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第8章  収束への道のり

258. プチお茶会と仲間たち

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 一の月の終わり、僕はタウンハウスでプチお茶会を開いた。
 皆には事前に『首』の事について一緒に考えてもらいたい事があるって伝えてあった。今王国ではまさにその事でまだ揉めているので、参加しにくい場合は言ってほしいと伝えていたが、皆当たり前のように来てくれた。
 今日は応接室でのお茶会でちょっと味気ないけれど、それでもタウンハウスのシェフが腕を振るってくれた。

「えっと、お休みの所来てくれてありがとう。とりあえずいつものように食べながらって事でいいかな」

 僕がそう言うと皆笑って頷いてくれた。
 今回はルシルにも参加をしてもらった。ルシルから第二王子にそのまま筒抜けになる事もないし、兄様もシルヴァン殿下は少し変わったよって言われたから。

「うん。それでいいよ。相変わらずエディの所のお茶会のメニューは種類が多くて、美味しそう」
「ふふふ、良かった。デザートも色々用意をしているみたいだからみんな頑張って食べてね。まぁ食べながらの話題が『首』の事で申し訳ないんだけど」
「それは仕方がないし、ここに居る皆は大丈夫だよ。ところでさ、王城はまだ揉めているんでしょ? 馬鹿だよね」

 ミッチェル君の毒舌は年を追うごとに切れ味が鋭くなっていく気がするね。

 レナード君が苦笑しながら「ミッチェル、身も蓋もない言い方をしてはいけないよ」って言った。

「だってさ、僕たち学生でも今がどういう時なのか分かるじゃない?」
「それはさ、『首』の存在を知っていたからって事もあると思うよ。やっぱり何も知らなくて、いきなり他国の使者から『首』がなんて聞いたら驚くよ」
 そう言ったのはエリック君。

「だけどさ、王国の中で今まで起きていた事を思えば何かおかしいとか、何か起きているのかもしれないって思うでしょう? それなのに自分たちの事ばかり優先して、他人の力ばかりを当てにしてきたような人たちが、今度は知っていたならなぜ話さなかったって言うのはおかしいと思うんだよ。知ったところでどうせ他力本願だっただろうって思っちゃうんだよね。というか騒がれても困ったけどさ。だから本来だったら、『首』を封じてくれてありがとうだと思うんだ」
「うん。ミッチェルの言う事は判るよ。だからこそ、言いたい奴には言わせて、それで本当にいいのかを皆が感じてくれないと困るんだよね。ここまでレイモンド家やフィンレー家が動いてくれて、王家も巻き込んできちんと封じ込めをしたんだからさ、気づく人はもう気付いているよ。そう言う声が聞こえてきているって」
 
 トーマス君がそう言うとレナード君やユージーン君たちも頷いた。

「そうだね。そろそろ教えてくれなくてとか、一部の人間だけが……という声よりも気付かずにいて申し訳ないとか、封じ込めをしてくれて感謝するっていう声の方が多くなったって私も聞いたよ。今後はどこが抜け駆けをするとかそういう事でなく、王国の為にどうしたらいいのかっていうのと、西の国との交易をどう考えていくのかっていう方に向かってほしいね」
「うん。それは分かる。でもちょっと言いたかったんだ。レイモンドも、フィンレーも別に何かが欲しくてそうしていたわけじゃないし、なのにどうしてこんな言われ方をするんだろうって思っていたから」
「それは僕も思ったよ。でもこの事は父様たちに任せておくしかないって。それしか出来なくてちょっと落ち込んだりもしたよ」
「うん。何でもない顔をしている父上を見ると、悲しくなったりしたんだ。ごめん。こんな話から入る事になって」
「いや、現状が変わってきている事が判ったし、実際に封じ込めに関わって一番風当りの強い当主たちの苦労も分かったし、悪い事ではないよね。さて、じゃあ食べながらにさせてもらおう」

 レナード君はそう言ってサンドウィッチに手を伸ばしてくれた。本当に変わらないな。最初のお茶会から彼には色々と助けられている。
 僕たちは食事をしながら色々な事を話した。

