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第8章 収束への道のり
326. 優勢と劣勢
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始点から本流の道沿いと、支流へと続く森側には第一隊として戦いを続けていた残り約50名の魔導騎士達に加えてフィンレー隊40名、レイモンド隊40名、スタンリー隊50名、クレバリー隊50名、ジョシュア隊10名の他、ユージーン、クラウス、エリック、レナードがそれぞれに引き連れてきた魔導騎士や騎士隊が約50名。
ここだけでも約300名程の人間たちがいた。
そして王太子とアシュトン達が守っている中間の第二隊には後から投入されたコートニーズ隊が加わっていた。中間の人数が少なすぎて、それ以上前には進めなくなっていたのだ。コートニーズ家は50名の投入をすぐに追加させ80名とした。そして遠縁の伯爵家に打診をして更に30名の追加支援を行う。中間の第二隊はこれでようやく約150名の戦力となった。
更に、神殿を守っていたバーナード伯爵家とスタンリーの追加隊はそのまま本流の第三隊のいる後方へと回り、フィンレーからの支援隊20名は神殿と『首』の部屋、そして墓廟の後処理の為にハワードと残る事となった。
また、城壁を守っていた近衛騎士団にはユードルフ侯爵家の魔導騎士隊、マーロウ伯爵家の魔導騎士隊などが加わり、城壁まで辿り着いてしまった魔物達を討ち取る最後の砦となった。
一方支流は途中から投入されたニールデンの魔導騎士隊が北の森から戻ったロイスを指揮官として脇道から蛇行する道の守りを固めていた。さらにレナードからの要望により北の森に投入をしていたトールマン侯爵家の魔導騎士隊もそのまま参戦。レナードに付き添って始点へと移動をした10名を除き本流への周遊やそのまま城壁へと進む事を防ぐための第三隊へと投入されていた。
またワイバーンが現れ王都の街への被害が出るかもしれないという事が伝わると、今まで傍観をしていた侯爵家と伯爵家が次々に名乗りを上げてきて、城壁の守りの強化と、街の守りの強化に回された。
実際にワイバーンではなかったものの空を飛べる魔物の数体が街中に下りて、警護隊と戦闘となる場面も出ていたのである。
-*-*-*-*-
『グガァァァァァ‼」
飛び出してくる魔物達に容赦なく投げつけられる魔法。第二波の時のように、ううん、それ以上の激しさで始点の穴から押し出されるように現れる魔物達は、本流の道を、また道とは関係ない森の中へ荒れ狂ったように進んでいく。その様子は本当に恐ろしくて、昔怖くて読むのをやめてしまった「この世の終わり」みたいだった。
「出来る限り大物は後ろへやるな! 小物は数を減らす事に重点を置け!」
レイモンド伯はそう言いながら特大の雷をアウルベアの上に落とした。それを見ながらスタンリー侯も飛びかかって来るオーガの群れを魔法を乗せた剣でバサバサと切り捨てていた。
『カルロス様の伝説』と呼ばれている戦法もあちこちで使われていた。お祖父様は一人で谷のような大穴をあけて、滝のような水をぶち込み、ものすごい雷を落としたらしいんだけど、魔導騎士隊の人達は皆で分担してやっていた。勿論、魔物達の亡骸を回収して、水も消して、あけた大穴はきちんと直すまでがセットだ。
ルシルはバフを送りながら時折大型の魔物をそのまま浄化して、更に怪我をした騎士達を治癒している。本人が言っていた通り、本当にパワースアップしているみたいだった。でもちょっと魔力回復ポーションを飲み過ぎかなって思うよ?
