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番外編 それぞれの物語

イースティンの魔女⑥(ルーカス×マリー)

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「ねぇ、ジョシュア。ルーカスの様子がおかしいような気がするんだけど、何か聞いていない?」
「え!」
「何だか様子がおかしいんだ」
「…………ああ、そうですね」

 護衛についていたジョシュアは、エドワードからいきなりそう尋ねられて思わず言葉を濁した。

「ジョシュア、何か知っているんでしょう?」
「……何となくは。ですがそれを私の口からは言えません」
「ええ⁉ どうして?」
「ルーカスの個人的な事なので、私から言うのは憚られます」
「そう、なんだ。うん。分かったよ。何だか心配だけど、それならジョシュアから聞き出す事は出来ないね。直接本人に聞いてみよう」



 エドワードとそんなやりとりをした二日後、ジョシュアは何故かアルフレッドから呼び出しを受けていた。

「忙しい所すまないね。エディは本人たちに話を聞いたようなんだが、どうにも要領を得なくてね、多分本人たちよりも君に聞いた方が客観的な話が聞けるのではないかと思ったんだ。家令候補としているスティーブにも同席をしてもらうから、少し腹を割って話をしよう」
「あ、あの、しかし、個人的な話ですし……」
「実はエディが考えすぎて体調を崩してしまうのではないかと心配でね。何があったという事もそうだけれど、君の率直な意見も聞いてみたいと思ったんだよ。ああ、遠慮なく座って。私はここでは領主補佐役というお飾りのような権限しかないからね」

 ニコニコと笑ってそう言うフィンレーの次期当主であり、エドワードの夫でもあるアルフレッドを前にジョシュアは胸の中でルーカスに「すまん」と謝って溜め息を落とした。

「私が実際に見たわけではないので詳細は分かりませんし、それがどこまで真実なのかも分かりませんが」
「ああ、マリーからテオドールにイースティンの姓が無くても仕事を続けられるかという申し出があってね。その辺りがエディに直接伝わってしまうと、色々と大事になってしまいそうだからね。それも含めて私が動く事にしたんだよ。勿論ルーカス本人にも会ったんだがどうにも悲観的でね。私としては客観的に出来れば分かりやすく解説をしてほしいと思っているんだ」
「…………そうですか。では私が知る範囲内で」

 ジョシュアはそう言ってまずはマリーが学園を去る事になった話とルーカスがそこまで遡って反省をしていた話を聞かせた。そうして更に……

「四日前にマリアンナさんの兄がやって来た話はお聞きになっていますか?」
「ああ、テオドール経由でね」
「はい。そこにルーカスがたまたま通りかかって、責められているような彼女を庇ったそうなのです。それで、まぁ、焚きつける様な事を言っていたのは私なのですが、どうやら話の流れで、ルーカスがマリアンナさんに自分では駄目だろうかと、幸せに出来ないかとようやく告白らしきものをしたようなのですが、彼女からは誰とも結婚をする意思がないと言われたようでして」
「なるほど」
「ですが、単純にふられたとか、そういうものでもないのです。彼女は先ほど申し上げたように弟さんの一件で『イースティンの魔女』と呼ばれていました。学園も初等部でやめて祖父母を頼り、エドワード様の侍女としてハーヴィンに入ったと聞いてます。ええっと、ハーヴィンでの『首』の調査の時に彼女の魔法があまりにも高度で、魔導騎士達の中で色々と噂になったのです。私は、ルーカスと彼女とエドワード様が追いかけっこをしている姿がとても好きでした。彼女は彼女でおそらくは拭いようのない傷を持っているのだろうと思います。が、ルーカスはルーカスで、トラウマのようなものを持っている」
「トラウマ?」
「私の、推察をお話ししてもよろしいですか?」
「聞こう」

