上 下
257 / 361
第9章   幸せになります

339. 夢の中

しおりを挟む
 タウンハウスに戻ってきた時は、もう夕方になっていた。報告をしたり、お茶を飲んだり、妖精の話をしたりと何だか盛りだくさんになってしまったけれど、嬉しかったな。今は四の月で十の月の後半には婚約式をするから、これから忙しくなりそうだ。具体的にはどんな事があるのか分からないけれど、母様もはりきっているし、お披露目会よりは凄そうだなって思う。
 それに兄弟である事もどうにかするって言っていたしね。
 どうにか……まぁ、父様に任せておけば大丈夫だよね。

 とりあえず、あとは妖精の件だな。
 僕が思いついた事を叶えてもらえるかは分からないけど、もしもそれが可能なら素敵すごいなって思う。
 勿論それは出来ないって言われてしまう事もあると思うから、そうしたら『首』の事をお願いしよう。頂いたあの木が、出来るだけ長く、籠揺り籠であってくれますようにって。そのためにはちゃんと語り継いで行く事が大切だよね。あと、祈り続けて行く事も。
 今回起きた事をきちんと記録に残して行くだけでなく、何か出来たらなって思うんだ。

「エドワード様、ご夕食の準備が出来ました」
「ありがとう」

 声をかけてくれたマリーに頷いて、一階に下りると丁度兄様と一緒になった。

「先にシェフに言っておけば良かったです。ケーキを食べてきたので、実はあまりお腹が空いていません」

 失敗しちゃったっていう顔で小さくそう言うと兄様は「そうだろうと思って伝えてあるよ」って。さすが兄様!
 テーブルに着くといつもより軽めの夕食が運ばれてきた。

「エディ、お祖父様の所で言っていた妖精の事だけど、いつ夢に現れるか分かるの?」
「えっと、ハリーには調印式の後にお祖父様と相談したいっていうような事を伝えてもらっているんだけど、具体的な日付は分かりません」
「そう。妖精の夢だから大丈夫だと思っているんだけど、夢というと何となく心配でね」
「兄様……」

 それは多分僕が『黒いこわいの』の夢を見て叫んだり、吐いてしまったからかもしれない。でも今は魔人の関係で最大限に高めた結界があって、妖精たちも中々近づけないようになっているし、しかも妖精王との話合いだしね。もっとも直接妖精王と話すのではなくて、『大きい人』が中に入ってくれるみたいだけれど。

「はじめから話をする相手が分かっているので大丈夫です。ここの結界を緩めれば直接訪ねてきてくれるのかもしれないけれど、それは難しいかなと思うから、妖精たちにお任せします」
「ああ、そうだね。夢の中で話をするというのが、なんだか何度聞いても不思議な感じだけどね」
「ふふふ、そうですね」

 それから僕たちはダリウス叔父様の話や今度はいつ森へ行こうかって話をした。
 食後のデザートはプリンが出た。
 冷たくて、上に果物とクリームが乗っている。最近流行り出しているプリン・ア・ラ・モードっていうんだって。母様はすでに召し上がっていらっしゃるとか。さすが母様。

「五の月になって交易が始まったらどんな魔道具が入って来るのでしょう。楽しみです」
「ふふふ、そうだね。結局動画を撮る魔道具も途中になってしまっているしね。交易が始まればシェルバーネの魔道具師とも会えるかもしれないね。そうしたら相談をしてみるという事も出来るのかもしれないな」

 兄様が楽しそうにそう言った。

「わぁ! そうなったらいいですね」
「出来れば婚約式までに出来上がると嬉しいけど、さすがに五カ月では難しいだろうね。でもエディの卒業には間に合わせたいな」
「ええ! 卒業ですか?」
「そう。私の時に大泣きをしていたエディはとても可愛らしかったからね。あれは本当に残しておきたかった」
「ににに兄様、やめてください」

 ううう、思い出すのも恥ずかしい事なのに、動画になんて残されて何度も見られるなんて絶対に困る。

「卒業式とその後の結婚式は絶対に動画を撮る……ええっと……『ビデオカメラ』だ! そうビデオカメラを完成させないとね」

 ニッコリと笑った兄様に僕は素直に「はい」と返事をする事が出来なかった。だって、恥ずかしいよね。その日だけだから頑張れるのに、後から何度も繰り返し見る事になったら絶対に恥ずかしくて困るよ。
 でも、もしも、兄様の卒業式が動画になっていたら、きっと僕も何度も見直しちゃうんだろうな。そんな事を考えながら僕は胸の中で笑った。


-*-*-*-


 深く沈んでいた意識がゆらりと何かに揺り動かされたような感じがした。
 名前を呼ばれたような気がして、そっと目を開けると光を感じた。僕は頭の中で「ああ、夢だ」と思う。不思議な感覚。

『エドワード様ですね?』

 はっきりとした声が聞こえた、そして白っぽい、銀色っぽい、光を纏った人がいつの間にか目の前にいた。

「はい」

 返事をすると光の人はにっこりと笑った。

『王の森を守っていただきましてありがとうございました。リロイ達から伝わっているかと思いますが、王より、貴方へ感謝の証をお送りしたく、このような形を取らせていただきました。貴方のお陰で大切な森を失われずにすみました』
「はい、あの、こちらこそ、『首』の封印を手伝っていただいて感謝しています。ありがとうございました。以前いただいた枝が揺り籠になり、しっかりと眠らせる事が出来ました」

 僕がそう言うと、その人は再び笑みを浮かべた。

「授けられたものをきちんと育て、使えるようにしたのは貴方です。愛し子と共に小さな者たちの声を聞き、恵みを与えてくださった。私も王もその様子を見ていました」
「は、はい。ありがとうございます。僕は妖精の加護はありませんが、ティオ達に契約をしてもらって、話が出来るようになって、本当に感謝しています。ティオ達に助けてもらった事も沢山あります。出会う事が出来てとても嬉しいです」

 僕の言葉に光の人は「ありがとう」と言った。


------


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。