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第8章 収束への道のり
275. フィンレーに
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「べウィック公爵家……」
思いがけない名前に僕は呆然としてしまった。隣に座った兄様が少し難しい顔をしながら口を開いた。
「当主も嫡男も亡くなり、公爵家の爵位だけでなく、貴族位を返上して一族が市井に下りたと聞いておりましたが……」
「うむ。だが結局は夫人はその後体調を崩して亡くなり、嫡男の嫁は狂ってしまい実家に戻されたが神殿に入り、次男は行く方しれずになっている。仕えていた者達も口を噤み真相は未だにはっきりと分からないままになっている。べウィックに仕えていた呪術を扱える者も現在どこにいるのかは分かっていないそうだが、「べウィック公爵は陥れられたのだ」と言っていたらしい事を掴んだ」
「陥れられた? 誰にですか?」
兄様の問いにお祖父様は低い声で「王家とそこに群がる側近のような顔をしている者達に」と答えた。
「もしかして、そこにフィンレーも入るのでしょうか?」
「おそらくはな」
「! そんな!」
僕は思わず声をあげてしまった。だって、あの時も父様たちは本当に大変だったんだ。お城に務めているわけでもないのに毎日遅くまで話し合いをしていた。それは内容が幾度となく変わって現在も続いている。何かが起きる度に混乱して騒ぎになる王城を支えてきたのは父様達だ。それなのに!
「みんな自分の事しか考えなくて、父様たちは……」
「変わる事を良しとしない者も居る。仕えた者によって下についた者の考えも変わる。憎しみは憎しみを呼ぶのかもしれん。力があればなおの事」
「………………」
「妖精を使い、逃れようとする力を使って他者を影に落とす。影の中に落ちても生きてはいるが出ることは叶わん。そして集めているということは、恐らくはその人間たちを何かの呪術に使おうと思っているのだろうと今回の話をした者は言っていた。私もそう考える。だが、何の術を使おうとしているのかは分からん。妖精自体も捕らえづらくなっているだろうしな」
「…………」
「もしも何かの呪術を完成させようとして、集める者が足りないのであれば、今後は妖精を使わずにそのまま誘拐をするという事も考えられなくはない。王都近辺では騎士達の見回りを強化する事が決まった。呪術に使われる可能性も考えて特に魔力量の多い者には注意喚起をしなければならないだろう。だが、今の所はこれはあくまでも仮説で、その者が関わっているのかどうかも分からない。レイモンドとスタンリーが奴が身を隠した可能性の高いいくつかの領に手のものを入れた。話を聞かせてくれた知人にも引き続き情報を共有していく事で話をつけた」
「ありがとうございます」
「ユードルフの令嬢は魔力量が高くて有名だった。貴族位を持つ行方不明者達は総じてその傾向がある事がわかった。良いかエドワード。しばらくフィンレーで過ごせ。友人たちを招いても良い。しばらくの間フィンレーに居なさい。アルフレッドも決して一人になるな。呪詛返しの陣を離さぬように。出来るだけ結界の中にいる事を心がけよ」
お祖父様がこんなにも強く言うのは初めての事だった。
でもこれは僕たちの事を心配しているだけではない。勿論ものすごく心配されているけれど、僕たち魔力量の多い人間が囚われる事になる事が次の禍に繋がってしまう可能性があるのだ。
「お、お祖父様も、お祖父様も気を付けて下さい」
僕がそう言うとお祖父様は「無論。最大限引きこもろう」と笑って下さった。
僕から皆に書簡を出すと言ったら、父様が出して下さるという事になっていると言われた。今回の事は仮説なのでどこまでを話せるのか分からない。だから僕はしばらくの間学園を休む事と、よかったら一緒にフィンレーで過ごしませんか? という書簡だけを本人たちに送った。
-*-*-*-*-
その日のうちにミッチェル君とトーマス君がフィンレーにやって来た。
そして次の日にはルシルを抜かした皆がフィンレーにやってきた。ルシルはしばらくお城の中に部屋を用意される事になったんだって。ニールデン公爵が手を回したらしい。
僕たちは別館にそれぞれの部屋を割り当てられた。
別館は元々お客様が滞在できるお部屋が幾つもあるんだ。お祖父様は屋敷ごと結界を強化して、更にそれぞれの部屋の魔法陣を新しくして下さった。
そうして落ち着いた頃、仮説でもいいから話せる部分は話してもらえないだろうか。そう言ったのはエリック君だった。気持ちはとても分かる。どうしようかと考えていると父様が様子を見に来てくれて、エリック君と話をしてくれた。
しばらくして、エリック君が僕の部屋にやってきた。
「ここで彼女を待ちながら、僕が出来る事を探すよ」
