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第8章  収束への道のり

281. 欲しかった力

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 お祖父様は妖精たちにせがまれて、土人形ゴーレムの芝居を一つ見せてくれた。
 藁の家と木の家とレンガの家を作る三人の兄弟たちのお話だ。やって来る魔物が風の魔法を使ってもびくともしない一番下の弟が作った家に皆は大はしゃぎだった。
 そしてなんとお祖父様はリロイの他に三人の妖精と契約をしたんだ! 勿論その内の一人はティオだ。
 カルロスとちゃんと言えるのは僕とも契約をしている青い髪のリロイと、リロイと同じくらいの力をもっているような赤い髪をしているらしい子(セームル)だけで、緑の髪のティオとアメジストみたいな紫の髪を持っているらしい子(エスト)、そして金色の髪の子? (ミナ)はカルロで定着しているみたい。
 ハリーがそう教えてくれた。ちなみにハリーはその子たちとは契約済なんだって。僕にはなしてくれながらも、本当にびっくりしていて、ちょっとだけ悔しそうだった。だって、ハリーが彼らと契約出来たのは話し出してからしばらくしてからだったんだって。もうさすがお祖父様としか言えないよね。

 また遊びにおいでの挨拶をしてから僕たちは応接室へ向かった。

「妖精の言葉から重大な事が判った」

 お祖父様がそう言って僕たちは「はい」と頷いた。

 他人の力を盗む術を使える呪術を知っている呪術師には欲しい力があった。
 そしてそれを利用して、くろいおおきいのが近寄ってきた。
 妖精を使って影に隠れるという力を盗めば、誰にも知られずに人を攫う事が出来る。そうして人を集めて行けば、望む力を手に入れる事が出来ると術師を誘惑した。
 けれど妖精のおおきいひとに言わせれば、それは偽りだった。多くの人を集めても術師が欲しい力は手に入らない。だとすれば……

「くろいおおきいのは術師が集めた人を別の事に使いたいと思っていた」
「うむ」
「『くろいおおきいの』か……。確か前回は『怖いの』だったか」
「はい。怖いのが来るから気を付けるようにと教えてくれました。その後それは魔人か、魔素の事なのかと思いました」
「うむ」

 僕とお祖父様のやりとりを聞きながらハリーがそっと口を開いた。

「他の子たちが言っていたのも『くろいおおきいの』でしたね。見た事があるか聞いたらものすごく怖がっていました。おおきいひともどうにも出来ないもののようですね」

 何だろう。くろいおおきいの。妖精たちが知っているもの。何か魔人のようなものだろうか。それとも『首』だろうか。でも『首』自身が一人の呪術師に直接話しかけて操ろうとするなんて事があるんだろうか。そんな風に出来るのだったら、やっぱり封印が解けかけているんだろうか。
 そしてもう一つ……

「でも、呪術師が欲しかった力が何だったのかも気になります」
「そうだな。禁術の反魂の術も含めて話し合いをしてみようと思う」
「反魂……」

 死者を生き返らせる術。もしも本当にそうだとしたら誰かを生き返らせるためにこんなにも多くの命を使うというのだろうか。

「今日の事は父様達とすぐにお話になられますか?」
「うむ。そうだな。急いだ方がいいだろう。アルフレッドにはデイヴィットたちの方から」
「では兄様へは僕から書簡を出しておきます。僕に契約妖精が増えた事や、お祖父様が妖精と契約された事などもお知らせしたいので」
「そうか。ではそうしよう。引き続き十分に気を付けて過ごすように。それからまだはっきりとしたわけではないので今日の事は友人にはまだ伝えぬように」
「分かりました」

 
-*-*-*-*-


「エディ、書簡をありがとう」

 そう言って兄様が現れたのは皆と夕食と取った後だった。

「お疲れ様です、アル兄様」

 兄様と僕は別館で僕が自分の部屋として使っている部屋の中にあるソファーに腰を下ろした。

「お食事は済まされましたか?」
「いや、王城からの帰りにこちらへ来たから」
「ではお食事を先に」
「ううん。大丈夫だよ。とにかく先に話をして少しゆっくりしよう。エディと二人で話をするのも久しぶりだからね」
「そうですね。最近はルシルやお祖父様と一緒にお話をした感じでしたから」
「そうだね。ええっとそれでは今日の事を詳しく聞かせてもらえるかな」

 僕は兄様も妖精たちの様子とお祖父様が聞き出した妖精の話をした。


「……なるほど。くろいおおきいの、か」
「はい。それが何なのかははっきりと分からないのですが、呪術師と思われる者は他者の力を盗む術を使えると思われる。くろいおおきいのは、その術を使って妖精の力を奪い、人を集めるという事を教えた。呪術師は欲しい力があった。でもそれを盗む事は出来なかった? そしてその力は人を集めれば叶うとくろいおおきいのは呪術師を騙している。あとは欲しかった力というのが何なのかという事ですね。お祖父様は禁術の反魂の術を含めて調べてみると仰っていました」
「反魂の術か……」
「はい。ところで兄様は呪術師の消息と使おうとしている術を調べていると聞いていたのですが、この事件を起こしているのは本当にべウィック公爵家にいた呪術師でほぼ間違いはないのでしょうか」
「呪術師はその者一人だけでは勿論ない。もしかしたら把握をされていない呪術師もいるかもしれない。だけど消息が分からずに、何かを調べていたような者は今の所はべウィック公爵家に仕えていたチャッドという呪術師のみだと分かっている。勿論他の可能性も入れてはいるが、今は彼の消息を調べているよ。お祖父様が言っていた通りに彼は自分を雇いあげてくれたべウィック公爵を心酔していた所があったようだし、今回のこの消息不明事件が多発する前に姿を消している。彼が行方不明だと言われている公爵の次男の消息を掴んでいた事も確認をした」
「そのチャッドという人は一体何をしたかったのでしょう。いえ、彼はどんな力を手に入れたかったのでしょう。彼は他人の力を盗むという禁術は仕えていた筈ですよね。その禁術ではできない力というのは何だったんだろう」

 僕は少しだけ独り言のようにそう言った。

「本当に反魂の術を使いたかったのでしょうか。もしかしてそれでべウィック公爵を生き返らせたかったのかな。でも生き返らせても、同じようにはなりませんよね」
「そうだね。たとえ公爵が生き返っても無くなってしまった爵位は取り戻せないし、何よりも時間を巻き戻す事はできないね」
「時間……時間を巻き戻すような魔法はあるのですか?」
「お伽話ではあるようだけど、私は聞いた事がない」
「そうですよね。でも本当にそんな魔法があったら困るな。だってまた悪役令息になりたくないってやりなおさなきゃいけなくなるのなんて嫌だもの」

 僕がそう言うと兄様は笑い出した。そして。

「大丈夫。どんな事が起きてもエディは悪役令息にはならないし、私はエディの味方だ」

 そう言われて顔がじりじりと赤く、熱くなった。

 結局その日は答えは出なかったけれど、妖精の契約の話などもして、久しぶりに兄様と一緒に食事をした。と言っても僕はもう夕食は食べてしまっているのでシェフの作ったデザートとお茶だけだ。
 この所事件の話ばかりだったけれど、お祖父様が妖精にとても好かれていた事や、ゴーレムの人形芝居などの話をしてとても、とても楽しかった。
 

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すみません。お祖父様が契約をした妖精の特徴の辺りを修正しました。 
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