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第9章   幸せになります

410.結婚式①

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 僕が思っていたよりも結婚式の朝は、ゆったりとしていた。
 もっとバタバタしてアワアワして、大変っていうような気がしていたんだけど、朝ご飯もちゃんと食べて、皆と「いよいよだね」っていうようなお話もして、それから着替えをして、なんと、ちょっとだけお化粧をしたんだ。本当にちょっとだけ。母様曰く「これで顔色が多少悪くなっても誤魔化せます。真っ赤になってしまっても多少は軽減されます」って。

「わぁ、やっぱり素敵です、兄様!」

 結婚式の衣装に着替えをした僕は、同じく着替えを終えた兄様を見て思わず声を上げていた。
 二人で決めた白をベースにした騎士服。サッシュベルトはお互いの色で、甘くなりすぎないようなジャボにはやっぱりお互いの色のブローチ。そして光沢のある白のマントは出来上がりの時よりもなぜかもっとキラキラしていた。

「何だかマントがすごくキラキラしている感じに見えます」
「うん。少し無理を言ってしまったからね」

 珍しく兄様が苦笑を浮かべた。マントには兄様とお揃いの刺繍がされていてその刺繍の中にはペリドットやアクアマリン、そしてダリウス叔父様が贈って下さった真珠っていう貝の中から取れる宝石? が付けられていたんだ。本来は石を沢山縫い付けてしまうとマントが重くなってしまったりドレープが出にくくなってしまうんだけど、ブルームさんのテーラーが作るマントはあまり重さを感じさせないし、とてもつけやすくて綺麗だったからすごいなぁって思っていたんだ。

「グリーンベリーで採掘されて丁寧に加工をされたダイヤモンドが届きましたので。調整をさせていただきました」

 控えていたブルームさんがニコニコ笑いながら教えてくれた。

「え! 出来上がりの後にダイヤモンドを? というかいつの間に……」

 確かにグリーンベリーでもダイヤモンドは採れるんだ。でもそれほど多くはないし、大きいものは指輪とかネックレスとかになる。ううん。むしろその方が多い。だってダイヤはとても硬いので加工はすごく技量が問われる。

「以前から手配はしていたんだ。採掘時には勿論小さなものも出てくるしね。これを刺繍の飾りに出来ないだろうかって言ったら職人たちがぜひやらせてほしいって言ってくれたんだ。ただやはり時間がかかってしまってね。だけど間に合って良かった。テーラーの方々にもご迷惑をおかけしてしまった」
「いえ、このような素材はなかなか扱う事が出来ませんので、こちらとしても良い経験をさせていただきました」

 ブルームさん達はそう言って頭を下げた。
 そうだったんだ。本当にすごくすごく綺麗。頑張ってくれた職人さんたちにも見せたかったな。

「素敵なマントを仕上げて下さってありがとうございます」

 そんな感じで刺繍も石の煌めきもとても美しく、ドレープも思っていたように綺麗に入っていて僕はちょっと浮かれてクルクルって回ってみた。

「ふふふ、綺麗」
「うん。とてもよく似合っていて素敵だよ」

 兄様にそう言われてちょっとテレッとなった僕に父様が苦笑しながら「さぁ、じゃあこれ以上エドワードが照れないうちに移動しようか」と告げた。




 まずは聖神殿に転移。今日の結婚式を執り行って下さる大神官様と神官の方にご挨拶して、それから聖殿へと移動。そのまま神殿の奥に位置する聖殿に転移をするのは難しいみたい。
 そして、僕達は聖殿の控えの間に通されて、後から転移をしてきたテーラーの人達からもう一度最終的な点検を受けた。こうしてあとは式の始まりを待つばかりとなった。

 聖堂の中には招待をした方々が次々にやってきている。父様達もすでに聖殿の中に入った。
 そして、いつもは傍にいるマリーは今日は傍にいない。僕が式にお客様として参列をしてほしいって願ったからだ。同じくルーカスも、ジョシュアもそれぞれに招待客として聖堂に入っている筈だった。

 だって、マリーが居なかったら僕はきっとここには居なかった。
 ルーカスやジョシュアが居なかったら強くなりたいなんて思わなかった。
 だから三人には今日はお仕事ではなくて、招待客として式にもお祝いの会にも居てほしいって思ったんだ。
 
「エドワード様、少しだけ何かお飲み物を口にされませんか?」

 マリーの代わりに僕の傍に居てくれる事になったのは母様の専属メイドであり、フィンレーのメイド長でもあるレオラ。何度か顔は見た事がある。僕にとっては厳しいけれど優しいお婆ちゃんみたいな感じの人だ。

「じゃあ、果実水を」
「畏まりました」

 レオラが持ってきてくれたのは甘すぎないレモンと蜂蜜の果実水だった。

「さっぱりして美味しい」
「それはよぉございました。そろそろお時間でございますよ。アルフレッド様もエドワード様も騎士服がとてもお似合いでございます。胸を張って、しっかりと、神様の前でお誓いくださいませ」
  
 そう言ってレオラはブーケを僕に手渡した。
 僕と兄様がブーケに選んだのはブルースターの花と優しいピンクの薔薇の花。
 ブルースターは昔兄様にプレゼントをした事がある。その時は花言葉なんて知らなかったけれど「幸せな愛」とか「信じあう心」という意味がある思い出の花だ。そして合わせたのは淡いピンクの薔薇。こちらは「幸福」とか「感謝」っていう花言葉がある。この二種類の花に添えたのはアイビーという可愛い葉で、葉っぱなのにちゃんと花言葉があって「永遠の愛」って言うんだって。

 聖堂に入る扉の前に兄様と並んで、僕は一つ大きく息を吸って、吐いた。左手にはブーケ。右手は兄様の左腕に添えた。その手が少しだけ震えているのが伝わって、兄様は僕の方に顔を向けた。

「エディ」

 呼ばれた名前。初めて会ったその日から兄様はこう呼んでくれた。

「はい」
「愛してるよ」
「……っ……僕も」
「じゃあ、行こうか」
「はい」

 返事は少しだけ震えた。でも開いた扉の向こうにちゃんと足を踏み出せた。

「いってらっしゃいませ」

 支度を整えてくれた人たちが皆でお辞儀をして僕たちを送り出してくれた。
 歩き始めた聖殿の中は綺麗な光が溢れてキラキラとしていて眩しいくらいだった。通路の両脇に座っている皆が僕たちの方を見てニコニコしている。
 そして信じられないけど光の中にはティオ達の姿があって、クルクルと楽しそうに踊っていて、笑い出しそうになってしまった。

「ちゃんと歩けているね」
「はい。大丈夫です」
「ふふふ、それは残念」

 小さな小さな声で話しながら僕と兄様は真ん中の道を神様に向かって歩いていく。
 歩けなくなる事も、躓く事も、マントが絡んだりする事もなく、まっ直ぐに…………
 途中でマリーが泣いているのが見えて鼻の奥がツンとして目がじわっとなったけれど、それでも我慢をした。ここで大泣きするわけには行かない。その代わり添えていただけの右手にギュッと力が入ってしまって、兄様がとろけるような微笑みを向けてくれた。



 何だかものすごく長い通路を歩いた気がして、僕たちはやっと大神官と神様の像の前に辿り着いた。

「ではこれより、アルフレッド・グランディス・フィンレー様とエドワード・フィンレー・グリーンベリー様の結婚式を執り行います」

 聖堂の中に大神官の声が響いた。



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