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第8章 収束への道のり
295. 三の『首』<絶望>の調査
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三つめの『首』が封印をされていると思われる候補地はハワード先生がギリギリまで絞って二つになった。
王都の南側に広がっている南の森の中にある守塚と、王都の北側に広がっている北の森の中にある守塚。
このどちらかと決めて、更に熟考して、北の森から調べる事になった。
北の森を抜けて菱形の王都の先を超えると旧オルドリッジ公爵領。南の森の先端を超えると旧べウィックになるんだけど、どちらも今は王国の管理領になっている。
先日、元べウィック公爵家に仕えていた呪術師が事件を起こした起こした事で、旧べウィック領にはハワード先生やレイモンド卿、そしてニールデン卿も行き来をしていて特に何かを感じなかった為、北の旧オルドリッジ領から調査をする事にしたみたい。
でもハワード先生としては最終的に外した、王城の周囲に広がる森の中にあって、聖神殿に繋がっている王宮神殿とその横の王家の墓廟がある場所もやっぱり気になっているみたい。
でもさすがに王城に近いので何か変化があれば分かる筈だって王様や父様達に言われたみたいなんだけど、それでも廟自体は地下にあるからって、予備の候補としているらしい。さすが、ハワード先生。
父様は「西の国の公式の使節団が来るまでに片付けるなんて簡単に言うから絞め殺したくなる」とか遠い目をして言っていたから体力回復のポーションと片手でつまめるような食事を沢山作ってマジックバックに入れて渡したよ。
とにかく誰も怪我をしないで、病気にもならないで、元気でいてほしいんだ。
それから兄様もまた忙しくなってきていた。
シルヴァン王子が管理領に新たに出来た祈りの場の告知とそこに行く道の整備みたいなものを引き受けちゃったので「ちょっとあちこちで面倒くさい事が起きているんだよ」ってにっこり笑っていた。勿論僕は兄様にも父様と同じものを作って渡したよ。でもポーションはあまり飲み過ぎないで下さいねって言ったんだ。
僕の方は相変わらず精霊王の祝福の力についてのお祈りをお祖父様やジョシュア、そしてアシュトンさんたちと一緒に試行錯誤している。
枝は場所が離れていてもちゃんと根っこが伸びて、幹も枝も育ったんだから、随分とコツはつかめてきているんじゃないかなって思うんだよ。何か媒介があると離れていても、お願いが通じるのかなって。
正直に言えば生き物の命を奪い取るようなお願いはやっぱり怖いんだけど、というか、そんなお願いは出来ればしたくないんだけど、何とか制御というか、うまく扱えるようになれたらいいなとは思っている。
そんな事を考えていた三の月二週目。
父様達は王都の北の森の中にある守塚の調査に出た。今回はラグドール伯爵家とトールマン侯爵家が調査の後方支援協力を申し出た。まだ調査だけなのでお祖父様と土魔法隊の出番はない。眠らせるためのクスリをお祖父様と薬師関係の人たちが沢山作っているって聞いた。足りなくならないように僕もあの眠りの樹の苗木を沢山作った。
調査自体は一日で終わった。どうやらそうかなっていう感じがあるけれど、何だか少し決め手がないみたいな感じでそのまま南の森の守塚も調べる事になった。
今度はカーライル子爵家とコートニーズ公爵家が後方支援協力に名乗りを上げた。
何となく王国の中が変わってきている感じがしますねって言ったら兄様は「そうかもしれないね」って言ってくれた。
南の森の守塚の調査も一日で終わった。
でも父様達はものすごく悩ましい状況になった。南も同じだったそうなんだ。
一や二と同じような扉があって、封印は解かれてはいないけれど、なんとなく扉の向こうに気配がある。邪気とも違う悪意とも違う、こちら側をじっとりと見つめて窺っているような、そんな感覚も同じだった。
「ありえない……」
タウンハウスにやってきた父様は僕と兄様を書斎に呼んで話をすると、そう言って息を吐いた。
