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第9章 幸せになります
418.グリーンベリーでのお披露目
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結婚式から一週間。僕と兄様は予定通りグリーンベリーで結婚のお披露目会を開いた。まずは領都リヒトの神殿で結婚報告。
別にフィンレーのように領の神様がいらっしゃるわけではないけど、こちらでもよろしくお願いしますっていう気持ちを込めてルフェリットの神様にお祈りをしたよ。
それから執務用の建物の近くに新しく建てた、宿泊できる部屋を兼ね備えた、大きな集まりが出来るホールとサロンがある建物に異動。
屋敷内に普段の付き合いがない者を入れるというのはやっぱりやめた方が良いと色々な人から言われて、それなら他の人も使えるようなものを作ってしまえばいいって決まって、あれよあれよと出来上がった。うん。またまたお祖父様達の土魔法チームの人たちが大活躍だよ。
もっとも一度に沢山の人が入る建物だから土魔法だけで建てるのではなく、きちんとした建設業の人たちも入った。だけど魔法で行えるところは全て魔法。装飾もスキルを持っている人がどんどんやってくれたから普通なら考えられないような日数で出来上がったんだ。
とにかく、その三階のホールに作られたバルコニーからお祝いに集まってくれた街の人たちに手を振ってご挨拶。ううう……恥ずかしいけど領主の結婚なんだからそれくらいして当然ですってテオに言われたの。
そうしてお昼を過ぎた頃から色々な街の有力者たちがやってきた。
一人一人のご挨拶は出迎えで簡単にさせてもらって、とりあえずは中に入ってもらって報告。
ちょうど一週間前に王都の聖神殿の聖堂で結婚式を挙げて、神様に報告、誓いを交わして夫婦になりましたっていうとホールの中から拍手が起きた。
「グリーンベリー領として始まったばかりでの報告ですが、メイソン侯爵が大切にしてこられたこの領を、私なりに精一杯豊かにしていけたらと思っています。これからもよろしくお願いします。それでは祝宴の料理を用意いたしましたので、どうぞお召し上がりください」
報告と挨拶が終わって食事が始まった。と言っても今回はきちんとしたコース料理ではなく、立食となっている。椅子とテーブルは用意しているけど、色々なところで話が出来るように場所は決められていないんだ。
僕と兄様は人が集まっているような所に足を向けたり、挨拶に来られた人たちに対応をしながら過ごしていた。
緩やかな音楽が流れ、料理は途切れることなく用意をされて、お酒もそれなりに開けられて、会は和やかに終盤にさしかかり、そろそろデザートを増やしていこうかと裏方が考えているような時だった。
「領主様、ご挨拶をさせていただきます」
そう言ってやってきたのは見覚えのない初老の男だった。
「ジルカレの街の長をしております、ナザールと申します。ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、ナザール」
ジルカレの街は農村地域の中でも大きな街だ。早い段階で視察にも行っている。その時に会っていなかっただろうか。そう思っていると男は頭を上げて話し出した。
「このような祝いの席ですが、一つお聞きしたい事があり、不敬を承知でお話させていただきます。領主様は先程、これからも、と仰った。ですが、伴侶となられたお方はフィンレー公爵家の次期当主となられるお方。領主様はこの先の事はお話になられなかった。ご伴侶様がフィンレーのご当主になられれば、貴方様はフィンレーの当主夫人。そうなられてもこの領の領主としていただけるのでしょうか」
「ナザール、その話はまた改めて」
僕は戸惑いながらもそう言ったが、男は首を横に振った。
「いえ、是非とも今お考えになっていらっしゃる事をお聞かせ頂きたい。本日ここに集まっている街の長となる者達は祝いの気持ちは勿論ございますが、それ以上に始まったばかりの領がどうなるのか不安で、何か話があるのではと来ている者達が多い。祝いの席で尋ねるべき事ではなく、ましてや高位の貴族様にこのように話をする事も処罰となるという事は承知しています。ですが、未成年で叙爵したばかり。正直迷った。けれど住み慣れた土地を捨てて一から新しい土地で始める事も不安だった。だから、噂にかけてみた。フィンレーに伝わる話と同じ力を持っているのではないかという貴方の噂に。それなのにすぐにフィンレーの次期当主とのご結婚。この領の事を今後どのように」
「ナザール、このような席で失礼ですよ」
口を挟んだのは、子爵位を持つ、領都リヒトの街の長だった。
「処罰も厭わん!」
けれど興奮状態になっている男は引かず僕を見た。どうやってこの場を収めるか。そう考えた途端、兄様が僕の前に出た。
「ナザール、どのような思いがあれ、この場で領主に対して今後どうするのかと詰め寄る行為はあってはならない。それを許せばこの領の領主は領民を御することも出来ぬのかと、他領の笑いものになり、今後領主を軽んじる者も出てくるだろう。一個人の処罰で済まされるものではなくなる」
兄様の言葉に男はバツが悪そうな表情を浮かべた。
「ただ、一つだけ言える事は、お前が問うた事はフィンレーにも関わる事。この場でグリーンベリーの領主が答えられるものでは無い。そして、領を思い、今後の領を思う気持ちがあるならば、領主の力に頼るのではなく、自らが領主の支えとなるべく、街をどのようにしてゆきたいのか、改めて書状の提出を。グリーンベリーの領主であり、私が選んだ伴侶は、それに耳を貸さぬような者では無い。それだけだ。さて、そろそろ自慢のデザートが出てくるだろう」
そう言って振り返った兄様に僕は「はい」と頷した。
「これからお出しする白いイチゴはゆくゆくはこのグリーンベリーの特産として行きたいと思っています。まだ改良するつもりですが、そんな風に私もグリーンベリーを育てて行きたい。そんな思いで時間をかけてきました。是非お召し上がりください」
