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第9章 幸せになります
388. フィンレー公爵領
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フィンレーは昨年の陞爵から公爵となり、今までの侯爵領とは別に王都の周りを囲んだ特別区域の公爵領を賜った。その公爵領は僕の領地であるグリーベリーのお隣で、今はお祖父様が当主代理として住んでいるんだ。
お隣だし気軽に会いに行けるかななんて思っていたんだけれど、お会いできたのは2回だけ。しかもそのうちの一回は引っ越しのご挨拶で、もう一回は結婚式の日取りが決まりましたっていうご挨拶。反対にお祖父様がグリーンベリーにいらして下さったのは屋敷の改修や温室を作ったり、フィンレーからも実験用の温室だけを移動したりした初めの頃に一週間くらい来ていただいている。
結局領を持ってからは勉強会も全然開けていないし、この公爵領ではご挨拶しかしていないんだよね。そして今回も……。
「ご無沙汰しております。お祖父様。本日は以前書簡にてお知らせいたしました成人の祝いにつきまして、改めましてご出席をお願いしたく伺わせていただきました」
「うむ。もう来月成人か、早いな。知らせていた通り変わりなく出席の予定だ。楽しみにしている」
「ありがとうございます」
お辞儀をしながらお礼を口にすると、そのタイミングを計っていたかのようにお茶とお菓子が運ばれてきた。
「エドワード、久しぶりね。グリーンベリーの方は少し落ち着きましたか?」
ニコニコと笑いながらお祖父様のお隣に座っていたお祖母様が話しかけてきた。
「はい。お陰様で少しずつ色々な事に慣れてきました」
「それは良かったわね。一度は遊びに行きたいと思っているのですが、中々行かれずにいるのよ。結婚式が終わったらアルフレッドとグリーンベリーの住むようになると聞いています。冬はそれほど寒くはない土地だと聞いていますが、春になった頃にでも出かけていきたいと思っています」
「はい。お待ちしております」
「ふふふ、色々と楽しみね」
「はい」
出された紅茶はフルーツのフレーバーティーだった。香りが良くてとても飲みやすい。お菓子はちょっとスパイシーなクッキーだ。
「これは変わっていて美味しいですね」
「ジンジャークッキーというのだそうよ。新しく雇い入れた者が少し変わった物を知っていて楽しんでいるの」
「へぇ。ジンジャークッキーか」
「ここには出ていないわね。貴方、もう少しエドワードと話をしてもよろしくて?」
「構わん」
「ふふふ、ではアイシングしたものを持ってきて頂戴。まだ少し残っていたでしょう?」
お祖母様は楽しそうに、壁際に控えていたメイドに声をかけた。少しして戻ってきたメイドはテーブルの上に皿を置いた。
「……! これは」
「ふふふ、可愛らしいでしょう? 型で同じ形を作って、アイシングというもので飾り付けをするのですって。ショウガが入っているクッキーだからこれからの季節に丁度いいわ。時間があるなら作らせるから持って帰って? 一時間もあれば出来ますよ」
お皿の上にあったのは人型やうさぎ型、それに星や花等がアイシングというもので飾り付けられたクッキーだ。
「ありがとうございます。こちらも一つ頂いてよろしいてすか?」
「もちろんよ。沢山食べて頂戴」
可愛らしいクッキーを食べながら紅茶を飲んで、一息をつくとお祖母様は「クッキーの様子を見てきますね」と席を外した。
そのタイミングでお祖父様がゆっくりと口を開いた。
「メイソンの後だから少し安心をしていたが、うるさい者が居ったようだな」
静かな言葉に僕は思わず苦笑してしまった。
「はい。ですが、追いやられてしまったようです。父様か兄様が手を回して下さったのではないかと思っています。逆恨みをする者もいるのでしばらくは気を付けるように言われております」
「うむ。まぁ、心配はいらんだろうが、そんな輩も隠れておるかもしれん。炙って周囲を牽制するもよし、芽を摘んでしまうもよし。アルフレッドに任せておきなさい」
