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第8章  収束への道のり

325. 最後のスタンピード

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 ルシルと一緒に現れた第二王子のシルヴァン様は、お亡くなりになった実母アデリン様のご実家であるクレバリー侯爵家の魔導騎士隊を五十名を同行されていた。その事も第一隊の魔導騎士達には大きな力になったみたいだった。

「聖神殿の方できちんと受け入れが出来ず申し訳ございませんでした。各地から聖属性の者を聖神殿に集めたので対応が集中したのも原因です。モーリスのスタンピードによる重傷者も回って来ていたので。では早速浄化を始めさせていただきます」

 そう言うとルシルは僕達の方をチラリと見て笑顔を浮かべてから、何重もの檻に捕らえられているかつてオルドリッジ公爵であったものの浄化を開始した。その少し後ろの方でシルヴァン様がルシルを見守るような感じになっている。
 ルシルの身体から金色の光が立ち昇り始めると、そこここに現れていた魔素たちが小さくなって消えていくのが判った。僕はルシルの力を間近で見るのは初めてだったから、ただただ呆然としながらそれを見つめていた。
 もうすっかり薄れてしまった『記憶』の中では、ルシルの魔法はものすごく華やかって言うか、ええっと、派手な感じでキラキラしていて、魔物とかもあっという間に浄化してしまう様に思っていたけれど、実際はユラユラと淡い、でもすごく綺麗な金色の光が現れて、それが夜の帳が下りた森の中に広がってとても幻想的だった。
 光はそのままジワリジワリと大きく、強くなり辺り一面に広がっていって、やがて金色のリボンみたいになって幾重にも重った魔法の檻にシュルシュルと巻き付いていく。
 金色に輝く眉のようになったそこから、魔物になってしまった公爵が大きな咆哮が上がった。

『グ、グ、ガァァァァァァァァッ‼‼‼』
 
 けれど勿論、金色の光の中に閉じ込められてしまった檻からは出られない。その声に呼応するかのように新たに現れた魔素もそのまま光の中にすぐさま沈み込んでいってしまった。
 やがて、檻に巻き付いた金の光の中にキラキラと輝く銀色の粒子が見えた。金色の光の中でキラキラと踊る細かな銀の粒はそのまま光の柱のようになって空へと昇っていく。
 ああ、これはあの日と同じ光景だと僕は思った。多分他の皆も思っている。学園で初めて魔素から魔物が湧いたあの日、皆で高等部の聖堂まで逃げた。そして兄様たちとルシル、シルヴァン様、高レベルの学生、学園の講師をしている魔導騎士達が中庭までやってきたキマイラと戦って、ルシルはこの世界で初めて浄化をした。それと同じ光景が目の前にある。

「……綺麗……」

 ポツリとミッチェル君が言った。

 金と銀が混じった光はやがて夜の闇の中に溶けるように消えて行き、魔人を拘束していた魔法は消えて、ダニエル君の魔道具が出した魔力の消えた網だけが土の上にカシャンと落ちた。

「浄化が終わりました」

 ルシルが静かにそう言って、一瞬だけシンとして、それから辺りは本日三度目の一番大きな歓声が響いた。

「ありがとう。ルシル・マーロウ。感謝する」
「私からも、ありがとう。来てくれて助かった」

 父様とレイモンド伯からそう言われてルシルは少しだけ照れたような顔をしてお辞儀をして、兄様たち側近仲間の三人にもお辞儀をして、更に後ろにいたシルヴァン様にも頭を下げると、ルシルはそのまま僕たちの方へと走ってきた。

「エディ! ミッチェル! レオンも、エリックも、クラウスも、スティーブもみんな無事でよかった!」
「ルシルも! 黒竜が出たなんて聞いたからびっくりしたし、心配したよ! ところで黒竜ってどれくらい大きかったの?」

 相変わらず魔物優先のミッチェル君にルシルは笑いながら「今度話してあげる」と言った。
 
「お疲れ様。一日大変だったね」
「うん。でもレナード達もでしょう? 支流が出来ていてそちらに参戦しているって聞いた時は本当にびっくりしたし、すぐにでも駆けつけたかったけど聖神殿に呼ばれてしまって」
「それは仕方がないよ。でも本当にすごかった。すごくすごく綺麗な魔法だった」
「うん。ありがとう、エディ」

