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第7章  厄災

228. 封印された場所

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魔人についての終わりのない会議を、国王が自ら力技で終わらせた翌日。
前日告げられた予定通りに、ハワードが調べていた王国内にあると思われる三か所の封印場所についての話し合いが始まった。
出席したのはルフェリット国王グレアム、そしていつものメンバーに加えて最近色々な場面で巻き込まれる事が多くなったニールデン公爵、更に自ら参加を希望をしてきた第二王子のシルヴァンとアルフレッドの八名。

王室の資料を見る許可を得る為に、ハワードは賢者として今起きている事に対して昔同じような事が起きていないかを確認したいという名分を出していた。けれどそれとは別に奇妙な話もそれとなく伝えていたのである。
西の国で100年ほど前に今の王国と同じような事があったという話を聞いた。奇病、不作、魔物の出現、魔素の変化。そして戦へ駆り立てられるように供物を求めた王の話はとてもインパクトがあったようで、グレアムはハワードに資料閲覧の許可を与えた。それが8の月の下旬の事だ。

だが、実際に調べていたのは封印をされた場所に関してだった。
また王国が出来る前に世界と呼ばれていたのはどの地域の事だったのかも合わせて探した。呪いなどのかかった禁書などもある為、途中からはレイモンド家から魔力の高い者の手伝いを増やして探し続けた。
けれど思っていた以上に情報は出てこなかった。
そうしているうちに西の国の五つ首を退治する英雄譚とルフェリットの三つ首を退治する英雄譚が、どうやら同じものに端を発しているらしい事が判った。首の名前が一致したのだ。
とすると三つ首がルフェリットに封じられている可能性が俄然高くなってきた。
そう考えると、もしもという気持ちが湧き上がる。同じように話を聞いたエドワードとその友人達からも、ルフェリットの今の状況と、西の国の先々王の時代の状況の酷似が、それぞれに首の封印が解けて始まった事だとしたら……という仮説が持ち上がり、ロマースクからの領地替え当時の地図も送られてきた。つくづく頭の柔らかな優秀な生徒だとハワードは思った。

そしてハワードはここでグレアムに西の国の五つ首退治の本とルフェリットの三つ首退治の本、そして首の名前が一致していて、本当に厄災と呼ばれた化け物の首が封じられているかもしれないという事と、王国と西の国で起きた禍のようなそれが首の封印が解けている事に起因しているのではないかという仮説を話した。
果たしてこの王は何と言うか。
これは一つの賭けだった。
下らぬ世迷いごとで王家を謀るなと国を追われるような事があればそれまで。
そうでなければとことん足掻いてみよう。

だが現ルフェリット国王グレアム・オスボーン・ルフェリットは調べ上げろと言った。
その為に必要なものは何でも使えるようにしてやろうと。各領の神殿が抱えている資料の閲覧も可能になった他、王家の歴史に深い者との面会も可能になった。エドワードの友人から名前の挙がっていたモーガン伯爵領の老人にも話を聞く事が出来た。
そしてアルフレッドも、ハーヴィンでルシルが訪れた大きな負のエネルギーはなかったという場所の地図と、取り潰しの前後に魔素や魔物の湧いた状況など、王国に報告が上げられた範囲内だったが、それでもその二つを重ねてみると、いくつかの場所が絞られてきた事を大人たちに報告をしてきた。
それぞれに、様々な方向から調べた糸が繋がり始める。

魔人騒ぎで遅れてはしまったが、開いた会議でハワードは繋がり始めているそれらを伝え、封印候補地として挙げられている場所を調べていきたい旨を告げた。
けれど今回の話はあくまでも仮説で、元はおとぎ話だ。
今、混乱が収まりきらないような王国で、おとぎ話にあった『厄災』という名の化け物の首が国内に3つ封じられているが、その封印が解けて今回の禍が起きている可能性があるので、調べて再びきちんとした封印をしたいなどと言えばこの王は何を言っているのか。という事になりかねない。
この件で公的な調査に関して王族を動かす事は出来ない。
そして同じように、第二王子にも直接的に調査に加わる事は遠慮してほしいという事も告げた。
こちらは元ハーヴィン領の立て直しに【光の愛し子】と一緒に貢献をした事で、王太子殿下よりも第二王子の方が国王としての資質がうんぬんという話が持ち上がっているからだ。

「私は今すぐに降下をして空いている公爵家を埋めるという事でよいのだが」
「余計混乱するのでやめて下さい」

アルフレッドがにべもなくそう言って、大人たちの間に微妙な間が流れた。
恐らくはこの親にしてこの子、というものだろうか。

とにもかくにもハーヴィン領内で、ルシルが訪れていなく、魔物や魔素が湧きやすい状況があった、旧メイソン家の領地という条件が重なる地があった。
更にエドワードの友人から名前が挙がっていた、カーライル領に身を寄せた元ハーヴィンから来た者が伯爵家の家令をしていた者である事が分かり、話を聞く事が出来た事でそれはほぼ確証に変わった。
ただ、問題はどのようにして封じ直すのか、封印が崩されているのであれば、それはすでに外へ放たれていて、再びそこに結界などを施しても意味がないのではないだろうか。という意見が上がってきた。

