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第8章  収束への道のり

273. 二人の愛し子

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「あとは、魔物が敷地内に現れて、エディが魔力暴走を起こすところまでは同じだったけど、その後アルフレッド様が記憶を持つようになった事も大きな違いだよね」

 ルシルがそう言って、僕は「うん。確かに」って大きく頷いた。あの時の事は思い出すだけで辛いけれど、それでも兄様は僕の最強の味方になってくれたから。

「そうだね。それはずいぶん違うと思う。それにエディの魔法鑑定の後、父上がご自分の友人に相談をしている事も大きな違いになっていると思うよ」
「え? どういう事?」
 
 兄様の言葉にルシルは不思議そうな顔をした。それを見て僕が口を開く。

「あ、うん。一応後で魔導誓約書を書いてもらってもいいかな。聞いた事を漏らさないって」
「それは勿論」

 即座に答えたルシルに僕は「加護を持っているんだ。僕も」と言った。

「え、ええ⁉ 加護?」
「うん。グランディス様のご加護で【緑の手】っていうグランディス様が持っていらした植物に特化したした力とあともう一つはどんな力なのか分からないけれど【精霊王の祝福】っていう力」

 ルシルはポカンとして、少しの間声を失っていた。

「え、じゃあ、この世界ではエディは悪役令息じゃなくて愛し子だったの? ここって二人の愛し子が居る世界だったのか」
「大神官は『緑の愛し子』って呼んでいるみたいだよ」
「緑の愛し子……」

 兄様が言ったその言葉をルシルは繰り返す。そして

「……何かさ、面白いね」
「ルシル?」
「あの小説は確かにルシルという光の愛し子を主人公にした話だったんだけど、こうして話しているとさ、エドワードの物語でもあったようにも思えてくるんだ。原作ではエドワードは学生編で死んでしまうし、多分対比させる為の敵対者だったんだと思うけど」
「うん。そうなのかもしれないね。あの小説では確かに対比役だったと思うけれど、小説とは異なる、厄災の『首』が封じられているハーヴィンで僕たちが二人が生まれたわけは、対比ではなくて、また違う意図があるのかもしれない。何だかこんな風に沢山の事件が起きてくると、この為になんて思ったりもしちゃうけど、それも違うって思うんだ」

 そう。何かが起きるから二人の愛し子がいると言う風には考えたくはない。それに本当は愛し子は僕が知っているだけでも三人だ。ハリーはハーヴィンで生まれたわけではないけれど、「妖精の愛し子」という加護を持ち、エターナルレディの薬草を妖精からもらったり、妖精の姿を見て、声を聞ける。今回の事件についても妖精が関わっている。ただ、それは今はまだ言えない。

「そうだよ、エディ。そんな風に考えたらおバカな人たちから僕たちがいるからこんな事を起こるんだって言われかねないよ!」
「ふふふ、確かにね。でもだいぶそんな事を言う人は居なくなってきたけれどね」

 兄様が苦笑して、ルシルはしまった! って顔をして「すみません」って言った。
 そうだよね、僕はお城に呼び出されたのは一度だけだけれど、兄様もルシルも色々見聞きしていたものね。勿論その渦中にいた父様たちはとても大変だっただろうなぁって思う。

「愛し子が二人いるから起きている事でなくて、きっと僕たち二人がこうしてここにいる意味もちゃんとあるんだよ。エディが悪役令息でなく、もう一人の愛し子になった意味も、こうして話が出来る事にもきっと意味があるんだって思う。光の愛し子の浄化だけでは出来なかった事や、封印をする時に必要だった力とかさ。本来なら人の未来というか、こうしたらこうなるなんて事は分からないんだし、人の心だって思い通りにする事なんて出来ないものね。やっぱり現実を受け止めて足掻けって事なのかな。あ、そういえば、原作のエドワードは闇属性だったでしょう? エディは確か、水と土だったっけ?」
「あ、うん。今は闇属性も、風属性も使えるよ。闇魔法は保存魔法が使いたくて取得したんだ。花のしおりとか作りたくて」
「ふふふ、エディらしいね。保存魔法かぁ。ああ、何だか思い出すなぁ。エドワードってば闇属性のすごく強い使い手だったよね。何だろう。こう、ぽっかり空間をあけちゃったりさ」
「え?」
「あれ? 記憶にない? エドワードの魔法ってそう言えば不思議な感じの魔法が多かった気がする。闇の檻もこう植物みたいに絡んで伸びてきたり、シャドウ何とかって言っていたけど、こう空間に切れ目が入ってそこに落とされたり、後は精神系みたいなのもあったと思うよ。かけられた相手はいう事を聞かされちゃうの」
「……闇属性の魔法にそんなものはなかった筈だが」

 兄様が口を開いた。

「そうなんですか。でもアルフレッド様の『記憶』の持ち主はアニメを見ているんですよね? 覚えていませんか? 文章で読むよりも分かりやすくて、派手だった記憶が。ええっと、捕まえるのにこう、闇の手みたいなのが追いかけてきたりして捕まると、あれ? 捕まるとどうなるんだっけ? 何となく、ああ、そうだ。魔力を吸われるんだ。吸われるっていうか持っていかれる? 魔力を吸いつくされて死んでしまったモブもいたような……エディ?」

