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第9章 幸せになります
331. 三の月の終わりに近い晴れた日
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三の月がもうすぐ終わる、綺麗な青空が広がっている日、僕と兄様は応接室の入り口に立っていた。
「大丈夫だよ、エディ。いつも通りでいればいいよ」
「は、はい」
そうは言っても、とてもいつも通りなんて無理だよ。もう心臓がものすごく早く動いていて、油断していると口から飛び出してきそうなんだもの。
「行くよ?」
「はい」
そう言ってぎゅっと手を握ってくれた兄様は、反対の手でコンコンコンとノックをした。
「アルフレッドとエドワードです」
「入りなさい」
中から父様の声がして、扉が開いた。
「失礼いたします」
頭を下げた兄様に倣って同じように頭を下げて部屋の中に入ると、父様と母様が座っていた。
ドアを開けてくれた執事と僕達のうしろにいたマリーが部屋の隅に控えると、兄様が口を開く。
「本日はお時間を頂きましてありがとうございました」
「うん。そうかしこまらないでいいよ。二人とも遠慮なく座りなさい」
「はい」
返事をして兄様はがちがちに緊張している僕を見て、手を引くようにして椅子の所に連れて行ってくれた。そして執事とマリーが引いてくれた椅子に腰かける。
「エディ? そんな今にも倒れそうな顔をしていてはだめよ? それではまるで嫌がっているように思われてしまいますよ?」
「! そそそんな事はないです!」
「ふふふ、大丈夫ですよ。形式的なものですからね。いつものようにしていればいいのよ。あとで新しいお菓子も出しますからね」
「……パトリシア」
「あら。分かりました。静かにします」
そう言って母様は悪戯っぽい笑みを浮かべてから、口を噤んだ。
「父上、母上、私、アルフレッド・グランデス・フィンレーは、こちらにおりますエドワード・フィンレーとの結婚をお許しいただきたく、お願いにあがりました。エドワードからはすでに了承の返事をもらっています。長年の思いが叶いました。どうぞお願い申し上げます」
兄様が頭を下げるのに合わせて僕も頭を下げた。
本当はここは立ったままだったんだけど、座らせてもらって良かったって思ってしまった。立ったままだったらお辞儀をした途端そのまま座り込んでいたかもしれない。
「アルフレッド」
「はい」
「あれから九年か、長かったね。その気持ちがまったく変わらなかったのは見ていても分かったよ。ああ、より深く、大きくなったかな」
「はい。とても大切に思っています。これからもずっと隣に立つに相応しい人間であり続けたいと思います。この先は兄ではなく、伴侶として」
「……そう。エドワードは?」
「はい!」
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
父様は少しだけ苦笑に近い笑いを零して、僕を見た。
「小さな頃から君の一番は変わらなかった」
「はい」
「これからも変わりそうにないね」
「はい。兄様が大好きです。これからもずっと。……あ、でも勿論父様も母様も皆大好きです。皆が僕の事を大切に思って下さったから僕はこうしていられます」
「エディ、そこはアルの事だけでいいのよ。でも嬉しいわ。赤いマカロンを小さな口で齧った貴方の事がつい昨日の事のように思い出せるの」
「母様……」
「もういいでしょう? デイヴィット。これだけの時間の中で変わらなかった思いを祝福してやりたいの」
「わかったよ。アルフレッド、エドワード、この結婚を認めよう。これからの事については改めて相談をしていく事になるだろう。王国の法では兄弟のままでの結婚は認められていないからね。だけどこれは勿論どうにでもなる。その点は安心していい。まぁ、もう少しするとひと騒動ありそうだが、多分それは君たちにとっては良い事だと思うよ。おめでとう。幸せになってほしいと心から願っている」
「ありがとうございます」
兄様が立ち上がってお辞儀をしたので、僕も慌てて立ち上がってお辞儀をした。ちょっとだけクラっとしたけれど、兄様がさっと手を添えてくれた。
「アル、エディ、おめでとう。まずは婚約式ね」
「はい」
「そうだな、十の月のエドワードの誕生日の後にしようか」
「よろしくお願い致します」
「ふふふ、楽しみね。エディ、久しぶりに母様とお洋服を作りましょう」
「は、はい」
「お願い」はすぐに受け入れられて、後は和やかなお茶会になった。
婚約式は僕が十七歳になる十の月に。そして結婚式は学園を卒業してからという事になった。
「延び延びになっていた西の国との国交正常化の調印は四の月の始めに決まったよ。どうやらダリウスもやって来るようだ」
「叔父上が」
「ああ。エルグランド家の当主が調印式に出席をされるらしく、その付き添いらしい」
「またお会いできるのが楽しみですね」
「ああ、そうだな。ダリウスも二人に会うのを楽しみにしているだろう」
父様の言葉に僕たちはコクリと頷いた。
母様が今日の日に用意をして下さった。新作のお菓子はふわふわでとても美味しかった。
