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第9章 幸せになります
421. 幸せになりました!
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九の月、ルシルのリュミエール領は魔素砂漠の畑で二度目の麦の収穫をした。その後は一度目の畑と同じようにお休みをさせて、同じ月の半ば過ぎ頃に一度目の畑に種を蒔いた。一度目の畑で獲れた麦だ。
今までは僕の温室で育てていた苗を使っているからね。
これで来年、うまく収穫が出来たなら少しずつ、やってみたいと思う者たちに配っていくらしい。
収穫の後、ルシルは約束通りにシルヴァン様のプロポーズを受けた。受けたんだけど、婚約式はこの麦が来年の一の月の終わりに収穫出来たらなんだって。
なんだか大変。でもそれでいいって言われたって。良かったね、ルシル。
トーマス君の所も新しい土地で頑張っているみたいだよ。結婚の前は不安になる事もあったけれど、新しい土地も色々なものがあって、楽しいよって何度か話しに来てくれた。
あとね、お祖父様がトーマス君の結婚祝いに温室をプレゼントしたんだよ。勿論一棟だけの普通の大きさの温室。
トーマス君は泣いて喜んで、早速薬草を育てているんだ。
ポーションもモーリスのダンジョンのスタンピードの時にカーライルを通してやりとりがあったから、卸先も出来て、二人の住むオルウェンの街の大きな収入源になりそうだって。
エリック君の所は赤ちゃんが出来たって連絡が来たよ! 何だかドキドキしちゃった。すごいなぁ、僕の友達にお父さんになる人が出来るんだね。
それからレナード君からも連絡が来た。婚約をしたって書いてあったよ。四つ下の子爵令嬢だって。
エターナルレディの薬が出来て、『首』が封印をされてから、少しずつだけど女の子の出生率も上がってきた。まだ割合的には男性の方が多いけれど、こんな風に少しずつ色々な事が変わっていくのかもしれないなって思った。
-*-*-*-
そうして翌年の春、三の月の終わり。ついにあの実が出来た!
渡された時はまだ緑色で硬い実だったけど、多分これで熟したんだよね? っていう実は、少し硬いゴツゴツした赤い実だった。大きさは小ぶりのリンゴくらいかな。
シャマル様とダリウス叔父様は前回と同じように、父様と一緒にフィンレーからやってきた。
そう言えば以前シャマル様が何か言っていたのは、シェルバーネの国の騎士の誓いみたいなものだったんだって。
シェルバーネは軍神を祀る国だから、騎士ではなくて、戦士とか兵士って呼ばれていて、シャマル様がしたのはその戦士の誓約っていうものだったらしい。よく分からないけれど、兄様は「人の伴侶にいきなり誓約をするなど有りえない」ってちょっと怒っていたよ。シャマル様にとっては最大級のお礼みたいなものだったらしいけど。
ともあれ、その後は何もなく、前回と同じような感じでグリーンベリーにやってきた二人は、今回は父様だけではなく、その後にお祖父様とハワード先生、そしてニールデン公爵様と魔導士のローブを目深に被った人もやってきてビックリしてしまった。
とりあえず皆でマルリカの実が植えてある温室に行って、生っている実を見て、その後サロンに移動してから収穫したマルリカの実は今回は提供をしたエルグランドが全て買い取る事と、今後はフィンレーが窓口になる事を決めた。あと、シャマル様は親戚関係の場合は他国からでも、転移陣などを使って行き来が可能にしてほしいという要求も出していたけど、それはまずは国に出さないといけない案件じゃないのかなって思ったよ。
だけど父様もニールデン様も、ハワード先生も、その事は何も言わず、何故か魔導士さんが「考えよう」って言っていた。
これからの事についての話では「次の実も、お使いにならないようでしたらこちらで買い取らせていただきたい」
