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第7章  厄災

220. 16歳の誕生日①

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「おはよう。16歳の誕生日おめでとう。エディ」
「ありがとうございます。アル兄様」

ダイニングに向かう為に一階に下りると、ちょうど出かけようとしている兄様と会った。
そう、今日は僕の16歳の誕生日だ。

「今日は少し早めに帰ってくるから、一緒にケーキでも食べようか。エディの好きなクリのケーキが美味しいお店を教えてもらったよ。」
「わぁ! ありがとうございます。楽しみにです」
「うん。じゃあ、また夜に」
「はい。アル兄様」

兄様はそう言って玄関の方に向かった。
僕はそのままダイニングに行って朝食をとる。
最近は兄様が出かける時間が早いのでいつもこんな感じだ。多分第二王子の側近としての仕事の他に、調べものとかをしているんだろうな。

何か僕にも手伝いが出来ないかなと思うけれど、王城での調べものなど出来る筈もなく、こうなったらシェフと一緒につまめる食事の種類を増やすようにしようかと割と本気で思ったりしている。
ともあれ、今日は早めに帰ってきてくれて、クリのケーキを一緒に食べようって言ってくれたのが嬉しい。

「ふふふ、朝一番に兄様から誕生日おめでとうって言って貰えて、今日はいい日になりそう!」

そう思いながら僕は支度を済ませて学園に向かった。



学園ではみんなが次々に「お誕生日おめでとう」って言ってくれて、プレゼントまでいただいてしまった。
僕らの中では実は僕が一番誕生日が遅いんだ。
16歳かぁ。
なんだかあんまり実感はないし、大きく変わったような気もしないけれど、年が増えていく事で出来る事も増えていくなら純粋に嬉しいなって思う。
あと2年で成人。
急いで決めなくていいって言われているけれど、僕は何が出来て、何をしたいのか、考えて行かないといけないなってそんな事を思った。




午後になってルシルがちょっと変な顔をしていた。

「エディ、あのね」
「うん。どうかした? 具合でも悪いの?」

僕がそう言うと眉を寄せたまま小さく口を開く。

「魔素を感じる」
「!!」

僕は素早く僕たちの仲間の周りに遮音をかける。いきなり遮音をかけられた友人たちがびっくりしたような顔をしたけれど仕方がない。

「え、何、エディ」
「何かありましたか」
「ルシルが魔素に気づいた」
「どういう事?」
「ああ、ちょっと離れているし、学園内だときちんとした力が使えないから何とも言えないんだけど。魔法がちゃんと使えていれば、あの向こうの、青灰色の髪の彼の中に魔素が溜まってきているのが見えると思う。下手に近くに行って溢れ出されても困るし、どうしたらいいかな」
「……学園にはルシルが【光の愛し子】で殿下の側近候補である事は伝わっていたよね? 学生課まで知らせてくる。なるべく彼……アクロイド侯爵子息と隣にいるのはヘインズ伯爵のご子息だったかな、彼等から離れていて」
 
スティーブ君が教室を飛び出した。
ユージーン君が僕の前にゆっくりと移動して、ルシルとトーマス君が両脇を、後ろにミッチェル君が付く形で教室の入口の方に移動をする。講義の席が決まっていないのはとても助かる。休み時間に適当に席を移動する生徒は多くはないが、いないわけではない。

ドクンドクンと鼓動が早くなる。
魔素を抱えている人は、どうなるんだろう。体内の魔素を除く所を僕は見た事が無い。
以前魔素が身体の中にあった人たちの前で話をした時は、僕の方が苦しくて仕方がなかった。でも魔素を溜め込んでいた人たちは見た目は普通のままだった。
だけど外で魔素だまりになってしまった魔素が負の感情を取り込んで膨れ上がり、人を取り込んでしまうと、人は魔人化をしてしまう。
どういう仕組みでそうなるのかは分からないけれど、今のところ魔素はそういうものになっている。
 だけど、もしも、身体の中にある魔素が勝手に外に出てきてしまったらどうなるんだろう。そんな事はありえるんだろうか。そして、魔素を出入り口にしている魔人や魔物たちは体内にある魔素は出入り口に出来ないのだろうか。
考えるだけで恐ろしくて、在り得ないって思うけれど、時間をかけて変化を続けてきた魔素は、もうこれ以上変わる事はないのだろうか。