「一の『首』はともかく、中から様子を窺う様な気配というのは二の『首』もあったと思うのですが、二の『首』の時と同じような状態だったのでしょうか」
二の首の調査には一緒に行った兄様は少しだけ困惑したようにそう言った。それに父様は眉間の皺を深くして小さく首を横に振った。
「いや、何ていうかな、感覚なんだ。アルフレッドは二の『首』の調査の時に扉の中をどう感じた?」
「そうですね。皆様がおっしゃっていた通りに中から様子を窺っている感じはしました。でも窺っている感じでも挑戦的というか、好戦的というか、こちらに向かって来るようなそんな窺い方だったような気がします」
兄様の言葉を聞いて父様は大きく頷いた。
「そう。二の首は虎視眈々とこちらを狙っているような、外に向かうのを抑えてはいるが漏れ落ちているようなそんな気配を感じたんだ。だが今回まず北の守塚を見て、またこの扉かと思ったんだが、気づいているなというのがまず第一印象だった。目覚めている、気づいている。だが、息を潜めている。そして何かを楽しんでいる」
「楽しんでいる?」
「ああ、そんな感じがしたんだ。ひっそりと、こちらを窺ってこちらの出方をじっくりと見て楽しんでいる。何て言うのかな二の『首』が動なら三の『首』は静。だが、恐ろしさは三の『首』の方が勝っているような感じだね。あくまでも私の主観だが、同行者達の意見も大体同じような感じだった。正直北の守塚の印象は<絶望>ではなく<厄介>だった。だが、今日南の森の守塚を見て、厄介どころの騒ぎではなくなってしまったよ」
父様の言葉を聞きながら、僕は思わず口を開いてしまった。
「それは、南と北が全く同じような状態だったという事でしょうか?」
僕がそういうと父様は再び大きく頷いた。
「ああ、そうだ、全く同じように感じた。全員がそこで蒼褪めた」
父様の言葉に僕と兄様は顔を見合わせた。多分、兄様も同じことを思い出している。『首』とあれは違うけれど、もしかして……。でも封印は解けていない。だからそんな事が出来る筈はないんだ。だけど……
「三の『首』は、分裂が出来るのでしょうか。魔人のように」
部屋の中に張りつめた沈黙が落ちた。
--------------
一旦切ります。
王都の南側に広がっている南の森の中にある守塚と、王都の北側に広がっている北の森の中にある守塚。
このどちらかと決めて、更に熟考して、北の森から調べる事になった。
北の森を抜けて菱形の王都の先を超えると旧オルドリッジ公爵領。南の森の先端を超えると旧べウィックになるんだけど、どちらも今は王国の管理領になっている。
先日、元べウィック公爵家に仕えていた呪術師が事件を起こした起こした事で、旧べウィック領にはハワード先生やレイモンド卿、そしてニールデン卿も行き来をしていて特に何かを感じなかった為、北の旧オルドリッジ領から調査をする事にしたみたい。
でもハワード先生としては最終的に外した、王城の周囲に広がる森の中にあって、聖神殿に繋がっている王宮神殿とその横の王家の墓廟がある場所もやっぱり気になっているみたい。
でもさすがに王城に近いので何か変化があれば分かる筈だって王様や父様達に言われたみたいなんだけど、それでも廟自体は地下にあるからって、予備の候補としているらしい。さすが、ハワード先生。
父様は「西の国の公式の使節団が来るまでに片付けるなんて簡単に言うから絞め殺したくなる」とか遠い目をして言っていたから体力回復のポーションと片手でつまめるような食事を沢山作ってマジックバックに入れて渡したよ。
とにかく誰も怪我をしないで、病気にもならないで、元気でいてほしいんだ。
それから兄様もまた忙しくなってきていた。
シルヴァン王子が管理領に新たに出来た祈りの場の告知とそこに行く道の整備みたいなものを引き受けちゃったので「ちょっとあちこちで面倒くさい事が起きているんだよ」ってにっこり笑っていた。勿論僕は兄様にも父様と同じものを作って渡したよ。でもポーションはあまり飲み過ぎないで下さいねって言ったんだ。
僕の方は相変わらず精霊王の祝福の力についてのお祈りをお祖父様やジョシュア、そしてアシュトンさんたちと一緒に試行錯誤している。