って言うシャマル様に魔導士さんが「フィンレーを通してやりとりをしましょう」って言った。
あれ? どこかで聞いた事があるような気がする声なんだけど、どこで聞いたんだろう。
僕が訝し気な表情を浮かべたら、兄様が背中をトントンってしてくれた。うん? 考えないでも大丈夫って事かな。
とりあえず、マルリカの実の事はまた後できちんとした書類を作って細かく色々決めていく事になった。白いイチゴのやりとりみたいに簡単にはいかないみたい。
やっぱりシェルバーネから持ち込まれたものを僕の温室で育てたっていうのが、色々と面倒な事になったのかなって、兄様にそっと聞いてみたら「多分違うと思うよ」って。
マルリカの実は、普通は実が出来るようになるまでに二年くらいかかるってシャマル様が言っていた。そして実は一年に一度しか生らないらしい。
シャマル様は苗木がもう少しおおきくなったら何本か譲ってほしいって言っていた。
父様達は少し難しい顔をしていた。
僕がこの実が一体なんなのか。どうやって、何の為に使うのかを知るのはもう少し先の事。
-*-*-*-*-
「わぁ! すごいです! アル、見て下さい。こんなに沢山の麦が風に揺れていますよ!」
シェルバーネで実験をしていた小麦は、ニ度失敗をして三度目の実験となっていた。
砂漠の温度差が僕が思っていたよりもひどかったんだ。暑さを考えて最初はニの月の始めに植えて本格的な夏の前には収穫って思っていたんだけど、最初の小麦は四の月に枯れた。そして改良をして今度は翌年の春、三の月に植えた。でも夏前の六の月には全て枯れていた。ダリウス叔父様とシャマル様は「やはり死の砂漠なのか」って言ったけれど、百年以上何も育たなかった所だもん。一度や二度の失敗で諦めないって思ったよ。
そうして改良に改良を重ねた三度目の挑戦は五の月の終わりにした。初夏と呼ばれるような季節に植えたその小麦は、魔素が変化したと言われる砂漠で、少し時間はかかったけれど今度こそしっかりと根を張った。
父様と兄様には反対されたけれど、連絡が来て、どうしても見たくてフィンレー家とエルグランド家に設置した魔法陣を使って麦畑を見に来ているんだ。
初めての他国。フィンレーやグリーンベリーとは全く異なる日の光。
九の月に入ったばかりの砂漠の地はまだまだ夏のような暑さだ。その中で、麦は風に吹かれて青い穂を揺らしていた。
「エディ、危ないよ! それから約束を守ってね」
「はい! 大丈夫です!」
そう。来る前に約束をしたのは、絶対にお祈りをしないっていう事。でもお祈りをしなくても大丈夫。だってこんなにも青々とした綺麗な麦がフィンレーと同じように風に吹かれているんだもの。
「ふふふ、綺麗だなぁ。黄金色の麦も綺麗だけど、この瑞々しい緑色の麦が広がっている風景がやっぱり好きです」
「そうだね。でも、私はエディの瞳の色の方が綺麗で、好きだなって思う」
「…………っ……あ、アル」
思わず赤くなってしまった顔に、兄様が笑いながら掠めるように口づけると、周りの大人たちは見てみぬ振りをしてくれた。
「エディの夢が、一つ一つ形になっていくね」
兄様の金色の髪が風に揺れている。僕を見つめているずっとずっと大好きな優しいブルーの瞳。
「エディが、頑張ってきた証拠だ」
「……兄様が、いてくれたからです」
「エディ?」
最近にしては珍しく僕が兄様って言って、言い直しもせずにいたから、兄様は少しだけ驚いたような顔をした。
「兄様が、アルが居てくれて良かった。最強の味方で、僕の騎士様」
「……うん。そうだね、でももう一つ加えて? 愛する旦那様っていうのはどう?」
兄様がそう言って、僕達はふふって笑って頷いた。そうだ。それもちゃんと加えなきゃ。
「今度はこの麦を使って種を蒔いて育てましょう。この風景をこの国の人達が忘れずに、守っていこうって思ってくれたら大丈夫です」
「そうだね。きっと、大丈夫だ」