 僕たちはそう言ってもう一度笑った。さぁ、これで扉を付ける事が出来る。急がないと。
 そう思った途端、再び地面が大きく揺れた。

「わぁぁぁ!」

 思わず身体がよろけてお互いに支え合う。

「何だか、ちょっとまずい感じだね」
「ああ、そうだね」

 魔物の騒ぎが終わって、束の間。父様は慌ただしく警戒とそれぞれの位置に付くように命令を出して、兄様たちと魔導騎士達、それにレイモンド伯自ら始点に結界を強化をかけている。

「……来ているよ。もうすぐそこまで来ている」

 ミッチェル君が引きつった声を上げた。それに僕達は顔を引き締める。

「待って、エディ。少し無茶をしたみたいだね。うん。皆もね。その場に居てね」
「ルシル?」
「エリアヒール!」

 そう言うと体の中がふわりと温かく、軽くなった。え? これって。

「ふふふ、僕も大分魔力量も増えたし、出来る事も増えているんだよ。この第一隊のいる辺りはカバーした。攻撃力と防御力も増強しているからね」
「ルシル! 今、力を使ったばかりだと言うのに!」

 そう言ってシルヴァン殿下が走ってきた。

「大丈夫です。魔力回復ポーションは沢山有ります」

 ルシルがそう言った途端、またしても地面が揺れて、先ほどよりも大きな地鳴りのような音が地中から響いてくるのが判った。

「…………本当に次から次へ、よくタイミングを計っているな」

 すぐ近くで兄様の声がしてびっくりすると、いつの間にか兄様たちが僕たちの方にいた。ああ、そうか、兄様たちはシルヴァン殿下の側近だから殿下がいる方に来たのか。そう思って周りを見て、もう一度びっくりする。

「やぁ、エディ。久しぶり」
「ジミー様!」
「やっと『首』の封印が終わってこちらへ来たんだ。もう魔素やアンデッドのお守りはご免だよ」

 大きな体で肩を竦めながらそう言ったジェイムズ君に、僕は思わず聞き返してしまった。

「封印が終わったのですか?」
「ああ、じきにカルロス様もこちらへいらっしゃるだろう。場を整えて指示を出したらって仰っていた」
「お祖父様が……」

 僕は思わずスティーブ君を振り返った。
 スティーブ君もコクリと頷いた。
 間に合ってほしい。何とかお祖父様がいらっしゃるまで、そして扉がつけられるまで待っていてほしい。

 けれど、地鳴りは大きくひどくなり、父様たちも第一隊の騎士達も、そして僕たちも固唾を呑んで始点を見つめてた。
 ミシリと蓋が鳴った。そしてガンガンとぶつかるような音が大きくなっていく。

「エディ、無理をしないように。それからあの力はもう使わないでほしい」
「兄様……」
「約束して、エディ」
「…………兄様に危険な事がなかったら使いません」

 そう言うと兄様は少しだけ驚いたような顔をして、ふわりと笑った。

「じゃあ、危険な事がないように気を付けないといけないね」
「はい」

 僕たちは戦いの前なのに思わず笑ってしまった。
 マーティン君が「アル」と兄様を呼んで、ルシルが「何? 何なの? 何?」とちょっと興奮したような声を出してミッチェル君が「お幸せに!」って言っている。ミッチェル君、何か違うと思うよ?

 ズズズっと地面が揺れる。ぶつかり合う音が大きく、強くなっていく。

 その時、お祖父様が僕達より少し第一隊に近い所に転移をしてきた。スタンリー侯爵様もいらっしゃる。

「スタンリー近衛騎士団長様だ!」
「カルロス様もいらっしゃる!」

 ざわざわと聞こえてくる声。そして、スタンリー卿が大きく口を開いた。

「良く聞け、これが最後のスタンピードだ。ダンジョンから魔物達を引き寄せる『首』は眠った。この波が終われば収束だ! 皆、この場を必ず乗り切れ! 」

 その言葉に一瞬だけ間をおいて、「うぉぉぉぉぉ‼‼」というような辺りを震わせるような鬨の声が響いた。
 お祖父様が夜空に光の玉を打ち上げると辺りは一気に明るくなった。それを合図にしたかのように、緑に染まった魔物の蓋が崩れて、魔物達が飛び出してきた。

 第三波のスタンピードの始まりだった。


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よし‼ ハワード先生は事後処理で王宮神殿にいるけど、後は皆来た!
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