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第9章   幸せになります

401.甘い時間

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 驚くような事があったけれど、無事に後期の試験も終わって、十二の月に入った。
卒業生は講義もほとんど終わっているから、あとは試験の結果があまり良くなかった人の補講や、論文の提出がまだの人の追い込み位で、その他は卒業式まで自由になる。
 僕はここでしか読めないような本を読む為に数日は出てくるつもりだけど、その他は主にグリーンベリーに行こうと思っていた。思っていたんだけど……

『卒業式の洋服が出来上がっているのでいらっしゃい』

 母様からの書簡だった。
 えぇ? 卒業式の洋服って、学園の制服みたいに決められたものではなかったの?
 確か兄様の時はそれぞれの学科で同じような物を着ていたよね?

 今は兄様が使っているタウンハウスの書斎で、兄様は綺麗な微笑みを浮かべながら母様の書簡を読み上げた。そして、僕の声に出さなかった筈の疑問がしっかり分かっているように口を開く。

「それぞれの学科で決められた物はあるけれど、それを準備するのは各自だよ? 私は魔導騎士科だからマントの形に規定があって、あとはそれぞれだったんだけどね」
「すみません、兄様の魔導騎士姿ががかっこよかった事しか記憶にありません」
「…………そう。エディは魔法科だからローブだね。その形だけ規定があって他は自由だよ」

 兄様は僕の言葉にやんわりと笑ってからそう教えてくれた。

「学園は貴族しか通わないからね。お仕着せは学園固有の付与がかけられている制服だけかな。勿論替えが必要ならばその分は別に注文するんだよ」
「……そうだったんですね。当たり前のように着ていました」
「うん。それは仕方ないよね。私達が自分で注文をする訳では無いからね」
 
 でも、兄様はちゃんと知っているんだよね。僕なんて替えが5着もあるのに。

「エディ? それでいつ行く?」
「え?」
「言ったでしょう? エディの洋服の事には全て同行する。 これも勿論確認するよ」

 そう言っていつの間にかギュッと抱きしめられていて、僕は「お願いします」って答える以外の選択肢はなくなっていた。
 なんだか最近こんな事が多いんだよね。でも兄様は嬉しそうだし、僕としては恥ずかしくてドキドキしちゃうんだけど、昔から兄様にギュッとされるのは大好きだったから現状に特に問題は無い、かなぁ。
 それに結婚式前で浮かれている婚約者達なんてこんなものだって兄様が笑うから、僕もそれならいいかなって思う事にしたんだ。
 だって、ちょっと恥ずかしい事を除けば、こんな風に兄様に甘えられるなんて、なんだか小さな頃に戻ったみたいだもの。 
 そう言ったら兄様が困った顔をして「小さな頃に戻られたら困るんだけどな。結婚出来なくなってしまうからね」って言いながらチュッってほっぺたに口付けてきた。

「わあ! そそそそうですね!」

 あぁ、でもやっぱり恥ずかしいよね! 顔が熱くなってるからきっと赤くなっちゃってるよ。

「き、急に口付けたらダメです!」
「えぇ?! じゃあ申告すればいいのかな? 口付けするよって」
「そ、それもやっぱり恥ずかしいからダメ……っ……」

 僕の言葉を閉じ込めるように、口の中にぬるりと熱い舌が入ってきた。大人の口付け。はじめはものすごくびっくりしたし、どうやって息をしたらいいのか分からなくて苦しくなっちゃったんだけど、今はなんだか気持ちよくてボーッとなっちゃうし、ムズムズしてくるから困るんだ。

「……んぅ…………っ……は、はぁ、はぁ……も、もう、ダメって言ったのに」
「ごめんね、エディが可愛くて。ふふ、涙目になっちゃったね。その顔は誰にも見せたくないから、もう少しこのままで居させてね」

 そう言うと兄様はギュッとしていた手にもう少しだけ力を入れた。そしてやっぱり何故か膝の上に抱っこされている!
 二人分の重さを受けて、椅子が小さくキシリと鳴いた。でも、兄様の手は離れなくて、そのままトントンって本当に子供みたいに背中を叩くから、余計にぼんやりしちゃって、コトリとその肩口に頭を預けた。

「エディ?」
「……なんだか、ちょっとだけ悔しいです」
「悔しい?」
「だって、僕はものすごくドキドキして、顔も赤くなって、ものすごく慌てている感じなのに、兄様はいつもと同じかっこいいままなんだもの」

 ボソボソと小さな声でそう言うと兄様は片手で顔を覆ってしまった。

「兄様?」
「…………久しぶりに、ものすごい衝撃だったね」
「え?」

 衝撃? 僕何もしていないよ?

「ドキドキしてるのはエディだけじゃないよ。口付けも、エディに嫌って言われたら立ち直れないな。もう絶対しませんって言われたら泣いてしまうかもしれない」
「えぇぇ!? そんな事は言いませんよ! えっと、その、き、急にしたら困るけど……。だってドキドキで壊れちゃいそうになるから」

 兄様は吹き出すように笑って「壊れたら困るからゆっくりにしよう」って言った。そして………。

「わぁ!」
「ドキドキしてるのはエディだけじゃないよ? ほら、口付けをしていなくても、私だってこんなにドキドキしている。一緒だね?」
 
 頭を胸の中に抱え込まれて驚いていると、確かに兄様の早い鼓動が伝わってきた。

「お揃い、ですね。ふふふ、良かった」

 そう言って僕は兄様にしがみつくように背中に手を回す。
 トクンと跳ねて、もう少し早くなったその音が嬉しくて、自然に「大好き」ってって口から零れたら、最初の日のように兄様は「私もだよ」って言ってくれた。



 フィンレーには、翌日行く事になった。





------




ふぉぉぉぉ!!!
なまじえちを書くより恥ずかしかった!
そしてここで引ける兄様は凄すぎると思いました!
洋服も一緒詰め込もうかとおもいましたが、ちょっとおなかいっぱいなのと、もう少しダダ漏れの兄様書きたくて(笑)分けました!

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