上 下
268 / 335
第9章   幸せになります

373. 婚約式の後

しおりを挟む
 婚約式が終わって婚約者となっても、僕と兄様の生活が大きく変わる事はなかった。とりあえず婚約式に関する事がなくなったので、学園に通えるようにもなった。
 今年は何かと休みが多くなってしまったから、三年生に上がれないような事がないように最低限の出席日数は確保するように気を付けないとね。

 結局兄様からは結婚式までは兄様のままで大丈夫だよって苦笑いされてしまった。僕が「兄様」って言いかけては困ったような顔をするから。
 でもなんて言っていいのか分からないんだもの。だってずっとずっと兄様は兄様で、アル兄様ってお名前でなく、兄様だけにはなったけれど……。こう呼んでって言うのがあればそれを教えてもらうのはどうかなぁ。あ、でも待って。お祖母様や母様みたいに「貴方あなた」なんて呼ぶ事はできないよ! 母様は時々「デイヴィット」って父様の名前を呼んでいる時もあるけれど、それも難しい。だって、兄様の事を呼び捨てするなんて無理だもん。
 やっぱり兄様は兄様だから結婚式まではそう呼ばせてもらおうかな。だけど結婚をしたらなんて呼んだらいいのかもちゃんと考えないといけないよね。

 最近は朝はタウンハウスから学園へ。そして学園から戻ったら課題を片付けてグリーンベリーへ転移をしてしまう事が多くなった。勿論夕食までにはタウンハウスに戻って来るから行っている時間はそんなに多くはない。
 でも行けば何かしらはあるし、やっぱりある程度軌道に乗るまでは仕方がないなって思うんだ。別に問題が起きているわけではないけれど、見落としている町とか村とかもあるしね。新しい領主の顔を知らないっていう人は多分結構いると思う。まぁ、少しずつ色々な所を回ってみたいなって思っている。
 あとミッチェル君や他の皆は急ぎの事がない限りは週に一度位にしてもらうように話をした。それで何かが回らなければまた考えて行こうって事になったよ。やっぱり学生の間は学園の方を優先にしてもらった方がいいものね。
 そして……

『えでぃー』
「ティオ、久しぶり!リロイもセームルも元気だった?」

 グリーンベリーの温室にもティオ達が来てくれるようになったんだ。
 あの木を植えてから少しして、夢の中におおきいひとと呼ばれるファラルが現れた。「木が植えられたので、繋がりが出来てグリーンベリーにも行かれるようになりました。道を繋ぎたいと思います」という話をされた。僕はフィンレーのように温室の中に木があるわけではない事と、木を持ってきてしまった事でフィンレーの温室への道が消えてしまう様な事はないのかと尋ねた。

『木は大まかな目印です。前回のような出来上がっている道を消し去るような時にははっきりとしたものが必要になりますが、新しい道を作る時はそれを目印にして、実際にどこに繋ぐかはその後になります。今回は木のある敷地内の温室に繋げさせていただきますね』

 そうしてその翌日温室に行ったらティオ達がいたのだ。勿論蜂蜜パーティをしたよ。残念ながら他の妖精たちは見る事は出来ないけれど、それでも温室の中が少しキラキラしているような気がしたし、出したミルクカップはコロコロと転がっていた。ハリーのように妖精の加護があるわけではないから契約をしていない子たちの姿を見る事は出来ない。でも少しでも感じられたらいいなって思った。

 フィンレーはあの騒動の後も、結局強い結界を弱める事はしなかった。
 そしてグリーンベリーもお祖父様は同じ結界を屋敷の敷地に張って下さった。新興の領に探りを入れる様な者は少なからずいるらしい。別に探られて困るようなものはないけれど、やはり知らない人に生活を覗かれるような事はされたくないし、使う事もないだろうけれど、あの加護については隠す事はもう無理だけど、公にする事も考えていないので、それも含めて結界はあった方がいいのかなって思った。

 兄様は「余計なものに煩わされる事がない方がいいからね」ってリヒトにある執務用の屋敷にも同じように結界をかけるようにお願いをしていたよ。
 そんな感じで十の月も終わって、十一の月。
 ウィルとハリーが一年早く学園に入る為の試験を受けた。試験の結果は翌日に出る。二人は来年から王都の学園に通う事になったと報告が来た。兄様は今フィンレーの父様のお仕事のお手伝いをしている。最初の大きなお手伝いは冬祭りになりそうだって。
 二人の合格祝いを何にしようかなって話をしていたら。

「来年はエディを独り占め出来なくなりそうだな」
「え? ひと、ええ?」
「だって二人と一緒に学園に通うんでしょう? 朝食も、夕食も、基本は4人になる。ちょっと残念」

 兄様はそう言ってクスリと笑った。

「…………でもご挨拶をするのは、兄様とだけですよ」

 そう。婚約者になっても特に何も変わらないって思ったんだけど、兄様から提案があったんだ。せっかく皆に認められて婚約者になったんだから、婚約者らしい事をしようかって。
 婚約者らしい事ってなんだろう? って思ったら朝の口づけとおやすみの口づけをしてほしいって。

 最近はね、ちょっと、自然にっていうか、何となくそんな感じっていうか、口づけをする事が多くなってきたかなって思ってはいたんだ。初めて口づけをしたのは兄様が結婚を申し込んでくれた時なんだけど……。
 それから少しずつそんな風になる事があって、嫌じゃなくて、えっとその……
 だからね、最近はお部屋に兄様が来てくれて「おはよう」って口づけをしてからダイニングに下りて、夜は食後に少し話をしたりした後に、部屋まで送ってくれて「おやすみなさい」って口づけをする事が日課になってきているんだ。

「そうだね、私とだけの特別な挨拶だからね」

 そう言って兄様は頬っぺたに掠めるように口づける。

「ふぁ!」
「ふふふ、こういうのも慣れてね、エディ。二人が来るまでに。そんな声を聞かせたらダメだよ?」
 
 楽し気にそう言って笑う兄様に「頑張ります」って言ったら兄様は今度はギュッてしてきた。そして僕はそんな兄様にやっぱり顔を赤くしてしまったんだ。


----------
はい、甘い~
しおりを挟む
感想 940

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

ある日、人気俳優の弟になりました。

ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。