「ルシルを同行させるのはどうだろう」
「危険な場所かもしれない所に子供を連れては行かれません」
「しかし……封じられたものが何であるのかを見極めなければならない。その為には見極められる目を持つ者が必要だ。勿論私も彼に危険がないように見守り」
「殿下が直接的に動く事は控えていただくと先ほど話が出ました。出来れば浄化が出来、魔素などを感知する力がある神殿の者に同行を願いたいとは思っています」

ハワードの言葉にシルヴァンは悔しそうな表情を浮かべた。

「それが、王家の者の宿命です。王家の者がどのような理由があれ、下位の者を見守ってはなりません」
ニールデン公爵が静かにそう告げた。

「聖神殿の神官には私から口が堅い、魔力の多い者を賢者の調査に同行させよと伝えよう。【光の愛し子】が持つ聖魔法の浄化には及ばないが、聖属性の魔法を持つ者は存在はしているからな。ただし、大神官にはこの話は国を守る為として伝える」
「御意」

グレアムの言葉に全員が頭を下げた。

「さてでは話を戻し、とりあえずはハーヴィンだな。私も気になっていた。なぜこんなにもハーヴィンに繋がる者に禍が起こるのか。ハワード、先ほど言っていた条件の場所は具体的には何処なんだ。もったいぶらずに言え。お前が確証と言いながら遠回しな話をしている時はろくでもない事が多い」

そう言われてハワードは憮然とした顔をして「心外ですね」と言いながら言葉を続けた。

「ハーヴィンの領主の館の地下です」

その場にいた全員が息を呑んだ。



-*-*-*-*-*-



「まさかもう一度、ここを訪れる事になるとは思わなかったな」

ディビットは苦い顔をして朽ち果てたような屋敷の跡を見つめた。
僅か12年。
たったそれだけの年月で、人が住まなくなった屋敷はこれほどまでに荒涼としたものになるだろうか。
家令と共にマリーに案内をされてやってきたここは、その時にも驚く程荒らされていた。
恐らく彼女が隠蔽の魔法をかけて隠し部屋に移してくれなければ、エドワードは生きてはいなかった。その後この屋敷がどうなったのかは分からないが、確か駆け落ちをした娘が戻ってきたような話は聞いた覚えがある。
もっともエドワードを迎えに行った時に見たあの状態の屋敷に住んだのかどうかは分からないが。

「人が住まなくなったとはいえ、10数年足らずでこの光景は凄いね」

一緒にやってきたハワードがそう言った。

「……ここにエディは住んでいたのですね」

そして今回の同行を自らどうしてもと願い出たアルフレッドも屋敷を見ながらそう言った。

王国の南寄りで海に近い元ハーヴィン領は11の月の半ばになっても雪が降らず青々とした葉が多い。
魔物が現れたのか、それとも噂にあったようにアンデッドが出たのだろうか、かつて領主が住んでいた屋敷は見る影もなく壊され、崩れ、信じられない程の深い緑に覆われていた。

「ああ、ここから私とチェスターが助け出した。マリーの協力がなければ間に合わなかった」
「……そうですか」

短くそう答えてアルフレッドはもう一度荒廃した屋敷を見た。
護衛たちの傍で俯いているマリーは、もし嫌でなければとデイヴィットが屋敷内の案内を打診して同行をしていた。エドワードが学園から戻る前にはタウンハウスに戻る予定だ。
今回この屋敷の調査をする事はエディには知らせていない。あれから思うように会えていないが、また何かを考えすぎてはいないだろうか。
そんな事を思っているとハワードの声が聞こえてきた。

「それにしても普通だったら考えない。領主の墓所の辺りは調べていたんだが、まさか封印場所の上に屋敷を建てるなんて。封印というからには何かをそこに押し込めているとか、出てきてはいけないものを抑え込んでいるというイメージがあると思うのだけれど、よほどメイソンとハーヴィンの領主たちは意思の疎通が出来ていなかったか、はたまたハーヴィンの領主が豪胆だったのか。私ならば絶対に厄災を封じ込めた上で暮らしたいとは思えないが」
「自分たちが重しになって押さえつけようとしたんじゃないか? 物理的に」

デイヴィットのその言葉にハワードは今度こそ信じられないという顔をして首を横に振ると黙り込んでしまった。

「お二人ともそれくらいで。この屋敷に図面を見ると、場所自体は中庭の噴水の下みたいですね。建物自体は一応残っているので、入ってみましょう。現時点は大きな魔素などは確認できません」

同行した3人の神官の一人が穏やかにそう言って、護衛として連れてきたフィンレーの魔導騎士二十名と共に、デイヴィットたちは、鬱蒼とする緑をかき分けながら屋敷に入った。

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エディの生家(=_=)
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