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第8章 収束への道のり
269. 二つの『首』の事
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妖精や呪術の話はすぐに父様にもハワード先生にも、そしてお祖父様の知っている呪術師に詳しい人の所にも知らされた筈だった。だからそれに関する事はいずれ分かるだろう。
だとすると後、気になるものはやっぱり『首』だ。
翌日、学園から戻ると僕は机の上にいつものノートを広げた。
以前にも思っていたんだ。第一の『首』<呪い>の封印を解くきっかけになって、それを受けたのは誰だったのかって。
そして結局調べようがなくてそのままになっているけれど、色々と起きていた事は本当に<呪い>の禍と、厄災がもたらす『首』の封印が解け始める予兆だけだったのかって言うのも気になるんだよね。
もっともそれは他の二つの『首』の封印がきちんとされたままだっていうのが確認できれば、予兆と<呪い>の『首』だけであんなにも色々な事が起きたんだって分かるんだけどね。
「やっぱりハーヴィンなのかなぁ。ハーヴィンの領主が亡くなったのは僕が6歳になった後くらいだよね。それから跡目の争いをずっとしていたんだ。そして翌年の五の月の、兄様が12歳になってすぐくらいに魔熊が東の森に現れたから……やっぱりハーヴィンが荒れ始めている時と予兆みたいなのが現れている時はほとんど一致しているんだよね」
だとすれば西の国の先々王が<狂気>を受けたように、ハーヴィンの元領主が<呪い>を受けたのだろうか。そして領主自身は死んでしまって<呪い>はハーヴィンの関係者に広がっていったんだろうか。
解けたきっかけは分からないけれど、それでも『首』の封印自体が屋敷の地下にあったわけだし。それとも領主が死んでしまって『首』の封印を押さえる者、というか後継者がいなくなってしまったから封印が緩んだのだろうか?
そうすると<呪い>を受けたのは領主ではない?
「アンデッドになったって言われているのは領主の弟なんだよね。もしかして呪いを受けてアンテッドになってしまったのかな。でもどうして? もしかして領主以外はあの地下室への祈りの間に入る事が出来なかったのかな」
アンテッドになったという事は、死ぬことも出来ないという呪いとも考えられる。そういう事なのだろうか?
そして領主の弟は領主の妻も、跡目を争っていた入り婿も、殺して、その弟の息子も、領主の娘も探し求めたのだろうか。呪い続ける為に。
「でもこれは僕の想像でしかない……」
大体起きた事が全て<呪い>によるものと厄災の予兆と決まったわけではないのだ。
ではもしも、他の『首』の封印が解けかけていたとしたら。
他の『首』に呼応するような事があるとしたら。
あるいは、今回のこの事件が二つの『首』のどちらかに関わりがあるとしたら、<死>の『首』と<絶望>の『首』、その禍を振りかけられたのは誰なんだろう。
二の『首』<死>の封印場所は旧レイモンド領とモーリス領の可能性がある。
三の『首』<絶望>は王都内だ。
でも消息不明者は、そこだけに限らず、王国の中の様々な領に出ている。
「というか、どうして人を集めているかもわからないんだよね」
それに本当に無作為に集めているんだろうか。それも疑問だ。
大体影に落ちると言うのもよく分からない。影に落ちた人はどこかにひとまとめにされているんだろうか?
ただ、行方不明者を増やして不安を煽っているのだろうか。行方不明者を放っておくと不信感を煽るのが目的なんだろうか。
「でも、妖精を使ってまで集めているんだもの。何か人を集める目的がある筈だよ」
では、それは一体なんだろう。
呪術を使う者が行っているのであれば、やはり集められた人間も何かの呪術の為なんだろうか。
そこに『首』が司る<死>や<絶望>はどう関わって来るのだろうか。
もしかしたらその呪術師が『首』の禍を振りかけられて者なんだろうか。
という事はもうどちらかの『首』の封印が緩み始めているのだろうか。
いくら考えても疑問しか浮かんでこなくて、僕は一旦ペンを置いてノートから離れた。漏れ落ちる溜息。
「……死のイメージってどちらかっていうと、アンデッドとか一つ目に起きていた事の方が結びつきやすいんだけどな」
死、死という言葉で思いつく事って何だろう。結びつく事。考えられる事。死。
「あ、いけない、<絶望>かもしれないんだった」
ついつい二番目と考えてしまった。そうだった。可能性があるのは<死>、もしくは<絶望>だ。
「絶望って何だろう……」
そう呟いた途端、コンコンコンとドアをノックする音が聞こえて僕はハッと意識を現実へと戻した。
「エディ、入るよ」
「! はい!」
え? もう兄様が帰ってくるような時間なの?
