292 / 335
第9章 幸せになります
396.十一の月は騒がしい
しおりを挟む
十一の月になった。というか、なってしまっていた! 早いよね。おかしいな。どうしてもう十一の月が始まっちゃっているんだろう。
お仕事の方はだいぶ軽くなっていて、来年から新しく雇い入れる人材もお祖父様と父様と兄様が色々と手を回したり、調べてくれたりして問題は無さそうだし、始まったばかりの平民からの登用も少しずつ広まってきているみたい。
あと手が足りないのは実験用の畑のお世話の人で、実験場で成功をした苗をお手伝いの人には優先的に試験使用を認めるみたいな感じにしていかれないか悩み中。苗は一応領外への持ち出し禁止にしようと思っているから、そうなると色々と面倒な事が予測されるので保留にしてあるんだ。
兄様からも「卒業してから考えよう」って言われている。
勉強をしながらついついそんな事を考えてしまって、慌てて試験勉強に戻る。最後の試験で変な成績を取るのは嫌だかそこは頑張ろうって思う。思うんだけど……。
「エディ、夕食の時間だよ。きちんと区切りをつける事も大事だよ」
ノックの音に気付かなかった僕に、兄様がそう言いながらゆっくりと近づいてきた。
「すみません」
「分からない所があるの? それなら食事の後で一緒に考えてみようか」
「……大丈夫です。えっと途中で領の事を考え出しちゃって、駄目だって思って勉強するんだけど……」
「エディ、頭は一つしかないからあっちもこっちも考えるとかえって効率が悪くなる」
「はい」
「エディが居ない時の領の事はちゃんと報告をしているよ? 大丈夫。今の所問題はないし、考えなくてはならない事は来年でもいい事だからね。試験の勉強がそれほど切羽詰まった状態ではないのであれば、頭を休める事も大切だよ」
「はい……」
「今日は何をしようと思っていたの?」
「え……あ、魔法哲学の理論のまとめをさらおうかと思っていました」
「ふふふ、それはまた頭が痛くなりそうなものだね。じゃあ、食後に一問一答形式でエディに質問するから答えてごらん。そうしたらどの辺がまとまりきれていないのか分かるから、明日はそれを重点的に覚えればいい」
「ええええ! そんな、申し訳ないです!」
僕はびっくりして思わず声を上げてしまった。だってそんな事をしたら兄様の大事な時間が。
「どうして? エディは分からない所が分かるようになって勉強が効率的に出来るようになるし、私はエディと一緒に過ごす事ができる。いい考えだよね。さぁ、ではしっかり食事をとって、頭がよく回るようにしよう。行くよ。エディ」
笑って楽しそうにそう言った兄様に僕は「はい」って返事をした。
-*-*-*-*-
「あはははは! アルフレッド様ってやっぱり面白い! 本当にエディの事が大好きなんだね!」
「やややめてよ、ミッチェル。申し訳なくてさ。でもお陰で勉強ははかどったけど」
「良かったじゃない。でも分かる。なんかさ、一生懸命やっているのに、ふと領の事を考えちゃうんだよね。あ~~あの書類どうなったかなとかさ」
ミッチェル君が笑いながらうんうんって頷いた。
「でもさ、僕も父上から言われたよ。全部抱え込もうとするなって。どれだけ効率的かつ人材を活かして分担出来るのかが大事だって。分担をしきれないのは自分の未熟さで、人を信頼出来ないって言っているのと同じだ。でもここは譲れないっていうのもあるべきだから、見極める目を持つようにって難しいよね~」
「はぁぁぁ、やめて~ミッチェル。耳が痛くて、胸まで苦しくなるー」
向かい側でルシルがお弁当を広げた机に突っ伏していた。
「耳が痛いのに胸が苦しいって、ルシル、大丈夫?」
「ううう、エディの素直さが僕に追い討ちをかけてる」
「え! 追い討ちなんかかけていないよ!」
そんな僕達のやり取りを聞いていたトーマス君が苦笑を浮かべて口を開いた。
「何だか皆大変そう。体を壊さないようにね」
「ありがとう。ところでジーンとの結婚式、決まったんだね」
ニッコリ笑って言うと、トーマス君は少しだけ赤くなった顔で頷いた。
「領地が広がった関係で婚約式が早まったからね。三の月のはじめにロマースクの神殿で。もう招待状が届くと思うから、よろしくね」
「ふふふ、忙しくなるけど楽しみだね」
「うん。ルシルは?」
「え? 僕はまだまだだよ。領がもう少し軌道に乗って、エディから貰った小麦がちゃんと取れるようになってくるまでは無理。殿下もそれでいいって言ってくれたし、相変わらず週に一、二度は来てるし」
