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第9章   幸せになります

416.迎えた朝 *

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 ふっと意識が浮かび上がった。そうして次に温かくて、気持ちが良くて、もう少しこのままでいたいなって思った。それから半分夢の中にいるような感じでウトウトとしはじめて、頭の隅っこの方で今日の予定は何だったかなぁってぼんやりと考えた始めた途端。
 
「エディ? 目が覚めたの?」

 聞こえてきた大好きな声。
 あれ? どうして兄様の声がするんだろう? ううん。声だけじゃなくてなんだか兄様がすぐそばにいる様な気がする。その証拠に柔らかい声は耳元でしている気がした。

「……ん」
「おはよう、エディ」

 挨拶と一緒に落ちてきた口づけ。

「え……」
「ふふふ、寝ぼけているエディも可愛いけれど、身体は大丈夫? 辛い所はない?」
「から……だ……」

 その瞬間、僕は物凄い勢いで起き上がろうとして、物凄い勢いでベッドに逆戻りした。え? なんで? お、起き上がれない?

「痛みはない? 急に動いたら駄目だよ」

 兄様は身体を起こして、ベッドに逆戻りをした僕の顔を覗き込んできた。うん。夢じゃなくて本当に隣にいた。というか、一緒に眠っていた。
 ああ、そうだ。僕は昨日兄様と結婚式を挙げて、伴侶になって、それから、レオラに教えてもらった大切な儀式をしたんだ。

「…………だだだだいじょうぶです。えっと、お、おはよう、ございます」
「うん。おはよう。本当に身体は辛くないかな? ひどく痛むようなら薬かポーションをもらおう」
「だい……じょうぶ、です」

 答えながらもジワジワと顔が熱くなっていくのが判る。だって、夕べはこんな風に兄様の身体が見える事はなかったんだもん。部屋の中は真っ暗じゃなくて、ちゃんと顔も分かるくらいだったけど、厚手のカーテンでも完全にお日様の光を遮る事は出来ないから、この部屋は昨夜の部屋の中よりもずっとずっと明るくて、兄様の顔が、そして上半身がはっきりと分かってしまう。ううう、そうだよね。あのまま眠ってしまったんだもの、は、裸だよね。でもなんでか僕は下はちゃんと穿いているみたいだけど。

「あ、あの、夕べは……その……僕、途中で、寝ちゃったんでしょうか」

 あああああああ、そんな事も覚えていないなんて、伴侶として失格だよ。

「大丈夫だよ。とても可愛かった。エディが始めに言っていた「儀式」というものを気にしているなら、ちゃんと出来ていた。ありがとう」

 うっとりとするほど甘い笑みを浮かべてそういう兄様に僕は「それは……良かったです」と小さく答えた。

「あんまり覚えていないのかな」
「う……そん、な事は……ない、かもしれないです、けど」
「そう? でも気にしなくてもいいよ。これから沢山したらいいし」
「そそそそそそうですね」

 赤くなっているだろう顔は熱くなったままで、しばらくは元に戻る事はないだろうなって思った。
 こうして話をしながら兄様は僕の隣に寝転んでしまった。
 そろそろ誰か来ちゃうんじゃないかな。こんな兄様を見せたくないな。勿論こんな風に赤くなって、ちょっと動きづらくなっている僕も見られたくない。

「エディ、もう少し休んでいよう。今日は私たちを起こしに来る者はいないよ」
「え……?」
「夫婦になったばかりだからね。皆こちらが呼ぶまでは来ないんだよ。だから二度寝をしても大丈夫。でも本当に辛い所はない? さっきちょっと動きがおかしかったよね?」

 ああ、やっぱり兄様は何でも分かっちゃうんだな。

「よく分からないけど、さっき起き上がろうとしたらうまくいきませんでした。でもものすごく痛いとかはないような気がします」
「そう。それなら良かった。じゃあやっぱりもう少し休んでいて。お腹は空いた?」
「…………あんまり」
「そう。でも食べないとダメだからね。もう少ししたら簡単につまめそうなものをこちらへ持ってきてもらおう」

 そう言ってガウンを手にしてベッドから起き上がった兄様の背中を見て僕は今度こそものすごい勢いで起き上がってしまった。

「にににいさま!! そ、それって、その傷!」
「え? ああ、うん。幸せの爪痕って感じかな」

 えええええ? 兄様は嬉しそうにしているけど、それは絶対に違うよね。痛いよね。それでもって、それをつけたのは多分、僕だよね!