運ばれてきたイチゴにホールの中から感嘆の声が漏れて、どこからともなく拍手が沸き起こった。
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別にフィンレーのように領の神様がいらっしゃるわけではないけど、こちらでもよろしくお願いしますっていう気持ちを込めてルフェリットの神様にお祈りをしたよ。
それから執務用の建物の近くに新しく建てた、宿泊できる部屋を兼ね備えた、大きな集まりが出来るホールとサロンがある建物に異動。
屋敷内に普段の付き合いがない者を入れるというのはやっぱりやめた方が良いと色々な人から言われて、それなら他の人も使えるようなものを作ってしまえばいいって決まって、あれよあれよと出来上がった。うん。またまたお祖父様達の土魔法チームの人たちが大活躍だよ。
もっとも一度に沢山の人が入る建物だから土魔法だけで建てるのではなく、きちんとした建設業の人たちも入った。だけど魔法で行えるところは全て魔法。装飾もスキルを持っている人がどんどんやってくれたから普通なら考えられないような日数で出来上がったんだ。
とにかく、その三階のホールに作られたバルコニーからお祝いに集まってくれた街の人たちに手を振ってご挨拶。ううう……恥ずかしいけど領主の結婚なんだからそれくらいして当然ですってテオに言われたの。
そうしてお昼を過ぎた頃から色々な街の有力者たちがやってきた。
一人一人のご挨拶は出迎えで簡単にさせてもらって、とりあえずは中に入ってもらって報告。
ちょうど一週間前に王都の聖神殿の聖堂で結婚式を挙げて、神様に報告、誓いを交わして夫婦になりましたっていうとホールの中から拍手が起きた。
「グリーンベリー領として始まったばかりでの報告ですが、メイソン侯爵が大切にしてこられたこの領を、私なりに精一杯豊かにしていけたらと思っています。これからもよろしくお願いします。それでは祝宴の料理を用意いたしましたので、どうぞお召し上がりください」
報告と挨拶が終わって食事が始まった。と言っても今回はきちんとしたコース料理ではなく、立食となっている。椅子とテーブルは用意しているけど、色々なところで話が出来るように場所は決められていないんだ。
僕と兄様は人が集まっているような所に足を向けたり、挨拶に来られた人たちに対応をしながら過ごしていた。
緩やかな音楽が流れ、料理は途切れることなく用意をされて、お酒もそれなりに開けられて、会は和やかに終盤にさしかかり、そろそろデザートを増やしていこうかと裏方が考えているような時だった。
「領主様、ご挨拶をさせていただきます」
そう言ってやってきたのは見覚えのない初老の男だった。
「ジルカレの街の長をしております、ナザールと申します。ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、ナザール」
ジルカレの街は農村地域の中でも大きな街だ。早い段階で視察にも行っている。その時に会っていなかっただろうか。そう思っていると男は頭を上げて話し出した。
「このような祝いの席ですが、一つお聞きしたい事があり、不敬を承知でお話させていただきます。領主様は先程、これからも、と仰った。ですが、伴侶となられたお方はフィンレー公爵家の次期当主となられるお方。領主様はこの先の事はお話になられなかった。ご伴侶様がフィンレーのご当主になられれば、貴方様はフィンレーの当主夫人。そうなられてもこの領の領主としていただけるのでしょうか」
「ナザール、その話はまた改めて」
僕は戸惑いながらもそう言ったが、男は首を横に振った。
「いえ、是非とも今お考えになっていらっしゃる事をお聞かせ頂きたい。本日ここに集まっている街の長となる者達は祝いの気持ちは勿論ございますが、それ以上に始まったばかりの領がどうなるのか不安で、何か話があるのではと来ている者達が多い。祝いの席で尋ねるべき事ではなく、ましてや高位の貴族様にこのように話をする事も処罰となるという事は承知しています。ですが、未成年で叙爵したばかり。正直迷った。けれど住み慣れた土地を捨てて一から新しい土地で始める事も不安だった。だから、噂にかけてみた。フィンレーに伝わる話と同じ力を持っているのではないかという貴方の噂に。それなのにすぐにフィンレーの次期当主とのご結婚。この領の事を今後どのように」
「ナザール、このような席で失礼ですよ」
口を挟んだのは、子爵位を持つ、領都リヒトの街の長だった。
「処罰も厭わん!」
けれど興奮状態になっている男は引かず僕を見た。どうやってこの場を収めるか。そう考えた途端、兄様が僕の前に出た。
「ナザール、どのような思いがあれ、この場で領主に対して今後どうするのかと詰め寄る行為はあってはならない。それを許せばこの領の領主は領民を御することも出来ぬのかと、他領の笑いものになり、今後領主を軽んじる者も出てくるだろう。一個人の処罰で済まされるものではなくなる」
兄様の言葉に男はバツが悪そうな表情を浮かべた。
「ただ、一つだけ言える事は、お前が問うた事はフィンレーにも関わる事。この場でグリーンベリーの領主が答えられるものでは無い。そして、領を思い、今後の領を思う気持ちがあるならば、領主の力に頼るのではなく、自らが領主の支えとなるべく、街をどのようにしてゆきたいのか、改めて書状の提出を。グリーンベリーの領主であり、私が選んだ伴侶は、それに耳を貸さぬような者では無い。それだけだ。さて、そろそろ自慢のデザートが出てくるだろう」
そう言って振り返った兄様に僕は「はい」と頷した。
「これからお出しする白いイチゴはゆくゆくはこのグリーンベリーの特産として行きたいと思っています。まだ改良するつもりですが、そんな風に私もグリーンベリーを育てて行きたい。そんな思いで時間をかけてきました。是非お召し上がりください」
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