 他の二つの『首』が封印をされている候補地の事。
 僕が感じた『首』の禍の違いについて。
 そして西の国の交易の事。

「自分の先祖が旧ディンチ領だったとか、モーリスから嫁入りをした人の事とか全然知らなかったよ。それにしても微妙な場所だよね。旧ディンチ領もモーリス領も」

 ミッチェル君がそう言うと、ルシルが頷きながら口を開いた。

「うん。第一の『首』が封じられてからモーリスのダンジョンもスタンピードの兆候がなくなってきたみたいだものね。やっぱり何か関係あるのかなって思っちゃうよね」
「まぁ、モーリスのダンジョンは過去にも何度かスタンピードを起こしていますし、兆候が表れて、なくなった事も何回かありますから、一概に『首』だけの問題でもないかもしれないですが。でもやはり気にはなりますね」
 スティーブ君が眉間の辺りに皺を寄せながらそう言った。

「だけどさ、モーリスのダンジョンはどこかと繋がっているっていう噂があったよね」
「え? どういう事?」

 ユージーン君の言葉に僕は思わず声を出してしまった。
 
「確かな事じゃないんだよ。でもどこかの層が別の空間に繋がっているとか、そんな事は子供の頃に聞いた気がするよ」
「ああ、そういえばモーリスのダンジョンは空間が捻じれている所があるとかって噂になった時があったね。でもジーンの言う通り確かな話じゃないんだよ。それにその層はかなり下の層で、そこまで言った冒険者の数も少ないから作り話である可能性もあるんだ」

 スティーブ君も思い出したというように付け加えた。

「そうなんだ。でも、気にはなるね」
「確かめにはさすがに行かれないけどね」
「ふふふ、それはそうだね。行くならまずは冒険者登録をしないとね」
「それはきっと皆から止められるよ。勿論僕も止めるよ」
「しないよ、トム。そんな顔をしないで」
「うん。わざわざ魔物を倒しにダンジョンに潜るなんて本当にやめてね」
「うん。約束する」

 そんなやり取りの後は王都の話になった。場所については僕たちには確かめようがないので何とも言えなかったけれど、もしもそんなところで封印が解けたらと、みんな苦い表情を浮かべていた。

「封印場所が三箇所の何処かとして、それが万が一、第一の『首』のように封印が解けかけてしまったら王都の中に魔物を召喚されてしまうかもしれない。それはとても恐ろしい」
「喚べる距離的なものがあるかもしれないけれど、街中にあの地下に現れたような、ヘルハウンドやアーミーアントなどが数多く現れたり、フレイム・グレート・グリズリー等が出たらかなりの被害が出る」
「それもあるけど、さっきエディが言っていたように『首』による禍の違いがあるかもしれないっていうのも気になる。どれも嫌だけど、王家が封じたのは<絶望>だからね」

エリック君、ルシル、それにレナード君が次々に口を開いた。

「ヘルハウンドにアーミーアントか。数で来られたらフレイム・グレート・グリズリーよりも被害が出るかもしれないな」
「うん。厄介だよね。確かサイクロプスとかガルムも出たんだよね?」
「オーガも」
「…………本当にこれが王都に現れたら大変な事になるな」

 他のメンバーも顔を引きつらせていた。

「起こるか起こらないか分からない事言っても仕方がないけれど、そう言った魔物たちが現れた事があるというのを知っているのは大事だね。ただ、無暗にそれを広めたりしないように気を付けないといけないな。パニックが起きる方が街の中は恐ろしいからね」

 スティーブ君の言葉に皆が頷いた。


 王都の場所についてはやはり街の中に出さない事が重要だねという話をして、具体的な話まではさすがに行かなかった。ただ警戒感を持つことはやっぱり必要だよね。
 
 『首』それぞれの特性についても分からない事が多いので、起きている事をこれからもお互いに伝えあって行こうって事になった。
 あと、やっぱりモーリスのダンジョンは気になるので、その辺りは情報を集めてみようかって話にもなった。



「わぁぁ! なにこれすごく美味しそうだよ」
「チーズのスフレだよ。少し蜂蜜のソースが掛かっているんだって。こっちは最近出たホワイトチョコレートのケーキ。イチゴは温室で少し小さめのを育ててみたんだ」
「可愛い!」

 皆でデザートを食べた。
 色々な話が出来て、考えて、時には注意をしたり、寄り添ったり、本当に素敵な仲間たちだと思う。
 
「皆に出会えて本当に良かった。これからもよろしくね」

 そう言うと皆が頷いてくれた。



 
 二の月に入る前に、王城では建設的な会議が出来るようになってきたって、兄様から聞いた。
 そして、父様にもちゃんと会えるようになってきて、二の月からはお祖父様の講義も再開される事になった。

 


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