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第8章  収束への道のり

315. 父の思い

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 デイヴィットは物凄い勢いで城の中を歩いていた。さすがにそのままエドワードの元に向かう事は出来なかった。が、一緒にきたハワードの息子にはそのままこっそりと向かってもらった。状況を知らせてもらってすぐさまフィンレーの魔導騎士団を投入する予定だった。

「ああ、フィンレー卿、北の守塚の封印強化と黒竜の討伐、本当にお疲れさまでした」
「ありがとうございます。国王陛下にすぐにお目通りを」
「応接の間を開放してそちらでやり取りをしております。すでに卿が到着した事は知らせておりますのでどうぞ」

 ニールデン公爵に伴われてデイヴィットは謁見の為に応接の間へと急いだ。本来であればこの時間も惜しいのだ。だが、挨拶と魔導騎士団をスタンピードの討伐に参戦させるためには踏まなくてはならない最低の手順がある。
 現時点でエドワードがどこに配置されているのかはっきり分からない以上60名の騎士達をそのまま動かすわけにはいかなかった。

「デイヴィット・グランデス・フィンレー、ただいま北の森より戻りました」

 そう言って頭を下げると、さすがにすぐに顔を上げて礼を解くように言われた。

「まずは無事の帰還喜ばしく思う。……怒っているな」
「ええ、まさか本人が言い出したとはいえ、未成年の者に130名の騎士達を預け討伐に参加させるような事をなさるとは思っておりませんでした」
「それについては申し訳なく思っている。が、あの時点ではそれ以外にどうする事も出来なかった。現在救援の騎士団を揃えているが、第一隊への補給を先にしなければならない状況だ」
「どういう事でしょうか?」
「本流とあえて呼ぶが、そちらの方に200名を投じ、第三隊に分けて配置した。が、第一隊の消耗が激しい。思っていた以上の魔物の多さに加えて、上位種の魔物が多く、苦戦を強いられている。その為第二隊が前方へ移動をしているような状況だ。勿論回復のポーションや治癒魔導士などと揃えてはいるが、中々交代要員が出来ないのも一因だ。すまんな、デイヴィット」
「…………支流の方の状況は?」
「今の所うまく回っている。本流の第二隊が脇道に行く魔物をかなりの数抑えている。と同時に支流の先頭が脇道から来るものと、反れて森から来るものをその場所でうまく捌いている為、その後ろに配置された者はまだ余裕があるという状況だと報告を受けている。もっとも前から来るものよりも、その後脇道以外の森から入って来るものが多いらしい。途中に庭園の池があるのでそこで一度動きが止まるようだ。もっとも森の中を通るものが増えればまた新たな道が出来よう。その辺りの事も計算に入れているような報告がきた」
「では今後支流の方の数が増える可能性はあるという事ですね?」
「…………可能性はある」

 その答えに舌打ちしたいような衝動にかられながらも何とか抑えて、デイヴィットは苦虫を嚙み潰したような顔のまま口を開いた。

「では、支流への援軍は不要。本流の事をどうぞそのまま先行されて下さい。私が北の森から連れてきましたフィンレーの魔導騎士団をそのまま支流の援軍として投入させていただきます」

 デイヴィットの言葉にグレアムは一瞬だけ苦い表情を浮かべた。

「デイヴィット、それは」
「北の森からは今後ニールデン公爵様の魔導騎士団、トールマン侯爵様の魔導騎士団、そしてランドール伯爵様の魔導騎士団が戻られる筈です。王国の一大事、自領の騎士団を出せる領は他にもまだある筈。優先して援軍を出すと言った所が難しいと言う判断であれば、我らも黒竜討伐で疲労はありますが、自領の騎士達を向かわせたくご了承お願い申し上げます」
「…………わか」
「申し上げます! ワイバーンです。ワイバーンが出ました! 出現の時点で第一隊がかなり奮闘いたしましたが一体を仕留めるだけでかなりの負傷者が出た模様。残りの三体が南の街の方角に向かっております!」
「!!」
「街の中には入れさせるな! 何としても王城の敷地内で射落とせ!」
「ですが」

 駆け込んできた伝令に応接の間はシンとなった。
 最悪だ。最悪のタイミングだ。

「南の森のコートニーズと北の森のニールデンの魔導騎士隊をすぐに呼び戻し、ワイバーンの討伐へ」
「陛下、間に合いません。今から呼び戻して任につかせても」
「では、すぐに揃えよ! 王城内にいる騎士たちをすべて出しても構わん!」
「ぎょ、御意!」
「…………フィンレーがまず出ましょう」
「……デイヴィット」
「その代わりにニールデン卿の騎士が戻られましたら、そちらを必ず支流へお願い致します」
「約束しよう。頼んだ、デイヴィット」

 その言葉を聞きながらデイヴィットはグッと奥歯を噛みしめて、応接の間を後にした。


-*-*-*-*-


「ダン兄様はどうしてこちらへ?」
「北の守塚の黒竜討伐が終わったからね。エディ、君の父上が顔色を変えていたよ」
「あ…………」
「どういった経緯があったのか分からないけれど、随分と無茶をしたものだ」
「…………はい。でも、この支流の事はギリギリで分かって、このまま道なりに進んでしまうと周遊で兄様たちの背中を襲う可能性があったのです。でもその時点で討伐隊を二分してしまっては戦力が落ちてしまいます。それならば、あの日の力を使えないかと……」

 ダニエル君たちは僕の力の事を知っている。多分、あの魔熊の亡骸も見ている筈だ。兄様にお話をしてもいいって言った事があったから。勿論ハワード先生たちも知っているし。

「あの力は、隠していたのではなかったのかい?」
「はい。でも、力を知られて恐れられるよりも、囲い込まれるような事が起きてしまう事よりも、そしてうまく使えるのか分からないと言う不安よりも、兄様に何かあったらって思ったらそんな事は何でもない事だったから。兄様が居なくなってしまったら、どうしていいのか分からない。僕は、僕が出来る事を出来る限りするって、ずっとずっとそう言ってきました。だから、今がその時だって思ったんです。兄様にもそう言いました。父様には後で沢山怒られます」
「そう。なら仕方がないね。でも多分、フィンレー侯も分かって下さると思うし、エディの力を知って群がってくるような者達は遠慮なく叩き落すと思うよ。それにしてもよくアルフレッドが許可したものだ」

 ダニエル君にそう言われて僕はその時の事を思い出して慌てて顔を下にした。今、思い出したら駄目だ。思い出したら、だって、えっと……

「エディ、前方、大型のが来る。何かな。嫌な気配がするよ」

 その言葉に答えるようにフゥフゥという息遣いが聞こえてきた。
 
「……ミノタウロスか」

 牛の頭を持つ巨人が三体。手に斧を持ってノソリと目の前に現れた。


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