兄様たちも出てくる魔物達を問題なく討ち取っていて、第一隊の人達は投入された戦力に安心してその実力を発揮していた。特にジェイムズ君はよほど墓廟での魔素やアンデッドの対応にうんざりしていたのだろう。どことなく嬉しそうに討ち取っているのが何だか怖かった。
僕たちの仲間も負けてはいなかった。エリック君とその魔導騎士達も森の方に向かって来るヘルハウンドを軽やかに屠っていて、ユージーン君も、そして自領から投入したという魔導騎士達とレナード君も何だか生き生きとしていた。
ミッチェル君とスティーブ君と僕はその戦いの端っこの方でお祖父様とお話をしていた。その周りにはマリーとルーカス、そしてジョシュア隊とクラウス君の隊がいる。みんなすごく強いんだけどクラウス隊がものすごい速さで剣を使うので、さすがのルーカスとジョシュアが圧倒されていた。
「これが修復をした扉です」
どこか緊張した面持ちのスティーブ君に、お祖父様は箱型のそれを手にして「良く出来ている」と言った。
「こちらが今の言葉と異なっているようで、そのまま写し取りましたがきちんと発動をするのか不安が残ります」
「うむ……」
お祖父様は扉をじっと見つめて小さく何かを呟いた。すると描かれていた魔法陣の文字がふわりと浮かび上がり形を変えて元へと戻る。
「今の言葉に変えても問題あるまい。設置すればその大きさに形を変えてその場を封じるだろう。しかし初めて見たな。おそらくは王家に伝わっていたアダマンタイトを使ったのだろう。使われた量はそれほど多くはなく他の物と混ぜてはいるが、魔物達が進行しても欠片として残っていたのはそれがあっての事だな」
「アダマンタイト……」
「それをきちんと修復させるのは素晴らしいスキルだが、これからの事を考えると、厄介なものを寄せる元ともなろう。出来る限りきちんとした後ろ盾を持つことを進める」
「あ、ありがとうございます。ではこれで扉は閉じる事が出来るという事ですね」
「うむ」
「お祖父様、空間を壊してしまう事は出来ないのでしょうか。今後の事を考えると繋げている空間を壊してしまう方が良いのではないかと思うのです」
「他人が作り上げた場所と場所をそのまま繋いでいるような空間を壊すと言うのはそれなりに危険がある。壊した空間がどこかに弾けてしまう可能性もあるからだ。一旦は扉で閉じ、ダンジョン側も同じように扉を設置し直そう。おそらくは『首』は自身が逃げ込むためにモーリスのダンジョンを作ったのだろう。その核を作る事が出来る。だから『首』たちは魔物達を喚ぶ事が出来るのだと考えた。仮説だがな」
「…………どうして『首』をこちらに封じた後、王様たちは空間の道を壊さずに閉じただけにしたのでしょうか」
だって、いくら扉を付けたとしてもダンジョンと繋がっている事が分かっているのに。僕の言葉にお祖父様は少しだけ考えるようにして口を開いた。
「そうだな。これは想像でしかないが、もしかしたら昔の王達は『首』の作り出してしまったダンジョンが怖かったのかもしれん。それで何かあったらすぐにそちらへ向かえるようにと道を残したのかもしれないな。まさかそれがアダマンタイトを入れた扉を壊されて魔物達を王城へ引き入れてしまうなどとは思っても見なかったのだろう」
「そうですね。そうかもしれない……」
皆で考えて、その時の最良の事をしたとしても、時間が経てばその事が変わってしまう事もある。それはもしかしたら今の僕たちもそうなのかもしれない。
「空間の繋ぎの解消はまた改めて色々と調べてみよう。ここにこれがある事が忘れられないうちにな」
「はい!」
僕たちは始点を振り返った。相変わらず魔物達は飛び出して来るけれど、それでも最初よりは勢いがなくなってきたような気がする。もう少しでスタンピードは収束するかもしれない。そんな淡い期待が胸に湧く。