僕たちは青い麦畑を見つめて、そしてそっと口を開いた。
「……安心したらお腹が空きました。フィンレーに戻りましょうか」
「ああ、そうだね。フィンレーに帰ろう」
畑の向こうで「食事くらいしていきなさい」っていうダリウス叔父様の声が聞こえる。
どうしても一緒に行くと畑まで付いてきたシャマル様も「そうだよ」って言っている。
でもね、この麦畑を見たら、無性にフィンレーの麦畑が見たくなってしまったんだ。そしてやっぱり僕は皆がいるルフェリットに居たいなって思ったよ。
「アル兄様……」
「うん?」
「大好き」
子供のようにそう言うと、兄様は笑って「私もエディの事が大好きだよ」って答えた。そうして二人で手を繋いで、日の光にキラキラと輝く麦畑の脇をゆっくりと歩いた。
さぁ、フィンレーに帰ろう。
そして、今の僕達のいる場所。グリーンベリーに戻ろう。
この幸せな気持ちを抱えたまま。
「また来ますね。麦畑を見せて下さってありがとうございました。それから……えっと、げ、元気な赤ちゃんが、生まれます様に」
「ありがとう、エディ君。春になったら顔を見せに行くよ」
エルグランドの屋敷に戻って、お茶とお菓子だけご馳走になって、僕達はフィンレーに繋がっている転移陣の前で二人に挨拶をした。
お腹が大きくなってきはじめたシャマル様のとろけるような笑顔と、少し照れたようなダリウス叔父様の顔。
そんな二人に見送られて、僕たちはフィンレーに戻って来た。
「やっぱり落ち着きます」
「うん。そうだね。お帰り、エディ」
「ふふふ、ただいま。アル」
転移陣の前で一つ口付けをして、二人でもう一度笑った。
「こんなに早く戻って来たって知ったら父上も母上も驚くだろうね」
「はい。でもきっと、笑ってお帰りって言ってくれますよ」
本邸に向かって麦畑にいた時のように手を繋いで歩く。
僕は…………
「ああ、きっとね」
「はい」
『悪役令息』にならなかったので…………
「挨拶と報告をしたら、フィンレーの麦畑を見てからグリーンベリーに帰ろう」
「……! やっぱりアル兄様は僕のしたい事がちゃんと分かっちゃうんですね」
「ふふふ、勿論! 愛する妻の事だからね」
兄様と、幸せになりました。
fin
---------------
ご拝読、ありがとうございました。
今までは僕の温室で育てていた苗を使っているからね。
これで来年、うまく収穫が出来たなら少しずつ、やってみたいと思う者たちに配っていくらしい。
収穫の後、ルシルは約束通りにシルヴァン様のプロポーズを受けた。受けたんだけど、婚約式はこの麦が来年の一の月の終わりに収穫出来たらなんだって。
なんだか大変。でもそれでいいって言われたって。良かったね、ルシル。
トーマス君の所も新しい土地で頑張っているみたいだよ。結婚の前は不安になる事もあったけれど、新しい土地も色々なものがあって、楽しいよって何度か話しに来てくれた。
あとね、お祖父様がトーマス君の結婚祝いに温室をプレゼントしたんだよ。勿論一棟だけの普通の大きさの温室。
トーマス君は泣いて喜んで、早速薬草を育てているんだ。
ポーションもモーリスのダンジョンのスタンピードの時にカーライルを通してやりとりがあったから、卸先も出来て、二人の住むオルウェンの街の大きな収入源になりそうだって。
エリック君の所は赤ちゃんが出来たって連絡が来たよ! 何だかドキドキしちゃった。すごいなぁ、僕の友達にお父さんになる人が出来るんだね。
それからレナード君からも連絡が来た。婚約をしたって書いてあったよ。四つ下の子爵令嬢だって。
エターナルレディの薬が出来て、『首』が封印をされてから、少しずつだけど女の子の出生率も上がってきた。まだ割合的には男性の方が多いけれど、こんな風に少しずつ色々な事が変わっていくのかもしれないなって思った。
-*-*-*-
そうして翌年の春、三の月の終わり。ついにあの実が出来た!