「はい。ありがとうございます。でも言うべき所は口にしようと思っています。ただの小倅と見くびられるのも面倒だと思うので」
「うむ。その辺りは好きに動いて良い。領主の顔を持つ事も必要になってくるだろう」
「はい。全部同じ価値観で同じ顔をしていられるのが一番なのですが」
「ふふふ、そうだな。だが、価値観の違いがあるからこそ、気づきや討論も出来る。差異を自分のものに出来るか出来ないかで技量に差が出る」
「ありがとうございます。自分だけの殻に閉じこもらずに視野を広げていきます」
「うむ。大人びた会話が出来るようになったな」
「ふふふ、お祖父様たちのお陰です」
笑って答えるとお祖父様も笑ってくださった。
「ああ、そういえば、リュミエールに麦を持たせたらしいな」
「はい、元ハーヴィンから持ち帰った砂の温室での実験はもういいかと思いまして。外で試してみようと思いました。芽が出たと嬉しい報告が来ました」
「そうか、一度はそちらも見に行きたいな」
「はい!」
それから僕とお祖父様は砂漠の砂を使った実験についての話をした。リュミエールには麦の他にも果物や野菜なども試してみようという話をして、春になったらルシルの所を訪ねようと思った。
そしてシェルバーネの砂に関しては結果にばらつきがあるのでその違いが何なのかお祖父様にも見てほしいととお願いをした。お祖父様はもしかすると妖精が関わっているのかもしれないって。妖精は可愛いけれど、実験に影響が出ちゃうのは困るなぁ。
「とりあえずは成人の祝いをして、来年の結婚式だ。結婚式にはダリウスも出席したいといっていたので、現地で実験をしてもらうのもいいかもしれん」
「はい。では成人のお祝いが終わったら一度グリーンベリーにお越しいただけますか?」
「うむ」
そんなやりとりをして僕は応接室を後にした。そして。
「エドワード様?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り返ると、そこには一緒に勉強会に参加をしていた事があるレイモンド家の嫡男、アシュトンさんの姿があった。
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お隣だし気軽に会いに行けるかななんて思っていたんだけれど、お会いできたのは2回だけ。しかもそのうちの一回は引っ越しのご挨拶で、もう一回は結婚式の日取りが決まりましたっていうご挨拶。反対にお祖父様がグリーンベリーにいらして下さったのは屋敷の改修や温室を作ったり、フィンレーからも実験用の温室だけを移動したりした初めの頃に一週間くらい来ていただいている。
結局領を持ってからは勉強会も全然開けていないし、この公爵領ではご挨拶しかしていないんだよね。そして今回も……。
「ご無沙汰しております。お祖父様。本日は以前書簡にてお知らせいたしました成人の祝いにつきまして、改めましてご出席をお願いしたく伺わせていただきました」
「うむ。もう来月成人か、早いな。知らせていた通り変わりなく出席の予定だ。楽しみにしている」
「ありがとうございます」
お辞儀をしながらお礼を口にすると、そのタイミングを計っていたかのようにお茶とお菓子が運ばれてきた。
「エドワード、久しぶりね。グリーンベリーの方は少し落ち着きましたか?」
ニコニコと笑いながらお祖父様のお隣に座っていたお祖母様が話しかけてきた。
「はい。お陰様で少しずつ色々な事に慣れてきました」
「それは良かったわね。一度は遊びに行きたいと思っているのですが、中々行かれずにいるのよ。結婚式が終わったらアルフレッドとグリーンベリーの住むようになると聞いています。冬はそれほど寒くはない土地だと聞いていますが、春になった頃にでも出かけていきたいと思っています」
「はい。お待ちしております」
「ふふふ、色々と楽しみね」
「はい」
出された紅茶はフルーツのフレーバーティーだった。香りが良くてとても飲みやすい。お菓子はちょっとスパイシーなクッキーだ。