みんなそれぞれに目一杯戦っている。魔道具や魔法で明るく照らしているけれど、もうすっかり闇の時間になっている。三回目の、ううん、最後の魔物達の行進もそろそろ終わってほしいと僕は心の底から思っていた。
だけど、絶望の名残はまだそれを諦めないみたいだった。
「エディ! 来るよ、大きな力を持つものだ。一つじゃない」
ミッチェル君がそう言うと穴の中から獣の鳴き声のような音が聞こえてきた。
「何だろう。何だかすごく怖い。」
「大丈夫だよ。ミッチェル。みんながついているよ」
「うん。ごめんね。泣き言言って。群れで来る。皆注意して」
そう言った途端、黒く鋼のように鈍く光る身体に羽を生やした魔物が姿を現した。
一瞬グリフォンかと身構えた騎士達の前でそれはゾロリゾロリと現れて、火を吹いた。
「マルコシアスだ! マルコシアスの群れだ!」
悪魔の化身とも例えられている魔物、夜天狼と呼ばれる有翼の狼がその翼をバサリと広げた。
-*-*-*-
状況は一転した。先ほどまでは優勢だった討伐隊は、ものすごい速さで走りながら、あるいはその翼を使って空を飛び回りながら吐き出される炎に、一気に苦戦を強いられる事になった。
マルコシアスの群れは二十体。単体でもA級の魔物だ。それがぞろぞろと出てきた時はさすがのデイヴィット達も思わず声をなくした。
しかし呆然としているばかりでは居られない。討伐隊はすぐさま攻撃を仕掛けた。
地上でそのまま拘束されたもの、羽ばたこうとして翼を攻撃されたもの、そして攻撃をする為に降りてきたそれをチェーンや翼への攻撃で引きずり下ろしたものなど半数を討ち取った。
しかし、残りの十体のうち、三体は後方へと飛んで行ってしまった。そしてこの場にいる七体は炎をまき散らしながら攻撃を続けている。
始点の中央には第一隊の半数とフィンレー、レイモンド。本流の道沿いにスタンリーと第一隊の残り半数、そしてシルヴァンとクレバリー侯爵隊が配置され。支流へと続く森の方はエドワードとその仲間たちの隊が少し横に広がるような形で布陣をしていて、ルシルとアルフレッドたちは遊撃隊のような動きをしていた。
「戦う者と火を消す者に分かれろ! 火を広げるな!」
森の木がざわざわとしている。翼を使った風に煽られるようにして一度着いた火は確実に森のあちこちに広がっていった。
水魔法を使える者たちが一斉に水を落とす。すると地面がぬかるみ、騎士達もその身体を濡らす事になる。だが下手に風魔法で乾かそうとすれば火を広げる事にもなりかねない。戦場は徐々に混乱し始めていた。それに気づいたマクスウェードが大きな声を出す。
「体勢を立て直せ! ぬかるみは土魔法が使える者が整えろ。いいか、自分の特性を生かすんだ!」
「は!」
その声を始点の近くで聞きながらデイヴィットは近くで戦っているケネスに向かって口を開いた。
「ケネス!」
「おう!」
「私はこの戦いが終わったら対空魔用の魔法か魔道具を必ず完成させる!!」
「そ、そうか」
金髪をびっしょりと濡らしたデイヴィットは視線の先で少しだけ高度を落としたマルコシアスの翼に向けて渾身の氷槍を放った。
「ギャァァァァァァァァ‼‼‼」
「よし! そのまま袋叩きにしろ! 二度と空へ戻すな!」
「デイヴィット……」
ケネスは可哀そうな者を見る様な目でデイヴィットを見た。だが、黒竜、ワイバーンに続いて、マルコシアスの群れだ。自棄になるような気持ちも分かるような気がした。
「あと六体か」
「ああ、後ろの方には三体飛んでいくのを確認したが、それは後ろに任せよう。この辺りではあと……五体だな」
後方で、アルフレッドやマーティン達がチェーンを使って一体引きずり落としたのを見てケネスがニヤリと笑いながら言った。
「五体か。ワイバーンの時のように風を使えば火を広げてしまうからな。まったくオルドリッジめ、とんだ置き土産だ!」
