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第9章 幸せになります
一周年記念- カルロス君とオルフィナさん 前編
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ルフェリット王国の北東にあるフィンレー侯爵領。
カルロス・グランデス・フィンレーはそこで嫡男として生まれた。
父譲りの金色の髪と深いオリーブ色の瞳。口数は多いタイプではなかったが、言うべき事はきちんと伝える、そんな少年だった。
本が好きで、星が好き、草花に興味があり、大きくなったら本に囲まれた学者や、草花を育てながら新しい薬を作り出すような薬師になりたいと思っていた事もあった。
現フィンレー当主の父は、カルロスの事を嫡男として少し厳しく育ててはいたが、子供の言葉を聞かなかったり、無理矢理に何かを押し付ける様な事をする人間ではなかった。
やるべき事をやるならば、好きな事もすればいい。知識は決して無駄にはならない。知りたいと思う事、やりたいと思う事は中途半端にだけはするな。それが父の口癖だった。
五歳のお披露目会の後、父はカルロスを書斎に呼び出した。
「知りたいと思う事を知ろうとすればいい。やりたいと思う事をやればよい。ただし、このフィンレーの次期当主はお前だ。それだけは変わる事はない」
父の言葉にカルロスは頷いた。5歳という年齢だけを考えれば、難しく、大人びた言葉だったけれど、これから本格的な勉強が始まる前にフィンレーの当主として伝えておかなければならない言葉だったのだ。
そうしてその後、当主だけに伝えられる聖地の事、祈りを絶やしてはならない事、精霊に、グランディス神に感謝を忘れない事。あとは思うように、領民たちの事を考えながら過ごしていけばいいと遥か向こうに広がる森を見せられてそう言われた。
歴代の嫡男たちが皆通ってきた道だった。勿論カルロスはその重責を苦しく思う事もなく、自然に受け入れた。
教育はこれから始まるのだし、分からない事はきちんと聞けばいい。それでも分からなければどこまでも調べていけばよい。それを許す父と母である事をカルロスは理解をしていたし、それがフィンレー当主の嫡男だと思っていた。
六歳の魔法鑑定で、カルロスは土と風の基本属性だと鑑定を受けた。その他に<才知>というスキルがあった。極めていけば賢者になれるかもしれないと言われたが、カルロスも父もそれに関してはあまり興味がなかった。
魔法に関しては、魔力量は多かったが、基本の属性は土と風。どちらも攻撃魔法としてはパッとしない、どちらかと言えば支援系の魔法と言われる属性だったが、父もカルロス自身も、ないなら付け加えていけばいいと考えるタイプだった為、学園に入る頃には風の派生である雷魔法を取得し、水魔法もその派生の氷魔法も取得していた。
火属性は初等部の間に手に入れた。薬草に興味を持ち、それを煎じたり加工をしたいと思ったからだ。
淡々と、というよりはどこか飄々とした少年は、初等部から高等部へと進学をする。
その頃にはパラパラと婚約をし始める子息、子女もいたが、そちらに関してはほとんど興味がなかった。おそらくそのうちに父母か、やや過保護気味の祖父母たちが騒ぎ出すだろうと思っていたし、それでいいとも思っていた。人付き合いは苦手と言うほどではないが、必要最小限でよいと思っていたし、面倒ごとに時間を取られるのは正直煩わしかったのだ。
上位の侯爵家の嫡男という事もあって、お茶会などで関わった友人たち以外はほとんど話しかけてこない。そんな日常を破ったのは3歳離れた妹が初等部に入学してきてからだった。
「お兄様! お昼だというのにお勉強をなさっているの? 食事はきちんと取らないといけませんよ」
母によく似た顔でそう言われると思わず苦い笑みが零れた。
「相変わらずだな、アイリーン様は」
お茶会からの付き合いである侯爵子息が小さく笑いながら声をかけて来る。
「ああ……まったく。こんなに何も考えずに高等部の教室までやって来るのはあいつ位だよ」
「確かに。昔からカルロスを見ているから、怖いとか無愛想とかそういうものにかなり強い免疫があるんだな」
「…………そうかもしれない」
「おいおい、そこは否定をするところだろう?」
苦笑する友人に「お前が言ったんだろう」とだけ言ってカルロスは妹の所へ向かって……
「え……?」
絶句した。そこにいたのは妹だけではなく、パリパリと音がしそうなほど顔を強張らせている女生徒が三人いたのだ。
「いやだ、お兄様忘れちゃったの? 高等部の食堂に美味しいって評判のメニューがあるから食べてみたいって言ったら来てもいいって言ったでしょう?」
「え……いつ……?」
そんな事を言っただろうか? というか万に一つの可能性でそう言ったとしても、友人の女性たちまで同行させるとは絶対に聞いていない。
高等部の廊下でジロジロと見られている彼女たちの顔色はすでに白い。
「リーン、もう少しお友達の事も考えてあげなさい。皆さんお前のように鋼のような心を持っているわけではない」
その瞬間、小さく吹き出した女生徒がいた。
「し、失礼しました!」
微かに震えている声。栗色の長い髪と優しい印象のブルーの瞳
オルフィナ・メルトス。12歳。 カルロス・グランデス・フィンレー15歳。
二人の出会いだった。
------------
ふふふふ、書き始めてから丸一年が経ちました。
こうして挫けずに書き続けてこられたのは読んでくださる皆様のお陰です。
ありがとうございました。
リクエストでお祖父様という声が結構ありましたので、少年から青年へのお祖父様を。