「これは変わっていて美味しいですね」
「ジンジャークッキーというのだそうよ。新しく雇い入れた者が少し変わった物を知っていて楽しんでいるの」
「へぇ。ジンジャークッキーか」
「ここには出ていないわね。貴方、もう少しエドワードと話をしてもよろしくて?」
「構わん」
「ふふふ、ではアイシングしたものを持ってきて頂戴。まだ少し残っていたでしょう?」
お祖母様は楽しそうに、壁際に控えていたメイドに声をかけた。少しして戻ってきたメイドはテーブルの上に皿を置いた。
「……! これは」
「ふふふ、可愛らしいでしょう? 型で同じ形を作って、アイシングというもので飾り付けをするのですって。ショウガが入っているクッキーだからこれからの季節に丁度いいわ。時間があるなら作らせるから持って帰って? 一時間もあれば出来ますよ」
お皿の上にあったのは人型やうさぎ型、それに星や花等がアイシングというもので飾り付けられたクッキーだ。
「ありがとうございます。こちらも一つ頂いてよろしいてすか?」
「もちろんよ。沢山食べて頂戴」
可愛らしいクッキーを食べながら紅茶を飲んで、一息をつくとお祖母様は「クッキーの様子を見てきますね」と席を外した。
そのタイミングでお祖父様がゆっくりと口を開いた。
「メイソンの後だから少し安心をしていたが、うるさい者が居ったようだな」
静かな言葉に僕は思わず苦笑してしまった。
「はい。ですが、追いやられてしまったようです。父様か兄様が手を回して下さったのではないかと思っています。逆恨みをする者もいるのでしばらくは気を付けるように言われております」
「うむ。まぁ、心配はいらんだろうが、そんな輩も隠れておるかもしれん。炙って周囲を牽制するもよし、芽を摘んでしまうもよし。アルフレッドに任せておきなさい」
「はい。ありがとうございます。でも言うべき所は口にしようと思っています。ただの小倅と見くびられるのも面倒だと思うので」
「うむ。その辺りは好きに動いて良い。領主の顔を持つ事も必要になってくるだろう」
「はい。全部同じ価値観で同じ顔をしていられるのが一番なのですが」
「ふふふ、そうだな。だが、価値観の違いがあるからこそ、気づきや討論も出来る。差異を自分のものに出来るか出来ないかで技量に差が出る」
「ありがとうございます。自分だけの殻に閉じこもらずに視野を広げていきます」
「うむ。大人びた会話が出来るようになったな」
「ふふふ、お祖父様たちのお陰です」
笑って答えるとお祖父様も笑ってくださった。
「ああ、そういえば、リュミエールに麦を持たせたらしいな」
「はい、元ハーヴィンから持ち帰った砂の温室での実験はもういいかと思いまして。外で試してみようと思いました。芽が出たと嬉しい報告が来ました」
「そうか、一度はそちらも見に行きたいな」
「はい!」
それから僕とお祖父様は砂漠の砂を使った実験についての話をした。リュミエールには麦の他にも果物や野菜なども試してみようという話をして、春になったらルシルの所を訪ねようと思った。
そしてシェルバーネの砂に関しては結果にばらつきがあるのでその違いが何なのかお祖父様にも見てほしいととお願いをした。お祖父様はもしかすると妖精が関わっているのかもしれないって。妖精は可愛いけれど、実験に影響が出ちゃうのは困るなぁ。
「とりあえずは成人の祝いをして、来年の結婚式だ。結婚式にはダリウスも出席したいといっていたので、現地で実験をしてもらうのもいいかもしれん」
「はい。では成人のお祝いが終わったら一度グリーンベリーにお越しいただけますか?」
「うむ」
そんなやりとりをして僕は応接室を後にした。そして。
「エドワード様?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り返ると、そこには一緒に勉強会に参加をしていた事があるレイモンド家の嫡男、アシュトンさんの姿があった。
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