森の中の戦いのため、スタンピードの討伐隊は出来るだけ火魔法を使う事を抑えてきた。勿論今までにもフレイム・グレート・グリズリーなど火属性の魔物達も現れていたが、夜の視界が悪くなっている中で、火を吐いて飛び回るものが出てくるなど、本当に腹が立つとデイヴィットは思っていた。
「マルコシアスが出てきた後、始点の穴からは何も出て来ていない。収束が近いぞ! 今飛び回っている五体を倒せば我らの勝利だ!!」
近衛騎士団の団長であるマクスウェードが周囲を鼓舞するように声を上げた。
返って来る雄たけびのような声。
吐き出される炎。
魔物達の咆哮。
降下のタイミングを計って繰り出される魔法。
ギリギリの戦いが続いていた。
--------------
うううう……4800文字とかなので一旦切ります
ここだけでも約300名程の人間たちがいた。
そして王太子とアシュトン達が守っている中間の第二隊には後から投入されたコートニーズ隊が加わっていた。中間の人数が少なすぎて、それ以上前には進めなくなっていたのだ。コートニーズ家は50名の投入をすぐに追加させ80名とした。そして遠縁の伯爵家に打診をして更に30名の追加支援を行う。中間の第二隊はこれでようやく約150名の戦力となった。
更に、神殿を守っていたバーナード伯爵家とスタンリーの追加隊はそのまま本流の第三隊のいる後方へと回り、フィンレーからの支援隊20名は神殿と『首』の部屋、そして墓廟の後処理の為にハワードと残る事となった。
また、城壁を守っていた近衛騎士団にはユードルフ侯爵家の魔導騎士隊、マーロウ伯爵家の魔導騎士隊などが加わり、城壁まで辿り着いてしまった魔物達を討ち取る最後の砦となった。
一方支流は途中から投入されたニールデンの魔導騎士隊が北の森から戻ったロイスを指揮官として脇道から蛇行する道の守りを固めていた。さらにレナードからの要望により北の森に投入をしていたトールマン侯爵家の魔導騎士隊もそのまま参戦。レナードに付き添って始点へと移動をした10名を除き本流への周遊やそのまま城壁へと進む事を防ぐための第三隊へと投入されていた。
またワイバーンが現れ王都の街への被害が出るかもしれないという事が伝わると、今まで傍観をしていた侯爵家と伯爵家が次々に名乗りを上げてきて、城壁の守りの強化と、街の守りの強化に回された。
実際にワイバーンではなかったものの空を飛べる魔物の数体が街中に下りて、警護隊と戦闘となる場面も出ていたのである。
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『グガァァァァァ‼」
飛び出してくる魔物達に容赦なく投げつけられる魔法。第二波の時のように、ううん、それ以上の激しさで始点の穴から押し出されるように現れる魔物達は、本流の道を、また道とは関係ない森の中へ荒れ狂ったように進んでいく。その様子は本当に恐ろしくて、昔怖くて読むのをやめてしまった「この世の終わり」みたいだった。
「出来る限り大物は後ろへやるな! 小物は数を減らす事に重点を置け!」
レイモンド伯はそう言いながら特大の雷をアウルベアの上に落とした。それを見ながらスタンリー侯も飛びかかって来るオーガの群れを魔法を乗せた剣でバサバサと切り捨てていた。
『カルロス様の伝説』と呼ばれている戦法もあちこちで使われていた。お祖父様は一人で谷のような大穴をあけて、滝のような水をぶち込み、ものすごい雷を落としたらしいんだけど、魔導騎士隊の人達は皆で分担してやっていた。勿論、魔物達の亡骸を回収して、水も消して、あけた大穴はきちんと直すまでがセットだ。
ルシルはバフを送りながら時折大型の魔物をそのまま浄化して、更に怪我をした騎士達を治癒している。本人が言っていた通り、本当にパワースアップしているみたいだった。でもちょっと魔力回復ポーションを飲み過ぎかなって思うよ?
