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第1章 幼少期
書籍化記念エピソード【一番大事な日】
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僕がフィンレー侯爵家にやって来たのは、四歳になった少し後に起きた事件から半月くらい経ってからで、初めて乗った馬車から黄金色に輝く麦畑が見えたのを覚えている。
初めて会ったその日から、僕はアル兄様が大好きになった。
サラサラの金色の髪とお空の色をしたお目目。僕のことを「エディ」って呼んでくれたんだ。僕はフィンレーの皆が大好きだけど、アル兄様の事はもっと、沢山大好き!
だから毎日が楽しくて、美味しいものを食べたり、絵本を読んでもらったりしながら、僕は『悪役令息』にならないように気をつけてきた。
そしてあっという間に時間が過ぎて、お外が雪で真っ白だったフィンレーに春が来た頃、母様が僕に尋ねてきた。
「エディ、お誕生日は十の月だったわね?」
「はい。じゅうのつきのじゅういちにちです」
「そう。五歳になるとお披露目会というものがあるのですよ。皆にうちの子ですってエディのことを紹介するの。楽しみね」
母様が本当に楽しそうにそう言うので、僕も「はい」って返事をしたよ。そして……
「あ、あの、ぱてぃかーさま、アルにーさまのおたんじょうびはいつですか?」
「アルの誕生日は五の月よ」
「ごのつき」
その時から五の月は僕の中で特別な月になった。なった筈だったのに……
その年の五の月になった時、僕はアル兄様に一番に「おたんじょうびおめでとうございます!」って言うつもりだった。
いつも楽しい事や嬉しい事をして下さる兄様のお誕生日をお祝いしたいと思っていたんだ。それなのに、僕は兄様のお誕生日が何日なのかを聞き忘れていたんだ!
気づいた時は五の月になっていて、僕は絵本を読んでくださった兄様に尋ねてみた。
「アルにーさま! ごのつきはにーさまのおたんじょうびってききました。にーさまのおたんじょうびはなんにちですか?」
すると兄様は少しだけ困ったような顔をした。
「えっと、六日だよ。もう過ぎちゃったね」
「え!」
「でもエディが僕の誕生日の事を覚えてくれていて嬉しいよ。ありがとう、エディ。エディのお誕生日は十の月だって聞いたよ? 五歳は特別だから、きっとお披露目会をして盛大にお祝いを……エディ?」
ポロポロと泣き出してしまった僕に、兄様は慌ててハンカチを取り出した。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「……いたくないです。おそ、おそくなってすみません。いちばんにおめでとうっていいたかったです。アルにーさまに、おめでとうって」
「エディ、泣かないで。誕生日は特に何かをするわけではないんだよ。ちゃんとお祝いするのは五歳のお披露目会と、十八歳の成人の時くらいなんだ。でもエディがそんな風に思ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
兄様はそう言って僕の事をギュッてして、背中をポンポンってしてくれた。
「じゅっさいのおたんじょうび、おめ、おめでとうございます。このつぎは、ちゃんとろくのひにいいます」
兄様に背中をポンポンされて泣きながら宣言をした僕に、兄様は「楽しみにしているね」って言ってくれた。
今度こそ、ううん。これからは絶対に忘れない! 五の月の六日は僕の一番大事な日だ。
でもね、その年の十の月。兄様は僕の五歳のお誕生日に「お誕生日おめでとう」って兄様のお目目の色と同じお色のリボンをプレゼントしてくださったんだ。その少し前に「何色が好き?」って聞かれたから「アル兄様のお目目みたいな綺麗な青色がすきです」って答えたのをちゃんと覚えていてくださったんだ。
僕は「ありがとうございます」って答えながら、一番大事な日にはプレゼントも用意してお祝いしようって胸の中で誓った。
------
書籍化記念のSSです。
書いていなかったエディが来て初めての兄様のお誕生日の話です。
沢山の応援ありがとうございました。
続編が出せたらなと思っています。
これからもよろしくお願いします<(_ _)>
初めて会ったその日から、僕はアル兄様が大好きになった。
サラサラの金色の髪とお空の色をしたお目目。僕のことを「エディ」って呼んでくれたんだ。僕はフィンレーの皆が大好きだけど、アル兄様の事はもっと、沢山大好き!
だから毎日が楽しくて、美味しいものを食べたり、絵本を読んでもらったりしながら、僕は『悪役令息』にならないように気をつけてきた。
そしてあっという間に時間が過ぎて、お外が雪で真っ白だったフィンレーに春が来た頃、母様が僕に尋ねてきた。
「エディ、お誕生日は十の月だったわね?」
「はい。じゅうのつきのじゅういちにちです」
「そう。五歳になるとお披露目会というものがあるのですよ。皆にうちの子ですってエディのことを紹介するの。楽しみね」
母様が本当に楽しそうにそう言うので、僕も「はい」って返事をしたよ。そして……
「あ、あの、ぱてぃかーさま、アルにーさまのおたんじょうびはいつですか?」
「アルの誕生日は五の月よ」
「ごのつき」
その時から五の月は僕の中で特別な月になった。なった筈だったのに……
その年の五の月になった時、僕はアル兄様に一番に「おたんじょうびおめでとうございます!」って言うつもりだった。
いつも楽しい事や嬉しい事をして下さる兄様のお誕生日をお祝いしたいと思っていたんだ。それなのに、僕は兄様のお誕生日が何日なのかを聞き忘れていたんだ!
気づいた時は五の月になっていて、僕は絵本を読んでくださった兄様に尋ねてみた。
「アルにーさま! ごのつきはにーさまのおたんじょうびってききました。にーさまのおたんじょうびはなんにちですか?」
すると兄様は少しだけ困ったような顔をした。
「えっと、六日だよ。もう過ぎちゃったね」
「え!」
「でもエディが僕の誕生日の事を覚えてくれていて嬉しいよ。ありがとう、エディ。エディのお誕生日は十の月だって聞いたよ? 五歳は特別だから、きっとお披露目会をして盛大にお祝いを……エディ?」
ポロポロと泣き出してしまった僕に、兄様は慌ててハンカチを取り出した。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「……いたくないです。おそ、おそくなってすみません。いちばんにおめでとうっていいたかったです。アルにーさまに、おめでとうって」
「エディ、泣かないで。誕生日は特に何かをするわけではないんだよ。ちゃんとお祝いするのは五歳のお披露目会と、十八歳の成人の時くらいなんだ。でもエディがそんな風に思ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
兄様はそう言って僕の事をギュッてして、背中をポンポンってしてくれた。
「じゅっさいのおたんじょうび、おめ、おめでとうございます。このつぎは、ちゃんとろくのひにいいます」
兄様に背中をポンポンされて泣きながら宣言をした僕に、兄様は「楽しみにしているね」って言ってくれた。
今度こそ、ううん。これからは絶対に忘れない! 五の月の六日は僕の一番大事な日だ。
でもね、その年の十の月。兄様は僕の五歳のお誕生日に「お誕生日おめでとう」って兄様のお目目の色と同じお色のリボンをプレゼントしてくださったんだ。その少し前に「何色が好き?」って聞かれたから「アル兄様のお目目みたいな綺麗な青色がすきです」って答えたのをちゃんと覚えていてくださったんだ。
僕は「ありがとうございます」って答えながら、一番大事な日にはプレゼントも用意してお祝いしようって胸の中で誓った。
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書籍化記念のSSです。
書いていなかったエディが来て初めての兄様のお誕生日の話です。
沢山の応援ありがとうございました。
続編が出せたらなと思っています。
これからもよろしくお願いします<(_ _)>
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