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第9章   幸せになります

385. 準備

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 昼休みは賑やかだった。

 久しぶりに会ったレナード君やエリック君。そしてユージーン君からもそれぞれの領の事を聞いた。
 レナード君は子爵位を授かって、ルーカスの実家であるヒューイット子爵家の隣に領地を持った。元々管理領だったので入領はひと月しかなく、領地に入ってからの方が色々と大変だったと笑っていた。
 後ろ盾にトールマン侯爵家が付いているので表立った揉め事はなかったが、それでも親戚、特に遠縁の家から領の官吏登用について声をかけて来る事が多く少し面倒だったと苦笑していた。また今まで管理をしていた者達をそのままの役職に置いていていいものなのかも悩ましい所だったと。

「色々な所で色々な癒着のようなものはどうしてもあるからね。それをどこまで踏み込んでいくのか難しかったけれど、この辺りは申し訳ないけど侯爵家の手を借りたよ。私では調べる術がなかったからね。まぁ一年が過ぎてようやく整理がついてきたかな。学園に通いながらだとなかなかまとまった時間が取れなかったから、この休みは領にこもりきりになってしまったよ」

 苦笑いをするレナード君に「どこも同じだな」とユージーン君とエリック君が言った。

「エリック君の所は管理領と領地替えの所が混じった感じになっているんだよね。領民の事で色々と大変だったみたいだものね」
「ああ、その他にも色々と面倒な事があってね。王室からの声がかりで決まったからね、さすがに相談をさせていただいたよ。ユードルフ侯爵家とスタンリー公爵様が相談に乗って下さってね、まぁ、どうにか落ち着いてきた感じかな。でも港が二つあるというのはやはり大変だね」

 そうなんだ。うん? でもどうしてスタンリー家が? って尋ねたら。

「あれ? まだ伝わっていなかった? うちの妹がスタンリー様の所に嫁ぐ事に決まったんだよ」
「ええ! ジェイムズ……様とエリックの妹さんが?」
「ああ、式はまだ先だけれどね。とりあえず婚約式は昨年のうちに済ませているんだ。高等部の一年だから結婚式をどうするかは相談だね。ただスタンリー様が公爵家に陞爵されているので卒業してすぐという事になるかもしれないし、年が離れているから来年に結婚をしてしまうかもしれない。女性の場合は卒業を待たずに結婚をしてしまう事も多いから」
「そうだったんだ。遅くなったけれどおめでとう」

 僕がちょっとだけ呆然としてそう言うとエリック君は笑いながら「ありがとう」って返事をした。
 何だか領に入ってからもうすぐ一年経つんだけど、三年になってからも結構休んだりちょっとしか来られなかったりしていて、ちゃんと皆と話が出来ていなかったんだなって改めて思ってしまった。というか、皆もそうだったし、きっとこのくらい経たないと出来ない話もあるんだよね。僕の領だってやっと色々が決まって動き出してきたところだもの。

「ジーンの所も領地が広がって、ジーンはそちらの方に行くんだよね?」
「ああ、新しい地域に屋敷を建ててトムと住む予定でいるよ」
「うん。あの、良かったら転移陣をお互いに組ませてほしいんだけど」
「ああ、勿論。こちらからもお願いをしようと思っていたんだ。卒業をしても友人として行き来をさせてほしい」
「うん。じゃあ具体的な事はまた改めて。他の所も良かったらお願いします」

 こうして僕たちはそれぞれの領や、それぞれに決めている事を話して昼休みを終えた。
 何となく卒業に向けての一歩を感じた日になった。



 そして再び母様から成人のお祝いの洋服が出来たからいらっしゃいという声がかかった。結婚式の衣装のデザインも上がってきたという。
 兄様と二人でフィンレーに行って、まずは成人のお祝いの洋服を試着。
 似合うと褒められてちょっとテレッとなって、次に結婚式の衣装の形を決める。

「先日お話しいただいた形で何点か描いてまいりましたのでご覧ください」

 そう言って広げられたとても緻密なデザイン画に僕は本当に驚いてしまった。
 マントの形とか、長さとか、刺繍の入り方とか形とか色味とか……。思わず「すごいです」としか言えなかった僕に母様と兄様はニッコリと笑ってからデザイン画の吟味に入った。

「マントの長さはもしも踏んでしまって怪我をしてしまう様な事があるといけないのでこの位で」
「そうね、あまり短いのもみっともないですからね。後は重すぎず、けれどあまりひらひらとなびくようなものは品がないから止めましょう。肩口から綺麗にドレープが出る方がいいけれど、そうなると刺繍が難しいかしら。その辺りは勿論計算をするのでしょう?」
「はい、勿論です。ドレープが綺麗に流れるように肩口に無理がない程度にパッドを入れる事も出来ます。勿論厳つくなるような無粋なデザインには致しません」
「そうね。少しくらいは入れないとマントの形にならないかもしれないわ。その辺りは刺繍の前に調整をするのでしょう? でも古臭い感じは嫌よ」
「はい」

 ああ、母様のお話が止まらない。そして兄様は僕を見てにっこりするけれど、デザイン画を見る目は真剣だ。

「戦いに行くわけではないのでブーツも礼装のもので」
「はい」
「この前言っていたサッシュベルトは?」
「見本をいくつか持ってきております」
「詰襟もこうなるといい感じね」
「少しゆとりを持たせてマントと対の刺繍などが入るといいかもしれません」
「ああ、なるほど。ではこのような感じで」
「……うん。いいわね。アルの方は少しかっちりしていてもいいけれど、エディの方はもう少しふんわりした感じでもいいわ。こちらの方が似合いそう。色味を合わせれば多少のデザインの違いがあってもちぐはぐな感じにはならないかしらね」
「左様でございますね」

 ええっとこれはもしかしたら僕の出番はないんじゃないかな。あ、でもちゃんと聞いておかないとまた出来上がってから恥ずかしくなっちゃうと困るからね。

「フ、フリフリがあまり多いのは嫌です」
「そうね。でも全然ないとパジャマのようになってしまったら困るでしょう?」
「パ……はい、それは困ります」
「それに大人っぽくて可愛い方がきっとエディに似合うよ」
「そ、そうでしょうか」
「うん。こういう感じは嫌い?」

 兄様はすでにいくつかの修正が入っているデザイン画を見せた。うん。よく分からないけど、そんなにものすごくフリフリがあるようには見えない。

「ええっと、兄様に似合うと思ってもらえるならそれで大丈夫です!」

 元気よくそう答えると、何故か母様が「あらあらあら」と言って、兄様は久しぶりに顔を手で隠した。

「うん。久々に……ちょっとクラっときたね。でもせっかくだから一緒に決めよう?」
「はい。分かりました」

 馴染みのテーラーさんが「仲がお宜しくて結構な事でございます」って言ったから、僕はもう一度テレッとなってしまった。
 こうして数時間後、衣装のデザインと生地が決まった。


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