兄様たちも出てくる魔物達を問題なく討ち取っていて、第一隊の人達は投入された戦力に安心してその実力を発揮していた。特にジェイムズ君はよほど墓廟での魔素やアンデッドの対応にうんざりしていたのだろう。どことなく嬉しそうに討ち取っているのが何だか怖かった。
僕たちの仲間も負けてはいなかった。エリック君とその魔導騎士達も森の方に向かって来るヘルハウンドを軽やかに屠っていて、ユージーン君も、そして自領から投入したという魔導騎士達とレナード君も何だか生き生きとしていた。
ミッチェル君とスティーブ君と僕はその戦いの端っこの方でお祖父様とお話をしていた。その周りにはマリーとルーカス、そしてジョシュア隊とクラウス君の隊がいる。みんなすごく強いんだけどクラウス隊がものすごい速さで剣を使うので、さすがのルーカスとジョシュアが圧倒されていた。
「これが修復をした扉です」
どこか緊張した面持ちのスティーブ君に、お祖父様は箱型のそれを手にして「良く出来ている」と言った。
「こちらが今の言葉と異なっているようで、そのまま写し取りましたがきちんと発動をするのか不安が残ります」
「うむ……」
お祖父様は扉をじっと見つめて小さく何かを呟いた。すると描かれていた魔法陣の文字がふわりと浮かび上がり形を変えて元へと戻る。
「今の言葉に変えても問題あるまい。設置すればその大きさに形を変えてその場を封じるだろう。しかし初めて見たな。おそらくは王家に伝わっていたアダマンタイトを使ったのだろう。使われた量はそれほど多くはなく他の物と混ぜてはいるが、魔物達が進行しても欠片として残っていたのはそれがあっての事だな」
「アダマンタイト……」
「それをきちんと修復させるのは素晴らしいスキルだが、これからの事を考えると、厄介なものを寄せる元ともなろう。出来る限りきちんとした後ろ盾を持つことを進める」
「あ、ありがとうございます。ではこれで扉は閉じる事が出来るという事ですね」
「うむ」
「お祖父様、空間を壊してしまう事は出来ないのでしょうか。今後の事を考えると繋げている空間を壊してしまう方が良いのではないかと思うのです」
「他人が作り上げた場所と場所をそのまま繋いでいるような空間を壊すと言うのはそれなりに危険がある。壊した空間がどこかに弾けてしまう可能性もあるからだ。一旦は扉で閉じ、ダンジョン側も同じように扉を設置し直そう。おそらくは『首』は自身が逃げ込むためにモーリスのダンジョンを作ったのだろう。その核を作る事が出来る。だから『首』たちは魔物達を喚ぶ事が出来るのだと考えた。仮説だがな」
「…………どうして『首』をこちらに封じた後、王様たちは空間の道を壊さずに閉じただけにしたのでしょうか」
だって、いくら扉を付けたとしてもダンジョンと繋がっている事が分かっているのに。僕の言葉にお祖父様は少しだけ考えるようにして口を開いた。
「そうだな。これは想像でしかないが、もしかしたら昔の王達は『首』の作り出してしまったダンジョンが怖かったのかもしれん。それで何かあったらすぐにそちらへ向かえるようにと道を残したのかもしれないな。まさかそれがアダマンタイトを入れた扉を壊されて魔物達を王城へ引き入れてしまうなどとは思っても見なかったのだろう」
「そうですね。そうかもしれない……」
皆で考えて、その時の最良の事をしたとしても、時間が経てばその事が変わってしまう事もある。それはもしかしたら今の僕たちもそうなのかもしれない。
「空間の繋ぎの解消はまた改めて色々と調べてみよう。ここにこれがある事が忘れられないうちにな」
「はい!」
僕たちは始点を振り返った。相変わらず魔物達は飛び出して来るけれど、それでも最初よりは勢いがなくなってきたような気がする。もう少しでスタンピードは収束するかもしれない。そんな淡い期待が胸に湧く。
みんなそれぞれに目一杯戦っている。魔道具や魔法で明るく照らしているけれど、もうすっかり闇の時間になっている。三回目の、ううん、最後の魔物達の行進もそろそろ終わってほしいと僕は心の底から思っていた。
だけど、絶望の名残はまだそれを諦めないみたいだった。
「エディ! 来るよ、大きな力を持つものだ。一つじゃない」
ミッチェル君がそう言うと穴の中から獣の鳴き声のような音が聞こえてきた。
「何だろう。何だかすごく怖い。」
「大丈夫だよ。ミッチェル。みんながついているよ」
