上 下
242 / 335
第9章   幸せになります

347. シェルバーネの公爵家

しおりを挟む
 何だかあれよあれよって言う間に時間がどんどん過ぎていく。
 西の国、五の月からシェルバーネとの正式な国交が開始されるので、その前に使節団の人達は帰る事になっている。持ち寄った事柄をすり合わせて、二つの国にとってより良い形になるように考えて考えて、そうして調印をして、その後も何が足りないのかをまた考えて。

 新しい事が始まるのって本当に大変な事なんだなって思ったよ。
 そしていよいよ、ダリウス叔父様もシェルバーネに戻る事になった。
 そう聞いてお別れの挨拶をする為にフィンレーに来たら…………

「初めまして。シェルバーネのエルグランド公爵家当主、ラヒーム・アマディ・エルグランドです。ダリウスより色々話を聞いて、国に帰る前に一度お会いしたかった。スタンピードの事シェルバーネにも伝わっています。貴方の事、素晴らしいと思います。その力は称賛されると同時に、守られるべきものです。フィンレー侯爵からもお話を伺いました。これからもよろしくお願いします。何か困った事がありましたら、遠慮なく声をかけて下さい」

 流暢な王国の言葉でそう言われて、僕は驚きながらも慌ててお辞儀をした。

「丁寧なご挨拶、ありがとうございました。ルフェリット王国、フィンレー侯爵家次男の、エドワード・フィンレーです。ダリウス叔父様には色々なお話を聞かせていただきました。禍の事が判ったのも叔父様のお陰です。どうごこれからもよろしくお願い致します」

 僕の挨拶にエルグランド公爵はニコニコと笑って頷いた。

「実はもう一人皆様に紹介したい人がいます。こちらに来る予定ではなかったのですが、来てしまいました。せっかくなので紹介をさせて下さい」

 そういうと大柄の公爵様の後ろからスラリとした長身の男の人がやって来て、ゆっくりと頭を下げた。

「ご挨拶させていただきます。本来であればもっと早くにきちんとした挨拶をしなければならなかったのですが、何分国が開かれる事になりましたのがこれからの事ですのでご容赦くださいませ。エルグランド公爵家の嫡男、シャマル・アマディ・エルグランド。書類上ではダリウスの夫になります」
「……はぇ……」

 思わず変な声が出てしまった僕を兄様がそっと引き寄せた。

「失礼いたしました。ご挨拶を頂きありがとうございます。フィンレー侯爵家嫡男のアルフレッド・グランデス・フィンレーです。私もダリウス叔父上には色々とお話して頂きまして、感謝をしております」
「私の伴侶がお役に立てたなら何よりです。私たちも皆様方のお話をお聞きして、色々と参考になりました。ありがとうございます」

 え? ちょっと待って? え? 伴侶? 書類上の夫?

「おっと……」
「エドワード! 失礼いたしました」

 父様が慌てて頭を下げて、兄様も苦笑をしながら僕を一歩後ろへ下げるようにして父様と同じように頭を下げた。

「ああ、いえ、驚かれるのは無理のない事です。シェルバーネはルフェリットよりも更に女性の数が少なく、同性婚は貴族の嫡男としても普通の事なのですよ」

 そう言ってシャマル様は綺麗な笑みを浮かべた。
 ルフェリットにはあまりない小麦色の肌とブラウンとオリーブを混ぜたような色合いの長い髪。瞳の色は兄様の空の色の青とは違う、濃いめの青い瞳。なんだっけ前にスティーブ君がくれた色の見本帳にあった、ああ、そうだ。ブルームーンそんな色の名前だった。

「失礼いたしました。シャマル様」
「いいえ。大丈夫ですよ。エドワード様もそろそろ正式にご婚約だとか。また改めてお祝いを届けさせていただきます」
「ありがとうございます」

 僕たちのやりとりをダリウス叔父様は壁の方で苦笑に近い笑みを浮かべて聞いていた。
 叔父様だけがいらっしゃると思ったのに、公爵様や、伴侶の方がいらっしゃるなんて始めに教えてくれれば良かったのにとつい思ってしまったよ。それにしても、そうなんだ。シェルバーネも同性婚が可能なんだね。というか普通なんだ。

「こちらは、親類となったご挨拶代わりという事で、お受け取りいただければ幸いです」

 シャマル様がそう言うと、控えていた人がササッと近づいて来て、シャマル様に何かを渡した。
シャマル様は無言でそれを受け取って、兄様へ渡した。

「魔法が使えるルフェリットには不要なものかとは思いますが、以前星を映す魔道具を手に入れられたり、お二方で魔道具を作られた事もあったとか。こちらはダリウスが使っている書簡を送る魔道具を改良しているものです。どうぞお試しください」

 ニッコリと笑ったシャマル様に、僕と兄様はありがとうございましたとお礼を言った。
 きっとあの小さい叔父様が現れる書簡の魔道具だよね。あれ改良したってどうなったんだろう。楽しみ!
 そう考えてついニコニコ笑顔になってしまった僕に、シャマル様は楽しそうな笑みを浮かべた。

「エドワード様は、本当に可愛らしいですね。私は兄弟がいないので可愛らしい弟がいるアルフレッド様が羨ましい。これからは叔父のダリウスと同じように、他国に義理の兄がいると思っていただければ嬉しいです。いつかシェルバーネにも遊びにいらして下さいね」
「はい。ありがとうございます」

 僕がそう答えると先ほどはブルームーンの瞳が柔らかく笑った。



 そうしてシェルバーネの使節団は自国へと帰っていった。
 交易が公に始まる五の月はもうすぐだった。

-----------

ふふふ、ここにきて新キャラですね(;^ω^)
えへへ。癖のありそうな、書類上の夫です。




 
しおりを挟む
感想 940

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
洗脳され無理やり暗殺者にされ、無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。