上 下
295 / 335
第9章   幸せになります

399.話し合い

しおりを挟む
 約束した場所で待っていたウィルと合流して、僕達三人はタウンハウスへと向かった。
 ウィルは何も言わなかったが、それでも何のために呼び出されたのかは分かっているようで「申し訳ございません」と頭を下げた。
 馬車の中で僕は「一緒に考えよう」と言った。

「エディ兄様?」
「うん。僕はね、誰かを守りたかったウィルの気持ちも理解出来るよ。だけどそれだけでは済まされない事になった時には大人の力を遠慮なく借りて、一緒に考えてもらうのがいい。僕もそうさせてもらってきたよ。それは別に恥ずかしい事でも、いけない事でもない。この前のウィルからの言葉に隠されていたものに気づいてあげられなくてごめんね。だから出来る限りウィルの気持ちに沿うような答えが出せたらいいなって思っているよ」
「…………はい。ありがとうございます」

 俯き加減で返事をしたウィルは僕にとってはどんなに大きくなっても少し泣き虫の小さな弟だった。




「全員で応接室へ」

 兄様にそう言われて行くと、そこには父様が居た。
 ウィルもハリーも驚いていたけれど、まさか兄様に話をする前から父様がいらっしゃるとは思ってもいなかった。そんな僕の気持ちが表情に出てしまったのか、兄様が「学園から連絡が入ったんだよ」と教えてくれた。こうなってしまうとウィルが思うように進むのは難しいかもしれない。それどころか、ウィルにも何か罰則が科せられてしまうかもしれない。
 そう考えた途端兄様が僕の背中をトントンってしてくれた。
 ああ、そうだ。そうならないために父様が来てくださったんだ。僕達に出来る事はきちんと何があったのかを伝える事だ。

「かけなさい」

 静かな父様の声に皆で椅子に座ると、とうさまはゆっくりと言葉を続けた。

「まずは私の方から話をしよう。今日、学園からウィルがとある伯爵家の子息との揉め事に巻き込まれている可能性があるというような知らせが届いた。そして、エドワードが友人から聞いたという『噂』の事もアルフレッドから先程聞いたよ。けれど私自身はきちんとした事をウィリアムから聞きたいと思っている。何があったのか、どうなったのか、どう思って、どうしたのか。その上で、伝えるべき事と、一緒に考えたいと思っている事を伝えたいと思っている。ウィリアム、どうかな?」

 ウィルは硬い表情をしてギュッと口を結ぶと、ゆっくりと息を吐いてから話し始めた。

 元侯爵家だったその家は、当主自身が身体の中に大量の魔素を抱えていた事と、魔物に対しての自衛に否定的な意見を持っていた事で、粛清の対象となった。
 元々はオルドリッジ公爵派だった事もあり、フィンレー等の改革派と呼ばれた家とはあまり関わりはなかった。もっとも父様達に言わせれば改革派などではなく、常識派と呼んで欲しい等と言っていたのを覚えている。

「はじめは関わらないという感じだったのですが、次第に陰口のようなものが始まり、そのうちに言いがかりのようなものを口してきたりして……」

 具体的な言葉を聞いて、僕は信じられない気持ちだった。父様も兄様も難しい顔をしている。そして後期に入ってからは更に攻撃的になり…………

「こちらを手渡され、後期の試験で順位が自分より下だったら、メルトス家の令嬢からきちんと手を引くようにと」

 父様の口から大きな溜息が落ちた。


------






しおりを挟む
感想 940

あなたにおすすめの小説

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話

ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

ある日、人気俳優の弟になりました。

ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。