ルシルの言葉にミッチェル君が声を上げた。
「えぇ!? いつの間にそんな事にー! 知らなかった! ちゃんと話して?」
「い、嫌だよ。とにかくそういう事になったの。でも、未来はどうなるかなんて分からないけどね」
ルシルがそう言うとミッチェル君はやれやれっていう顔をして「ルシルは自分の事は結構悲観的だよね」って言った。
「! そ、そんな事は……」
「うんうん。分かってるって。ルシルは結構尽くしたいタイプだもんね」
「………………そ、そんな事よりもミッチェル自身はどうなのさ」
「僕? う~ん、相変わらず釣書は沢山来てるけど兄上達がどちらもまだだからのんびり決めればいいかな~って」
「釣書の相手位は確認したの?」
「ううん。とりあえず一律まだその予定は無いって事でお断りをしてもらってる」
それを聞いてルシルが「はぁ」と溜息を漏らした。
「え? 何?」
「ミッチェルは、他人の事は良く見えるけど、自分の事は疎いタイプなんだね」
「そうみたいだね」
ルシルとスティーブ君が何か分かっているようにそう言って頷いていた。うん?なんだろう。トーマス君にそっと聞いたら「何となく」って。隣にいるユージーン君は苦笑いしてるから分かっているって事だよね。ええ? じゃあ全然分かってないのは僕とミッチェル君だけ?
「これは相手に伝えてあげた方がいいかもね。釣書も見てないし、何にも分かってないみたいって」
「ええ! 待って! エディ以外皆気づいてるの? 何それやだ」
「こういうのは、他人から伝えるものでは無いからね。ミッチェルが気づいて、あるいは相手がもう少し積極的にアピールして、それでどう思うかだから、 私たちからは何も言わないよ」
スティーブ君がそう宣言して、ミッチェル君は渋々と頷いた。
そうか、そうだよね。相手がちゃんと言っていないのに他人が「好きだって思ってるよ」とか言うのはおかしいものね。でも誰なのかは気になる。
珍しく眉間に皺を寄せながらミッチェル君が黙り込んでしまった。お昼休みが終わるまであと少し。
「話は変わるけど、ちょっと気になる噂が耳に入ってきたんだ」
ユージーン君が口を開いた。
-------
チームエディのわちゃわちゃと、安定の兄様。
お仕事の方はだいぶ軽くなっていて、来年から新しく雇い入れる人材もお祖父様と父様と兄様が色々と手を回したり、調べてくれたりして問題は無さそうだし、始まったばかりの平民からの登用も少しずつ広まってきているみたい。
あと手が足りないのは実験用の畑のお世話の人で、実験場で成功をした苗をお手伝いの人には優先的に試験使用を認めるみたいな感じにしていかれないか悩み中。苗は一応領外への持ち出し禁止にしようと思っているから、そうなると色々と面倒な事が予測されるので保留にしてあるんだ。
兄様からも「卒業してから考えよう」って言われている。
勉強をしながらついついそんな事を考えてしまって、慌てて試験勉強に戻る。最後の試験で変な成績を取るのは嫌だかそこは頑張ろうって思う。思うんだけど……。
「エディ、夕食の時間だよ。きちんと区切りをつける事も大事だよ」
ノックの音に気付かなかった僕に、兄様がそう言いながらゆっくりと近づいてきた。
「すみません」
「分からない所があるの? それなら食事の後で一緒に考えてみようか」
「……大丈夫です。えっと途中で領の事を考え出しちゃって、駄目だって思って勉強するんだけど……」
「エディ、頭は一つしかないからあっちもこっちも考えるとかえって効率が悪くなる」
「はい」
「エディが居ない時の領の事はちゃんと報告をしているよ? 大丈夫。今の所問題はないし、考えなくてはならない事は来年でもいい事だからね。試験の勉強がそれほど切羽詰まった状態ではないのであれば、頭を休める事も大切だよ」
「はい……」
「今日は何をしようと思っていたの?」
「え……あ、魔法哲学の理論のまとめをさらおうかと思っていました」
「ふふふ、それはまた頭が痛くなりそうなものだね。じゃあ、食後に一問一答形式でエディに質問するから答えてごらん。そうしたらどの辺がまとまりきれていないのか分かるから、明日はそれを重点的に覚えればいい」
「ええええ! そんな、申し訳ないです!」
僕はびっくりして思わず声を上げてしまった。だってそんな事をしたら兄様の大事な時間が。
「どうして? エディは分からない所が分かるようになって勉強が効率的に出来るようになるし、私はエディと一緒に過ごす事ができる。いい考えだよね。さぁ、ではしっかり食事をとって、頭がよく回るようにしよう。行くよ。エディ」