渡された時はまだ緑色で硬い実だったけど、多分これで熟したんだよね? っていう実は、少し硬いゴツゴツした赤い実だった。大きさは小ぶりのリンゴくらいかな。
シャマル様とダリウス叔父様は前回と同じように、父様と一緒にフィンレーからやってきた。
そう言えば以前シャマル様が何か言っていたのは、シェルバーネの国の騎士の誓いみたいなものだったんだって。
シェルバーネは軍神を祀る国だから、騎士ではなくて、戦士とか兵士って呼ばれていて、シャマル様がしたのはその戦士の誓約っていうものだったらしい。よく分からないけれど、兄様は「人の伴侶にいきなり誓約をするなど有りえない」ってちょっと怒っていたよ。シャマル様にとっては最大級のお礼みたいなものだったらしいけど。
ともあれ、その後は何もなく、前回と同じような感じでグリーンベリーにやってきた二人は、今回は父様だけではなく、その後にお祖父様とハワード先生、そしてニールデン公爵様と魔導士のローブを目深に被った人もやってきてビックリしてしまった。
とりあえず皆でマルリカの実が植えてある温室に行って、生っている実を見て、その後サロンに移動してから収穫したマルリカの実は今回は提供をしたエルグランドが全て買い取る事と、今後はフィンレーが窓口になる事を決めた。あと、シャマル様は親戚関係の場合は他国からでも、転移陣などを使って行き来が可能にしてほしいという要求も出していたけど、それはまずは国に出さないといけない案件じゃないのかなって思ったよ。
だけど父様もニールデン様も、ハワード先生も、その事は何も言わず、何故か魔導士さんが「考えよう」って言っていた。
これからの事についての話では「次の実も、お使いにならないようでしたらこちらで買い取らせていただきたい」
って言うシャマル様に魔導士さんが「フィンレーを通してやりとりをしましょう」って言った。
あれ? どこかで聞いた事があるような気がする声なんだけど、どこで聞いたんだろう。
僕が訝し気な表情を浮かべたら、兄様が背中をトントンってしてくれた。うん? 考えないでも大丈夫って事かな。
とりあえず、マルリカの実の事はまた後できちんとした書類を作って細かく色々決めていく事になった。白いイチゴのやりとりみたいに簡単にはいかないみたい。
やっぱりシェルバーネから持ち込まれたものを僕の温室で育てたっていうのが、色々と面倒な事になったのかなって、兄様にそっと聞いてみたら「多分違うと思うよ」って。
マルリカの実は、普通は実が出来るようになるまでに二年くらいかかるってシャマル様が言っていた。そして実は一年に一度しか生らないらしい。
シャマル様は苗木がもう少しおおきくなったら何本か譲ってほしいって言っていた。
父様達は少し難しい顔をしていた。
僕がこの実が一体なんなのか。どうやって、何の為に使うのかを知るのはもう少し先の事。
-*-*-*-*-
「わぁ! すごいです! アル、見て下さい。こんなに沢山の麦が風に揺れていますよ!」
シェルバーネで実験をしていた小麦は、ニ度失敗をして三度目の実験となっていた。
砂漠の温度差が僕が思っていたよりもひどかったんだ。暑さを考えて最初はニの月の始めに植えて本格的な夏の前には収穫って思っていたんだけど、最初の小麦は四の月に枯れた。そして改良をして今度は翌年の春、三の月に植えた。でも夏前の六の月には全て枯れていた。ダリウス叔父様とシャマル様は「やはり死の砂漠なのか」って言ったけれど、百年以上何も育たなかった所だもん。一度や二度の失敗で諦めないって思ったよ。
そうして改良に改良を重ねた三度目の挑戦は五の月の終わりにした。初夏と呼ばれるような季節に植えたその小麦は、魔素が変化したと言われる砂漠で、少し時間はかかったけれど今度こそしっかりと根を張った。
父様と兄様には反対されたけれど、連絡が来て、どうしても見たくてフィンレー家とエルグランド家に設置した魔法陣を使って麦畑を見に来ているんだ。
初めての他国。フィンレーやグリーンベリーとは全く異なる日の光。
