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第9章   幸せになります

369. 一緒に行ってくれて良かった

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 本当ならその日のうちにとんぼ返りをするなんて失礼なんだけれど、夕食を一緒に取って僕たちはフィンレーに戻る事になっていた。ルシルも僕が忙しいのは分かっているので「またゆっくりと来てほしい」って言ってくれた。
 そして食後のデザートが出されたタイミングで僕はそっと気になっていた事を口にした。

「ルシル、こんな時に聞く事ではないのは分かっているんだけど、やり直しの事はどうなったの?」

 僕がそう言うとルシルは少しだけ驚いたような顔をしてから「まさか今聞かれるとは思っていなかった」と笑った。

「うん。僕はやり直す事はしなかった」
「…………そうなんだ」
「だけど殿下がやり直しの繰り返しをしてきた」
「え!」
「うんって言うまで何度でも言うって」
「え? そ、それって」
「実はもう三度もプロポーズをされていて、また来月来るって言われているよ」
「えぇぇぇ……」

 その言葉にどう答えたらいいのか分からなくて変な声を出してしまった隣で、兄様が眉間に縦皺を寄せて黙り込んでいた。

「ロイスの事が好きでもって言われたから、ロイス様の事はなんとも思っていませんって言うんだけど、結局ロイス様がこちらで色々と手伝って下さるのが気になっているみたいでね、ロイス様からはそろそろいい返事をしてやってくださいませんかって言われているんだけど、まだ領の事も始まったばかりだしさ、領主になったからにはちゃんとした事をしたいでしょう? そう言っているんだけどね、来るたびに色々な案を出してきて、何だかちょっと楽しくなってきてる」
「ルシル?」
「ふふふ、おかしいでしょう? 公爵家の当主と新興の伯爵家の当主なんてどう考えたって無理なのにさ、何だか殿下の……コルベック公爵様の言葉を聞いているとなんとかなるんじゃないかなって思えたりしちゃうんだ。僕もほんとに推しに弱い」
「ルシル……」
「好きな人に好きだって言われ続けていたらさ、やっぱりときめいちゃうよね。だけど、すぐにうんとは言えないから。ちゃんと公爵家もこの家も続けていかれないとダメだから。だから次はどんな案を考えてくれるのかなって期待をしている。したら駄目なのに、期待しちゃうんだよ、エディ」

 そう言ってふわりと笑ったルシルの目からブワッと涙が溢れ出した。

「小説はやっぱり小説だよ。ゲームもね。何も考えなくてもちゃんとハッピーエンドになれるもの。ハッピーエンドのその次なんて何も考えない。でも僕らはここで生きていて、これからの事も考えなければいけないんだ」
「…………」
「ちゃんとその次の事まで考えられないなら、それを手にしたらいけないって思うんだ。ごめんねエディ。色々アドバイスをしてくれたのに、僕は、僕が考えていた以上に自分が臆病者だって気づいたよ。それでももう少しだけ、期待をして、夢を見たいって思っちゃうんだ」

 僕は口を開いて、けれど何も言えずに閉じた。どんな言葉をかけたらいいのか分からなくて、だけどルシルの気持ちも切なくて、目の前のデザートをぼんやりと見つめてしまった。その途端。

「一人で考える事はない。一緒に考えればいい」
「え……」
「案を聞くだけでなく、問題提起をして考えさせればいい。何が必要か、何が足らないか、どうしたらいいのか、一人で考えて出せない答えは、二人で考えれば違う答えが出るかもしれない。それに権力の使い方なら相手の方が遥かに勝る。使い方次第だ。すぐに答えを出せずとも、未来へ続く約束は出来る」
「兄様……」
「アルフレッド様」
「私は、好きなら好きだと言ってやるべきだと思う。あれは単純で短絡的で短慮な所があるが、嘘はつかない。それは評価が出来る。しかも自分の気持ちに気付くまでに時間もかかる。だが、一度それが判れば裏切るような事はしないだろう」
「あれって……」

 ルシルは呟くようにそう言って笑って、次にクシャリと顔を歪めた。

「ルシル、僕の領が整ったら、今度はルシルが遊びに来て? そして今日の続きの話を聞かせてね」
「エディ……」
「うん。ありがとうエディ。ありがとうございます。アルフレッド様」

 僕たちはこうしてルシルの領を後にした。


 フィンレーに戻ってきて兄様は「紅茶でも飲もうか」って誘ってくれた。結局出されたデザートも紅茶も手を付けないままになってしまったので「はい」って返事をした。
 僕の部屋で温かい紅茶とシェフが試作をしたというミルクで作ったアイスクリームを出してもらって口にしながら僕はポツリと口を開いた。

「今日はありがとうございました。祈りの場を見られた事も、ルシルの領地であった事を聞けたのも、とても良かった。やっぱり行って良かったなって思いました。それに……」
「うん?」
「それに、殿下とルシルの話も、僕は言葉が見つからなくなってしまったけれど、兄様がいて下さって、お話をして下さって良かったです」

 僕がそう言うと兄様はふわりと笑った。そしてそっと僕の髪を撫でた。

「お節介は性に合わないんだけどね。エディが悲しそうな顔をしていたから。つい口を開いてしまったけれど、そう思ったなら良かった。まぁ、後は本人たち次第の事だ。なるようにしかならないから、もう気にしてはいけないよ」
「はい。そうします。でも……ルシルにも、幸せになってほしいなとは思います」
「ふふふ、そうだね。そうなるといいね。私たちのようにね」

 紅茶のカップを取り上げられて、そっとソーサーに戻された。そうしてそっとそっと啄ばむように唇が重ねられる。

「……っ……」
「エディが、幸せに思ってくれていて良かった」

 囁くようにそう言ってもう一度寄せられた唇。
 口にしていたアイスクリームのせいなのか、触れ合うだけの口づけはいつもよりも甘くて、僕は瞳を閉じて兄様の服をギュッと掴んだ。

 
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ちょっと説明的な話が続いたので甘みをね♪ 
 
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