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番外編 それぞれの物語
幼なじみ①
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私、アシュトン・ラグラル・レイモンドはレイモンド家の嫡男として生まれた。
将来は大魔道師の家系であるレイモンド家を継いで、立派な大魔道師になる。そう決めていた。だがその夢は6歳にして破れる事になる。
「アシュトン・ラグラル・レイモンド様、6歳。魔法属性は土と火です」
二属性しかなかった。しかも魔法量もそれほど多くない。王国魔導騎士団の長であり、大魔導師の称号を持つ父に比べてなんて平凡、いや、これでは普通以下だ。土魔法は攻撃魔法が少なく戦闘には向かないと言われている。しかも、自分にはスキルと呼ばれるギフトもない。
涙が出た。せめて魔法量が大きければ、せめて火と水だったなら、、せめて何か一つでもギフトを授かっていれば……
あまりに落ち込む私に、父は魔法量は身体に負担のないように気をつければ増やせるし、基本属性だけでなく、取得出来る属性もあると言った。
それに縋るように鍛錬を繰り返したが、元の魔法量が少ないと増やす事も、新たな属性を取得する事も難しいと後に知る事になった。
そんな中、友人候補となってひと月に一度お茶会に招かれている王太子殿下の魔法鑑定の噂を耳にした。
王族は三属性が普通で、ギフトを授かる事も多いというのに、アレックス殿下は二属性で魔力量も普通。更にギフトも無い。
まるで自分の事を言われているような気持ちだった。次のお茶会で、当人はいつも通りの顔をしていた。それに違和感と苛立ちのようなものを感じたが、それよりも何よりも、裏では蔑んだような言葉を口にしている者が、それを隠してニコニコと話をしている様子に怒りを覚えた。
モヤモヤとした気持ちのまま過ごした1ヶ月。定例のお茶会で、アレックス殿下は私の鑑定の事を尋ねてきた。
誰かがそれとなく何か言ったのか。面倒な気持ちになりながら私はなんでもない事のように口を開いた。
「魔法鑑定? ああ、受けましたよ。私はハズレでした」
「ハズレ?」
「授かった属性は土と火。ギフトもなかったし、魔力量もそれほど多くはない。これでは魔導騎士隊に入る事は出来ません」
「え? どういう事?」
「どういうもこういうも、そういう事です。土魔法は攻撃魔法が少ないし、地味だって皆が言っている。しかも父上は四属性もあるのに私は二属性。皆は何も言わないけど、俺は知っている。後から属性を取るにしても取れるものと取れないものがある。それには魔力量が多くないと話にならない。魔力量を増やす事は出来るけどそんなに簡単じゃない。代々大魔導師の家系なのに、嫡子の俺はハズレだった」
もう、諦めて受け入れていた筈なのに、自分の言葉に悲しくなり、うっすらと浮かんだ涙を見られたくなくて俯くと、小さな、頼りない声が聞こえてきた。
「……二属性は、ハズレなの?」
「いや、一般的なものだと思う。後は魔力量と素質だ。どんな事をしても他属性を取得する。それでも……魔導騎士隊は難しいだろうなぁ」
影でコソコソと言うくらいなら、きちんと現実を教えた方がマシだ。少なくとも知らないままで何もせずに過ごすよりも、やる気があるなら足掻く事は出来る。
私が話した事を聞いて慌ててやってくる大人達が、殿下を私から離してどこかにつれていった。
これは叱られるだろうと思った途端名前を呼ばれ、顔を上げるとぎこちない笑みを浮かべた父がいた。
「アッシュ、帰ろうか」
「はい」
隠していたのだろう事をペロリと口にしてしまった、魔法鑑定をして間もない子供。
王太子の事は知らず、自分の事だけを話していた。それだけの事だ。私は狡賢しこくも殿下の鑑定については一言も口にはしなかった。
それでも父は私が確信犯である事を分かっていた筈だ。
馬車の中で怒る事もせずに黙って顔を見てくる父の眼差しに耐えきれずに、私は口を開いた。
「陰口を言うくらいなら、私だったら教えて欲しいと思ったんです。だって、知れば、どうにもならなくても足掻く事は出来るから。何も知らせずに裏で笑ったり蔑むような事を言うなんて最低だ」
私の言葉に父は「ああ、そうだね」と言った。それでも私の胸の中には苦い思いが広がって行く。
アレックス殿下は私の言葉に自分の鑑定に疑問を持つだろう。そうして、自分もハズレなのかと、周りに聞くかもしれない。
きっと、傷付くだろう。
でも、それでも、いつものように穏やかに笑っていてほしい。陰口なんか聞かずに、前を見て、何度も聞いた言葉を言ってほしいんだ。
そうしたら言うから。一緒に頑張ろうと。必ず、魔力量を増やして、他の属性を取得しようって。
翌月のお茶会では、私は殿下のそばに近寄ることは出来なかった。
それでも、彼はこちらを見てコクリと小さく頷いた。
その時に小さな声が聞こえたような気がしたんだ。
「アッシュ、私は良い王になるよ」
けれど、アレックス殿下のその言葉は、二つ下のシルヴァン殿下の魔法鑑定後に減ってきて、シルヴァン殿下が四属性を取得した以降は、全く聞かなくなった。