 ルシルの言葉を聞きながら、僕は血の気が引いたような顔で兄様を振り返った。

「兄様……」
「うん。大丈夫だよ。それは小説の話だ。エディの魔法とは違う」
「はい」
「え? 何? どういう事?」
「加護の……もう一つの加護の力の中に似たようなものがあるんだ。闇魔法ではなくて、植物を使ったような、でも今聞いたのと同じような感じの。や、やっぱり僕の中には悪役令息エドワードの元があって、どこか逃れられないような部分があるのかなってちょっと考えちゃった」

 つい先ほどまでは違う世界で、とっくに悪役令息ではなかったんだと思えたのに、また不安が広がっていく。僕は……

「でも違う魔法でしょう? 同じような感じかもしれないけれど違うものだよ。加護もある。それに闇属性が悪というものではないじゃない。使う人間の意識の問題だよ。だからこんな風に不用意に言って不安にさせた僕が言うのもなんだけど、エディはエディの魔法の使い方があるから、そんな風に不安にならなくていいし、エディの隣にはアルフレッド様が居るんだから不安になったらきちんと話をしたらいいと思う」
「ルシル……」
「うん。大丈夫だよ。この世界のエディは大丈夫。ふふ。やっぱりこの言葉っていいね。すごく元気が出るよ」
「ありがとう」

 そう言うとルシルは笑って頷いて、兄様は背中をトントンってしてくれた。
 それから僕たちは今まで話した事をまとめた。仮説というかこじつけかなって思う様な部分もあったし、考えても答えが出ずに疑問のままというものもあったけれど、それでもあえて書き出してみた。

 『光の愛し子』と同じような所で同じような時期に、『悪役令息』という敵対をさせる闇属性の人間を生まれさせた意図は小説の中では対比をさせるつもりだった。またはわざとぶつけるように仕向けられていたのではないか。
 聖魔法で浄化をする「光の愛し子」とグランディス神の加護を持つ「緑の愛し子」(勝手にそう呼んでいる人がいるだけだけど)という二人の愛し子が存在する意味は何かあるのだろうか。
 悪役令息だった筈のエドワードが愛し子に変わった事で、原作には出なかった人たちが沢山出てきている?(出てきたから変わった?)
 小説の『世界バランスの崩壊』というものが、隣国を巻き込んだ厄災という化け物の『首』がもたらす禍となったと単純に考えていいのか。
 浄化だけでなく、封印という事が必要になった理由は何かあるのだろうか。
 魔人、魔素の変化、アンデット、そして『首』というものが出てきたのは、悪役令息がいなくなったからなのか? 

「何だかまとめると言うよりも色々分からない事が増えたような部分もあるけれど、でもちょっとすっきりしたような気がする。現実のこの世界の事として、ちゃんと考えていかれる感じ。ありがとうエディ」
 
 ルシルの言葉に僕も頷いた。

「ううん。僕の方こそありがとう。兄様も何だかとりとめのない内容になってしまってすみません」

 僕がそう言うと兄様は笑って口を開いた。

「いや、これでいいんだと思うよ。きちんと話をして、二人が納得してこれから進んでいけたらいいんだから」
「はい。まだ二つの『首』の事も解決していないし、行方不明者の事も分かっていないし、でも本当に話が出来て良かったです」
「それなら良かった。今日の事は一応父上に知らせておくね。ああ、それからルシルからもらった資料もちゃんと目を通すから私の分も魔道具で写してもらってもいいかな」
「はい」

 ふふふ、実はあの写しの魔道具は便利なのでユージーン君に頼んで手に入れてもらったんだ。

「お茶が冷めてしまいましたね。入れなおしてもらいましょうか」
「ああ、そうだね」
「美味しいリンゴのお茶を手に入れたのでそれでもいいですか?」
「うん。じゃあそれにしようか」
「はい!」

 僕と兄様がそんなやりとりとしていたらルシルが「……いいなぁ」ポツリと呟いた。

「え? ルシルにもちゃんとリンゴのお茶を」
「ふふふ、違うよ、エディ。好きな人と一緒に居られていいなって」
「ルルルルルルシル!」

 僕は思わず顔を赤くして声を出していた。

「あははは、エディ、真っ赤だよ」
「まだ口説いている最中だからあんまり刺激をしないでね」
「アル兄様!」

 そして更に顔が赤く、熱くなる。

「え? そうなんですか? まぁ、エディだからね。しょうがない。納得いくまで考えないとダメだものね。さて、では今日はこの辺で失礼いたします。お時間をいただきまして有難うございました」
「いや、こちらこそありがとう。また何か分からない事や、新たに分かった事があれば知らせるよ。ほとんど毎日顔を合わせてはいるしね」
「はい。よろしくお願いします」

 そうして立ち上がったルシルに僕は小さく口を開いた。

「ルシルの方はどうなの? シルヴァン様の事、前に言っていたでしょう?」
「…………ああ、うん。今一緒に居られるだけでもう十分だよ。高望みはしないんだ。今話をした通りに小説やゲームと同じ世界ではないし、色々違うなって思う事もあるし、でもやっぱり彼は僕の推しだけどね」
「ルシル」
「嫌だな、そんな顔をしないで? 僕はそんなに悲観をしていないし、前にエディが言っていたような気がするけれど、出来る事をしていくだけだから。でも、本当にこの一連の事が片付いたら考えるつもり。こっちってさ、紙が高いし厚いから、市井に下りたら紙でも作ってみようかな。魔法とかあるから案外出来そうだよね。僕ね、和紙を漉くのはやった事あるんだ」

 『和紙』というものが今一つ分からなかったけれど、笑顔で「また明日」と言った友人が、幸せになってほしいなと思った。



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もう隠すつもりもないアルフレッド様(=_=)
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