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第5章 学園
3巻発売記念SS 『人気』の話
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自分でもよく分からないうちに、僕はとても欲張りになっていた。
出来る事を出来るだけ頑張ろうって思っていたのに、気付いたらやらなければいけないって思うようになって、どうしたらいいのか分からなくなってしまったんだ。
これじゃいけないって思って、僕は父様と話をした。
父様はぐちゃぐちゃになっていた僕の気持ちを一つ一つ解決していった。父様の「大丈夫」は魔法の言葉だって思ったよ。
だけどね……父様ったら、『人気』の話を僕に聞いた方がいいって兄様に言ったんだよ。だから兄様から『人気』の話を聞かせてほしいって言われてしまったんだ。
でもさ、兄様が兄様のお友達と同じように人気があるかもしれないって思って、なぜか分からないけどその事を嫌だなって思ったって話すのはすごく難しいよね。
だって兄様は本当にカッコいいんだもの。だからダニエル君達みたいに人気があっても当然なんだ。それを嫌だなって思ったなんて聞いたら、兄様はどう思うかな。
それにどうして嫌だって思ったのか、僕自身も分からないんだもの。それなのに……
「エディ、じゃあ約束通り『人気』の話を聞かせてくれる?」
土の日の午後、学園から帰ってくると、兄様がにっこり笑ってそう言った。
「アル兄様、学園は?」
僕より早く兄様が学園から帰っているなんてどうしたんだろう? その答えはすぐに返ってきた。
「今日は講義が一つなくなったから早く帰ってきたんだよ。それに課題がなかったらエディはフィンレーに行ってしまうでしょう? なかなかその話をする機会がなかったからちょうどいいなって思ったんだ」
テーブルの上にはシェフが作った焼き菓子。紅茶は母様も気に入っているものでとても香りがいい。
「それでエディ。『人気』ってなんだろう?」
「ああ……ええっと、あの……僕にも、よく分からなくて。あの……えっと」
ニコニコと笑う兄様の笑顔が眩しいよ。だって、だって、そんなに期待をされても困るんだもの。
「本当に大した事じゃないんです。それにさっきも言ったけど、僕自身もよく分からないし」
「うん。大丈夫だよ。父上がエディから聞いた方がいいって言っていたからね。もしかしたら私がエディが分からない事が分かるかもしれないし」
そうかなぁ。でも兄様の人気があるのが嫌だって思ったって聞いたら、兄様も嫌な気持ちになっちゃうんじゃないかしら。
「ええっと…………ルシルのところに、ダニエル様達がやってくるようになって、色々な人が見に来たりして、それで、三人がカッコよくて、とても人気があるって聞いたんです」
「ダニー達が? ああ、うん。そうかもしれないね」
兄様は事も無げにそう答えた。
「それで、その…………三人と一緒にいる兄様もカッコいいから、兄様も人気があるのかなって思って」
「私が?」
考えてもみなかったというような顔をする兄様に、僕はどうしたらいいのかしらと思いつつ言葉を続けた。
「そう考えたら、どうしてだか分からないんだけど、なんだか嫌だなぁって思ってしまって」
「…………」
その途端黙り込んでしまった兄様に、僕はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。そうだよね。カッコよくて人気があるのが嫌だなんて言われたら、いい気持ちはしないものね。
「すみません……」
小さな声で謝ると兄様は「どうして?」って尋ねてきた。
「え?」
「どうしてエディは私の人気があると嫌だって思ったの?」
「わ、分かりません! でもなんだか分からないけど、胸の辺りがモヤモヤして、兄様がカッコいいのはいいけど、人気があるのは嫌だなって、わぁぁ!」
言葉が終わらないうちに僕は兄様に抱き締められていた。
「エディ、ダニエル達も人気があるのは嫌だって思った?」
「え? 別に思わなかったです」
すぐにそう答えると、兄様はとても嬉しそうに笑った。
「人気なんて関係ないよ。それよりもエディがカッコいいって思ってくれた方が私にとっては嬉しいな」
僕はどんどん顔が熱くなっていくのを感じながら、父様が言った通りだなって思った。
だけどどうして父様はこの話を僕に聞いた方がいいなんて言ったのかな。だって……
「兄様がカッコいいのは当たり前の事ですから」
「ふふふ、そうなんだ。でもエディも可愛いよ。うん、だけど確かにエディが可愛くて人気があるって言われたら、私も嫌だなって思ってしまうかもしれないな」
「アル兄様?」
「だって、エディが可愛いのは私が知っていればいい事だからね」
兄様は笑いながら紅茶を口にした。
そして僕は多分真っ赤になっている顔で「そうかもしれないな」って思いながら、クッキーをつまんだ。
どうしてだか分からなくてモヤモヤした気持ちはすっかりなくなって、僕はもう『人気』の事は考えなくなっていた。
僕が可愛いっていうのはともかく、兄様も同じように思うのだとしたら、ちっともおかしい事なんかないもの。
うん、そうだよね、兄様がカッコいいのは僕が知っていればいいんだから。
でも、いつまでも可愛いじゃなくて僕もカッコイイになれるように頑張ろう。
「今日のお菓子、美味しいですね」
そう言うと兄様はとびきりの笑顔を浮かべて「そうだね」って頷いた。
-------------
3巻の中に出てくる『人気』の話の後日談です。