「うん。ごめんね。泣き言言って。群れで来る。皆注意して」
そう言った途端、黒く鋼のように鈍く光る身体に羽を生やした魔物が姿を現した。
一瞬グリフォンかと身構えた騎士達の前でそれはゾロリゾロリと現れて、火を吹いた。
「マルコシアスだ! マルコシアスの群れだ!」
悪魔の化身とも例えられている魔物、夜天狼と呼ばれる有翼の狼がその翼をバサリと広げた。
-*-*-*-
状況は一転した。先ほどまでは優勢だった討伐隊は、ものすごい速さで走りながら、あるいはその翼を使って空を飛び回りながら吐き出される炎に、一気に苦戦を強いられる事になった。
マルコシアスの群れは二十体。単体でもA級の魔物だ。それがぞろぞろと出てきた時はさすがのデイヴィット達も思わず声をなくした。
しかし呆然としているばかりでは居られない。討伐隊はすぐさま攻撃を仕掛けた。
地上でそのまま拘束されたもの、羽ばたこうとして翼を攻撃されたもの、そして攻撃をする為に降りてきたそれをチェーンや翼への攻撃で引きずり下ろしたものなど半数を討ち取った。
しかし、残りの十体のうち、三体は後方へと飛んで行ってしまった。そしてこの場にいる七体は炎をまき散らしながら攻撃を続けている。
始点の中央には第一隊の半数とフィンレー、レイモンド。本流の道沿いにスタンリーと第一隊の残り半数、そしてシルヴァンとクレバリー侯爵隊が配置され。支流へと続く森の方はエドワードとその仲間たちの隊が少し横に広がるような形で布陣をしていて、ルシルとアルフレッドたちは遊撃隊のような動きをしていた。
「戦う者と火を消す者に分かれろ! 火を広げるな!」
森の木がざわざわとしている。翼を使った風に煽られるようにして一度着いた火は確実に森のあちこちに広がっていった。
水魔法を使える者たちが一斉に水を落とす。すると地面がぬかるみ、騎士達もその身体を濡らす事になる。だが下手に風魔法で乾かそうとすれば火を広げる事にもなりかねない。戦場は徐々に混乱し始めていた。それに気づいたマクスウェードが大きな声を出す。
「体勢を立て直せ! ぬかるみは土魔法が使える者が整えろ。いいか、自分の特性を生かすんだ!」
「は!」
その声を始点の近くで聞きながらデイヴィットは近くで戦っているケネスに向かって口を開いた。
「ケネス!」
「おう!」
「私はこの戦いが終わったら対空魔用の魔法か魔道具を必ず完成させる!!」
「そ、そうか」
金髪をびっしょりと濡らしたデイヴィットは視線の先で少しだけ高度を落としたマルコシアスの翼に向けて渾身の氷槍を放った。
「ギャァァァァァァァァ‼‼‼」
「よし! そのまま袋叩きにしろ! 二度と空へ戻すな!」
「デイヴィット……」
ケネスは可哀そうな者を見る様な目でデイヴィットを見た。だが、黒竜、ワイバーンに続いて、マルコシアスの群れだ。自棄になるような気持ちも分かるような気がした。
「あと六体か」
「ああ、後ろの方には三体飛んでいくのを確認したが、それは後ろに任せよう。この辺りではあと……五体だな」
後方で、アルフレッドやマーティン達がチェーンを使って一体引きずり落としたのを見てケネスがニヤリと笑いながら言った。
「五体か。ワイバーンの時のように風を使えば火を広げてしまうからな。まったくオルドリッジめ、とんだ置き土産だ!」
森の中の戦いのため、スタンピードの討伐隊は出来るだけ火魔法を使う事を抑えてきた。勿論今までにもフレイム・グレート・グリズリーなど火属性の魔物達も現れていたが、夜の視界が悪くなっている中で、火を吐いて飛び回るものが出てくるなど、本当に腹が立つとデイヴィットは思っていた。
「マルコシアスが出てきた後、始点の穴からは何も出て来ていない。収束が近いぞ! 今飛び回っている五体を倒せば我らの勝利だ!!」
近衛騎士団の団長であるマクスウェードが周囲を鼓舞するように声を上げた。
返って来る雄たけびのような声。
吐き出される炎。
魔物達の咆哮。
降下のタイミングを計って繰り出される魔法。
ギリギリの戦いが続いていた。
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うううう……4800文字とかなので一旦切ります
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