「夕食もとらないでこもっていると聞いたよ。何かあったの?」
「すみません。ちょっと考えていたら時間を忘れてしまったようです」
僕がそう言うと兄様は困ったような顔をして小さく笑った。
「この屋敷は出来る限りの結界を張っているし、エディの部屋は特に魔人の騒ぎ以降、呪術や念の様なものに対してもお祖父様が対応をして下さっているから大丈夫だと思うけれど、長い時間一人で居るのは避けなければいけないよ」
「はい。すみません」
「うん。それで、エディは何を考えていたの?」
兄様は先ほどとは違う柔らかな笑みを浮かべながら、僕の机の上のノートを指さした。
--------------
エディファースト(笑)
だとすると後、気になるものはやっぱり『首』だ。
翌日、学園から戻ると僕は机の上にいつものノートを広げた。
以前にも思っていたんだ。第一の『首』<呪い>の封印を解くきっかけになって、それを受けたのは誰だったのかって。
そして結局調べようがなくてそのままになっているけれど、色々と起きていた事は本当に<呪い>の禍と、厄災がもたらす『首』の封印が解け始める予兆だけだったのかって言うのも気になるんだよね。
もっともそれは他の二つの『首』の封印がきちんとされたままだっていうのが確認できれば、予兆と<呪い>の『首』だけであんなにも色々な事が起きたんだって分かるんだけどね。
「やっぱりハーヴィンなのかなぁ。ハーヴィンの領主が亡くなったのは僕が6歳になった後くらいだよね。それから跡目の争いをずっとしていたんだ。そして翌年の五の月の、兄様が12歳になってすぐくらいに魔熊が東の森に現れたから……やっぱりハーヴィンが荒れ始めている時と予兆みたいなのが現れている時はほとんど一致しているんだよね」
だとすれば西の国の先々王が<狂気>を受けたように、ハーヴィンの元領主が<呪い>を受けたのだろうか。そして領主自身は死んでしまって<呪い>はハーヴィンの関係者に広がっていったんだろうか。
解けたきっかけは分からないけれど、それでも『首』の封印自体が屋敷の地下にあったわけだし。それとも領主が死んでしまって『首』の封印を押さえる者、というか後継者がいなくなってしまったから封印が緩んだのだろうか?
そうすると<呪い>を受けたのは領主ではない?
「アンデッドになったって言われているのは領主の弟なんだよね。もしかして呪いを受けてアンテッドになってしまったのかな。でもどうして? もしかして領主以外はあの地下室への祈りの間に入る事が出来なかったのかな」
アンテッドになったという事は、死ぬことも出来ないという呪いとも考えられる。そういう事なのだろうか?
そして領主の弟は領主の妻も、跡目を争っていた入り婿も、殺して、その弟の息子も、領主の娘も探し求めたのだろうか。呪い続ける為に。
「でもこれは僕の想像でしかない……」
大体起きた事が全て<呪い>によるものと厄災の予兆と決まったわけではないのだ。
ではもしも、他の『首』の封印が解けかけていたとしたら。
他の『首』に呼応するような事があるとしたら。
あるいは、今回のこの事件が二つの『首』のどちらかに関わりがあるとしたら、<死>の『首』と<絶望>の『首』、その禍を振りかけられたのは誰なんだろう。
二の『首』<死>の封印場所は旧レイモンド領とモーリス領の可能性がある。
三の『首』<絶望>は王都内だ。
でも消息不明者は、そこだけに限らず、王国の中の様々な領に出ている。
「というか、どうして人を集めているかもわからないんだよね」
それに本当に無作為に集めているんだろうか。それも疑問だ。
大体影に落ちると言うのもよく分からない。影に落ちた人はどこかにひとまとめにされているんだろうか?
ただ、行方不明者を増やして不安を煽っているのだろうか。行方不明者を放っておくと不信感を煽るのが目的なんだろうか。
「でも、妖精を使ってまで集めているんだもの。何か人を集める目的がある筈だよ」
では、それは一体なんだろう。
呪術を使う者が行っているのであれば、やはり集められた人間も何かの呪術の為なんだろうか。
そこに『首』が司る<死>や<絶望>はどう関わって来るのだろうか。
もしかしたらその呪術師が『首』の禍を振りかけられて者なんだろうか。
という事はもうどちらかの『首』の封印が緩み始めているのだろうか。
いくら考えても疑問しか浮かんでこなくて、僕は一旦ペンを置いてノートから離れた。漏れ落ちる溜息。
「……死のイメージってどちらかっていうと、アンデッドとか一つ目に起きていた事の方が結びつきやすいんだけどな」
死、死という言葉で思いつく事って何だろう。結びつく事。考えられる事。死。
「あ、いけない、<絶望>かもしれないんだった」
ついつい二番目と考えてしまった。そうだった。可能性があるのは<死>、もしくは<絶望>だ。
「絶望って何だろう……」
そう呟いた途端、コンコンコンとドアをノックする音が聞こえて僕はハッと意識を現実へと戻した。
「エディ、入るよ」
「! はい!」
え? もう兄様が帰ってくるような時間なの?
「夕食もとらないでこもっていると聞いたよ。何かあったの?」
「すみません。ちょっと考えていたら時間を忘れてしまったようです」
僕がそう言うと兄様は困ったような顔をして小さく笑った。
「この屋敷は出来る限りの結界を張っているし、エディの部屋は特に魔人の騒ぎ以降、呪術や念の様なものに対してもお祖父様が対応をして下さっているから大丈夫だと思うけれど、長い時間一人で居るのは避けなければいけないよ」
「はい。すみません」
「うん。それで、エディは何を考えていたの?」
兄様は先ほどとは違う柔らかな笑みを浮かべながら、僕の机の上のノートを指さした。
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