それが彼の導き出した答えだった。
「うん。僕も僕が出来る事が何なのか、また考えるよ」
「ありがとう」
クシャリと泣き笑いの様な顔をしたエリック君に僕も少し泣きたいような気持ちになりながら、それでも「うん。頑張ろう」とだけ言った。
---------
思いがけない名前に僕は呆然としてしまった。隣に座った兄様が少し難しい顔をしながら口を開いた。
「当主も嫡男も亡くなり、公爵家の爵位だけでなく、貴族位を返上して一族が市井に下りたと聞いておりましたが……」
「うむ。だが結局は夫人はその後体調を崩して亡くなり、嫡男の嫁は狂ってしまい実家に戻されたが神殿に入り、次男は行く方しれずになっている。仕えていた者達も口を噤み真相は未だにはっきりと分からないままになっている。べウィックに仕えていた呪術を扱える者も現在どこにいるのかは分かっていないそうだが、「べウィック公爵は陥れられたのだ」と言っていたらしい事を掴んだ」
「陥れられた? 誰にですか?」
兄様の問いにお祖父様は低い声で「王家とそこに群がる側近のような顔をしている者達に」と答えた。
「もしかして、そこにフィンレーも入るのでしょうか?」
「おそらくはな」
「! そんな!」
僕は思わず声をあげてしまった。だって、あの時も父様たちは本当に大変だったんだ。お城に務めているわけでもないのに毎日遅くまで話し合いをしていた。それは内容が幾度となく変わって現在も続いている。何かが起きる度に混乱して騒ぎになる王城を支えてきたのは父様達だ。それなのに!
「みんな自分の事しか考えなくて、父様たちは……」
「変わる事を良しとしない者も居る。仕えた者によって下についた者の考えも変わる。憎しみは憎しみを呼ぶのかもしれん。力があればなおの事」
「………………」
「妖精を使い、逃れようとする力を使って他者を影に落とす。影の中に落ちても生きてはいるが出ることは叶わん。そして集めているということは、恐らくはその人間たちを何かの呪術に使おうと思っているのだろうと今回の話をした者は言っていた。私もそう考える。だが、何の術を使おうとしているのかは分からん。妖精自体も捕らえづらくなっているだろうしな」
「…………」
「もしも何かの呪術を完成させようとして、集める者が足りないのであれば、今後は妖精を使わずにそのまま誘拐をするという事も考えられなくはない。王都近辺では騎士達の見回りを強化する事が決まった。呪術に使われる可能性も考えて特に魔力量の多い者には注意喚起をしなければならないだろう。だが、今の所はこれはあくまでも仮説で、その者が関わっているのかどうかも分からない。レイモンドとスタンリーが奴が身を隠した可能性の高いいくつかの領に手のものを入れた。話を聞かせてくれた知人にも引き続き情報を共有していく事で話をつけた」
「ありがとうございます」
「ユードルフの令嬢は魔力量が高くて有名だった。貴族位を持つ行方不明者達は総じてその傾向がある事がわかった。良いかエドワード。しばらくフィンレーで過ごせ。友人たちを招いても良い。しばらくの間フィンレーに居なさい。アルフレッドも決して一人になるな。呪詛返しの陣を離さぬように。出来るだけ結界の中にいる事を心がけよ」
お祖父様がこんなにも強く言うのは初めての事だった。
でもこれは僕たちの事を心配しているだけではない。勿論ものすごく心配されているけれど、僕たち魔力量の多い人間が囚われる事になる事が次の禍に繋がってしまう可能性があるのだ。
「お、お祖父様も、お祖父様も気を付けて下さい」
僕がそう言うとお祖父様は「無論。最大限引きこもろう」と笑って下さった。
僕から皆に書簡を出すと言ったら、父様が出して下さるという事になっていると言われた。今回の事は仮説なのでどこまでを話せるのか分からない。だから僕はしばらくの間学園を休む事と、よかったら一緒にフィンレーで過ごしませんか? という書簡だけを本人たちに送った。
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その日のうちにミッチェル君とトーマス君がフィンレーにやって来た。
そして次の日にはルシルを抜かした皆がフィンレーにやってきた。ルシルはしばらくお城の中に部屋を用意される事になったんだって。ニールデン公爵が手を回したらしい。
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「うん。僕も僕が出来る事が何なのか、また考えるよ」
「ありがとう」
クシャリと泣き笑いの様な顔をしたエリック君に僕も少し泣きたいような気持ちになりながら、それでも「うん。頑張ろう」とだけ言った。
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