何事も起こらずに、もうじき次の講義が始まるという頃にスティーブ君が魔導騎士の講師を二人連れて戻ってきた。
ルシルがするりと教室を抜けて講師たちに説明をしている。
盗み見た侯爵子息の顔色は悪く、何となく表情もあまりない。

「ねぇ、エディ。あの二人ってさ、以前にオルドリッジ公爵子息と一緒にいた子だよね。レオンにエディを紹介しろって言っていた」

ミッチェル君がこそこそとそう言った。
でも僕はあの時は周りをみんなが囲ってくれて教室から出て行こうとするので精いっぱいだったから全然顔を見ていないんだ。その後もオルドリッジ公爵子息と顔を合わせたくなくて、あえてそちらを見ないようにしていたから。

「そう。つるんでいた仲間だ。以前は五、六名居たけれど、高等部に入ってからは学科が分かれたので、あの二人だけが魔法科なんだ」

ユージーン君が代わりに答えてくれた。
そうなんだ。みんなよく見ているな。申し訳ない。そう思った途端。
ゾクリと背中が震えた。

「え……」
「……何か嫌な感じがしたね」

ミッチェル君が小さく言って、教室の外からルシルと講師たちが慌てて中に入って来る。

「嘘だろ。まずいな」

ルシルがそう言った瞬間、魔素が溜まっていると言われた侯爵子息からゆらりと黒いものが立ち昇った。

「まさか、瘴気?」

信じられないというようにルシルが漏らした途端、それに気づいた生徒たちから悲鳴が上がった。
即座に講師たちが即座に彼の周りに結界を張る。一緒にいた伯爵子息はその場で腰を抜かしたように動けなくなっているようだった。

「教室の外へ避難しなさい!」

鋭い講師の声に教室内にいた生徒たちが一斉に動き始める。腰を抜かしていた子息は講師の一人に引きずられるようにして教室の外に出される。

「エディ! 出よう」

トーマス君にそう言われて僕たちは2か所ある出入り口の後方に向かった。だけどその瞬間、僕は覚えのある何かを感じて立ち止まる。
これって、もしかして……

魔導騎士たちの結界の中で侯爵子息は身体から黒い何かを立ちのぼらせて、人のものではないような声を出しながら身体をガクガクと震わせていた。
その光景が恐ろしくて、けれど目が離せなくなる。
だって、この感じは……

「エディ! 急ぐんだ! ここは講師とルシルに任せよう」
「エディ! 早く!」

トーマス君とユージーン君に両脇から言われて、僕は半分引きずられるように教室の外に出た。それでも感じている気配が気になって、後ろを振り返る。

視界の中で子息の口から黒い魔素が吐き出されたのが見えた。
そして魔素はそのままボタリと床の上に落ちて魔素だまりを作り始める。

「………………」

異常を察知して他の魔導騎士の講師たちと上の役職の人たちが駆けつけてくる。

『高等部一年、魔法科教室内で魔力異常が発生。魔法科の生徒は速やかに聖堂へ避難をして下さい。自分を守る為と避難をする為の魔法の使用を認めます』

学園に入って三度目の緊急連絡を誕生日に聞くとは思わなかった。でもこれで転移や防御系の魔法が使えるようになる。

「魔素だまりが出来ると思う。最悪、魔人が出てくる可能性がある。聖堂に行こう」

僕がそう言うとトーマス君が顔色を変えて、他の3人は硬い表情で頷いた。
そして、僕たちは聖堂へと転移をして……。

僕だけがその場に残った。

「……ごめんね。でもどうしても確かめたい事があるんだ」
「では、一緒に確かめましょう」
「スティーブ!?」

転移をしたはずのスティーブ君が隣にいた。

「すでにルシルが王城に現状を知らせています。おそらくどなたかがこちらへいらっしゃると思います」

それが誰の事を言っているのか僕は判ったような気がした。

「多分、怒られると思います」
「うん。でも、可能性があるならここで捕らえてしまいたいんだ」

恐ろしくないと言えば嘘になる。でも、毎日遅くまで仕事をしている父様や兄様の少しでも役に立ちたい。
そう思った瞬間魔導騎士たちの「うわぁぁぁ!」という声が聞こえて、禍々しい気配が教室内から溢れ出した。
ゆらりと空間が揺らぐような気がして、空気自体が重くなる。
それを感じながら僕たちは教室を覗き込んだ。


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すみません。甘い誕生日じゃなくて(>_<)
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