 アルフレッドの返事を聞いてジョシュアはルーカスの家の事を話し出した。

「ルーカスはヒューイット家とは縁が切れているような事を時々言います。早く出たかったという様な事も聞きました。ヒューイット家は子爵家の中でも強い魔導士を出してきた家です。魔導騎士というよりも魔導士を輩出する家系と聞いた事があります。領が比較的近くだったのと、年もそれほど大きく離れていなかった事もあって、ヒューイット家の噂は私の耳にも届いた事があります。三男は魔力量の少ない外れの子だと。おそらくは6歳の魔法鑑定後からそのような事が言われていたのでしょう。彼にとって魔力量が少ない事は汚点でした。ですが、簡単には魔力量は増えません。その為剣の腕を磨き、身体強化も手に入れ、身体と技を鍛えたのだと思います。ですが、ヒューイット家としてはそれは認めるに値しないものだったのでしょう。きちんとした師につかず、スタンリーの自領騎士になれるというのはその才があった証ですが。断られた後に彼が彼女に言った言葉が全てです。お聞きになっておられますか?」
「いや。そこまでは」
「自分にそんな事が出来る筈がないと。元よりあの日何も出来なかった自分にそんな資格はないと言ったらしいです。それは、その、マリアンナさんから聞きました」
「マリーが、君にルーカスの事を聞きにいったのかい?」
「ええ、どうもルーカスの表情と言葉が気になったようでして。その後もどうやら彼女と顔を合わせていないようで……」
「……なるほど。とりあえずは分かった。確かに聞きにくいし、話しにくい内容だったね。だが私もエディも、マリーを『イースティンの魔女』から解放をしてやりたいと思うし、幸せになってほしいと願っている。そして同じように、スタンリーを離れてエディの護衛を続けてくれたルーカスにもね。二人が一緒になる事だけが幸せだとは思うわないけれど、二人ともエディにとっては家族のようなものだろうからね。私も少し考えてみよう」
「ありがとうございます」
 

 立ち上がって頭を下げたジョシュアに、アルフレッドはニッコリと笑って「色々とありがとう」と言った。そして……

「ところでジョシュアは誰かいい人がいないの?」
「……あ~~、まぁ、縁ですからね」
「うん。ではそう言う事にしておこう」

 部屋を出たジョシュアは深い息を吐いて「これは大きな貸しだぞ、ルーカス」と呟いた。

 
  ◇ ◇ ◇ 


 アルフレッドは事の顛末をかいつまんでエドワードに話した。エドワードは思っていた通りに泣き出して、アルフレッドが予想したようにマリーにもルーカスにも幸せになってほしいと言った。
 だが、やはりエディはエディだったとアルフレッドがそう思ったのはその一月後の三の月。友人のトーマスの結婚式が終わってからすぐの事だった。

 「マリーに見てほしいものがあるんだ」そう言ってエドワードは笑った。勿論アルフレッドも一緒に行くついて行く事になり、護衛にはルーカスとジョシュアとアルフレッドの護衛二名が付き添う事になった。領主とフィンレーの次期当主の外出と考えると恐ろしいほどの少なさだが、エディはそれでいいと引かなかった。

「本当はね、もう少し後に予定をしていたんだけど、色々とお願いをしていたら妖精たちまでが手伝いをしてくれたみたいで。ふふふ、いつかマリーを驚かそうって思っていたんだよ」

 そう言ってエドワードは転移を使わず一リィル(一時間)ほど馬車に乗ってから「こっちだよ」と嬉しそうに駆け出した。

「エディ! 護衛と一緒にね!」
「マリーが居るから大丈夫ですよ、に、アル」

 振り返ってそう言うとエドワードはそのまま細い道をどんどん進んで行ってしまう。

「ルーカス、出来るだけエディの近くに居てくれ。マリーに話があると言っているが、屋敷外だからね」
「はい」

 二人の後をルーカスが追い駆けていくのを見てアルフレッドはジョシュアに「さて、私たちはエディの為に不器用な二人の背中を押さなければね」と言った。あくまでもエドワードの為なのだなと胸の中で笑って、ジョシュアは「分かりました」と答えた。


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次回で終わります(=_=)
兄様の性格が父様と母様を足して二で割ったような感じを想定中。
 
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