九の月に入ったばかりの砂漠の地はまだまだ夏のような暑さだ。その中で、麦は風に吹かれて青い穂を揺らしていた。
「エディ、危ないよ! それから約束を守ってね」
「はい! 大丈夫です!」
そう。来る前に約束をしたのは、絶対にお祈りをしないっていう事。でもお祈りをしなくても大丈夫。だってこんなにも青々とした綺麗な麦がフィンレーと同じように風に吹かれているんだもの。
「ふふふ、綺麗だなぁ。黄金色の麦も綺麗だけど、この瑞々しい緑色の麦が広がっている風景がやっぱり好きです」
「そうだね。でも、私はエディの瞳の色の方が綺麗で、好きだなって思う」
「…………っ……あ、アル」
思わず赤くなってしまった顔に、兄様が笑いながら掠めるように口づけると、周りの大人たちは見てみぬ振りをしてくれた。
「エディの夢が、一つ一つ形になっていくね」
兄様の金色の髪が風に揺れている。僕を見つめているずっとずっと大好きな優しいブルーの瞳。
「エディが、頑張ってきた証拠だ」
「……兄様が、いてくれたからです」
「エディ?」
最近にしては珍しく僕が兄様って言って、言い直しもせずにいたから、兄様は少しだけ驚いたような顔をした。
「兄様が、アルが居てくれて良かった。最強の味方で、僕の騎士様」
「……うん。そうだね、でももう一つ加えて? 愛する旦那様っていうのはどう?」
兄様がそう言って、僕達はふふって笑って頷いた。そうだ。それもちゃんと加えなきゃ。
「今度はこの麦を使って種を蒔いて育てましょう。この風景をこの国の人達が忘れずに、守っていこうって思ってくれたら大丈夫です」
「そうだね。きっと、大丈夫だ」
僕たちは青い麦畑を見つめて、そしてそっと口を開いた。
「……安心したらお腹が空きました。フィンレーに戻りましょうか」
「ああ、そうだね。フィンレーに帰ろう」
畑の向こうで「食事くらいしていきなさい」っていうダリウス叔父様の声が聞こえる。
どうしても一緒に行くと畑まで付いてきたシャマル様も「そうだよ」って言っている。
でもね、この麦畑を見たら、無性にフィンレーの麦畑が見たくなってしまったんだ。そしてやっぱり僕は皆がいるルフェリットに居たいなって思ったよ。
「アル兄様……」
「うん?」
「大好き」
子供のようにそう言うと、兄様は笑って「私もエディの事が大好きだよ」って答えた。そうして二人で手を繋いで、日の光にキラキラと輝く麦畑の脇をゆっくりと歩いた。
さぁ、フィンレーに帰ろう。
そして、今の僕達のいる場所。グリーンベリーに戻ろう。
この幸せな気持ちを抱えたまま。
「また来ますね。麦畑を見せて下さってありがとうございました。それから……えっと、げ、元気な赤ちゃんが、生まれます様に」
「ありがとう、エディ君。春になったら顔を見せに行くよ」
エルグランドの屋敷に戻って、お茶とお菓子だけご馳走になって、僕達はフィンレーに繋がっている転移陣の前で二人に挨拶をした。
お腹が大きくなってきはじめたシャマル様のとろけるような笑顔と、少し照れたようなダリウス叔父様の顔。
そんな二人に見送られて、僕たちはフィンレーに戻って来た。
「やっぱり落ち着きます」
「うん。そうだね。お帰り、エディ」
「ふふふ、ただいま。アル」
転移陣の前で一つ口付けをして、二人でもう一度笑った。
「こんなに早く戻って来たって知ったら父上も母上も驚くだろうね」
「はい。でもきっと、笑ってお帰りって言ってくれますよ」
本邸に向かって麦畑にいた時のように手を繋いで歩く。
僕は…………
「ああ、きっとね」
「はい」
『悪役令息』にならなかったので…………
「挨拶と報告をしたら、フィンレーの麦畑を見てからグリーンベリーに帰ろう」
「……! やっぱりアル兄様は僕のしたい事がちゃんと分かっちゃうんですね」
「ふふふ、勿論! 愛する妻の事だからね」
兄様と、幸せになりました。
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