笑って楽しそうにそう言った兄様に僕は「はい」って返事をした。
-*-*-*-*-
「あはははは! アルフレッド様ってやっぱり面白い! 本当にエディの事が大好きなんだね!」
「やややめてよ、ミッチェル。申し訳なくてさ。でもお陰で勉強ははかどったけど」
「良かったじゃない。でも分かる。なんかさ、一生懸命やっているのに、ふと領の事を考えちゃうんだよね。あ~~あの書類どうなったかなとかさ」
ミッチェル君が笑いながらうんうんって頷いた。
「でもさ、僕も父上から言われたよ。全部抱え込もうとするなって。どれだけ効率的かつ人材を活かして分担出来るのかが大事だって。分担をしきれないのは自分の未熟さで、人を信頼出来ないって言っているのと同じだ。でもここは譲れないっていうのもあるべきだから、見極める目を持つようにって難しいよね~」
「はぁぁぁ、やめて~ミッチェル。耳が痛くて、胸まで苦しくなるー」
向かい側でルシルがお弁当を広げた机に突っ伏していた。
「耳が痛いのに胸が苦しいって、ルシル、大丈夫?」
「ううう、エディの素直さが僕に追い討ちをかけてる」
「え! 追い討ちなんかかけていないよ!」
そんな僕達のやり取りを聞いていたトーマス君が苦笑を浮かべて口を開いた。
「何だか皆大変そう。体を壊さないようにね」
「ありがとう。ところでジーンとの結婚式、決まったんだね」
ニッコリ笑って言うと、トーマス君は少しだけ赤くなった顔で頷いた。
「領地が広がった関係で婚約式が早まったからね。三の月のはじめにロマースクの神殿で。もう招待状が届くと思うから、よろしくね」
「ふふふ、忙しくなるけど楽しみだね」
「うん。ルシルは?」
「え? 僕はまだまだだよ。領がもう少し軌道に乗って、エディから貰った小麦がちゃんと取れるようになってくるまでは無理。殿下もそれでいいって言ってくれたし、相変わらず週に一、二度は来てるし」
ルシルの言葉にミッチェル君が声を上げた。
「えぇ!? いつの間にそんな事にー! 知らなかった! ちゃんと話して?」
「い、嫌だよ。とにかくそういう事になったの。でも、未来はどうなるかなんて分からないけどね」
ルシルがそう言うとミッチェル君はやれやれっていう顔をして「ルシルは自分の事は結構悲観的だよね」って言った。
「! そ、そんな事は……」
「うんうん。分かってるって。ルシルは結構尽くしたいタイプだもんね」
「………………そ、そんな事よりもミッチェル自身はどうなのさ」
「僕? う~ん、相変わらず釣書は沢山来てるけど兄上達がどちらもまだだからのんびり決めればいいかな~って」
「釣書の相手位は確認したの?」
「ううん。とりあえず一律まだその予定は無いって事でお断りをしてもらってる」
それを聞いてルシルが「はぁ」と溜息を漏らした。
「え? 何?」
「ミッチェルは、他人の事は良く見えるけど、自分の事は疎いタイプなんだね」
「そうみたいだね」
ルシルとスティーブ君が何か分かっているようにそう言って頷いていた。うん?なんだろう。トーマス君にそっと聞いたら「何となく」って。隣にいるユージーン君は苦笑いしてるから分かっているって事だよね。ええ? じゃあ全然分かってないのは僕とミッチェル君だけ?
「これは相手に伝えてあげた方がいいかもね。釣書も見てないし、何にも分かってないみたいって」
「ええ! 待って! エディ以外皆気づいてるの? 何それやだ」
「こういうのは、他人から伝えるものでは無いからね。ミッチェルが気づいて、あるいは相手がもう少し積極的にアピールして、それでどう思うかだから、 私たちからは何も言わないよ」
スティーブ君がそう宣言して、ミッチェル君は渋々と頷いた。
そうか、そうだよね。相手がちゃんと言っていないのに他人が「好きだって思ってるよ」とか言うのはおかしいものね。でも誰なのかは気になる。
珍しく眉間に皺を寄せながらミッチェル君が黙り込んでしまった。お昼休みが終わるまであと少し。
「話は変わるけど、ちょっと気になる噂が耳に入ってきたんだ」
ユージーン君が口を開いた。
-------
チームエディのわちゃわちゃと、安定の兄様。
297
お気に入りに追加
10,680
あなたにおすすめの小説
イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ある日、人気俳優の弟になりました。
ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。