-------
アシュトンと王太子のお話始まりました。
将来は大魔道師の家系であるレイモンド家を継いで、立派な大魔道師になる。そう決めていた。だがその夢は6歳にして破れる事になる。
「アシュトン・ラグラル・レイモンド様、6歳。魔法属性は土と火です」
二属性しかなかった。しかも魔法量もそれほど多くない。王国魔導騎士団の長であり、大魔導師の称号を持つ父に比べてなんて平凡、いや、これでは普通以下だ。土魔法は攻撃魔法が少なく戦闘には向かないと言われている。しかも、自分にはスキルと呼ばれるギフトもない。
涙が出た。せめて魔法量が大きければ、せめて火と水だったなら、、せめて何か一つでもギフトを授かっていれば……
あまりに落ち込む私に、父は魔法量は身体に負担のないように気をつければ増やせるし、基本属性だけでなく、取得出来る属性もあると言った。
それに縋るように鍛錬を繰り返したが、元の魔法量が少ないと増やす事も、新たな属性を取得する事も難しいと後に知る事になった。
そんな中、友人候補となってひと月に一度お茶会に招かれている王太子殿下の魔法鑑定の噂を耳にした。
王族は三属性が普通で、ギフトを授かる事も多いというのに、アレックス殿下は二属性で魔力量も普通。更にギフトも無い。
まるで自分の事を言われているような気持ちだった。次のお茶会で、当人はいつも通りの顔をしていた。それに違和感と苛立ちのようなものを感じたが、それよりも何よりも、裏では蔑んだような言葉を口にしている者が、それを隠してニコニコと話をしている様子に怒りを覚えた。
モヤモヤとした気持ちのまま過ごした1ヶ月。定例のお茶会で、アレックス殿下は私の鑑定の事を尋ねてきた。
誰かがそれとなく何か言ったのか。面倒な気持ちになりながら私はなんでもない事のように口を開いた。
「魔法鑑定? ああ、受けましたよ。私はハズレでした」
「ハズレ?」
「授かった属性は土と火。ギフトもなかったし、魔力量もそれほど多くはない。これでは魔導騎士隊に入る事は出来ません」
「え? どういう事?」
「どういうもこういうも、そういう事です。土魔法は攻撃魔法が少ないし、地味だって皆が言っている。しかも父上は四属性もあるのに私は二属性。皆は何も言わないけど、俺は知っている。後から属性を取るにしても取れるものと取れないものがある。それには魔力量が多くないと話にならない。魔力量を増やす事は出来るけどそんなに簡単じゃない。代々大魔導師の家系なのに、嫡子の俺はハズレだった」
もう、諦めて受け入れていた筈なのに、自分の言葉に悲しくなり、うっすらと浮かんだ涙を見られたくなくて俯くと、小さな、頼りない声が聞こえてきた。
「……二属性は、ハズレなの?」
「いや、一般的なものだと思う。後は魔力量と素質だ。どんな事をしても他属性を取得する。それでも……魔導騎士隊は難しいだろうなぁ」
影でコソコソと言うくらいなら、きちんと現実を教えた方がマシだ。少なくとも知らないままで何もせずに過ごすよりも、やる気があるなら足掻く事は出来る。
私が話した事を聞いて慌ててやってくる大人達が、殿下を私から離してどこかにつれていった。
これは叱られるだろうと思った途端名前を呼ばれ、顔を上げるとぎこちない笑みを浮かべた父がいた。
「アッシュ、帰ろうか」
「はい」
隠していたのだろう事をペロリと口にしてしまった、魔法鑑定をして間もない子供。
王太子の事は知らず、自分の事だけを話していた。それだけの事だ。私は狡賢しこくも殿下の鑑定については一言も口にはしなかった。
それでも父は私が確信犯である事を分かっていた筈だ。
馬車の中で怒る事もせずに黙って顔を見てくる父の眼差しに耐えきれずに、私は口を開いた。
「陰口を言うくらいなら、私だったら教えて欲しいと思ったんです。だって、知れば、どうにもならなくても足掻く事は出来るから。何も知らせずに裏で笑ったり蔑むような事を言うなんて最低だ」
私の言葉に父は「ああ、そうだね」と言った。それでも私の胸の中には苦い思いが広がって行く。
アレックス殿下は私の言葉に自分の鑑定に疑問を持つだろう。そうして、自分もハズレなのかと、周りに聞くかもしれない。
きっと、傷付くだろう。
でも、それでも、いつものように穏やかに笑っていてほしい。陰口なんか聞かずに、前を見て、何度も聞いた言葉を言ってほしいんだ。
そうしたら言うから。一緒に頑張ろうと。必ず、魔力量を増やして、他の属性を取得しようって。
翌月のお茶会では、私は殿下のそばに近寄ることは出来なかった。
それでも、彼はこちらを見てコクリと小さく頷いた。
その時に小さな声が聞こえたような気がしたんだ。
「アッシュ、私は良い王になるよ」
けれど、アレックス殿下のその言葉は、二つ下のシルヴァン殿下の魔法鑑定後に減ってきて、シルヴァン殿下が四属性を取得した以降は、全く聞かなくなった。
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アシュトンと王太子のお話始まりました。
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