょう?』 

 シリンがニコニコと笑って僕の肩に泊まった。

「うん。そう言われているね。」
『え! えでぃ、赤ちゃん生むの?』
「へ? うううう生まない。生まないよ!」
『ティオ、えでぃの赤ちゃんみたい~』
『僕も~』
『お世話してあげる~』
『可愛がってあげる~』
『会いたい~~~』

 嬉しそうに僕の周りを飛び回る妖精たちに、僕は真っ赤な顔でブンブンと首を横に振った。

「ややややややめて、皆。そんなのまだ全然決まっていないよ。大体王国でマルリカの実を使えるようになるのかも分からないから! 使えるようになっても使うかどうかなんて分からないから言わないで!」

 涙目になってそう言うと妖精たちはがっかりしたような顔をした。

『……分かった~』
『でも、会えたらうれしい』
『ぜったい可愛い~』
「…………ありがとう。でもそれはまだ分からない事だから言わないで。言われると考えてまた熱が出ちゃうから」
『熱、大変!』
『病気、大変!』
『えでぃ~! 言わないよ。ティオ言わない』
「うん。ありがとう。とにかく今年のマルリカの実がちゃんと出来て、ルフェリットがどうするのか決まらないとね。まずはそこから」

 そう。まずは起こっている事をきちんと把握して、防ぐ方法を考えなければね。そう思っていたらお祖父様がどこか嬉しそうに話し出した。

「エドワード、本来、子は授かりものだ。欲しいと思ったら実を使ってみればいい。使わなくともそれで良い。どのみち今は王国の法が整っていないので使う事は出来んがな。どうするのか、どうしたいのか、考える事は自由だ。想像の中ならば何度でも組み立て直せる。」
「はい。ありがとうございます」

 僕はそう答えてマルリカの実が生る温室の方を見た。


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妖精たちは自由で可愛いwww
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