枝は場所が離れていてもちゃんと根っこが伸びて、幹も枝も育ったんだから、随分とコツはつかめてきているんじゃないかなって思うんだよ。何か媒介があると離れていても、お願いが通じるのかなって。
正直に言えば生き物の命を奪い取るようなお願いはやっぱり怖いんだけど、というか、そんなお願いは出来ればしたくないんだけど、何とか制御というか、うまく扱えるようになれたらいいなとは思っている。
そんな事を考えていた三の月二週目。
父様達は王都の北の森の中にある守塚の調査に出た。今回はラグドール伯爵家とトールマン侯爵家が調査の後方支援協力を申し出た。まだ調査だけなのでお祖父様と土魔法隊の出番はない。眠らせるためのクスリをお祖父様と薬師関係の人たちが沢山作っているって聞いた。足りなくならないように僕もあの眠りの樹の苗木を沢山作った。
調査自体は一日で終わった。どうやらそうかなっていう感じがあるけれど、何だか少し決め手がないみたいな感じでそのまま南の森の守塚も調べる事になった。
今度はカーライル子爵家とコートニーズ公爵家が後方支援協力に名乗りを上げた。
何となく王国の中が変わってきている感じがしますねって言ったら兄様は「そうかもしれないね」って言ってくれた。
南の森の守塚の調査も一日で終わった。
でも父様達はものすごく悩ましい状況になった。南も同じだったそうなんだ。
一や二と同じような扉があって、封印は解かれてはいないけれど、なんとなく扉の向こうに気配がある。邪気とも違う悪意とも違う、こちら側をじっとりと見つめて窺っているような、そんな感覚も同じだった。
「ありえない……」
タウンハウスにやってきた父様は僕と兄様を書斎に呼んで話をすると、そう言って息を吐いた。
「一の『首』はともかく、中から様子を窺う様な気配というのは二の『首』もあったと思うのですが、二の『首』の時と同じような状態だったのでしょうか」
二の首の調査には一緒に行った兄様は少しだけ困惑したようにそう言った。それに父様は眉間の皺を深くして小さく首を横に振った。
「いや、何ていうかな、感覚なんだ。アルフレッドは二の『首』の調査の時に扉の中をどう感じた?」
「そうですね。皆様がおっしゃっていた通りに中から様子を窺っている感じはしました。でも窺っている感じでも挑戦的というか、好戦的というか、こちらに向かって来るようなそんな窺い方だったような気がします」
兄様の言葉を聞いて父様は大きく頷いた。
「そう。二の首は虎視眈々とこちらを狙っているような、外に向かうのを抑えてはいるが漏れ落ちているようなそんな気配を感じたんだ。だが今回まず北の守塚を見て、またこの扉かと思ったんだが、気づいているなというのがまず第一印象だった。目覚めている、気づいている。だが、息を潜めている。そして何かを楽しんでいる」
「楽しんでいる?」
「ああ、そんな感じがしたんだ。ひっそりと、こちらを窺ってこちらの出方をじっくりと見て楽しんでいる。何て言うのかな二の『首』が動なら三の『首』は静。だが、恐ろしさは三の『首』の方が勝っているような感じだね。あくまでも私の主観だが、同行者達の意見も大体同じような感じだった。正直北の守塚の印象は<絶望>ではなく<厄介>だった。だが、今日南の森の守塚を見て、厄介どころの騒ぎではなくなってしまったよ」
父様の言葉を聞きながら、僕は思わず口を開いてしまった。
「それは、南と北が全く同じような状態だったという事でしょうか?」
僕がそういうと父様は再び大きく頷いた。
「ああ、そうだ、全く同じように感じた。全員がそこで蒼褪めた」
父様の言葉に僕と兄様は顔を見合わせた。多分、兄様も同じことを思い出している。『首』とあれは違うけれど、もしかして……。でも封印は解けていない。だからそんな事が出来る筈はないんだ。だけど……
「三の『首』は、分裂が出来るのでしょうか。魔人のように」
部屋の中に張りつめた沈黙が落ちた。
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一旦切ります。
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