--------------------
9章開始です。まずは報告&お願いからですね。
「大丈夫だよ、エディ。いつも通りでいればいいよ」
「は、はい」
そうは言っても、とてもいつも通りなんて無理だよ。もう心臓がものすごく早く動いていて、油断していると口から飛び出してきそうなんだもの。
「行くよ?」
「はい」
そう言ってぎゅっと手を握ってくれた兄様は、反対の手でコンコンコンとノックをした。
「アルフレッドとエドワードです」
「入りなさい」
中から父様の声がして、扉が開いた。
「失礼いたします」
頭を下げた兄様に倣って同じように頭を下げて部屋の中に入ると、父様と母様が座っていた。
ドアを開けてくれた執事と僕達のうしろにいたマリーが部屋の隅に控えると、兄様が口を開く。
「本日はお時間を頂きましてありがとうございました」
「うん。そうかしこまらないでいいよ。二人とも遠慮なく座りなさい」
「はい」
返事をして兄様はがちがちに緊張している僕を見て、手を引くようにして椅子の所に連れて行ってくれた。そして執事とマリーが引いてくれた椅子に腰かける。
「エディ? そんな今にも倒れそうな顔をしていてはだめよ? それではまるで嫌がっているように思われてしまいますよ?」
「! そそそんな事はないです!」
「ふふふ、大丈夫ですよ。形式的なものですからね。いつものようにしていればいいのよ。あとで新しいお菓子も出しますからね」
「……パトリシア」
「あら。分かりました。静かにします」
そう言って母様は悪戯っぽい笑みを浮かべてから、口を噤んだ。
「父上、母上、私、アルフレッド・グランデス・フィンレーは、こちらにおりますエドワード・フィンレーとの結婚をお許しいただきたく、お願いにあがりました。エドワードからはすでに了承の返事をもらっています。長年の思いが叶いました。どうぞお願い申し上げます」
兄様が頭を下げるのに合わせて僕も頭を下げた。
本当はここは立ったままだったんだけど、座らせてもらって良かったって思ってしまった。立ったままだったらお辞儀をした途端そのまま座り込んでいたかもしれない。
「アルフレッド」
「はい」
「あれから九年か、長かったね。その気持ちがまったく変わらなかったのは見ていても分かったよ。ああ、より深く、大きくなったかな」
「はい。とても大切に思っています。これからもずっと隣に立つに相応しい人間であり続けたいと思います。この先は兄ではなく、伴侶として」
「……そう。エドワードは?」
「はい!」
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
父様は少しだけ苦笑に近い笑いを零して、僕を見た。
「小さな頃から君の一番は変わらなかった」
「はい」
「これからも変わりそうにないね」
「はい。兄様が大好きです。これからもずっと。……あ、でも勿論父様も母様も皆大好きです。皆が僕の事を大切に思って下さったから僕はこうしていられます」
「エディ、そこはアルの事だけでいいのよ。でも嬉しいわ。赤いマカロンを小さな口で齧った貴方の事がつい昨日の事のように思い出せるの」
「母様……」
「もういいでしょう? デイヴィット。これだけの時間の中で変わらなかった思いを祝福してやりたいの」
「わかったよ。アルフレッド、エドワード、この結婚を認めよう。これからの事については改めて相談をしていく事になるだろう。王国の法では兄弟のままでの結婚は認められていないからね。だけどこれは勿論どうにでもなる。その点は安心していい。まぁ、もう少しするとひと騒動ありそうだが、多分それは君たちにとっては良い事だと思うよ。おめでとう。幸せになってほしいと心から願っている」
「ありがとうございます」
兄様が立ち上がってお辞儀をしたので、僕も慌てて立ち上がってお辞儀をした。ちょっとだけクラっとしたけれど、兄様がさっと手を添えてくれた。
「アル、エディ、おめでとう。まずは婚約式ね」
「はい」
「そうだな、十の月のエドワードの誕生日の後にしようか」
「よろしくお願い致します」
「ふふふ、楽しみね。エディ、久しぶりに母様とお洋服を作りましょう」
「は、はい」
「お願い」はすぐに受け入れられて、後は和やかなお茶会になった。
婚約式は僕が十七歳になる十の月に。そして結婚式は学園を卒業してからという事になった。
「延び延びになっていた西の国との国交正常化の調印は四の月の始めに決まったよ。どうやらダリウスもやって来るようだ」
「叔父上が」
「ああ。エルグランド家の当主が調印式に出席をされるらしく、その付き添いらしい」
「またお会いできるのが楽しみですね」
「ああ、そうだな。ダリウスも二人に会うのを楽しみにしているだろう」
父様の言葉に僕たちはコクリと頷いた。
母様が今日の日に用意をして下さった。新作のお菓子はふわふわでとても美味しかった。
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9章開始です。まずは報告&お願いからですね。
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