まるっと言いくるめられているエディ。
ふふふ
出来る事を出来るだけ頑張ろうって思っていたのに、気付いたらやらなければいけないって思うようになって、どうしたらいいのか分からなくなってしまったんだ。
これじゃいけないって思って、僕は父様と話をした。
父様はぐちゃぐちゃになっていた僕の気持ちを一つ一つ解決していった。父様の「大丈夫」は魔法の言葉だって思ったよ。
だけどね……父様ったら、『人気』の話を僕に聞いた方がいいって兄様に言ったんだよ。だから兄様から『人気』の話を聞かせてほしいって言われてしまったんだ。
でもさ、兄様が兄様のお友達と同じように人気があるかもしれないって思って、なぜか分からないけどその事を嫌だなって思ったって話すのはすごく難しいよね。
だって兄様は本当にカッコいいんだもの。だからダニエル君達みたいに人気があっても当然なんだ。それを嫌だなって思ったなんて聞いたら、兄様はどう思うかな。
それにどうして嫌だって思ったのか、僕自身も分からないんだもの。それなのに……
「エディ、じゃあ約束通り『人気』の話を聞かせてくれる?」
土の日の午後、学園から帰ってくると、兄様がにっこり笑ってそう言った。
「アル兄様、学園は?」
僕より早く兄様が学園から帰っているなんてどうしたんだろう? その答えはすぐに返ってきた。
「今日は講義が一つなくなったから早く帰ってきたんだよ。それに課題がなかったらエディはフィンレーに行ってしまうでしょう? なかなかその話をする機会がなかったからちょうどいいなって思ったんだ」
テーブルの上にはシェフが作った焼き菓子。紅茶は母様も気に入っているものでとても香りがいい。
「それでエディ。『人気』ってなんだろう?」
「ああ……ええっと、あの……僕にも、よく分からなくて。あの……えっと」
ニコニコと笑う兄様の笑顔が眩しいよ。だって、だって、そんなに期待をされても困るんだもの。
「本当に大した事じゃないんです。それにさっきも言ったけど、僕自身もよく分からないし」
「うん。大丈夫だよ。父上がエディから聞いた方がいいって言っていたからね。もしかしたら私がエディが分からない事が分かるかもしれないし」
そうかなぁ。でも兄様の人気があるのが嫌だって思ったって聞いたら、兄様も嫌な気持ちになっちゃうんじゃないかしら。
「ええっと…………ルシルのところに、ダニエル様達がやってくるようになって、色々な人が見に来たりして、それで、三人がカッコよくて、とても人気があるって聞いたんです」
「ダニー達が? ああ、うん。そうかもしれないね」
兄様は事も無げにそう答えた。
「それで、その…………三人と一緒にいる兄様もカッコいいから、兄様も人気があるのかなって思って」
「私が?」
考えてもみなかったというような顔をする兄様に、僕はどうしたらいいのかしらと思いつつ言葉を続けた。
「そう考えたら、どうしてだか分からないんだけど、なんだか嫌だなぁって思ってしまって」
「…………」
その途端黙り込んでしまった兄様に、僕はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。そうだよね。カッコよくて人気があるのが嫌だなんて言われたら、いい気持ちはしないものね。
「すみません……」
小さな声で謝ると兄様は「どうして?」って尋ねてきた。
「え?」
「どうしてエディは私の人気があると嫌だって思ったの?」
「わ、分かりません! でもなんだか分からないけど、胸の辺りがモヤモヤして、兄様がカッコいいのはいいけど、人気があるのは嫌だなって、わぁぁ!」
言葉が終わらないうちに僕は兄様に抱き締められていた。
「エディ、ダニエル達も人気があるのは嫌だって思った?」
「え? 別に思わなかったです」
すぐにそう答えると、兄様はとても嬉しそうに笑った。
「人気なんて関係ないよ。それよりもエディがカッコいいって思ってくれた方が私にとっては嬉しいな」
僕はどんどん顔が熱くなっていくのを感じながら、父様が言った通りだなって思った。
だけどどうして父様はこの話を僕に聞いた方がいいなんて言ったのかな。だって……
「兄様がカッコいいのは当たり前の事ですから」
「ふふふ、そうなんだ。でもエディも可愛いよ。うん、だけど確かにエディが可愛くて人気があるって言われたら、私も嫌だなって思ってしまうかもしれないな」
「アル兄様?」
「だって、エディが可愛いのは私が知っていればいい事だからね」
兄様は笑いながら紅茶を口にした。
そして僕は多分真っ赤になっている顔で「そうかもしれないな」って思いながら、クッキーをつまんだ。
どうしてだか分からなくてモヤモヤした気持ちはすっかりなくなって、僕はもう『人気』の事は考えなくなっていた。
僕が可愛いっていうのはともかく、兄様も同じように思うのだとしたら、ちっともおかしい事なんかないもの。
うん、そうだよね、兄様がカッコいいのは僕が知っていればいいんだから。
でも、いつまでも可愛いじゃなくて僕もカッコイイになれるように頑張ろう。
「今日のお菓子、美味しいですね」
そう言うと兄様はとびきりの笑顔を浮かべて「そうだね」って頷いた。
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3巻の中に出てくる『人気』の話の後日談です。
まるっと言いくるめられているエディ。
ふふふ
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