BLまったく関係ないですが(;・∀・)お楽しみいただけたら嬉しいです。
カルロス・グランデス・フィンレーはそこで嫡男として生まれた。
父譲りの金色の髪と深いオリーブ色の瞳。口数は多いタイプではなかったが、言うべき事はきちんと伝える、そんな少年だった。
本が好きで、星が好き、草花に興味があり、大きくなったら本に囲まれた学者や、草花を育てながら新しい薬を作り出すような薬師になりたいと思っていた事もあった。
現フィンレー当主の父は、カルロスの事を嫡男として少し厳しく育ててはいたが、子供の言葉を聞かなかったり、無理矢理に何かを押し付ける様な事をする人間ではなかった。
やるべき事をやるならば、好きな事もすればいい。知識は決して無駄にはならない。知りたいと思う事、やりたいと思う事は中途半端にだけはするな。それが父の口癖だった。
五歳のお披露目会の後、父はカルロスを書斎に呼び出した。
「知りたいと思う事を知ろうとすればいい。やりたいと思う事をやればよい。ただし、このフィンレーの次期当主はお前だ。それだけは変わる事はない」
父の言葉にカルロスは頷いた。5歳という年齢だけを考えれば、難しく、大人びた言葉だったけれど、これから本格的な勉強が始まる前にフィンレーの当主として伝えておかなければならない言葉だったのだ。
そうしてその後、当主だけに伝えられる聖地の事、祈りを絶やしてはならない事、精霊に、グランディス神に感謝を忘れない事。あとは思うように、領民たちの事を考えながら過ごしていけばいいと遥か向こうに広がる森を見せられてそう言われた。
歴代の嫡男たちが皆通ってきた道だった。勿論カルロスはその重責を苦しく思う事もなく、自然に受け入れた。
教育はこれから始まるのだし、分からない事はきちんと聞けばいい。それでも分からなければどこまでも調べていけばよい。それを許す父と母である事をカルロスは理解をしていたし、それがフィンレー当主の嫡男だと思っていた。
六歳の魔法鑑定で、カルロスは土と風の基本属性だと鑑定を受けた。その他に<才知>というスキルがあった。極めていけば賢者になれるかもしれないと言われたが、カルロスも父もそれに関してはあまり興味がなかった。
魔法に関しては、魔力量は多かったが、基本の属性は土と風。どちらも攻撃魔法としてはパッとしない、どちらかと言えば支援系の魔法と言われる属性だったが、父もカルロス自身も、ないなら付け加えていけばいいと考えるタイプだった為、学園に入る頃には風の派生である雷魔法を取得し、水魔法もその派生の氷魔法も取得していた。
火属性は初等部の間に手に入れた。薬草に興味を持ち、それを煎じたり加工をしたいと思ったからだ。
淡々と、というよりはどこか飄々とした少年は、初等部から高等部へと進学をする。
その頃にはパラパラと婚約をし始める子息、子女もいたが、そちらに関してはほとんど興味がなかった。おそらくそのうちに父母か、やや過保護気味の祖父母たちが騒ぎ出すだろうと思っていたし、それでいいとも思っていた。人付き合いは苦手と言うほどではないが、必要最小限でよいと思っていたし、面倒ごとに時間を取られるのは正直煩わしかったのだ。
上位の侯爵家の嫡男という事もあって、お茶会などで関わった友人たち以外はほとんど話しかけてこない。そんな日常を破ったのは3歳離れた妹が初等部に入学してきてからだった。
「お兄様! お昼だというのにお勉強をなさっているの? 食事はきちんと取らないといけませんよ」
母によく似た顔でそう言われると思わず苦い笑みが零れた。
「相変わらずだな、アイリーン様は」
お茶会からの付き合いである侯爵子息が小さく笑いながら声をかけて来る。
「ああ……まったく。こんなに何も考えずに高等部の教室までやって来るのはあいつ位だよ」
「確かに。昔からカルロスを見ているから、怖いとか無愛想とかそういうものにかなり強い免疫があるんだな」
「…………そうかもしれない」
「おいおい、そこは否定をするところだろう?」
苦笑する友人に「お前が言ったんだろう」とだけ言ってカルロスは妹の所へ向かって……
「え……?」
絶句した。そこにいたのは妹だけではなく、パリパリと音がしそうなほど顔を強張らせている女生徒が三人いたのだ。
「いやだ、お兄様忘れちゃったの? 高等部の食堂に美味しいって評判のメニューがあるから食べてみたいって言ったら来てもいいって言ったでしょう?」
「え……いつ……?」
そんな事を言っただろうか? というか万に一つの可能性でそう言ったとしても、友人の女性たちまで同行させるとは絶対に聞いていない。
高等部の廊下でジロジロと見られている彼女たちの顔色はすでに白い。
「リーン、もう少しお友達の事も考えてあげなさい。皆さんお前のように鋼のような心を持っているわけではない」
その瞬間、小さく吹き出した女生徒がいた。
「し、失礼しました!」
微かに震えている声。栗色の長い髪と優しい印象のブルーの瞳
オルフィナ・メルトス。12歳。 カルロス・グランデス・フィンレー15歳。
二人の出会いだった。
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ふふふふ、書き始めてから丸一年が経ちました。
こうして挫けずに書き続けてこられたのは読んでくださる皆様のお陰です。
ありがとうございました。
リクエストでお祖父様という声が結構ありましたので、少年から青年へのお祖父様を。
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