「すみません!」
「エディ?」
「兄様の背中に怪我をさせるなんて、僕……」

 失格だ。伴侶失格。ジワリと涙が滲んだ瞳に、困ったような顔の兄様が僕の方に来るのが見えた。

「エディ、とりあえず、起きるならこれを羽織っておいて、目の毒だから」
「ふぇ?」
「ベッドと身体は昨夜の家にクリーンをかけたんだけれどね。跡は消えなくて……。その、着替えを呼びたいんだけど、エディの事は誰にも見せたくないから私に手伝わせてほしい」
「え?」

 兄様は何を言っているんだろう。僕の事じゃなくて兄様の怪我の事の方が重要なのに。

「ああ、気づいていないのか。ええっと、ごめんねエディ。気づいたら所有の印をつけすぎてしまっていた」
「しょゆうのしるし?」

 そう言われて僕は自分の身体を見てものすごくびっくりした。ええええ? これって、これって、何?

「…………びょ、びょうき」
「ではないね」
「痛くないけど……怪我……?」
「……ああ、まぁ、怪我というか、何と言うか、その……エディが私のものだという印というか」
「…………しるし」

 そう言われて僕は自分の身体を改めて見た、下穿きははいているからおへそから下はよく分からないけれど、胸とかお腹とか、手とかにも沢山の赤い印がついている。

「えっと……これは、どうやって……」

 出来たんだろう? すると兄様は困ったような顔をしながらそっと僕の手をとって、二の腕の内側に口づけて……

「にににににいさま!」

 次の瞬間チリッとした痛みにもならないような感覚があって、唇が離れるとそこには赤い跡が出来ていた。

「おなじ……」
「うん」
「…………これが所有の印、ですか?」
「まぁ、そう呼ばれているね」

 そう言って兄様は僕の身体にガウンを着せかけた。

「僕も、します!」
「エ、エディ?」
「だって印なんですよね。僕も、僕も付けます!」
「……………………」

 そう言って僕は兄様にしがみついた。ものすごく、ものすごく恥ずかしかったけれどそんな事を言っていてはダメだ。だってもう伴侶だもの。ちゃんと印とつけなきゃいけない。

「ええっと、ええっと……」
「……エディ、これは別につけなきゃいけないものじゃなくて。その付けてしまったというか」
「…………ここでもいいですか?」
「…………うん」

 しがみついた先は丁度兄様の鎖骨の下辺りだった。良かった胸じゃなくてと思いながら僕はそっとそこに唇を寄せた。

「……っ……」
「あれ? 赤くならない」
「……口づけただけでは赤くならないよ」
「え! あ、ちょっとピリッてしました。もしかして魔法を使いましたか?」
「使わない。あ~~~、口づけして吸ったんだ」
「え、吸う」
「エディ、もういいから。もう起きるなら着替えよう」
「いやです。僕も兄様に所有の印をつけたいです。だって……は、伴侶なのに……」
「……そうだね。じゃあもう一度試してみる?」
「はい。ええっと、口づけをして、吸う……んん……んんん……っ……あ、出来た! 出来ました! ほらちょっぴり赤く、わぁぁぁぁ!」

 嬉しくなって思わず声を上げた途端、僕の身体はベッドに沈み込んでいた。

「に、いさま?」
「これはエディがいけないと思うよ。こんな風にされたら、我慢できなくなるに決まっている」
「がま……んんん? え、あ……っ……ん」

 重なった口づけは始めから深いものだった。
 そうして印の上からまた印がつけられて、昨晩知った甘い声が部屋の中に落ち始めて……

「身体がきついかもしれないから、顔は見えなくなってしまうけど、後ろからにしてみようか」
「え? あ? なん……あん、やぁ、あ、あ、あぁぁ!」

 初めての夜の続きは、初めての朝になって、僕が起きてご飯を食べたのは、お昼を疾うに過ぎた頃になった。
 兄様はちょっぴりレオラに叱られたみたいってあとでマリーが教えてくれた。
 それから、心配をしていた兄様の背中の傷は、傷を治すポーションで綺麗になって、僕の身体についた『所有の印』も同じポーションで消えてしまったのが、ちょっとだけ淋しかった。


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バカップル爆誕みたいな(/ω\)
 
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